第二十二話 そして強いヤツが買った!!他に忍び寄る悪魔の影 の巻
一日遅れてすいません。今後はこのようなことにならないように気をつけます。
次回は5月15日だドスコイ!!
「そういえば山本山のヤローはちゃんと休んでいるんだろうな」
テキサス山と山本山の死闘が行われている場所から、やや下に位置する登山コース(※作者は実際にグランドキャニオンに行ったことはないので登山コースがあるかどうかは知らない)を二人のスモーデビルが歩いていた。
一人は古代エジプトの王族のような衣装に身を包んだ男、もう一人は顔にでかい穴が空いた全身黒一色の男だった。
二人そろって真ん中に蝙蝠のマークが入ったまわしをつけているのでスモーデビルであることには違い無かった。
その日のグランドキャニオンは記録的な暑さだったのでエジプトっぽいコスチュームの男は一人でスポーツ飲料をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいる。
顔の真ん中にでかい穴があいている男は「エジプトの人間が皆、暑さに強いというわけではない」と一人納得して首を縦に振る。
実は顔に穴があいている男も四次元相撲の使い手だったが絶叫マシンが苦手だったのだ。
「三角墓よ。山本山は我らスモーデビル軍団きっての修行マニア。今頃は、休み明けに我々よりパワーアップをする為に抜け駆けで修行をしているかもしれんな」
スモーデビル界の先鋒として知られる”スモーデビルセブン”の中でも、エジプト風味の三角墓と顔に穴が空いているこの暗黒洞と山本山は実力が拮抗したライバルだった。
尚スモーデビルセブンの中において実力では吉野谷牛太郎が自他ともに認める最強の力士であり、ナンバー2の参謀格としては頭の切れるというか全身バネが利いている発条王子が存在する。
他にランキングには興味を持たない大西洋と技巧派の歩行男などが所属していた。
現在スモーデビル軍は総大将にして親方のスモー大元帥がどこかに封印されてしまっているので止むを得ず全員休日ということになったいた。
「それは聞き捨てならねえな、暗黒洞よ。スモーデビルセブン、略してデビセンのナンバースリーの地位はこの三角墓様の専用席なんだ。あんな田宮のジオラマ模型みたいな野郎に譲るわけにはいかねえ…」
模型の姫路城、大阪城と続いて最後は山本山。
決して有り得ぬ選択肢ではない。
暗黒洞は両腕を組みながら自らの地位が脅かされつつあることを予感する。
だが、それ以上に気になっていることが出来たこともまた事実。
「待て、三角墓よ。いつからお前がナンバー3になったというのだ」
ずいっ。
暗黒洞の赤いブーツが地面を踏みしめる。
三角墓は暗黒洞の噂では異次元に通じているという穴を睨みつけた。
彼らスモーデビルは目的の為に行動を共にしているのであって、他の惰弱な力士たちのように友達ごっこをしているわけではない。
本来は敵同士なのだ。と、この前何があってもそう言えと恩師”拷問山”から注意されていた経緯もある。
暗黒洞は山本山の抜け駆けに憤る三角墓との距離を一歩、詰めた。
スモーデビル同士の狂猛な意志を秘めた眼光がぶつかり合う。
暗黒洞の顔に空いている穴から心無しか暗黒物質が漏れているようにも見えた。
「吉牛は将棋で言えば玉、格がそもそも違う。アイツが俺たちの仲間内で一番手であることは認めよう。そして、二番手は発条王子。俺たちのような生粋の猪武者に集団をまとめる力は無い。ここも認めよう。だが実力者のみが名乗ることを許される三番手は誰が相応しいのか。俺の知る限りでは貴様ではないぞ、三角墓よ」
三角墓。
