第三十八話 反撃のローリングソバット‼の巻
次回は八月六日でごわす。
「ウェスタンラリアットだと!?まさか チャイニーズスモー にもプロレス技が存在していたのか?」
( ※ 回答 = 無い )
テキサス山は攻撃が当たった首を庇うような構えを取る。
ラーメン山は今さら左肘のサポーターの位置を調整して二度目の上洲譚雷李圧刀に備える。
頭よりも高く掲げられた剛腕は処刑場の断頭台のごとし。
テキサス山は全身の筋肉を締め上げてラーメン山の攻撃を待った。
「テキサス山よ。この上江洲譚雷李圧刀はプロレス技のウェスタンラリアットとは一見良く似ているが、実は全くの別物アルよ。プロレスのウェスタンラリアットはカッコ良さと派手さを追求した見せかけの技(※実際にレスラーのラリアットを食らったら脳が耳から飛び出すくらいには痛い。ていうか顎が外れた。 BY ふじわらしのぶ)。そして私の使う中国四千年の伝統が生み出した天下無双の究極奥義、中国相撲六十秘技の一つ”威気成上江洲譚雷李圧刀”は気のパワーと肉体のパワーを限界まで放出する極めて実用的な技。どこまで私に食い下がれるか楽しみアルね」
(ラリアット打った後にサポーターズラしても意味無いんじゃ…)
テキサス山は色々と突っ込もうと思ったが面倒な話になることはわかりきっていたので止めることにした。
そしてラーメン山自身も二つの技の違いがよくわかっていたわけではないので黙っていることにした。
大人の判断である。
ラーメン山は定位置から後ろに下がり、そこから一気にダッシュしてくる。
そしてラーメン山の腕がテキサス山をガードの上から吹き飛ばす。
テキサス山はクロスガードの姿勢のままラリアットの威力を相殺して何とか土俵の内に残ることに成功した。
ガードに使ったテキサス山の両手は、痛みと痺れのせいで手を握り直すが出来ない。
普段は陽気なテキサス山も緊張のあまり引きつってしまう。
(これが中国最強の力士ラーメン山…ッ‼力には頼らない技巧派と聞いていたがやるじゃないか‼)
ラーメン山は余裕の表情を作り、テキサス山を手招きする。
「そんな安易な挑発に乗ってやるかよ!ここからは俺の流儀で行かせてもらうぜ‼」
テキサス山は下の方に傾きかけた体勢をいち早く立て直し、ラーメン山に向かって突き進む。
ラーメン山は口を真一文字に結び、テキサス山の攻撃に備えた。
テキサス山は両腕をほぼの顔の前で折り曲げガードを固めている。
(これは先日の日米親善試合でキン星山が使った”連敗ストッパーの構え”か。テキサス山、昔日の敗北を乗り越えて敵の力さえも己の糧として前に進もうとするお前の克己心は実に好ましいアル‼)
ラーメン山は攻防一体の弾丸と化したテキサス山の身体を両手で受け止めた。
テキサス山は身をよじりあっさりと拘束を解く。
両者はわずかな気の緩みを見せぬまま、再び中央に戻る。
四聖獣からの突っ込みは無かった。
「青龍よ。お前はこの戦い、どう思う?」
尻尾だけ蛇の大きな黒い亀、玄武が額から汗を流しながら青龍に聞いた。
始皇帝の時代から中華相撲の守り神として数々の名勝負を見てきた玄武だったが、テキサス山とラーメン山の戦いは抜山蓋世という他はない(※意味不明)。
青龍もまた玄武と同じ気持ちだった為に緊張した顔つきで試合を見入っている。
バチバチバチ。
背中のヒレから電気が飛び散る。
音と光に驚いた白虎が抗議の唸り声を漏らした。
そう相変わらずの放電状態だったのだ。
「吾輩はこの勝負やはりラーメン山に分があると思う。同じ中国出身だから肩入れしているわけではないぞ。テキサス山のパワーとスピード、柔軟な思考は脅威に値すべき代物だ。だが彼の如き力士とあのラーメン山が何度戦ったと思う?」
青龍は顔だけ器用に捻って見せる。
そして玄武も青龍にそこまで言わせるラーメン山の過去の戦績を思い出せば同意するのも止む無しといったところだった。
