さらば愛しき友たちよ(前編)の巻
センチメンタルグラフィティ(SS版)!!!
今年で20周年ッッ!!!
だからどうしたというわけじゃないけどな!!!
戦いの真っ最中だというのに、頬が緩む。仲間の健在を知ったというだけで心強くなれるものなのか。それは孤高の強さを信条としていた嵐洲浪兎にとっては考えれない出来事だった。
「父上!」
天辺龍に背負われながら、嵐洲浪兎の息子である柄法度の姿もあった。
その後ろには激闘を生き延びた我上院たちの姿があった。全員が傷だらけになりながらも嵐洲浪兎のもとに現れたのだ。
「嵐洲浪兎。貴公を倒すのは、この我上院の仕事だ。スモーゴッドごときに負けてくれるなよ?」
口ばかりは達者な仮面のスモーナイト我上院の姿も激戦を経てボロボロになっていた。
「ならば天辺龍、我上院よ。よく見ておけ。これが貴公らのさらにその先を行くキャメロット部屋最強のスモーナイトの戦いだ!」
嵐洲浪兎の闘志が同胞たちの期待を一身に受けて膨れ上がる。
その変化に触発されたヘパイストス山もまた必殺の軍神の矛を繰り出した。
体格差で嵐洲浪兎に劣るヘルメス山が放つ低姿勢からの諸手突き。理屈の上では悪手だが、スモーの粋を極めたヘルメス山ならば勝手が違ってくるというものだ。それを証拠にかつての稽古でこれに苦戦させられたビーナス山は舌打ちをする。
まさか雑魚力士相手に必殺の一撃を使うつもりか。
この状況はビーナス山にとって屈辱以外の何ものでも無かった。
ヘパイストス山は己の勝利を確信した。
殺った。
そもそも攻防一体の奥義である「軍神の矛」には弱点など存在しない。なぜならば「軍神の矛」の正体とは地上最強と謳われるヘパイストス山の奥義「無敵の盾」の防御力をそのまま攻撃に使う技だった。決して思い上がりではない。今まで数多くの強敵に敗北を味合わせてきた必勝の型。ゆえにヘパイストス山の勝利への確信は経験と実績に裏打ちされたものだった。
しかし。
されど。
これはスモーの戦いであることをヘパイストス山は思い知らされることになる。スモーの戦いは単なる力比べではない。心と技と肉体、それら全てを如何なく駆使した力の比べ合いなのだ。
次の瞬間。ヘパイストス山のもろ手突っ張りを受けた嵐洲浪兎の美しい顔の左半分が吹き飛んだ。
それ見たことか、とヘルメス山はほくそ笑む。
嵐洲浪兎の息子である柄法度は両手で目を覆ってしまった。
だが、この事態の異様さに気がついた者たちは驚愕の様相を隠すことは出来なかった。
何故?
何故、嵐洲浪兎は倒れていないのか!?
事が定石通りに運んでいれば嵐洲浪兎はヘルメス山の諸手突きを受けて土俵の外に吹き飛ばされているはずなのである。しかし、現実は違った。嵐洲浪兎は倒れず、ヘパイストス山の突進を押さえている。
「ヘパイストス山ッ!!」
ゼウス山が叫んだ。この異常な事態に否ヘパイストス山の命に関わるような事故にゼウス山は気がついてしまったのだ。そして、ゼウス山の絶叫によって他のスモーゴッドたちも遅れてヘパイストス山の窮地に気がついた。
「戦いの前に言ったはずだぞ、ヘパイストス山。私を殺すな、と」
息も絶え絶えに。しかし敵の無策を責めるように嵐洲浪兎は言ってのけた。
ねじ曲がったヘパイストス山の右腕を嵐洲浪兎の腕がしっかりと掴んでいた。
そして嵐洲浪兎のもう片方の腕はヘパイストス山の顎の下を突き上げるような形で押さえ込んでいる。一瞬で意識を失ってしまったヘパイストス山は一歩も動くことは出来ない。皮肉にもヘルメス山の軍神の矛を破ったのは彼自身の力だったのだ。
「馬鹿な。ただの閂でヘパイストス山を負かしたというのか」
冷静沈着なアレス山が思いがけずにも口を開いた。
嵐洲浪兎は激突のタイミングをすらしてただヘルメス山の肉体を支えた、それだけだというのに。
「くそったれめ。これが下界の、下等どものスモーなのかよ。反則じゃねえか!」
無頼を気取るビーナス山が憤怒の激情を顕わにした。ビーナス山は口の端から血を流すほどに歯ぎしりをしている。悔しい。ライバルの敗北よりもまずスモーそのものを汚されたような気がした。
「甘いな、スモーゴッドのビーナス山。私とてこれがスモーの公式試合ならば使うつもりは無かったのだ。故にこうなることを知っていたから私はヘルメス山に言ったのだ。己の命が惜しくば私を殺すな、とな」
