第三十七話 古代中国、伝説の四聖獣デスマッチ‼の巻
今回は説明回です。特に進展はありません。
次回は八月一日です。
「中国最強の男とアメリカ最強の男がどちらが強いかを決めるのだ。普通の勝負をしても面白くはないだろう。そこで、こういうものを持ってきたアルよ!!」
パラパラパラ…。
ラーメン山は地面に向かって巻物を投げる。
表に「中華相撲極意の書」と書かれた巻物はラーメン山の手を離れると一人でに地面に広がって行く。
巻物は見る見るうちに地面に円状に広がり、何も無かった場所に土俵を作り上げた。
そして、ラーメン山はどこからともなく取り出した六本の旗を投げ地面に突き刺して行く。
あくまでここはテキサス山の自宅兼牧場即ち私有地であることを忘れてはいけない。
しかし、流石は広大な自然に囲まれて育ったアメリカ合衆国最強の力士テキサス山、既に軽いストレッチ運動を終わらせてラーメン山との対戦に備えていた。
「この RING はまさか…ッッ!!」
怪しげな土俵には青龍、白虎、朱雀、玄武といった東洋の守護獣の姿が描かれていた。
絵はいつの間にか実体化していた‼(※理屈抜き)
だが古来より中国では彼ら”四聖獣”と呼ばれる守護者の立ち合いのもとに相撲が行われていたことはあまりにも有名すぎる歴史的な事実だった。
ラーメン山はどこからともなく取り出した骨付き肉を白い体毛に覆われた巨大な虎に向かって投げた。
虎はマンガ肉が地面に落ちる前に大きな口でキャッチして、そのままペロリと食べてしまった。
テキサス山は白虎と呼ばれる伝説の聖獣の獰猛さに脅威を覚える。
(まさかあの凶暴な獣が潜む土俵の上で戦えというのか!?ラーメン山、噂以上に CRAZY な力士だぜ!)
ラーメン山は両腕を組みながらテキサス山の様子を窺っている。
ここでテキサス山が動揺しようものなら殺すつもりだったのだ。
しかし、テキサス山は怯むどころかラーメン山への対抗心を燃やしている。
(ヨロシ。合格アルよ)
ラーメン山は口ひげを躍らせてニヤリと笑った
「要するに ME とこの MYSTERIOUS な RING で BATTLE したいわけだな?」
ラーメン山は拳法着を豪快に脱ぎ捨てる。
着衣の下は「戦」と書かれた肩パッドと雲を纏う龍の刺繡が入ったまわしという姿だった。
テキサス山はヒュウと口笛を吹いてラーメン山の戦いへの意気込みを囃し立てる。
脱いだ衣服をせっせと折り畳み、戦いの準備を終えたラーメン山はテキサス山に向かって人差し指を突きつけた。
「これは三国志の時代から伝わる伝説の決闘方法アル。かの時代に曹操軍の猛将・徐晃と劉備軍の軍神・関羽が天下分け目の決戦、赤壁の戦いで敵味方に分かれて戦った時に採用された”四聖獣デスマッチ”アルよ。ルールは土俵の周囲に配置された四体の聖獣が見守る中、彼らの支持を多く集めながら戦いに勝利するという特殊なものアル。さあ、テキサス山よ。お主にこの恐るべき戦いを受ける勇気はあるアルか?それとも無いアルか?」
(どこから突っ込んでいいんだ。もしかしてこれもラーメン山の心理戦なのか?)
テキサス山は疑念に満ちた表情でラーメン山を見ている。
古代中国の決闘方法なのに名前が”四聖獣デスマッチ”というのはアリなのか?
そもそもこれらの白い毛皮の虎、やけに赤い羽毛の孔雀みたいな鳥、尻尾が蛇というゾウガメくらいの大きさの亀…とここまではいいとしよう最後に控えるどう見ても東洋のドラゴンっぽいフォルムの青い龍(※青龍には色々な解釈があって”おうりょう”、”ち”、”りゅうぎょ”(※いずれも龍の眷属。該当する漢字が出て来なかった)を示す場合もあるが今回は黄色の鬣に青いウロコを持つ蛇の胴を持つ龍とする)はどこから連れてきたのか、と疑問は尽きそうにない。
「あるに決まってるだろ!!さっさとやろうぜ、その四聖獣デスマッチとやらをよ!」
一方、ラーメン山は実に嬉しそうな顔で自身の張り巡らせた神算鬼謀もかくやという策に狼狽えるテキサス山の姿を見ながら好物の魚肉ソーセージを食べていた。
実はラーメン山のこの行動も勢いに任せたハッタリであり、例の四聖獣が飛び出してきた巻物も上海の露店で売っていた古道具を取り出したにすぎない。
元から表情の変化に乏しい顔の為、テキサス山は気がつかなかったが内心は目玉が飛び出るほどビビッていた。
しかし、ラーメン山はこれに懲りずさらにハッタリの大風呂敷を広げる。
「テキサス山よ。四聖獣デスマッチにおいて土俵に入った者たちはどちらか一方は必ず死体となるという言い伝えがある。これは三国志時代、孫権軍随一(※随一とは特定の集団の中で一番という意味。随という漢字は似たような形の漢字が多いので間違えてはいけない。特に隋とは関係無いので要注意だ)智将・陸遜が劉備軍の燕人張飛がパワーでは圧倒的に張飛が勝っていたにも関わらず四聖獣を味方につけることが出来なかった為に敗北してしまったという故事(※故事という書物も正式に編纂にされたのは三国志よりももっと先の時代)由来するのだ。”他力の信”無きお前が果たしてこの四聖獣デスマッチを生き残ることが出来るかな?フフフフ…」
ラーメン山が挑発を含んだ不気味な笑みを見せる。
ほぼ同時に土俵の外にいた白虎と青龍と朱雀と玄武が絶叫した。
ビクンッ!!
