忌まわしき過去!戦慄のスモー大戦の真実!の巻
今回は少し長いです。
「なぜならば私が貴方から教わった真のスモーとはスモーレスラーのあるべき姿とはこんなものではないからだ!」
柄法度はグレープ・ザ・巨峰の手首を取った。グレープ・ザ・巨峰はすぐさまそれを外そうとするが完全な判断ミスだった。手首のホールドはフェイントであり、グレープ・ザ・巨峰は拘束からすぐに開放される。そしてK至近距離から放たれる掌底アッパーがグレープ・ザ・巨峰に襲いかかる。
小癪な。グレープ・ザ・巨峰は反撃の機会を与えられることなく鉄砲の連撃に身を晒すことになった。それはただの張り手ではない。気を緩めれば意識を失ってもおかしくはない力の激流。グレープ・ザ・巨峰は己の歯に舌を乗せる。まさか柄法度相手にこれを使うことになるとは、と自虐を含んだ笑みを浮かべた。
鉄砲とは決まり手に非ず。あくまで勝利への布石の一つにすぎない。
かつての師の教えが柄法度の心に突き刺さる。
生涯の師を張り手で撃つことがこれほどまでに苦しい事とは。
柄法度は涙を堪えて鉄砲に専念する。鉄壁のガードに阻まれながらも体勢が崩れるまで鉄砲を止めることはない。しかし相手は常勝不敗のスモーナイト嵐洲浪兎、この状況から敗北することも十分に考えられる。 皮膚を切り裂き、骨を砕くことになったとしても彼の盤石の体勢が崩れるまで続けるしかなかった。
頬から胸、身体の左側に向かって集中的に鉄砲が当たる。
ぐふっ。
グレープ・ザ・巨峰が咳込んだ直後に地面にぶちまけられる吐血。
これぞ千載一遇の好機。グレープ・ザ・巨峰の右腕がわずかに下がった。
「!!」
これは罠だ。柄法度の勘が警告する。だが、ここで進むも退くも同じ事だ。柄法度はあえて踏み込まずに張り手を放った。一連の攻防に対して無防備な姿を晒すグレープ・ザ・巨峰。結果グレープ・ザ・巨峰の貌は柄法度の張り手によって爆ぜ飛ばされ勝負はついたかのようい見えた。
「そんな気の抜けた鉄砲で私を殺すつもりか、柄法度。やはりお前は不肖の息子だ」
やはり罠だったか。柄法度は貉の穴に潜んでいたのは毒蛇だったのだ。毒蛇は鎌首をもたげてゆっくりと狩人の喉元まで迫る。相手を追撃した時に手首を捕られたのだ。
柄法度は苦笑する。数千万年前、オリュンポス部屋の十二柱のスモーゴッドたちと戦った時も嵐洲浪兎はスモーゴッドの一人である奈落山(四股名の意味が破綻していますがお許しください)の右手を折ったのだ。
自らの顔、左半分と引き換えに。
だから今回も折るだろう。相手を掴んだらとりあえず折れ、とは嵐洲浪兎の教えである。
ゴキリッ。
自分の腕はかなり鍛えていたつもりだが案外、簡単に折れるものだな。嵐洲浪兎は滅多にスモーの関節技である閂を使うことはない。もしも相手の力量を見誤って使ってしまえば間違いなく殺してしまうからだ。
相手の小技につき合う必要はない。
柄法度は下手から攻勢に転じる。砕かれた腕の痛みをものともせずに世界を支える巨人アトラスのように柄法度は下手投げを狙った。
「親父ッ!」
柄法度の勇姿を見た春九砲丸は思わず叫ぶ。
新弟子のころから耳にタコができるほど教えられた。
一度、仕掛けたら死んでも技を決めろ。
腕の折れた部分から骨が皮膚を破り、血が噴き出ている。柄法度は自らの右腕を犠牲にして下手投げを決めたのだ。だがグレープ・ザ・巨峰の肉体は叩きつけられて転がされることになってもすぐに復帰した。彼の纏う赤い闘気が小手投げの衝撃を緩和しているのだ。
「まさかガイアフォースを受け身に使わされるとはな。腑抜けのくせにやりおるわ」
自らの流した血を払い、不敵に笑うグレープ・ザ・巨峰。
「ぬん!」
柄法度は外された手首を元の位置に戻した。柄法度もガイアフォースを体内に巡らせて折れた腕の骨に応急処置を施す。腕に力が戻ることはないが敵の身体を抑え込むことが出来れば問題はない。