これが我らスモーナイトの流儀だ、と言わんばかりに敗者の同胞に凄惨な笑みを向ける嵐洲浪兎。その瞳の輝きは氷のように冷たく、独りそびえ立つ山のように勇敢なものであった。
「このド下等がッ!ぶっ殺すッ!」
ビーナス山はエルクっぽい角を逆立てて一歩前に踏み出した。
これは断じて神事たるスモーなどではない。野蛮な獣が神聖なるスモーを汚したのだ。
「落ち着け。ビーナス山」
だが、怒りに我を忘れて嵐洲浪兎に襲いかかろうとするビーナス山の前にアレス山が立ちはだかる。アレス山は外見上、冷静さを保っていたが手の皮が破れるほどに自らの拳を堅く握りしめていた。アレス山の内心は穏やかではない。受け入れがたい盟友の敗北という事実。そして自らの運命を実力で勝ち取った勇者への惜しみない称賛。これらがごちゃ混ぜになって渦巻いている。今こうして地面に落ちる血の一滴がアレス山の怒りと悲しみであり、戸惑いでもあったのだ。
「俺は認めねえぞ!こんなのはスモーじゃねえ!真っ向からの立ち合いを避けて先手を取った相手の動きを封じ込めるなんざ反則じゃねえか!」
「だが、弱小の下等には必要な過程だったのだ。貴様ほどの実力者ならばわかるな、ビーナス山。これは起こるべくして起こってしまった結果なのだ」
ハデス山はもっとも言い難いことを言ってのけた。さらに本心を言えば痛恨の屈辱どころ話ではない。万死に値する行為だった。だが、己が嵐洲浪兎の立場であればどうする。決して負けられない戦を挑まれ、満身創痍の身の上で天地の差ほど離れた実力の持ち主を相手にして勝利する為にはそれしかないではないか。
もはやハデス山の口内には甘いピーチネクターの記憶は残っておらず己の弟子であるヘパイストス山の敗北という苦々しい記憶が残るばかりであった。
流石のビーナス山もハデス山の言葉を前にしては引き下がらざるを得ない。理不尽すぎる現実を突きつけられて、何も出来ない自分の不甲斐無さを心底思い知らされたのである。ビーナス山は舌打ちをした。
「ならば俺の出番だろう」
ゼウス山が嵐洲浪兎の前に立った。
その顔には微塵の迷いさえ窺うことが出来ない。この時、ゼウス山の本気の殺意をその場の誰もが思い知ることになる。
「よく聞け、嵐洲浪兎。俺は貴様を下等などと見下すことはない。己の功績を誇れ、スモーナイトの先鋒よ。お前は実力で勝利をもぎ取り、スモーゴッドを本気にさせたのだ。特等の褒美だ。今からこのゼウス山が名誉ある死を貴様に与えてやろうではないか」
そして、神威の顕現たる雷が再度ゼウス山の身を纏う。
この時嵐洲浪兎は己の死を予感した。
だが、何も恐れることは無い。我々には天辺龍がいるのだ。彼ならば嵐洲浪兎の死を乗り越えていつか必ずスモーゴッドを打倒する。これは泡沫のごとき期待ではない。友情パワーで結ばれた者同士のみが知り得る確信なのだ。
嵐洲浪兎は右半分を失った顔面で笑って見せる。
だが。
「ガーッハッハッハッ!笑えるのう!スモーゴッドの大将は、そんなけが人を相手にスモーをとるつもりか!」
天辺龍が嵐洲浪兎を押しのけて意気揚々とゼウス山の前に現れた。
「天辺龍。貴様、俺の奥義「雷帝の裁き」を受けて生きていたのかっ!!」
殺したはずの相手だ。
先の戦いで天辺龍はゼウス山の最強奥義「雷帝の裁き 最終章 断罪の刃」を受けたのだ。
スモーゴッドでさえあれを食らっては生きている保証は無い。
故に「雷帝の裁き」は師・ハデス山からは禁じ手とされていた技でもあったのだ。
「その通り。友情パワーがある限りはワイは不滅なんじゃ。そしてワイは友の危機には必ず駆けつける。何と言ってもワイはキャメロット部屋のスモー王なんじゃなからな。嵐洲浪兎、お前にばかりいい格好はさせんぞ!?」
天辺龍のいつも通りの憎まれ口を聞いて嵐洲浪兎は吹いてしまう。
「天辺龍。お前という男はおかしな男だな」
天辺龍はフィジカル、メンタルの両方の面で嵐洲浪兎に劣る。
だが窮地に追い込まれた時のこの頼もしさはどうだ。
嵐洲浪兎や他のスモーナイトたちが束になっても敵いそうにない強敵ゼウス山でもこの男なら勝てるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまいそうな不思議な魅力を持った男だった。
