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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
18/162

まやかしの力なんざ要らねえ!俺の底力を見やがれ!の巻

久々の登場人物紹介


螺子王


聖杯の力を受け継ぐスモーナイトの末裔。スモーレスラーとしては軽量級ながらもスピードとテクニックで圧倒的な攻撃力を誇る純正の攻撃型スモーレスラー。同じ部屋の剣玉山とは新弟子のころからのつき合い。どう考えてもガラスの破片よりもお前の手足の方が怖い、とか言ってはいけない。

 激戦の最中、春九砲丸は細やかなバランスを保ちつつ、グレープ・ザ・巨峰との距離をキープする。

 掴み手が外されるか。

 もしくは足場を崩されるか。

 例え死を待つだけの運命でも、土俵の上ならば己の力一つでひっくり返すことが出来る。

 勝利へと続く光の道は既に見えているのだ。だから今はひたすら耐え続けるしかない。


 小僧は狙っている。

 

 おそらくは小手投げか。実に芸の無いことだ。

 このまま私が投げを仕掛ける瞬間を狙っているのだろう。


 グレープ・ザ・巨峰は首を傾けて、春九砲丸を体ごと引き寄せる。下方からまわしを取り、下手投げの体勢に持ち込んだ。


 この罠に気がつくか、小僧。


 グレープ・ザ・巨峰の血が久しぶりに騒いだ。

 彼が味わった過去の栄光を、挫折を、確執を忘れることが出来た。


 春九砲丸はグレープ・ザ・巨峰の腕を引いて、勝負に出る。

 しかし、この場合は相手を投げるということは掴みから解放すること。

 即ち、技が完全に決まらなければ逆襲されることになるのだ。

 春九砲丸の肉体はある程度までは回復したが、完全に復活したわけではない。

 この状態で死地から帰還したグレープ・ザ・巨峰を相手に出来るのか。

 その時、春九砲丸の脚をかつてないほどの衝撃が襲う。

 以前よりも威力を増したグレープ・ザ・巨峰の蹴たぐりだった。

 まるで足を大鉈で打たれているような気分だった。

 だが、苦痛を受けながらも春九砲丸は決断する。


 必殺の小手投げで、この男を投げ殺すことを。


 「小僧。貴様こそ、ようやくその気になったか。極限の力と力のせめぎ合い。必要とあれば神さえ殺す宇宙最強の格闘技、これが真のスモーだッッ!!!」


 グレープ・ザ・巨峰は強引に上手投げを繰り出す。

 今この時まで春九砲丸の足場を崩すことはついに叶わなかった。

 しかし、春九砲丸なるスモーレスラーの器を見極めたいという欲望がグレープ・ザ・巨峰に中途半端な投げ技を仕掛けさせたと言っても過言ではないだろう。

 もしも、この勝負で春九砲丸が敗北することになれば自身の野望もそれまでといった覚悟もあったということを認めざるを得まい。


 だが、この時グレープ・ザ・巨峰は気がついていなかった。

 春九砲丸の方から掴んだ手を緩めていたということに。


 グレープ・ザ・巨峰が両脚が揃って大地を踏みつけた。

 ここから半歩踏み出せば、自動的に投げ技が成立するだろう。


 さて春九砲丸。貴様はどう足掻くのだ?


 ケンドーマスクに隠された獰猛な肉食獣を思わせる瞳が食い散らされるだけの運命を背負った憐れな獲物の横顔を見た。


 この期に及んで強がりの微笑ブラフスマイルだと!?

 

 馬鹿なッッ!!!


 春九砲丸は笑っていた。

 その笑顔が虚勢ではない勝利への確信から生まれたものであることに気がついたのはグレープ・ザ・巨峰のスモーレスラーとしての勘によるものなのか。

 グレープ・ザ・巨峰はその巨体に纏った鋼の筋肉を引き締めて、その時に備えた。私ともあろうものが春九砲丸を恐れているのか。

 グレープ・ザ・巨峰は奥歯をきつく噛み締めた。


 「その上から目線が気に食わねえ。脳天をカチ割ってやる!!」


 居反り投げか!!

 グレープ・ザ・巨峰は狼狽を隠すことが出来なかった。

 パワーとウェイトの両方が勝っているという状況にグレープ・ザ・巨峰も油断していたのかもしれない。

 春九砲丸の意図して外された手はグレープ・ザ・巨峰の股下からまわしを掴んでいた。グレープ・ザ・巨峰の肉体を逆さにして支えるその姿は大地を支える古の巨神アトラスを彷彿させた。

 上手投げを仕掛ける際に発揮するグレープ・ザ・巨峰の全力をそっくりそのままにして返し技を仕掛ける。

 実に危険な賭けだった。

 成功する確率など、それこそゼロに等しい無謀なギャンブルだった。

 もしも、グレープ・ザ・巨峰が凡庸なスモーレスラーならば絶対にこうも上手くはいかなかっただろう。 春九砲丸は自らの後方に向かってグレープ・ザ・巨峰を放り投げた。


 これは決着ではない。

 勝利への布石。

 投げたすぐ後に春九砲丸は腰を低くしてその時に備える。

 空中で巨躯を翻し、グレープ・ザ・巨峰は両脚から地面に着地した。

 グレープ・ザ・巨峰はかつてない昂揚を覚える。

 大きく股を開き、地面に片足を振り落とす。


 屈辱だ。

 かつては西のスモーナイトの始祖とまで呼ばれたこの私が全力のスモーを希望している。

 

 何という屈辱だ。


 ズシンッ!ズシンッッ!!

