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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
6/162

郷愁と強襲。中国最強の力士ラーメン山登場の巻。

登場人物紹介


グレープ・ザ・巨峰


紫色の全身タイツの上にに剣道の防具をつけている謎のスモーレスラー。前垂れの下はムラサキのまわし。基本的に舞台をひっかき回す役割。類似品に素貼丹スパルタン部屋の親方兼力士、「スパークリング・ザ・巨峰」(ファンタのグレープっぽいやつ)が存在するが中身は別の人。

 鰤天部屋様と書かれた豪勢なネームプレートが見える。

 親方に反対されたんだ。

 どうせ中にはだれもいないだろう。

 わずかな後ろめたさを感じながらも俺はドアノブに手をかける。

 だが、控室に向かった俺を待ち受けていたものは鰤天部屋のチームメイトたちと俺の師匠である親方だった。

 入室してきた俺を見て戸惑うばかりのチームメイトたち。普段から別に仲が悪いというわけではないが歯車がかみ合わないような関係である。

 皆が皆、無言のまま俺を見送るばかりだった。

 そんな時、俺と言えば試合に向けて着替えをする。

 今にして思えば俺の身勝手な振る舞いでこいつらが嫌な思いをしたのは一度や二度ではない。

 俺自身にも後ろめたい気持ちはある。

 今度こそ部屋を追い出されるか、と考えていたその時だった。

 親方が俺に声をかけてきたのである。親方にはガキのころから世話になってきたせいかどうにも頭が上がらない。

 蛇か仏か、俺は用心しながら親方の言葉に耳を傾けた。


 「ハル、調子はどうだ。昨日はちゃんと寝られたのか。飯は食ってきたんだろうな」


 ハル、とはガキのころからの俺のあだ名。


 こんな俺を心配してくれているのか。


 親方オヤジ

 

 歯を食い縛り涙を堪えた。

 こんな場所で泣くわけにはいかない。

 そんな俺の姿を見て親父は無言でバスケットを寄越した。中身なんかわかりきっている。

 トレーニングの跡にさんざん食べさせられた定番のメニューだ。


 「今日のフィッシュアンドチップスは塩味がきついぜ。試合前にこんなもの食えるかよ」


 その時、鰤天部屋の若武者たちが春九砲丸のもとにどっと押し寄せてきた。

 目から涙を流し、震える拳を握りしめて。畜生め。どいつもこいつも泣いていやがる。


 「ハル、暴れてこい。さっさと行って、あの高慢ちきなブルジョワ力士に土の味を教えてやれ」


 この男は才能や基礎能力では春九砲丸に遥かに劣る。

 しかし、どんな時だってトレーニングを怠けたことはない。

 自分に厳しく、他人に優しい最高の兄貴分だった。

 俺は安物の油で揚げたポテトを口いっぱいに頬張る。


 このフライドポテトは今日に限ってスパイスが効きすぎていやがる。

 おかげで前が見えないじゃねえかよ。


 兄弟子の声が春九砲丸にさらなる力を与えた。


 「ハル兄さんっ!アンタは俺たちの希望の星だっ!倫敦橋の奴を土俵の外までぶん投げて、世間の奴らをあっと言わせてやってくれ。大英帝国に鰤天部屋あり、鰤天部屋に春九砲丸ありってよぉッッ!!」


 鰤天部屋の一番若い力士が涙を流しながら思いのままに吠えた。

 デビュー戦で大負けして一度はスモーを辞めるって言ってたヤツだ。


 馬鹿野郎。男が簡単に泣くもんじゃねえよ。


 その涙はお前がスモーナイトになった時にとっておきやがれってんだ。


 俺はそいつの頭に手を乗せて撫でてやった。

 そして、次と次と俺にありったけの思いをぶつけてくる仲間たち。


 わかったぜ。俺が道を拓いてやる。


 お前ら、黙って俺についてこい。


 俺はいつものスモーコスチュームに着替え、控室を後にした。

 その後からついてくる親方と仲間たち。もう恐れるものは何も無い。


 数分後、土俵に二人の男が立っていた。

 

 一人は俺。


 もう一人は英国角界期待の星、倫敦橋。


 到着した直後から二人の戦いは始まっている。後はレフェリーの合図を待つばかりだ。


 「アチョー!その勝負、待った!」


 風に揺れる三つ編み。

 

 東アジア系独特の黄色い肌と平たい顔立ち。


 この男はまさか中国が誇る千の技を持つ男、九龍城ガウルンセン部屋のラーメン山ではないのか!?


 「ハイヤー!倫敦橋よ、その春九砲丸なる力士ピータンにお前と戦う資格は無い。世界最強の力士ピータンを決める戦いならば、まずこのビクトリー・ラーメン山と戦うのだ!」


 昔、小耳に聞いた話ではあるが中国では明代の頃からスモーレスラーを中国語でいうところの「龍の卵」を意味する皮蛋ピータンと呼ぶそうだ。

 

 ラーメン山は両掌を獣の上顎と下顎になぞらえて低い位置に構える。


 豹の構え。


 ラーメン山は祖国中国の伝統ある流派の継承者であり、同時に九龍城部屋に席を置く中国最強のスモーレスラーだった。


 「その者はお前と戦う数日前に私闘に興じ、怪我を負った不心得者。我ら力士が路上で私闘に興じることがどれほど罪深いことか、知らぬお前ではあるまい!ホアチャアアアアアア!!!」


 「だからどうしたというのだ、ラーメン山。仮に君が春九砲丸よりも先に私と戦えば必ず勝てるという保障があるとは思えないのだが?」


 「ロン!ホーテイ!メンタンピン!!( ※ 怒りを表現する中国語のスラング。日本でも通用する ※ )!!私を侮辱するとは聞きしに勝る命知らずなり。若造、どうやら実力の差を教えてやらねばならんようだな」


 ラーメン山は豹の構えから鷲の構えにスタイルチェンジした。

 膨張し続けるラーメン山のスモーオーラ、一触即発の状態である。


 俺は蚊帳の外だった。



 言っておくがこれは俺の試合だぞ!!



 「キエエエエエエエエエエイッ!!!」


 次の瞬間、ラーメン山の着ていた拳法着が放ったオーラで爆散した。

 拳法着の下に隠された痩身ではあるが鍛え抜かれた鋼の如き肉体。


 そして「蒙古虎モンゴルタイガー」と刺繍されている赤いまわし。


 ラーメン山は誰が見ても文句のつけようがないスモーレスラーだった。

 ピータンに竜の卵という意味はありません。外側についている灰汁を固めたものが皮に似ているから皮蛋という名前がついたそうです。あしからず。

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