ラーメン山とテキサス山は二人一緒に震えてしまう。
結果として実に気まずいというか後味の悪い展開となってしまった。
「俺は USA の広大な NATURE に囲まれて育った根っからの WILD BOY なんだ。これくらいの MONSTER 、どうということ無いぜ‼」
シュビッ‼
テキサス山は負けじと中指を立てながらラーメン山を挑発する。
その間も彼は土俵の外にいるこの世ならざる場所からやってきたと思われる獣たちの姿から眼を離すことは無かった。
(あの質感、造り物なんかじゃない。絶対に生きているよな…)
白虎は目をしばたかせながら餌(※この場合テキサス山とラーメン山を示す)を見ている。
ラーメン山は四聖獣が皿の上に乗せられた御馳走を見るような目で自分たちを見ていたことに気がついていた得意のポーカーフェイスで顔に出すことは無かった。
「ところでテキサス山よ。私からの提案なのだが、やはり我々世界レベルの力士が動物虐待というのはどう考えても良くない。普通に土俵の上で相撲をして決着をつけないか?」
ブオォォォッ!!
朱雀が嘴を大きく開いてオレンジ色の炎を吐いた。
バリバリバリバリッ!!
青龍は角と牙と鬣にライム色の電光を纏わりつかせて何かを訴えようとしている。
炎と雷の光を当てられながらテキサス山はニッコリと笑った。
「望むところだ、ラーメン山。俺も何時その考えを言い出そうか悩んでいたところさ。やっぱり動物虐待は良くない。この四聖獣だって見るからに強そうな外見をしているが、世界レベルの稀少種であることは間違いないだろう。俺もアメリカ人として宇宙船地球号の仲間を傷つけるような真似は…」
最初に白虎が吠えた。
聖獣の叫びに呼応するかのように大地が引き裂かれる。
次に電光を纏った青龍が天に昇り、雷を次々と落とす。
朱雀は炎を吐きながら天を赤く染めて、玄武は白虎が作った地面の裂け目から激流を呼ぶ。
この時、ラーメン山とテキサス山は彼らが「何でもいいからさっさと戦え。二人まとめて滅ぼすぞ」と言っていることに気がついた。
テキサス山とラーメン山は青い顔をしながら土俵の端まで歩いて行く。
四聖獣たちは二人が相撲の試合をすることを改めて確認すると各自、元のポジションへと戻って行った。
特に白虎は「ガルルル…」と意味ありげに唸り声をあげてテキサス山とラーメン山を威圧する。
(こんなハズじゃなかった…)と二人は同じ様な事を考えていた。
テキサス山は腰を下ろして相撲の基本の構えを取る。
ラーメン山は三十代後半というベテラン力士の代表格だが、力で若手の力士に負けたという話は聞いたことが無い。
近年では中国相撲界において最大最強の名を欲しいままにした力士”満漢全席”を片手で投げたという話を聞いたこともあるくらいであった。
「どの道、世界最強を名乗るにはアンタとの戦いは避けては通れぬ道。最初から全力で行かせてもらうぜ、ラーメン山」
ラーメン山は直立不動。
両手は合掌の形で、依然として目を閉じている。
とてもではないが相撲の構えとは思えない体勢であった。
「天和…、テキサス山、破れたり‼中国相撲秘技六十の一つ、威気成上江洲譚雷李圧刀‼」
ラーメン山は右腕を持ち上げながら、テキサス山目がけて突っ込んできた。
テキサス山は咄嗟にガードを上げて、ラーメン山の必殺技をやり過ごそうとする。
(甘いアルね、テキサス山。それは孔明の罠アルよ‼)
ガキインッ‼
ラーメン山は吹き荒ぶ突風のように突き進み、テキサス山の肉体ごと薙ぎ払った。