ラーメン山は倫敦橋のように無類の強さを誇る力士ではない。
ただ、ここぞという試合では必ず勝利する実力の奥底というものを決して見せない実力者だった。
故に世界の相撲通たちの間では常に”本気のラーメン山が相手なら王者倫敦橋とて赤子の手をひねるが如し”という噂がつきまとっていたのである。
ラーメン山は公式の場ではこの手の与太話には一切相手にしなかったが、仮に倫敦橋と戦うことになっても負けるとだけは名言しなかった。
しかし、長きに渡りラーメン山の戦歴を知る四聖獣たちは違った。
彼らはラーメン山がどうして実力を見せない、或いは隠しているのかを知っていたのだ。
「青龍、玄武よ。彼奴はいまだにアメリカの坊主の実力を計りかねているのだ。本気を出せば殺してしまうかもしれんからな」
いつの間にかサイズ的には檻といっても過言ではない大きさの籠の中に入っていた朱雀が答えた。
「なるほど。流石は朱雀殿、合点がいったぞ。昔のラーメン山は手加減しなければ対戦相手を殺してしまうほどの強さを持つ力士だった。最初はラーメン山の鼻っ柱を折る為に何人もの力士が挑戦したが、絶対に敵わないことを理解すると誰もが皆ラーメン山との戦いを避けるようになった。結果として戦う相手がいなくなったラーメン山は中国相撲界を離れ、強い相手を探して世界を放浪することになったがそれでも彼奴に見合う実力者はいなかったという話だったな。つまりラーメン山はやがて己の強敵となる若い芽の実力を見極めようとしているわけだな」
ラーメン山は全身に気を張り巡らせ、膨張した筋肉を締め上げていく。
やがて全身から湯気が立ち上がり、力士とは思えぬほどの削ぎ落された肉体となった。
次の瞬間、ラーメン山は小さく笑う。
「中国相撲秘技六十の一つ、真覇班血‼」
そう呟くや否やラーメン山の姿はテキサス山の視界から消え去ってしまう。
テキサス山はさらにガードを固めて周囲の気配を窺った。
ビシッ‼背中に張り手が突き刺さる。
ラーメン山は目にも止まらぬ速度で移動してテキサス山の背後を取ったのだ。
並の力士なら絶命してもおかしくはないダメージだったが、テキサス山はその猛攻を気合一つで受け止める。
テキサス山は口の端から血を流しながらも第二撃を待った。
「杏仁豆腐‼(※中国語で”とても好ましい”という意味)やはりお前は私が倒すべき力士だったアルよ‼さあ、この渇きを潤してくれアル‼」
そして、ラーメン山の気配が三つに増えた。
(もう目では追えない。ならばいっそ…)
テキサス山は両目を閉じる。
車○正美の漫画ならここでセルフ目つぶしをかますところだが、これは熱血相撲バトルなので目をつぶるのが限度だった。
次にテキサス山は耳から入ってくる音そのものを遮断する。
そして静寂の中でゆっくりとラーメン山の攻撃を耐え続けた。
脇腹に張り手、足に蹴たぐり。
打撲と出血を繰り返しながらも、確実に敵の実像に迫る。
一方、決め手に欠ける攻撃を繰り返していたラーメン山の呼吸に乱れが入り始める。
全力の高速移動と攻撃を繰り返せば自明の理であった。
そもそも真覇班血という技は短期決戦用の技であって、万全の状態で守勢に入った相手を攻略する為に使う技ではない。
「やり返して来ないアルか。ならば永遠に眠っているヨロシ‼中国相撲秘技六十の一つ、江九州可理婆ァァーーー‼アイヤーーーーッッ‼」
一向に動きを見せないテキサス山の姿に痺れを切らせたラーメン山は頭上に手刀を構え、そのまま飛び上がりながら振り下ろしてきた。
その時、テキサス山の目が開き反撃に転じる。
「その攻撃、待っていたぜ。カウボーイ殺法、ローリングソバット‼」
テキサス山はラーメン山の脳天唐竹割りを直前で回避する。
そして背中を向けて回転しながら回し蹴りを放った。
腹に蹴りを食らったラーメン山は威力を殺しきれずに地面を転がることになる。
「YESッッ‼」
テキサス山は会心の笑みを浮かべながら、親指を立てた。