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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第二十九話 伝説の正義力士、三人が出会う時!!の巻

次回は6月19日に投稿するでごわす。遅れてごめんでごわす。どすこい。


 海星光太郎は土俵の上に立つ。己の意志で。テキサス山は左の肩を回して具合を確かめていた。

 今のテキサス山には以前のような格下を相手にする時に見せる余裕のようなものは一切無かった。

 例えるなら「獅子は兎を狩る時にも全力を尽くす」といった王者が挑戦者を相手にするといった様子ではなく、目の前に立つ者がいれば誰でも容赦なく叩き潰すといった嵐の訪れを予感させるものであった。


 「ME と戦う最低限の CONDITION に仕上げてきたようだな、海星光太郎。今回は最初から全力で行かせてもらうぜ」


 テキサス山は腰を落としながら両手を広げる。

 古式ゆかしい日本の伝統相撲の型の一つ、不知火型である。

 アメリカでは PHOENIX STYLE として知られている極めてマイナーな戦闘スタイルであった。

 対して光太郎は腰を落として一度、地面に拳骨をつけた。


 (おいどんはあくまで自分の相撲で戦うのみ。あんさんの流儀にはつき合わんでごわすよ)


 光太郎は烈火の如き眼光をテキサス山に向かって放った。

 テキサス山は皮肉っぽく口の端を歪めると、両手を閉じた。

 光太郎の背中に珠の汗が浮かび上がる。

 テキサス山と向かい合っただけでこの始末である。

 もしも、ぶつかり合えば五体がバラバラになる可能性も否定できない。

 光太郎は静かに審判の開始の合図を待った。


 「羽合庵よ。光太郎はどうだ?勝てそうか?」


 土俵から遠く離れた一般席で光太郎の父、英樹親方は羽合庵と共に観戦していた。

 美伊東君が根っからのあがり症でる光太郎への配慮である。

 二人は白いシャツの上から「綿津海部屋」と「海星光太郎」と書かれた青い丹前を羽織っていた。

 何気にメガホンを用意しているあたりはご愛敬というところだろう。


 「難しいな。今のテキサス山には強者の驕りというものがない。どうやら「男子三日合わざれば刮目して見るべし」という言葉は我が弟子の専売特許では無かったらしいな」


 羽合庵は顎髭を撫でながら苦笑する。

 事実、今のテキサス山は予想を遥かに超えて強くなっていた。

 ここに来て”不知火型”を披露するとは完全な読み間違いと考えても過言ではない。

 そして、光太郎もまたテキサス山の挑発を見事に受け切った。

 アメリカ相撲何するものぞ、と。今、光太郎は初見において勝率が七対三ぐらいであったところを自力で五対五まで引き上げたのだ。


 これでは名参謀、羽合庵の眼力をもってしても今の時点では勝負の行方はわからない。


 「光太郎…。頑張れ。翔平もきっとどこかでお前のことを見ておる。今日、必ず勝ってお前を褒めさせてくれ…」


 英樹親方は歯を食いしばり、涙を流しながら土俵に立つ光太郎の姿を見つめていた。

 羽合庵はため息をついた後、再び土俵に視線を移す。

 土俵の上では光太郎とテキサス山がにらみ合ったままである。


 その時、秋葉原国際相撲会館に緊急アナウンスが鳴り響く。


 「皆さん。どうか落ち着いて聞いてください。今回の試合の解説役として、あの東西世界無差別級相撲チャンピオン、倫敦橋関が出席されることになりました。サー・倫敦橋。どうぞ」


 その時、会場を揺るがすほどの歓声が沸き上がった。


 いつもの青い鎧に不健康そうな青い肌、そしてひさし付きのフルフェイスヘルメットを被ったスモーレスラーが席につく。仮面のスリットから冷厳な黄色い瞳が土俵に立つ二人の力士を見ていた。


 「ハロー、ジャパンのスモーファンの皆さん。今回は私倫敦橋は、ある特別な用件で日本を訪れたわけですが、今日は私と因縁深いスモーレスラーが特別な試合をするというので無理を言って観戦させてもらうことになりました。トークが苦手な私ではゲスト役としては物足りないかもしれませんが特別観覧席から両選手を精一杯応援させていただきます」


 倫敦橋は貴族然とした品位を保ちながら、砕けた調子で観客たちに微笑みかける。

 しかし、マスクの下に潜むガンダムのような黄色い瞳は些かの陽気さも含んではいなかった。


 (テキサス山よ、また強くなったようだな。早く私の前にまで上がって来い。この世には決して乗り越えられぬ壁があることを教えてやろう)


 倫敦橋は仮面の奥で自らの地位を脅かさんとする不届き者の姿を笑っていた。

 だが当のテキサス山は倫敦橋の存在には気がついていたが、視線は海星光太郎の姿だけを捉えていた。

 倫敦橋は仮面の下で少しだけ面白くなさそうな表情をする。

 そして肘掛けのついた豪華な造りの椅子にどっしりと腰を下ろした。


 (あの男が今日のテキサス山の相手か。記録を見た限りでは”最弱”と揶揄されても仕方のないものだが)


 倫敦橋は前日のうちに用意させた光太郎に関する情報が書かれたファイルにさっと目を通す。

 個人プロフィールを上から順に目を通しているうちに決して見逃すことが出来ない情報が記載されていることに気がついた。


 「なるほど。彼はあの海星翔平の弟だったのか」


 海星翔平。

 数年前、日本に綺羅星のように現れた若木スモーレスラー。

 翔平は伝統的な日本相撲の使い手で、その時々の状況判断で戦法を切り替える柔軟性に富んだ思考を持つ力士だった。

 当時倫敦橋がもう一つだけ注目したのが、倫敦橋の祖父である倫敦博士が同等の力を持つ存在として認めていた力士である海星雷電の孫が翔平であるという点だった。

 翔平本人は野試合を行った事、そして野試合が原因で選手生命に関わる怪我をして引退してしまったという記録が残っている。


 さらに倫敦橋は祖父からこうも聞かされている。


 「海星家の人間にはスモーゴッドの血が流れている」と。


 (もしもその話が本当なら海星光太郎が疾走したあの男について何かを知っているかもしれんな)


 倫敦橋はかつて頂点を競い、死力を尽くして戦った金髪の男の姿を思い出す。

 そして知らずのうちにファイルの端を握り潰していた。


 「どうしました、倫敦橋関?」


 倫敦橋が頑丈な深緑糸のカバーに覆われたファイルをもろともに握り潰してしまったことに気がついたアナウンサーが心配して声をかけてきた。

 倫敦橋は己の内に渦巻く激流をどうにか押さえながら務めて紳士的に答えた。


 「何心配は無用ですよ、ミスター。少しばかり昔のことを思い出しただけですから」


 (お前はどこにいる、春九砲丸。今すぐ私の前に現れろ)


 倫敦橋は宿命の強敵の名前を心の中で叫んだ。


 ほぼ同じ頃に土俵の中に審判が現れた。

 後に世紀の大決戦と謳われる光太郎とテキサス山の初対決が始まるのだ!!


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