第二十一話 スモーデビルはただでは死なぬ!!の巻
次回は五月九日に投稿するでゴワス。この話の教訓、それは山には恐ろしいスモ-デビルがいるから気をつけろというお話でゴワス。
テキサス山の身体が砲弾のように山本山にぶつかってくる。
(愚直な。まるで俺のダチのような野郎だ)
山本山は一瞬、頭に二本の角を生やした親友のことを思い出してしまう。
苦笑。このスモーデビルらしからぬ人間味の為に山本山は先輩スモーデビルから説教を受けたことがある。
先達曰く、お前は甘い。
また曰く、情を捨てろ。
常に非道たれ、と。
山本山は鰐なんだか襟巻蜥蜴なんだかよくわからない先輩の説教を思い出しながら、心に火を灯した。
(このスモーレスラー、生半ではない。極上の本物)
テキサス山のタックルを真正面から受け止めて、その予想外の突進力に期待する。
この小兵こそが己の敗北なのか、と山本山は期待してしまう。
山本山は地べたに足をつけ、腰と背中の骨を伝って力の根を生やした。
「簡単に壊れてくれるなよ。テキサス山」
無我夢中で山本山のまわしを取ろうとしている中、テキサス山はそんな言葉を聞いたような気がした。
実際に体重差100キロを超える空前絶後の大重量を抑えている最中なのだから話などしている場合ではない。
(WOW !? これはPHANTOM VOICE か?)
「PHANTOM VOICE」とかおそらくは「すわ幻聴か?」と言いたいのだろうがそんな英語は無い。とにかくこの時、テキサス山は崖の端に向かって山本山の巨体を押し出してやろうかと考えていたのだ。
テキサス山の実力は疑う余地はないのだが山本山の岩塊の如き肉体の前では多少弱気にならざるを得ない。
しかし、テキサス山は体力と気力を振り絞り全神経を眼前の敵に集中する。
やがて汗ばんだ両手が、早まる鼓動が体力の限界が近いことをテキサス山に教える。
「NEVER GIVE UPだッ!!例えここで死ぬことになっても俺は!!俺のBOUGHTを!!諦めたりはしないッ!!」
テキサス山の叫びに呼応するかのように、彼の肉体はピンク色の魚肉ソーセージみたいな色から赤いウィンナーのような色に変わった。
むしろ大丈夫か!?と声をかけてしまいそうになるがここは空気を読んでテキサス山は自らの限界の壁をぶち破ったということにしておこう。
これがアメリカスモー界において”テキサスの暴れ馬”と呼ばれるスモレスラー、テキサス山の真骨頂なのだ。
肉体はおろか魂さえ燃やしかねないテキサス山の闘志が山本山の肉体の体勢をグラつかせる。
「上出来だ。俺もお前のような男と戦える日を待っていた。ここで、どちらのスモーが勝っているか存分に比べ合おうぞ。テキサス山よ!GOD!!AND!!DEATH!!」
山本山の頭が再度、爆発した。
かの活火山力士の肉体は比ゆ的なものではなく、体感的に熱くなっていた。
映画に出てくるカウボーイとかが身に着けているカッコイイ手袋が無ければ我慢強い(※自称)テキサス山でも大火傷していたことだろう。
テキサス山の両手、そして死火山(※現在はこういった呼称は使われていない)から活火山へと生まれ変わった山本山の灼熱のBODYに近い部分がリアルに燃えていた。
(まるでBBQになった気分だぜ。…いやシャレにならん!)
一方、山本山の頭の中は赤熱化した肉体とは逆に冷静そのものとなっていた。
並のスモーレスラーならば、山本山の巨体や高熱といったハッタリだけで勝利する予定だったのだが肝心のテキサス山は一向に退く気配は無し。
燃え盛る炎の化身となった山本山はその時始めてテキサス山のまわしを取った。
山本山はテキサス山のまわしを取った直後に一歩、前に出た。
ジュウウウ…。
テキサス山の皮膚は山本山の身体に触れた瞬間に焼けてしまった。
テキサス山は苦痛に表情を歪ませる。
だが、同時にテキサス山の心に余裕が生まれたことも事実だ。
テキサス山は文字通りに身を焼かれながら山本山の猛攻を耐えた。
ボシュウッ!
今度は山本山の膝と腹の部分部分が爆ぜて飛んだ。
(そういうことか…。OK、山本山。お前は無敵というわけではなかったんだな?)
テキサス山は力に対して力を張り合う戦い方から、山本山の攻勢を耐え忍ぶ戦法に切り替える。
山本山は熱気を高めてさらにテキサス山を圧殺せんとする。
ジュワワッ!!ジュワワワッ!!
テキサス山は自ら後退しながら山本山の攻撃に耐えた。
バキッ!!バキバキッ!!