山本山。
暗黒洞。
この三人はほぼ同時期にスモーデビルになった者たちである。
中でも組織内での上昇志向が強く、対戦成績もまたデビセン(※スモーデビルセブンの略称。定着させたい)随一である暗黒洞としてはそろそろ三番手の地位を盤石のものとしておきたかった。
悲しいことにスモーに限らず格闘技の世界にはこういった風潮が存在する。
「おいおい。暗黒洞よ、雑魚どもを相手に多少、勝ち星を増やしたところで要らぬ自信をつけてしまったようだな。そういうことはだな。まず俺に勝ってから言え」
暗黒洞は周囲の景色が一瞬揺らいで見えるほどの闘志を放つ。
三角墓の言うようにスモーデビルの真剣勝負形式の通称”殺戮稽古”では暗黒洞は三角墓に勝ったことは一度も無い。
山本山も同様である。ゆえに山本山は自己鍛錬に時間を費やし、暗黒洞は他流試合を連続して行ってきた。
この時、暗黒洞は自身の一番突かれたくない部分を、誇りを踏みにじられた気分になっていた。
暗黒物質が穴から激しく噴き出す。
一方の三角墓も気が気ではない。
吉牛の面子を守る為、兼ねてより発条王子から自己鍛錬はおろか試合をすることさえ禁じられていたのだ。
特に身内同士の試合たる殺戮稽古は、場合によってはスモーデビルの勢力を削ぐ結果になりかねない。
事実デビセンの中で三角墓こそがもっとも血に飢えていたのだ。
「マキマキマキマキ…。我らスモーデビルに御託は要らん。暗黒洞よ、言いたいことがあれば土俵で言え…」
ドカンッ。
三角墓は背負っていた棺を地面に投げ捨てる。
今日は午前中、陽射しが強いと天気予報で聞いていたので予め用意をしておいたのだ。
暗黒洞も背中のリュックサックを地面に置いた。
リュックサックの中にはクロスワードパズルが記載されている雑誌がたくさん入っている。
別段得意というわけではないが、暗黒洞は暇つぶしに詰将棋やパズルの雑誌を普段から持ち歩ていていたのだ。(※作者のふじわらしのぶさんも出張の時はナンプレ、ニンテンドースイッチ、おやつ、漫画を持ち歩いている)
「さて現実を知るのはどちらになることやら。三角墓よ」
みしいぃっ…!!
アリゾナの荒涼とした大地の全体が捻じられ、歪んで見えた。
狂おしいほどの戦いへの渇望が世界の道理をも歪曲させる。
ガツッッ!!
次の瞬間、暗黒洞と三角墓の額がぶつかった。
二、三滴の赤い粒が地面を汚す。
今や三角墓の口は耳元まで裂けて見えるほどの笑顔になっている。
片や暗黒洞は顔に空いた穴からありとあらゆる物質を吸い込みつつあった。
しかし、その時山頂からテキサス山が転がり落ちてきた。
「NOォォォーーーッ!!」
激突必至と思われたその時、真上から男の悲鳴が聞こえてくる。
牛革の袖のないジャケットに腰には青いまわしをみにつけて、足には厚手のウェスタンブーツという出で立ち。
男は崖を転がり、やがて地面に叩きつけられる。
常人ならばいつ死んでもおかしくはない状況だったが、男は生粋のスモーレスラーである。
スモーレスラーは試合中には決して死ぬことはない不死身の魂を身に宿す無敵の戦士なのだ。
男は口の端から流れている血を拭き取って、敵を見上げる。
「GOD AND DEATH ッ!!」
男に止めを刺す為に、流離の魂の旅に終わりを求めて岩山が飛び降りた。
激戦の末、満身創痍ならぬ死の一歩手前。
されど戦い続ける。
それが力士の”生きざま”なのだ。
「なんのこれしき!!DON’T SUIT CALL IT ッッ!!」
テキサス山は遥か上から落ちてきた山本山の肉体を受け止めた。
両者の重量差は六倍以上はある。
