血染めの騎士道。柄法度の道 の巻
今回は外伝じゃないやつなので安心してブラウザバックしてもいいよ!
そして、オリュンポス部屋とキャメロット部屋の戦いが史書に記されることは無かった。
神々はいずこかへと姿を消し、天辺龍は継承者問題に端を発する争いで命を落としたということになっていた。内乱の後に嵐洲浪兎は姿を消し、我上院は病でこの世を去る 。 残った柄法度は聖杯探査の任務を終えた後に姿を暗ます。
真実を知るはずの者は次々と表舞台から退場し、ついにはキャメロット部屋もその名を残すばかりとなってしまった。
舞台は現代に戻る。
かつて嵐洲浪兎と呼ばれた男グレープ・ザ・巨峰と柄法度の名を捨て鰤天部屋の親方となっていた男が戦っていた。
嵐洲浪兎は虚空に手を翳す。かつてその手にあったものを取り戻すために己は全てを捨てたのだ。真紅の五体の隅々にまで流れる血の如き闘気ガイアフォースが激しく燃え上がる。その先には白銀の闘気を纏うかつての実子にして愛弟子である柄法度の姿があった。
「天辺龍はその命を犠牲にして我らに道を示した。ゆるぎなき力こそ正義だとなあッ!」
闘志が沸き立つ。狂気にその身を宿してまで至純の想いを胸に生き永らえてきた。完全なる力を手に入れて神座の頂にまで駈け上り主君の悲願を果たす。
柄法度の血潮に灼熱の意志が宿った。スモーナイトの力の源は友愛にこそある。天辺龍の最後を思えばこそ、それに背くことだけは許さない。それだけは絶対に認めることができない。たとえ相手が嵐洲浪兎であろうとも。柄法度が吠えた。
「違う!」
グレープ・ザ・巨峰かつては嵐洲浪兎と呼ばれた男も負けじと吠えた。
「違わぬ!死者に歴史を作ることは出来ぬ!どんな理想も死んでしまえば絵空事と同じだ!」
あの日、天辺龍との戦いにゼウス山は敗北した。ハデス山は地上侵攻を断念し、スモーゴッドたちは神界に引き返した。至上の大戦果といっても過言ではないだろう。ただしそれらは失われたものの大きさには見合わぬものだった。なぜならばゼウス山に勝利したはずのキャメロット部屋のスモー王天辺龍は帰らぬ人になってしまった。
「私は二度と過たぬ!今度こそ天上の神をも打ち破る絶対無敵の超パワー『ガイアフォース』をこの手に収め、スモーゴッドどもと我々の理想を妨げる者どもを皆殺しにしてやるのだ!」
「そんな偽りの力では何も手に入れることは出来ない。嵐洲浪兎、アンタはヘルメス山に騙されているだけだ」
天辺龍の死後、祖国に戻ったキャメロット部屋のスモーナイトたちの前にスモーゴッドの一柱ヘルメス山が現れた。かつての強敵の再来に誰しもが戸惑いを隠すことは出来なかった。しかし、ヘルメス山はスモーナイトたちの思惑とは全く違った目的で彼らの前に現れたのだ。
「私の目的はただ一つです。スモー界の変革、あなた方と戦うことではありません」
その時のヘルメス山の真摯な眼差しにキャメロット部屋の誰もが心を動かさざるを得なかった。嵐洲浪兎と我上院の二人とて同様である。
「そう遠くない未来にスモーゴッドは滅亡の危機を迎えることになるでしょう。我々はバランスを保つことが出来なくなるほど強くなり過ぎてしまった。今まではスモーの力をぶつけ合うことで何とか力を制御してきましたがこうなってしまってはいずれ最後の一人になるまで世界もろとも破壊し尽くすまで戦うことになるでしょうねえ。ニャガニャガ」
それが力を持って生まれた者たちの宿命だ、と言わんばかりに自虐的な笑みを浮かべるヘルメス山の横顔には悲壮感が漂っていた。そんなヘルメス山の襟首を嵐洲浪兎は強引に掴んだ。首を根元からへし折らんばかりの力加減だった。そして、青灰色の隻眼で睨みつける。スモーゴッドたちの勝手な言い分に対していくらかの怒りはあったが、この時の嵐洲浪兎は狂気に支配されていなかった。
「ヘルメス山。仮に貴公の言い分が正しいとしてそれが一体何だというのだ。嵐は過ぎ去った。全ては不意の災厄ゆえ恨みの一切合切を水に流せとでもいうのか?」
