第二話 吉牛の覚悟!!の巻
次回は一月三十日に投稿する予定です。
「俺はスモーデビル軍を裏切るんじゃない。アンタの目を覚まさせてやるだけだ!くだらない過去の確執ですっかり曇っちまった、アンタの目をな!」
吉牛は知っていた。
今までの正義力士とスモーデビルの戦いはスモー界制覇を狙うルシファー山によって仕組まれていたことだということを。
(この戦いは裏切りではない。スモー大元帥、大恩あるアンタへの恩返しなんだ!)
吉牛は勢いそのままにスモー大元帥にぶちかましを当てる。しかし相手はスモー大元帥、ビクともしない。
「吉牛、いや吉野谷牛太郎。お前の必殺技特盛大旋風投げは一体、誰が教えた技だ?言ってみろ!」
吉牛はスモー大元帥のまわしを取るが、全く動く気配はなかった。
悪逆非道の権化、スモー大元帥は吉牛の頭アフロ大銀杏に向かって手を伸ばす。
公式のスモールールでは相手の髪を崩せば即審判に射殺されるが、相手がスモー大元帥では誰も手が出せない。
「吉牛。いいのか?このまま私を敵に回せば、お前はとんでもない恥をかくことになるぞ。お前の力の秘密をバラされたくなければ、今すぐわたしにごめんなさいをして正義力士からスモーデビルに戻るがいい」
スモー大元帥は吉牛のアフロ大銀杏をむんずと掴んだ。
「ああ。覚悟は出来ている。今こそ俺は嘘にまみれた人生に終止符を打つんだ!」
スモー大元帥はアフロを全力で引っ張った。
ずるっ、吉牛の頭の皮が大きくズレる。
いや違う。吉牛はアフロ大銀杏を結っていたのではない。
ファッショナブルなウィッグをつけていたのだ。
「馬鹿な!吉牛の頭がカツラだったなんて!」
両腕を失ったはずだが、百腕山が死んだことにより元通りになったテキサス山が叫んだ。
(吉牛!あんさんはヅラだったんか!)
キン星山は居たたまれない気持ちになっていた。
「若!今のうちに修行に行きましょう!吉野谷関が時間を稼いでいるうちに修行して見事「全勝優勝ドライバー」を完成させなければ、正義力士軍団は敗北してしまいます!」
キン星山の付き人、留学生アレキサンドリア・美伊東が耳打ちする。
だがその間にもスモー大元帥はツルツルになってしまった吉牛の頭を殴り続けた。
吉牛は苦痛に表情を歪める。
やはり地肌に直接パンチを受けると痛いのだ。吉牛を守る”髪”はいなかった。
「吉牛ッ!!」
キン星山はスモー大元帥の猛攻を受ける吉牛の姿を見た。
吉牛の頭部の地肌が真っ赤になっていてかなり痛そうだった。
「行け!さっさと行っちまえ、キン星山!多分俺はスモー大元帥には勝てない!だが俺たちを倒したお前ならこの人に勝てるかもしれねえ!だから早く秘密の修行場に行って新必殺技「全勝優勝ドライバー投げ」を完成させてこい!」
スモー大元帥は吉牛の頭に拳骨を当て、グリグリと回した。
これには堪らず吉牛は悲鳴をあげる。
「痛い痛い痛い痛い!…いや痛くないけど痛いッ!」
さらにスモー大元帥は平手で頭の頭蓋の皿の部分を叩いた。
バシンッ!バシンッ!バシンッ!
スモー大元帥が叩く度に大きな音を出す有り様はまるでシンバルだった。
「どうだ!吉牛よ!スモーデビル軍に戻る気にはなったか!」
スモー大元帥は必死に吉牛を説得する。
実は近年(※一万年以上前)スモーデビル軍団ではスモー大元帥の稽古が厳しすぎて新弟子が逃げてしまうことが多発して問題になっていたのだ。
さらに綿津海によって封印される少し前にデビルスモーナイトの惑星十字と空気極から「今の若手はスパルタ式だけではついて来ない」と文句を言われていたのである。
(何がゆとり教育だ。馬鹿馬鹿しい。逆に学力が低下しただけはないか)
しかし、気の迷いが生じた為か吉牛は自慢のパワーでスモー大元帥の身体ごと投げ飛ばした。
「いいや。今の攻撃でわかったことがあるぜ。今のスモーデビル軍はアンタへの恐怖が強さの原動力になっている。だが、それでは駄目なんだ。信が無ければ、いつか正義力士に勝てなくなくなってしまう!だから、俺は今のスモーデビル軍を見限って真の強さを持ったスモーデビルを復活させる為にあんたに反旗を翻すことに決めた!」
怒りとは別の意味で頭を真っ赤に染めた吉牛が右のつま先で地面を蹴る。
あれこそは全体重を乗せた体当たり、伝家の宝刀!!
「くらえ!スモー大元帥!牛丼特盛大旋風!!」
暴風と化した吉牛を前に、スモー大元帥は四股を踏む。
(一度、挑まれれば真っ向勝負。スモーの奥義、ここに有り)
五体から雷光を疾走らせスモー大元帥も吉牛に突っ込んだ!!
そしてキン星山と美伊東君はかつてキン星山の師匠”羽合庵”と共に秘密の特訓をした等々力渓谷にある不動の滝に辿り着いた。
(※作者は等々力不動尊には行ったことがありません)
美伊東君は早速羽合庵から預かったスモー用の木人をリュックから取り出す。無骨な形をした手足のくっついた木偶人形だった。
しかし、キン星山の必殺技”必勝バスター投げ”を伝授したのはこの木人の助力あってのことである。
美伊東君とキン星山は感慨深く木人の勇士を見守った。
「美伊東君。君とこの木人はんと羽合庵師匠がおって今ここにワイがおるんやな」
鼻水を流し、涙を目に浮かべつつキン星山は言った。
「何ですか、若。今さら水臭いですよ。木人さんも同じことを考えているはずです。ねえ?」
二人は褐色の肌を持つハワイ出身の力士、羽合庵のことを思い出した。
思えば彼との出会いが今のキン星山の始まりだったのだ。忘れもしない。あれは二年前の春の出来事だった…。
その頃、吉牛はスモー大元帥に一方的にシバかれていた。
「このッ!このッ!恩を仇で返すような真似をしやがって!」
(早く帰って来てくれ!キン星山あああッ!!)
次回に続く。