 グレープ・ザ・巨峰の四股踏みによって、天地創造にも匹敵する激震が生じる。

 しかし、春九砲丸は臆することなく次の勝負を待つばかりだった。


 それにしてもDOLL SUIT CALL IT とはよく言ったものだ。

 例えこの戦いに勝ったとしても、記録に残ることも何かの褒章を得ることもないというのに、どうしてこうも己の中に流れる血が、魂が満たされているのだ。


 「どうやら完全復活したようだな、春九砲丸。貴様はあの虫けらどもも少しは役に立ったようだ」


 グレープ・ザ・巨峰は一瞥すらせずにせせら笑う。

 だがその時、俺は左右の腕の感覚が元に戻っていることに気がついた。

 何とも莫迦々々しい話だが、奴さんの言うことに間違いはなかったのだ。

 地面に描かれた魔法陣を通じて俺の中に生命の力そのものが今もまた流れ込んでいる。

 この仕組みがわからない以上は自分の力ではどうしようもない。

 言葉が通じる相手ならばそれに越したことはないのだが、相手は絶対強者グレープ・ザ・巨峰だ。

 彼の口を割らせるには、スモー以外の方法など存在しないだろう。


 「これを止める方法を教えろ。俺には必要のない力だ」


 「私にとってはどうでもいい話だがな。この力、ガイアフォースの供給を絶てばお前は元通りの重傷者に戻ってしまうのだぞ?」


 その悪魔の囁きに、俺は一瞬戸惑った。

 もしも俺の肉体が元のコンディションに戻ってしまえば自分の身体を動かすことが出来ない役立たずに成り下がる。

 



 だが、俺の中の俺が力強く叫ぶ。




 それはお前の理想とするスモーなのか、と。



 

 「もう一度だけ言うぞ、春九砲丸よ。お前は選ばれしもの。塵芥のごとき一時の情に絆されるな。神の御世より続くスモーの歴史とは果て無き力と闘争の歴史だ。ここで立ち止まるくらいならスモーなど捨ててしまえ」


 ズズンッッっ!!!


 そしてまた、大地の芯に向かって鋼の槌の如き足底が叩きつけられた。

 グレープ・ザ・巨峰の強烈な四股踏みが世界を震わせる。

 この力の源はおそらく怒り。

 



 だが。



 だがしかし違うのだ。



 それは俺の理想とするスモーではないのだ。


 「自分の力以外のものに縋って、何の為のスモーだ!ふざけるのもいい加減にしろ!」


 そう言い放ってから、俺も四股を踏んだ。

 ガイアフォースの誘惑に全力で抗った。俺

 は魔法陣から流れ込む力を全力で遮断する。

 そして、自分の身体を縛る不可視の鎖を引き千切ってやった。

 それとほぼ同時に力の流入が切断されて全身が軋むような痛みが戻った。

 ポタリ、ポタリと数滴の赤い飛沫が地面に落ちる。

 治りかけた傷口が元通りになってしまった証拠に他ならない。



 だが、これでいい。



 これが俺のスモーなのだから。



 やがて俺の視界は歪み、だんだんと意識も朦朧となってくる。

 先ほど受けたダメージと倫敦橋との戦いプラスそれ以前の戦いで受けたダメージが全身にのしかかってきたのだ。

 

 グレープ・ザ・巨峰、お前なら愚かだと笑うのだろう。


 倫敦橋、お前ならよくやったと褒めてくれるのか。


 こうしている間にもガイアフォースとやらは宿主を求めて、俺の足元から迫ってきやがった。


 左手を払い、幻想の塩を振りまく。

 そこから四股を踏む。魔除けだ。

 未練がましくガイアフォースの残滓は俺を睨んでいた。


 己さえ受け入れれば、また元通りにスモーをやらせてやろうと未練たらしく俺を誘う。

 

 だから、俺は鼻先で笑ってやった。

 俺に手を差し伸べるものを。

 俺を取り巻く世界の全てとしがらみの尽くとを。


 関係ない。

 

 俺にはスモーさえあればそれでいい。

 

 傷ついた身体、軋む骨、悲鳴をあげる俺の内臓。


 さあ、最後のスモーだ。


 心おきなく全力を出し切ろう。


 「誰も俺からスモーを奪わせてなるものか。俺はスモーレスラー、春九砲丸だ!」

悪いのは、俺以外の人類!俺は絶対に悪くない!悪くないんだ!!!

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