そう言って嵐洲浪兎はヘルメス山を拘束から解放して、思い切り突き放した。そして目を背ける。今嵐洲浪兎が思い出すのは過去の出来事だけだった。嵐洲浪兎が終生の忠義を誓った天辺龍はもうこの世にはいないのだ。どんな道理を説かれたところで何をどう納得しろというのだ。嵐洲浪兎は一人俯き、悲哀の涙を流した。
「ええ。仰る通りですとも。嵐洲浪兎、あなたは正しい。私とて手ぶらでここまでやって来たわけではありません。これからの貴方たちにとって必要なものを持ってきたのですから。まずはこれを御覧なさい」
何かの破片だった。壺、あるいは盃の一部に見えなくもない代物だった。だが、それを見た瞬間に嵐洲浪兎と我上院は凄まじい形相で何かの破片に向かって駆け寄る。なぜならばその黒ずんだ破片こそはキャメロット部屋の誕生にも関わる聖遺物であり、スモーナイトならば誰もが見過ごすわけにはいかない代物だったからだ。
「これは聖杯。聖なる優勝トロフィーの一部ではないか。ヘルメス山、どうして貴公がこれを持っているのだ?」
それは我上院の記憶に同じものであった。生前、天辺龍はイングランドの統一には必要不可欠なものとして世界各地にスモーナイトたちを送り出していたのである。だが、我上院を含めたキャメロット部屋の上位のスモーナイトたちは主君から「スモーの平和を脅かす諸悪の根源」とも伝えられていたのだ。
嵐洲浪兎はヘルメス山に気づかれないように柄法度を見た。実はこの柄法度こそは聖杯の生き証人だった。彼は嵐洲浪兎と共に聖杯探査の度に出て見事に聖杯と思しきものを発見するに至る。結果として柄法度は未知なる力をも宿していたのだ。天辺龍はこれを異端の力として封印することを命じた。この事件は親友の我上院にも教えていない。ましてやあからさまに怪しいヘルメス山などに教えられるものか。父の視線から大腿の事情を察した柄法度はヘルメス山に悟られないようにごく自然にふるまい彼との距離を置いた。
「これは我々オリュンポス部屋ではガイアの聖杯と呼んでいるものですよ。我々の母とされるスモーゴッド、ガイア山の血がこれの本体に注がれたそうです。この杯に注がれた力水を飲んだ者は永遠の命と最強のパワーを得る。どうですか?スモーナイトのみなさん、素晴らしい話でしょう」
ずいと嵐洲浪兎が前に出た。そして細剣で薙ぐようにして、左手でヘルメス山の妖言を制する。その怜悧にして優雅な仕草にキャメロット部屋の一同は黙り込んでしまうほどであった。
「戯言はそこまでにしてもらおうか、ヘルメス山。スモーレスラーの強さとは稽古と鍛錬で培われるもの。このキャメロット部屋において労せずして力を得ようとする不心得者など居らぬのだ」
嵐洲浪兎に感化された他のスモーナイトたちも声を上げる。
「よく言った、嵐洲浪兎。それでこそ我が友。ヘルメス山、貴公もスモーゴッドの使者であるのならば妖言を用いて我々を惑わすような真似は止めてもらおうか!」
流石は我が宿敵。再起不能に等しいほどの傷を負いながらも、彼の力強い言葉の何と頼もしいことか。されど相手は敵方の本拠地に単騎で乗り込むほどの胆力を持った希代の曲者、ヘルメス山。我上院と嵐洲浪兎の突っぱねを待っていました、と言わんばかりに受け止める。
「ええ、そうですとも。それが当然の事の成り行きというものでしょう。ですが、先ほどの我らの末路に関するお話があなた方にも当てはまるということならばどうでしょうか?」
ヘルメス山の言うスモーゴッドの末路とは、強過ぎるが故にいずれ自滅の道を辿るというもの。我上院は無言で、そのようなことがあってたまるかとまるで相手にしない。だがもう一方の嵐洲浪兎は押し黙ったままになってしまった。これもまた予想を覆すことの無い反応と臆面なくほくそ笑むヘルメス山だった。否。賛同と反対という形で答えを二つに分けた分だけキャメロット部屋のスモーナイトたちは優秀だった。
「ヘルメス山よ、聖杯の力があれば未来は変わるというのか?」