山本山の肉体が自身の力によってさらに破壊された。
テキサス山は好戦的な笑みを浮かべる。
力の秘密がわかった以上、もはや脅威では無い。
山本山は空に黒煙を吹き上げながら、テキサス山の身体に寄りかかるような形となる。
だが。されど、山本山はスモーデビル。
自身の体内を流れるマグマに焼かれることになってもまわしを放すことはない。
そしてテキサス山もこんな呆気ない終わり方を望んではいなかった。
テキサス山は口の端を歪め、実に皮肉っぽく笑っている。
「このままお前と一緒に死ぬのも悪くないが、それは俺の流儀に反する。やるなら正面からだ!MAX POWERで来い!山本山!」
崩壊が始まった山本山の身体を一度、押し返す。
手負いの獣と化した山本山はテキサス山をジロリと睨んだ。
「スモーデビルを甘くみるなよ、テキサス山。お前ごときスモーレスラーとは何百年も前に何度も戦ったわ。そして生き残ったのが、この俺山本山よ!!」
テキサス山は焼け焦げた両腕を中腰の姿勢で構える。
その姿、血統に臨むガンマンの如し!
テキサス山は十八番、西部劇張り手を使うつもりだった。
尚この技を食らったスモーレスラーは全身に焼き印を押されたような跡が残る為に「仔牛の焼き印張り手」とも呼ばれている。
(相手は名うてのPOWER FIGHTER。コイツ相手に力負けをしているようじゃヤツには勝てない)
テキサス山の視線のはるか先にはやはり青い鉄仮面(※アニメ版)のスモーレスラーがいた。
そして眼前の最強の好敵手たる山男も通過点にすぎない。
テキサス山は鉄砲の応酬を望んでいる。
(ここで死ぬ気か、テキサス山)
スモーにおいて体格は絶対的な勝利の要素にはなり得ない。
だが、鉄砲の打ち合いに関しては体格差がものを言う。この山本山というスモーレスラーはスモーデビルの中でも一、二を争う腕力を持った張り手の名手である。
今となっては身内でさえ鉄砲を使って稽古を避けるようになっていたのだ(※特に歩行男は精密機械なので避けていた)。
(猛る。この男、やはり生粋のスモーレスラーよ)
山本山はテキサス山の心意気に闘志を昂らせる。
山本山の圧力を受けてテキサス山は全身の力を入れ直した。
(この先に続く道の果てにあの男が、負けた俺を見向きもしなかった男がいる。待っていろ、倫敦橋。この Mr MOUNTAIN を倒して俺はもう一度、お前と戦う!!)
その時、テキサス山は完全に海星光太郎のことを忘れていた。
山本山の眼が、テキサス山の眼が両者を捉えた。
叫ぶ。
同時に心のままに吠える。
よく考えて見ると偶然山で遭遇しただけなのだが、運命であったような気もする。
故にテキサス山は山本山に圧倒的なフリを強いられるであろう正面からの張り手合戦に挑んだ。
「スモーだけは絶対に!!誰にも譲らない!!それが俺のスモーロードだ!!YES!!YES!!YES!!YES!!YES!!YES!! … COME’ON BABY!!」
テキサス山は一秒間に六百発もの張り手を放った。
実際に数えたわけではないが。
山本山も負けじとテキサス山に向かって灼熱の張り手を放つ。
こちらは一秒間に二百発と数の上では負けているが破壊力は十倍以上はある、はずでる。
テキサス山の張り手が山本山の肉体に当たれば、当たった箇所は即剥落する。
だが山本山の張り手がテキサス山に当たればテキサス山の肉体は焼けただれ、出血を被るのだ。
破壊と破壊の狭間で両者は改めて互いの存在が、不倶戴天であることを思い知るのだ。
「テキサス山よ、お前の張り手は実に心地よい。裂け、砕かれた己の肉体を見る度にお前を殺した後の達成感というヤツが待ち遠しくなるぞ。我が愉悦と歓喜の為に死んでくれ!!富士!!富士!!富士!!富士!!富士見ファンタジア文庫ーーーッ!!」
山本山はハイになり過ぎてわけのわからない言葉を叫ぶようになっていた。
男の戦いに理由などいらない。
ボロボロになるまで戦い続けられればそれでいいのだ。
張り手の、頭突きの、つかみ合いの応酬が続く。
そして、最後の一発がテキサス山の左の張り手が山本山の顔に入った。
山本山の顔が吹き飛ぶ。
テキサス山はこの時、自身の勝利を確信した。
「DON’T NOT MORE ON DIE (※アメリカ語。どんなもんだい、という意味)!!」
顔面を粉々に砕かれながらも山本山は笑っていた。
正義スモーレスラーの、テキサス山の詰めの甘さを笑っていたのだ。
スモーデビルと呼ばれる者たちは、顔が吹き飛ばされたくらいでは死なないのだ。
その証拠と言わんばかりに山本山は顔面を砕かれながらもテキサス山の背中を掴んでいる。
「スモーデビルのスモーはここからだ。甘ちゃんスモレスラーさんよ。行くぜ、悪魔殺法!!」
山本山はそう言うや否や肉を、骨を直接掴んだ。
(何という POWER …。命そのものを掴まれた気分だぜ)
テキサス山は今日の何度目かの死を自身の予感した。