「老いたな、嵐洲浪兎。なぜ追撃をしてこない。攻撃は最大の防御と私に教えたのは果たして誰だったか覚えていないわけではあるまい」
その刹那。音も無く、極限まで鍛え上げられた重厚な肉体がぶつかり合った。真紅と白銀。それらが互いに譲ることは決して有り得ない。
「黙れ、柄法度。お前や我上院があの時逃げ出さなければ今頃我らキャメロット部屋が世界のスモーの支配者となっていたかもしれないというのに。臆病者はさっさと死ね!」
真紅の闘気が煌々と燃え盛る。その輝きは赤く妖しく激しく、何よりも闇の翳りを宿していた。
だが柄法度は知っている。この男がどれほどスモーナイトの誇りを失い堕ちようとも、かつての輝きに満ちた嵐洲浪兎の姿を忘れることなど出来ない。負けず劣らず白銀の光が輝きの激しさを増した。
「それこそが間違いというものだ、嵐洲浪兎。偉大なるスモーキング(念のために言っておくが「喫煙」という意味ではない)天辺龍が目指したスモーは勝敗に拘るだけの無益なものではないはずだ。激しいスモーバトルを交わした後に勝敗のしがらみにとらわれずCHANCE COAT(ちゃんこ。スモーにおける食事の意味。必ずしもちゃんこ鍋という意味ではない。英国の場合はおそらくフィッシュアンドチップスとキューカンバサンドイッチのこと)を囲んで友情を交わすものだったはず!」
白銀と真紅の眼光が火花を散らす。信念と執念がぶつかり合い壮絶な鉄砲合戦が始まった。真紅の闘気を纏うグレープ・ザ・巨峰の張り手が当る度に柄法度の白銀の闘気を剥ぎ取る。だが柄法度とて負けてはいない。白銀の闘気をさらに煌めかせ放たれる張り手はグレープ・ザ・巨峰を守る真紅の闘気を削り取った。闘気が無くなった場所は見るも無残な傷跡が刻まれているが、すぐに傷口は塞がっていた。
おそるべしガイアフォース。かの摩訶不思議なる力は死傷者に死の憩いさえ許さぬというのか。
グレープ・ザ・巨峰かつては嵐洲浪兎と呼ばれた男は憤怒のままに叫んだ。
「この私に何回言わせる気だ、腑抜けの柄法度ッ!負け犬と共に食うCHANCE COATが美味いわけがなかろうが!真のCHANCE COATとは敗者の屍の上で勝者が食らう極上の戦果よ!敵を葬り去った後に血を啜り、その肉をもってSUIT KILL YET KILL(スキヤキ。古代のスモーレスラーたちは敗れ去ったスモーレスラーの肉を薄切りにして鍬を鍋に見立て焼いてから割り下を投じて煮込んで食したという。これが本当のすき焼きのルーツだ。早速覚えてみんなに自慢しよう)にせよ!死者の怨念が勝者をさらなる高みへと誘うのだ!」
グレープ・ザ・巨峰はかつて戦ったオリュンポス部屋のスモーゴッドたちの姿を思い出していた。神話世界のスモー、スモーパンクラチオンに敗れたキャメロット部屋のスモーナイトたちは全てSUIT KILL YET KILLにされて食われてしまったのだ。嵐洲浪兎が主君として仕えた永遠のスモー王と呼ばれた天辺龍とて例外ではなかった。
その時からグレープ・ザ・巨峰はスモーゴッドたちの敗者の肉片さえ残さぬという凄まじい執念を学んだ。魂に刻んだ。
「SUIT KILL YET KILLだとッ?狂っている!!貴方はそれでもキャメロット部屋のスモーナイトか!」
再び、両者はぶつかり合う。
まわしを取る。
まわしを取った手を外す。隙あらば必殺の投げを決める為にあらゆる手段を使って、互いの全てを削り合った。
「真の大業を為すものは正気では務まらないのだ。全てを食らい自らの糧とすることが出来るもの。それこそがスモーレスラーのあるべき姿だ」
両手を開き腰を据えるグレープ・ザ・巨峰。
それは攻撃に特化した伝統的なスモーのバトルスタイル、不知火型である。
応えねばなるまい。