それは苦渋の返答だった。今の嵐洲浪兎は、傍らで愕然とする我上院の姿を正視することさえ出来ないでいたのだ。志を同じくする者の裏切りにも聞こえよう。だが、あの決戦の後に死んでしまった天辺龍の姿を想えばそれが偽りの希望だとわかっていても縋りたくなるのが人情というものだ。
「その通りです、嵐洲浪兎さん。もしも我々に匹敵する強者が現れれば、我々とて同族同士で殺し合うこともなくなる。この道理はあなた方も同じはず。そして私は我々と対等な存在がゼウス山さんを退けたスモーナイトのみなさんならば言うことはない、というわけなのですよ」
「ヘルメス山。やはり私たちとあなた方では根本的に考え方が合わないようだ。もしも貴方の言い分をそのまま通せば戦いに敗れた者は存在を否定され、勝者の意見が一方的に通るだけだ。他者の努力を勝負の結果だけで評価するようなやり方はキャメロット部屋のスモーナイトには受け入れられない」
柄法度は嵐洲浪兎よりも前に出た。力士の十全を備えた偉大なるスモーナイトであろうと彼は短期間で多くのものを失った。狡猾なヘルメス山ならば嵐洲浪兎の心の隙を突いて言いくるめてしまうかもしれない。 今の柄法度の父親には自分が必要なのだ。柄法度にはそういった決意があった。
「いけませんね、柄法度さん。私の言うところの奇跡の体現者である貴方がそのようなことを言われてはまるで説得力がありませんよ?」
柄法度はヘルメス山の挑発的な発言に絶句し、歯噛みする。聖杯探査の旅の後に、柄法度は尋常ならざる力を授かった。これは事実だった。一介の新弟子にすぎない柄法度が我上院や嵐洲浪兎を相手にぶつかり稽古において互角の立ち回りを見せたのだ。同期の仲間や先輩たちは流石は嵐洲浪兎の息子と褒めてくれたが、自分自身が一番納得の行かない結果であったことを今でも覚えている。
柄法度は不意の上達を喜べるほど気楽な性格ではなく、むしろスモーそのものを忌避するような傾向さえあった。しかし、思い悩む柄法度を支えてくれたのは天辺龍の一言だったのだ。
「柄法度、試合で負けた相手にも同情してやれるのはあんさんの良いところじゃ。どれほど強くなってもその気持ちだけは忘れんようにな」
何とも捻りの無い、ごくありふれた言葉だが天辺龍の言葉が柄法度をスモーの世界に引き止めたことは言うまでも無い。そして、その心はまだここで生きている。
「もう一度言おう、ヘルメス山。この悪しき力に惑わされ屈するようなスモーレスラーは、このキャメロット部屋にはいない」
ヘルメス山にとっては柄法度の反応も想定内だった。最初からキャメロット部屋の力士を全て仲間に引き入れるとは思っていない。聖杯という裏技で急成長した柄法度と他の力士たちの間に生まれた蟠りを突くことさえ出来れば良かったのだ。それを証拠に激昂する柄法度の様子を見て、周囲の力士たちの対応にも温度差が生じている。鋼に例えられるような結束力を持った者たちでも羨望や嫉妬といった魂に根ざした原始的な感情を抑えることなど出来はしない。まして彼らはスモーレスラーという生き物なのだから。ヘルメス山は心の奥底からニャガニャガと笑っていた。
「おやおや。それは強者の傲慢ですか?」
それは痛烈な批判であり、皮肉だった。柄法度は稽古で手を抜いたことなど生涯一度としてない。故に彼は聖杯の力を手にしてから何度か手放そうと努力してみたものの結局はどうすることも出来なかった。無論、キャメロット部屋の力士たちは彼が力を手放すことを恐れたと非難することは無かったが柄法度自身が一番そのことを苦にしていたのだ。スモーナイト嵐洲浪兎の息子であるという以外何一つ価値の無い自分。平生から抱いてきた劣等感が柄法度を蝕んでいた。故に怒りを抑えることが出来なかったのである。
「違う!」