テキサス山はアメリカン男子特有の FRONTIER SPIRITS で立ち向かう。
事実、テキサス山は山本山の巨体を受け止めた時に全身の骨が砕けたかと思ったが彼の肉体は抵抗を続けていた。
テキサス山の背骨が、腰が、両脚が上半身を支えている。
そして山本山の巨体はテキサス山の肩が、腕が、心臓が決して離すまいと掴んでいる。
この抵抗が続く限り、テキサス山は決して死ぬことが出来ない。
だが山本山も同じくして四肢の封じられながらも勝機を伺っていた。
崖から突き落とした後に上から押し潰す、という捨て身の戦法もテキサス山には通じない。
(しぶとさだけは一人前か)
山本山は下半身を大きく振ってテキサス山の拘束から脱出した。
どすんっ。
足から地面に降りた後に、山本山は自身の肉体に力が残っていないことに気がついた。
「やはり俺の独壇場、鉄砲合戦しかないか。テキサス山、墓に入る覚悟は出来たか?」
山本山の鉄砲は”流星大噴火”という異名をもつ大技である。
今までこの技を受けて立ち上がったものはスモー大元帥と盟友吉野谷牛太郎ぐらいのものだ。
山本山のはるか格上のスモーデビル界のプリンス、百腕山などは「山本山と戦う時は流星大噴火を使う前に勝負を決めろ。カーカッカッカ!」という言葉を残しているくらいだった。
次の瞬間、山本山の全身から溶岩が噴き出した。
蚊帳の外にした三角墓などは全身に巻かれた包帯に火がついて悲鳴を上げている。
普段、山本山が流星大噴火を使う時は可燃物を避けておく配慮が必要だった。
戦友の身を案じた暗黒洞は家から持ってきたカチカチに凍らせたレモン味の氷のお菓子を三角墓にくっつけて消火しようとする。
いずれにせよ一歩間違えれば山火事になりかねない危険な状態だった。
「ヤマッ!!てめッ!!俺を燃やす気か!!」
三角墓は燃え盛る山本山に向かって掴みかかろうとする。
しかし、二次災害を恐れた暗黒洞によって阻まれた。
この場合は暗黒洞が正しい。
「動くな、ファラオ(※仲間内での三角墓のあだ名)。火が別のところに移るから!!」
「ごおおおおッ!!どうせ死ぬならスモーで殺してくれえええっ!!」
ドォォォォーーーンッ!!
次の瞬間、三角墓と暗黒洞はオレンジ色の爆炎に包まれる。
包帯と本体に塗られた香料に着火したのだ。
こういった材料の劣化を防ぐ為に使われる保存料は可燃物であることも多い。
是非とも普段の生活に役立てて欲しい。
三角墓の悲鳴の大半は爆発音によって聞こえることは無かった。
ゆえに山本山が二人の存在に気づくことは無い。
テキサス山は革製の手袋を外して、張り手の構えに戻る。
テキサス山の体力も限界に達していたが、自らの死も辞さずに立ち向かってくる山本山の心意気に絆されたのだ。
「NO Thank YOUッ!!(※完全な間違い。「気にするな」は英語の試験の時は DON’T MIND って書いてね❤ by ふじわらしのぶ)俺は死ぬ時は土俵の上って決めていたんだ。山本山よ、そろそろ終わりにしようぜ?」
テキサス山の鉄砲が山本山の身体に当たる。
真一文字に閉じられた口元には、普段のような余裕は欠片も見られなかった。
「生意気な」
ニヤリと笑う。
山本山もまたテキサス山の胸に張り手を当てた。
その一撃で意識ごと持って行かれそうになったが、テキサス山は堪えた。
ここで倒れることは山本山への侮辱でしかない。
安全装置を外した者同士の限界の極みとも言うべき戦いが始まった。
そして肉が爆ぜ、骨は砕け、魂さえも消え失せそうな戦いに勝利したのは…。
「山本山よ。やっぱアンタは強かったぜ。ME の次くらいにな」
アメリカ最強のスモーレスラー、テキサス山だった!!