未知の実力を秘めた奇跡のスモーレスラーとしか表現しようのない男だった。
「後はワイにまかせておけい。ゼウス山もハデス山もまとめて山の向こうに追い返してやるわい」
オリュンポス部屋の親方にしておそらくは敵方の最強の実力者、ハデス山。
まだ誰も戦っていないがゼウス山に匹敵あるいはそれ以上の実力者であることには違いない。
天辺龍が嵐洲浪兎の手をしっかりと握りしめる。すると不思議な安心感が嵐洲浪兎を包んだ。
「天辺龍、後は任せたぞ。お前が最後の希望だ。我が生涯唯一の主君にして、我が友よ」
「任せておけ。この戦いが終わったら今度こそワイのちゃんこを食ってもらうからな」
「ああ。あの魚とポテト揚げ物か。悪いが私はあまり好きではないのだ」
嵐洲浪兎は心の底から安心して目を閉じる。
天辺龍は友の変わらぬ姿に安堵し、苦笑する。そして嵐洲浪兎の身柄を我上院に預けるとゼウス山の前に歩みを進めた。
「ゼウス山よ、ワイは今度こそ貴様には負けんのじゃ。この勝負が終わったらワイらのちゃんこ、イングランド名物フィッシュアンドチップスを嫌というほど味わってもらうぞ」
そう言ってから豪快に笑う天辺龍。
覚悟も新たに意気軒昂な天辺龍とは対照的にゼウス山は困惑の極みにあった。
あの万物必滅の滅殺奥義「雷帝の裁き」を受けて、この男はなぜ生きていられるのだ。かつてゼウス山はオリュンポス部屋に反逆したスモーゴッドの悉くをかの奥義で皆殺しにした。
スモーゴッドの世界も一枚岩というわけにはいかない。ハデス山の意向に従わぬものであれば例え相手が同族であったとしても成敗しなければならないのだ。
はぐれスモーゴッドと呼ばれる者たちの中にはゼウス山に匹敵する実力を持ったスモーゴッドたちも存在した。しかし彼らを処刑した奥義こそが他ならぬ「雷帝の裁き」だったのだ。
見た目からして嵐洲浪兎よりも遥かに劣る天辺龍なるスモーレスラーに、己の最大奥義である「雷帝の裁き」を防ぐことは可能か。
ゼウス山は起き上がって来ないヘパイストス山の無残な姿を見る。普段のゼウス山ならば自業自得と切って捨てたのだろう。
敗北者であるヘパイストス山に自刃を迫っていただろう。
だがヘパイストス山の無残な姿を見ると何故かそう思うことが出来なかった。
ゼウス山の心の中では同胞を窮地に追い込んだ敵に対する激しい怒りが渦巻くばかりだったのだ。
悲しいかなスモーゴッドであるゼウス山にはこの感情の根底にあるものが友情であることがわからないのだ。
「ならば俺は貴様が起き上がって来る度に倒し続ける。その命の灯が二度と燃えぬように何度でも叩き潰すのみよ」
ゼウス山の額と肩、背中から角が生えた。角の数に比例して雷がパワーアップするのだ。
そして、これがゼウス山の最終戦闘形態でもある。さらにゼウス山は体内に溜め込んだ電気を角から放出した。目を覆うばかりの雷光が黄金の輝きとなってゼウス山の肉体を彩る。この姿は他のスモーゴッドたちでさえ滅多に見ることがないものだった。
「ゼウス山、敗れたり。あんさんの力は一人っきりの力。だがワイの力は一人のキャメロット部屋のスモーナイトたちみんなの力なんじゃーッ!」
天辺龍は右足を天高く掲げ、そのまま大地を思い切り踏みしめた。王の勇姿を見守る我上院の眼光に、柄法度の瞳に勝利への希望の光が宿った。
「あれは天辺龍の必勝の型、聖廻だっ!」
そして今度は左足で豪快に踏みしめた。天辺龍の身につけるまわしが黄金の光を放つ。ゆるぎない勝利への確信を予感した我上院は叫ぶ。
「行け、天辺龍。我らスモーナイトの底力を驕れる神々に見せつけてやるのだ!」
「だっはっはっは!キュウリのサンドイッチのテンコ盛りは勘弁でごわすよ!」
背後で己の戦う姿を見守る勇者たちに余裕の笑顔を見せる。
後は任せたぞ、キャメロット部屋のスモーナイトたちよ。
この命がここで失われることになっても悔いは無い。ワイにはお前らがいる。
ここでこの命の全てを燃やし尽くす。
かくして最強のスモーナイト天辺龍と最強のスモーゴッドゼウス山の戦いが始まった。
センチメンタルグラフィティ2はな、前作の主人公が前作のエンディング手前で死亡したというシチュから始まるんだぜ!!!すげえだろ!!!