表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
43/162

第十三話 師弟の契り。伝説は蘇る。の巻

次回は3月30日でごわす!


 磁気嵐は”この時”を待ち望んでいた。

 なぜならば数百年前、磁気嵐が封印される直前にくらった技こそが白星バスター投げだったからである。


 磁気嵐は全身の筋肉を強張らせて技を受ける覚悟を決めた。

 二代目キン星山は生ける灼熱の塊と化した磁気嵐のまわしを両手で掴んだ。

 磁気嵐もまたキン星山のまわしを取り、両差しの形となった。


 名うての力士同志が組み合えば、只事では済まぬのがスモーの掟。


 キン星山と磁気嵐の肉体がぶつかり合った瞬間、キン星山の胸と腹が焼け焦げてしまった。

 キン星山は苦悶の表情を浮かべる。

 磁気嵐は笑ってはいたが、肉体の亀裂はいっそう深いものとなり崩壊の一途を辿っていた。


 (強い!!)


 磁気嵐とぶつかり合ったことでキン星山はスモーデビルの底力を思い知った。

 ゆえにキン星山は歯がゆさを覚える。


 (これほどの実力者が何ゆえにスモーデビルなどになってしまったのか!!)


 「俺がどうしてスモーデビルになったのかを知りたいか?」


 磁気嵐はキン星山のまわしから手を放して、両手で突き飛ばす。


 キン星山は自らの胸の内に生まれた疑念を読まれたこと、そしていつの間にか自身の掴みもまとめて外されてしまった事に驚いていた。


 「左程驚くほどの事では無いぞ、キン星山。これがスモーデビルの力だ。かつてはお前の祖先も持っていた力だ。五百年前。まだ俺が真っ当な力士だった頃、欲しても手に入れることが力をお前の祖先である初代キン星山はあっさりと手放してしまったのだ。何が勝負は対等の条件で行われなければ意味が無い、だ。それは持つ者の傲慢さだ。俺のような生まれつき持たざる者は魔道にでも堕ちなければ陽を拝むことさえ出来んのだ!」


 「磁気嵐。お主、本当は…」


 磁気嵐はキン星山の言葉を遮るように片手を出す。

 それは最後の勝負に挑む者の覚悟と決意の表明であった。


 それ以上、キン星山は何も言うことは出来なくなってしまった。


 「言葉は無用。二代目キン星山よ。どうか俺と最後に勝負をしてくれ。スモーデビルの底力、しかと受け止めてくれ」


 磁気嵐は気がついていた。


 目の前の男は、磁気嵐が心底惚れ込んだキン星山ではないことを。


 一方、羽合庵と英樹はただ勝負を見守り続けていた。

 どういう事情でキン星山と名乗る雷電がスモーデビルの磁気嵐と戦っているのかを二人は知らない。

 だが互いの命を削って死力を尽くす二人の姿を見ているだけで両目から溢れる涙が止まらなかった。


 雷電と磁気嵐はスモーを通して語り合っているのだ。

 