ヘルメス山は心の中で哄笑する。聖杯に選ばれたとはいえ所詮は子供か、と。この世は理解、不理解だけで説明することができるほど容易なものではない。聖杯とは相応の実力が無ければ存在を見出すことすら出来ない代物なのだ。柄法度の父親への劣等感。主君を失ったことに対する不安。今回のヘルメス山の訪問は、これらを全て見通した上での策略だったのだ。そして、ヘルメス山はお相撲さんがそんなに爪を伸ばしていてもいいの?というくらい爪を伸ばしてある人差し指を柄法度に突きつける。そして、目深にかぶったつば付きの帽子から困惑する柄法度の心臓に射抜くような鋭い視線を向けた。
「この際ですからハッキリと言わせてもらいますよ、柄法度さん。貴方は自分の力を恐れているだけだ。制御のきかない未知の力が同胞を傷つけてしまうことをね。しかし、それはスモーに関わる人間の取るべき態度なのかどうかということを私は今ここで問いかけたいのですよ。貴方がもしもガイアの聖杯から授かった力を使いこなし我々との決戦の場で思う存分にふるうことが出来たならば違った結果になっていたのではないですか?」
ヘルメス山の暴言に忍耐の限界を迎えた嵐洲浪兎が立ち上がった。嵐洲浪兎とて柄法度を先の戦いにおいて戦陣に加えることを考えなかったわけではない。しかし、柄法度は力量、技量ともに一流のスモーレスラーの基準に達していたが精神は未熟なものだった。スモーでは力や技で勝っていても心の有り様で勝敗が覆されることはままある。そして何よりも柄法度は将来キャメロット部屋を背負って立つ逸材であるがゆえに無事生還する保障の無い戦いに出すべきではない、と言ったのは他ならぬ天辺龍だったのだ。
「ヘルメス山よ、我が門弟を侮辱するのは止めてもらおうか」
嵐洲浪兎は隻眼でヘルメス山を睨みつける。灼熱の炎の如き眼光は、それ以上の暴言は許さぬと告げていた。しかし、ヘルメス山にとってはそれも想定内の出来事であり、彼は全身をくねらせ道化じみた所作で嵐洲浪兎の非難に心底困ったような姿を見せる。
「それではお尋ねしますよ、嵐洲浪兎。一体この中のどなたがスモーの未来を左右する選択を、覚悟を見せてくれるというのですか?」
「それは……、この私だ」
「嵐洲浪兎!!」
嵐洲浪兎の言葉を聞いた我上院が思わず叫んだ。
「私が貴殿の言う聖杯の力水を飲む。そしてスモーの新時代を切り拓く。それ以外に道は無い」
だが嵐洲浪兎は我上院の紛糾に応じることもなくヘルメス山に粛々と己の覚悟を告げる。信じられない光景を目の当たりにした柄法度は何も言うことが出来なかった。
「流石は嵐洲浪兎。それでこそスモーナイトの鑑。貴方の選択は後世に称えられることになるでしょう!」
嵐洲浪兎はヘルメス山に手を取られ、キャメロット部屋から姿を消した。その後のキャメロット部屋の行く末は散々なものだった。嵐洲浪兎の決断に失望したスモーナイトたちは次々とキャメロット部屋から姿を消してしまったのだ。やがて我上院とその高弟たち、そして柄法度だけになってしまった時にキャメロット部屋は無くなることになってしまった。それが自然の成り行きというものだろう。
そして、それから間もなく柄法度も英国のスモー界から姿を消すことになる。それは初代我上院が九十六歳の誕生日を迎えるころの出来事だった。
ある時、我上院の屋敷に若い姿のままの柄法度が我上院の前に姿を現した。我上院は現役を退いてから柄法度を避けるようになっていた。天辺龍の死と嵐洲浪兎の失踪は自分にこそ責任があると感じていたからだった。
さらに時が流れてベッドから思うように起き上がれなくなった。身も心も老いてしまった我上院にとって天辺龍が生存していた頃の記憶だけが生きる支えとなっていた。ゆえに旧友の来訪に我上院は顔を綻ばせる(マスクを被ったままだが)。この時の我上院の顔を柄法度は忘れない。柄法度は頭を深々と下げて、我上院に今生の別れを告げる。
「我上院。俺はしばらくスモー界から姿を消そうと思う。聖杯のせいで俺はもう普通の身体ではばくなっちまったみたいだからな」
「それは、とても寂しくなるな。ところであれから貴公の父上、嵐洲浪兎には会ったのか?」