ここに来て柄法度も覚悟を決めた。彼も従来の雲龍型を捨てて、不知火型に移行する。矛と矛が向き合うことになった。柄法度も、嵐洲浪兎もこの時に限って同じ事を考えていた。この戦いの後に立っている者はただ一人だろう。万感の思いを経て血を分けた男たちは天に祈る。願わくば最後に立っている一人が、自分でありますようにと。
グレープ・ザ・巨峰の張り手が柄法度の顔面にぶち当たる。祈るべき神などすでにいないというのに。嵐洲浪兎は欧州と英国の誇りを守る為にスモーナイトとなった。そして英国に渡り、理想の君主と出会った。伝説のスモー王、天辺龍である。彼の友愛のスモーという理想に共感して嵐洲浪兎は侵略者であるローマ帝国のスモーグラディエーターたちと戦った。そして多くの犠牲の果てにキャメロット部屋は勝利した。だが死を厭わぬスモーグラディエーターたちとの激闘を制したキャメロット部屋のスモーナイトたちの前にさらなる強敵が現れた。
それは大陸制覇を目論むローマ帝国のスモー皇帝シーザー山を陰から操っていたギリシャはオリュンポス部屋の十二柱のスモーゴッドたちである。
※ 豆知識。ローマ帝国の国教はキリスト教だと思われているが、それは皇帝コンスタンティヌス山以降の話で皇帝シーザー山の頃はゼウス山(ローマ読みではジュピター山)を主神とした多神教が信じられていたのだ。ちなみにシーザー山ことユリウスカエサル山は根っからの民主主義者で独裁官すら名乗っていないのでテストの時は彼の職業は第一執政官(あるいはローマ共和国軍ガリア方面司令官)と書かないとバツを食らうので要注意だ。
祖国の威信と独立の為に戦う誇り高きキャメロット部屋が傲岸不遜なスモーゴッドたちの軍門に下る道理はなかった。当初は全滅必至の総力戦になるかと思われていたがスモーゴッドの穏健派であるヘルメス山(後のサイコ山または死神))とポセイドン山(後の海神。キン星山のご先祖さまにあたる)らが両陣営から実力者十二名を上げて戦うことを提案する。
ローマ帝国との戦いで疲弊したスモーナイトたちをこれ以上死なせるような真似をしたくはないと思ったキャメロット部屋のリーダー、スモー王天辺龍はこの申し出を引き受ける。かくして歴史に記されるスモーナイトとスモーゴッドの戦い、スモーティタノマキアが始まるのである。タイタンと人間の戦いをティタノマキアっていうのだから理屈の上では間違っていないはずだ。
満身創痍の身の上で絶望的な戦いに臨むスモーナイトたち。無情なるかな。死力を尽くした覚悟も虚しく奇跡が彼らを救うこともなく無残な屍を晒すことになった。だが、この世の光景とは思えない散々たる敗戦の中まっただ一人スモーゴッドたちに屈することなく戦い続けた者がいた。天辺龍、我上院を凌ぐ実力者と言われていたスモーナイト嵐洲浪兎である。彼はアポロン山(後のカラス山)とバッカス山(後の痛恨山。体の表面にプチプチがついているやつだ)を相手にに引き分けたが最後に己の命を賭けてスモーゴッドのリーダーであるハデス山(後の相撲閻魔。キン星山の前にはスパークリング・ザ・巨峰として登場する。だがそこまで話が続くかは現時点では不明)にガチンコタイマン勝負を挑んだのだ。
「私はスモーナイトの誇りにかけて!ハデス山、貴公とタイマンガチンコ勝負を望む!」(置鮎〇太郎の声で)
そう言って嵐洲浪兎は祖国の誇りフランスパンをハデス山に投げつけた。ハデス山はフランスパンを見事にキャッチしてむしゃむしゃと食べ始める。古代のヨーロッパではこのように祖国のCHANCE COATをぶつけることが決闘の合図だったのだ。フランスパンを食べながらハデス山は不敵に笑った。
「よかろう。我がオリュンポス部屋の十二柱のスモーゴッド、アポロン山とバッカス山を退けた褒美にこの私ハデス山が直々に貴様をタルタロスへ送ってやろうではないか。おい、ヘルメス山。ネクター(不二家のやつ。ハデス山の好物)を持ってこい。いくらスモーゴッドでも水無しでフランスパン一本はつらいわい」