 やがて磁気嵐とキン星山は開始位置まで下がる。


 そして、磁気嵐が何の前触れも無く全身全霊でキン星山にぶつかっていった。

 同じくキン星山もまた全力を尽くしてこれを止める。

 磁気嵐の磁石ボディの肩から胴まで一気に亀裂が走る。


 磁気嵐は短い悲鳴をあげる。


 だが止まらない。

 そのまま一気に土俵間際に向けて押し切ろうとする。


 キン星山は左の膝とつま先に心力全てをつぎ込んでこれを押さえた。

 歯ぐきから血が零れる。

 キン星山も崖っぷちだった。


 今度は磁気嵐の左足が、足首から折れてしまった。

 体勢が大きく崩れる。

 しかし、折れた部分を地面の支えにして磁気嵐は最後の一押しにかかる。


 文字通りの、最後の命懸けである。


 やがて磁気嵐の肉体が本格的な方かいが始まり、時間の経過と共に磁気嵐の肉体はどす黒く変化していった。


 「しかと受け止めたぞ、磁気嵐。お前は最後まで立派なスモーデビルだった。ぬんッ!!」


 キン星山は磁気嵐の肉体を逆さにして持ち上げる。

 そして両足の足首を掴んで、一気に引き裂いた。

 次に首を使って相手の頭に絡ませ固定する。

 かつては触れただけで燃やされてしまいそうなほどの高温を誇った磁気嵐の肉体だったが、今は冷たい石の塊となっていた。


 キン星山の頬を涙が伝う。


 「これが…白星バスター投げじゃぁぁーーーーーッッ!!」


 キン星山は磁気嵐の身体を逆さまに持ち上げて一気に飛び上がる。

 そして、天井の証明と同じくらいの高さにまで達したその時に全体重を使って落下した。


 ドンッ!!


 キン星山の両足が地面を踏みしめる。


 ピシィィィッ!!


 次の瞬間、磁気嵐の首が、胴が、両足が一気に崩れ落ちてしまった。


 これこそが綿津海部屋に伝わる秘奥義、東西南北六十九の殺しの技”白星バスター投げ”の全貌だった。

 キン星山が磁気嵐の肉体から手を放すと粉々に砕け散ってしまった。

 最後の最期で磁気嵐は全てのしがらみから解放されたような澄んだ瞳でキン星山を見つめる。

 反対に勝ったはずのキン星山は泣きそうな顔で磁気嵐を見ていた。


 磁気嵐は塵芥に返る寸前に一言、二言を呟く。


 「スモーに情けは不要だ、二代目キン星山よ。俺はスモーを汚した、自分でやったことの報いを受けているだけだ。だから、これでいいのさ。姿形は似ていても、やはりお前は俺の知っているキン星山ではないのだな」


 「ッ!!」


 ガシャンッ!!


 次の瞬間、灰色に変化した磁気嵐の身体はまるで最初から存在していなかったかのように雲散霧消する。

 

 キン星山はその場で腰を落とし、空を手刀てがたなで「心」という漢字に空を切る。

 試合の跡には土俵に負の感情を残さないという日本のスモー独自の儀式である。

 二代目キン星山はこの時、改めて自らに課せられた使命の重さを知ることになる。


 キン星山があ戦うことを宿命づけられたスモーデビルとは木石ではない。


 人と同じ心を持った存在なのだ。


 「雷電親方、お疲れ様です」


 羽合庵は試合前に投げた白い羽織を持ってキン星山の前に現れた。

 後ろから英樹もやって来る。


 再び雷電の前に現れた羽合庵の目は以前のような荒々しさは残っていなかった。


 (雨降って地固まるとはこの事か)


 海星雷電こと二代目キン星山は苦笑する。


 「すまんな、羽合庵。弟子のお前にみっともないところを見せてしまった」


 「ご謙遜を。雷電親方、貴方でなければ磁気嵐を止めることは出来なかった。他のスモーレスラーではどこか別の場所で新しいスモーデビルを生み出す結果となっていたでしょう」


 (果たして本当にそうだろうか?)


 雷電は磁気嵐との戦いを思い出すと普段とは違った暗い表情になってしまう。

 いつの間にか雷電の背後に回っていた英樹が気合注入とばかりに右腕で背中を叩く。


 バシンッ!!