我上院の思いがけぬ発言に、一瞬の間が生じる。しかし、柄法度は知っていることを全て答えることにした。我上院に残された時間は少ない。
「一度だけ、手紙をもらった。私の事は全て忘れろ、だとさ。あの人らしい。おそらく父は俺やスモーゴッドたちと同じような身体になってしまったんだと思う」
天辺龍の死から数十年、我上院の兄弟たちは既に鬼籍に入っていた。苦楽を共にした兄弟弟子たちは普通に年をとっていったが、柄法度は変わらないままだった。優越感よりも孤独に苛まれることが多かった。今では何故自分だけがこうなってしまったのかと己の運命を恨むこともある。ゆえに柄法度は孤独となることを選んだのだ。嵐洲浪兎が英国に戻って来なくなってしまったのも同じような理由だろう。
「そうか。ならば柄法度よ、この私から一つだけ忠告させてもらう。もしも次に嵐洲浪兎に出会うことがあれば気をつけろ」
我上院の口から出来てきた言葉は、意図の読めない質問だった。仲間を、その中でも同格として認めさらに尊敬さえしている嵐洲浪兎を何故我上院が疑うようにしろと言うのか。友愛と礼節を重んじるスモーナイトの鑑のような男、我上院の言葉とは思えなかった。
「アンタらしくもねえな、柄法度。言いたいことがあれば、スモーで語るのが俺たちじゃあないのか?」
少し茶化すように柄法度は言ってのける。ここでいつものように怒られるようなことになれば良かったのだが、柄法度の態度は変わらぬままだ。
「嵐洲浪兎はすでにスモーの魔物に心を奪われてしまったのかもしれぬ。スモーナイトならば誰よりも強く、そして誰よりもGOD AND DEATHでありたいという欲望がある。ゼウス山やヘルメス山のような強大なパワーを手に入れることに成功すれば、嵐洲浪兎が変わってしまうことも十分に考えられることなのだ。嵐洲浪兎は強くなりすぎた」
「ハッ。だったら尚更だ。我上院。父上が力に魅せられて間違った道に行こうとしているならば、俺はスモーで元に戻してやらなければならない。それがキャメロット部屋魂ってもんさ」
我上院は、どこか気楽そうに語る柄法度の姿にかつてない気迫と覚悟を覚えた。
ならば、もう自分の役割は無い。
たとえ道を親友が見失ったとしても、元の場所に連れ戻してくれる頼もしい男がいる。
我上院の役割は終わったのだ。
「柄法度。それは決して楽な道ではないぞ。お前自身が血を流し、その血で染まった道を歩くことになる。ゆめゆめ忘れるな、柄法度。我らは、我らの流した血の道を行く旅人なのだ」
柄法度は我上院の手を握り、そして彼の部屋から出て行った。我上院は柄法度を引き留めることはなかった。
「天辺龍。今、お前のもとに行く。今度は私のチャンコも食べてくれ」
そう呟くと鋼鉄のマスクの下の目元が涙で曇り、その眼光は永遠に失われる。
こうして英国最大のスモーナイト、初代我上院は天寿を全うするのであった。
あれからどれから時が経過したか。
現在でも色褪せぬ。栄光の日々。忘れることはない。
魂に刻まれたキャメロット部屋魂が、朽ち行く柄法度に力を与えていた。
もう柄法度には嵐洲浪兎と戦うだけの力は残っていなかったのだ。だが、彼は決して逃げない。その背中には友たちの想いが、彼を見守る春九砲丸の姿があったからだ。彼は体内に残る最後のガイアフォースを解放した。
「俺はもうすぐ死ぬ。だがな、決して俺の姿から目を逸らすな、ハル。これがお前の道へと繋がる俺の血の道だ」
青がかった銀の光が最後の輝きを放った。柄法度の顔色は死人のそれに近い。その覚悟を受け止めて、嵐洲浪兎もまた異形の力を解き放つ。全ての根源を返す真紅の光、ガイアフォースアルファだった。
「その意気や良し。流石は我が最後の弟子と言っておこう」
この場においては生きて土俵を出る者はただ一人。
今、一つの運命が終わろうとしていた。
次回は一部完結します。初夏から二部が始まる予定なのでブクマ外しを忘れずに!