 背中を叩かれた痛みと驚きのあまり雷電は正気を取り戻した。


 「元気だぜよ、親父。じゃなくて親方か。あれが綿津海部屋が守ってきた秘伝のスモー技、東西南北六十九の殺しの技というものか」


 少し咽ながら雷電は英樹の質問に答える。

 二人の様子を遠巻きに羽合庵は羨ましそうに見ていた。


 「ううむ。そうにはそうなんだが私には生憎、初代様のような力は備わっていないから六十九もある殺しの技も、一つくらいしか使うことができんのだ。全く面目が立たぬとはこの事だ」


 「しかし、磁気嵐を倒したのは紛れもなく貴方自身の力だ。あのまま私が磁気嵐を倒していれば憤怒に全身を支配され、スモーデビルとなっていたことでしょう。綿津海部屋の”心のスモー”しかとこの目に焼き付けさせていただきました」


 羽合庵は深々と頭を下げる。


 羽合庵自身、今までの自分を否定する気は毛頭無い。

 しかし互いの信念をかけて真正面からぶつかり合うキン星山の姿を見て心に響く何かを見つけたことは否定できない。


 (この力を我が物とすれば私は更なるスモーの高みに登ることが出来る)


 若い羽合庵はそれがいずれ自分にとってかけがえのない何かになることに気がつかぬまま、海星雷電というスモーレスラーを認めつつあった。

 一方、雷電は後の孫光太郎同様におだてに乗りやすい性格で自分より才能がある羽合庵に全幅の信頼を寄せられすっかり気を良くしていた。


 試合の後にキン星山たちは磁気嵐の灰を壺の中に集めて秘密の場所に封印した。


 そこがどこかを今はまだ明かすことは出来ない。


 だが羽合庵は海星雷電に出会って始めてスモーレスラーとしての人生を歩み始めたことだけは紛れもない真実である。


 その日を境に羽合庵は一心不乱に稽古に打ち込み、親方や兄弟弟子と共に純粋にスモーレスラーとしての力を高めて行ったという。


 そして数十年後、スモー界を覆う得体の知れぬ暗雲の存在に気がついた時、羽合庵は自身がキン星山の名を継ぐことを決意した。


 (老いた身体、萎えた志で何が出来るというのだ?)


 いくら調整を重ねたところで限界はとうに超えている。老いた羽合庵では何一つ果たせぬまま死んでしまうだろう。

 

 だが運命は彼を見放さなかった。


 師の孫である海星光太郎の中にはしっかりとキン星山の魂が生きていたのだ。


 「光太郎。お前の祖父即ち私の師は私にとって行く道を照らす太陽だった。今もその気持ちに変わりは無い。だから、もう一度だけ聞くぞ。お前に、その命と引き換えに三代目キン星山の名を受け継ぐ気持ちはあるのか?」


 光太郎は目を閉じる。


 あの時、感じていた違和感こそが真実だったのだ。


 テキサス山は迷っている。

 己の立場を、己のスモーを見失っている。

 だからあのように乱暴に振る舞って誰かが自分を止めてくれるのではないか、と必死に訴えているのだ。

 

 だから自分がテキサス山を受け止める。

 スモーとは他者をライバルに囲まれ、戦いながらも一人で歩むもの。

 それを教えられるのは自分しかいない。


 その時、光太郎はかつない胸の高鳴りを感じていた。


 「あるでゴワス。羽合庵師匠のお話を聞いて覚悟が決まったでごわす。おいどんはキン星山になって、あの高慢ちきなテキサス山にきつい張り手の一発をくれてやるでごわす!」


 「強いぞ。テキサス山は?」


 「テキサス山の一人や二人、牛丼のつゆ抜き、めし抜き、肉抜きでごわす!!」


 「……それでは丼しか残らないのではないか?」


 意味不明の問答だったが、二人はこの時互いの何かをわかり始めていた。


 美伊東君はまだ心配そうな顔をしていたが、やがて二人に連れられて綿津海部屋に一緒に帰るころになった。


 その頃、未来の吉牛は…。相変わらずスモー大元帥にしばかれていた。

 まだヘッドロックの状態でひたすら殴られている。


 「キン星山!俺はお前を信じているぜえええ!!」


 「黙れ!何が友情だ!この恩知らずが!」


 我慢しろ、吉野谷牛太郎。後2、3年の辛抱だ!(※多分)


 「そこまで待つのかよ!!」


 続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