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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
16/162

不屈の勝負師、春九砲丸!その時、異変が!?

 グレープ・ザ・巨峰の巨体にふさわしい掌が春九砲丸の頭部を掴んだ。

 同時にヒットした春九砲丸の張り手を受けながら、自身の攻撃を変化させる技術に俺は動揺を隠すことは出来ない。傷ついた額を流れる冷や汗が断頭台にかけられた死刑囚の心境を思い起こさせる。

 

「威勢の良いことです。しかし、これはあくまで勝負です」


 そう言ってからグレープ・ザ・巨峰は五指の一つ一つに力を込める。

 春九砲丸は必死に抵抗するが攻撃の肩は既に完成している為に意味を為さない。

 受け身を取ることに意味があるのか。もはや自身の死を受け入れるしか道はないのではないか。

 勝利への渇望と敗北への恐怖。相反する二つの想いに翻弄されながらも春九砲丸は背後に意識を集中しつつ、その時に備えた。

 

「地面に脳漿を飛び散らすのです、春九砲丸」


 グレープ・ザ・巨峰はそのまま春九砲丸を後方に叩きつける。

 だが、春九砲丸の目は死んではいない。

 死の間際にあってもスモーレスラー春九砲丸には命を諦めるという選択肢は存在しないのだ。

 例え首が折られようとも、背骨が砕かれても、両足が根元から引き千切られても命ある限り抗うことを続ける。

 骨が折られても鍛え続けた筋力が骨を支える。

 全身を流れるマグマの血流が砕かれた骨を再生させる。


 根性一つで何もかもひっくり返す。


 俺はそういうトレーニングを続けて来た。


 だから、この世に生まれて無駄に過ごしてきた瞬間など最初から何一つとして存在しなのだ。


 この状況だって同じだ。無理で、道理をひっくり返してやるッ!!

 

 「いい気になるなよ、グレープ・ザ・巨峰。俺は不死身の春九砲丸だ。こんなやわなやり方で俺を殺せると思っているのか?」


 「この期に及んで虚勢ですか。実に見苦しい」


 グレープ・ザ・巨峰は左腕に力を込め、死刑を執行する。


 「まだ勝ってもいないのに勝利宣言か。そっちの方がみっともないぜ、大将!」


 不敵な笑みと共に荒ぶるスモーレスラーは復活した。

 グレープ・ザ・巨峰の吊り落としをブリッジで耐えている。


 燃え上がれ、俺の魂。


 まずは地面に張り付いた両足の自由を取り戻した。

 こうなればこっちのものだ。

 大地に根を下ろした巨木の力強さをこの男が知らぬわけがない。

 そのままグレープ・ザ・巨峰の五指を引き千切ってやった。


 「ぬうっ!」


 全身を捻りつつ、五指の拘束から見事に脱出する。

 結果として自慢の金髪を何本かを失うことになったがいやさ構うまい。

 やっこさんのほえ面を拝むことが出来たのだ。


 グレープ・ザ・巨峰は春九砲丸と自分の足場を注視する。

 己の居場所はやや左側に、対して春九砲丸はやや右側に移動していた。


 この私が仕切り直されたか。


 グレープ・ザ・巨峰は内心で舌打ちする。

 自分の性分からして、生まれたてのひよこ相手だろうとて手加減などするはずもない。

 しかし一瞬とはいえ、あの小僧は力でこのグレープ・ザ・巨峰から逃れたのだ。

 小僧を説得して無傷で手に入れるつもりだったが、場合によっては殺さねばならぬ。

 グレープ・ザ・巨峰は腰を下ろす。ここからはケイコではない。この世でもっともスリリングなスモーの時間が始まったのだ。

 春九砲丸は試しに片足の指で地面を叩いた。


 ダメだ。


 案の定、春九砲丸の肉体は麻痺したままであり、感覚は戻っていなかった。

 その場で立っているだけで精一杯、それが現時点でのベストな状態なのだろう。

 だが、彼の内面は真逆だった。死の間際に近づくほどに闘志は燃え上がる。これがスモーレスラーのさがだとでもいうのか。


 「仕切り直しだ。グレープ・ザ・巨峰。今度こそぶっ殺してやるぜ」


 そういって春九砲丸は地面に唾を吐く。


 「それが甘いというのです。春九砲丸!」


 グレープ・ザ・巨峰の姿が突然、目の前から消える。

 ノーモーションからの強烈なタックル。

 グレープ・ザ・巨峰は両腕で春九砲丸を抱え込んで、そのまま壁に向かって突進する。


 「そのまま壁に押し潰されて死になさい!」


 なんという重圧感プレッシャー!勢いのあまり両脚を地面にくっつけて踏みとどまることさえ許されないのだ。

 今、自分の身体がベストの状態でもこの攻撃に抵抗することは難しいだろう。

 春九砲丸はかつてない苦境に戦慄する。

 だが、やられてばかりの彼ではない。

 指先が葡萄色のまわしまで伸びる。

 次の瞬間、不屈のスモーレスラーは無意識のうちにグレープ・ザ・巨峰のまわしを取っていた。


 「なんとも見苦しい!あくまで抵抗するつもりですか、春九砲丸!」


 グレープ・ザ・巨峰は体を半回転させて、春九砲丸を右側に投げた。

 強烈な押し出しから小手投げへの巧みな変化に耐えることが出来ないまま、春九砲丸は地面に転がされる。


 タイミングが遅れた。


 仰向けになりながら春九砲丸は不敵に笑った。

 次の刹那、春九砲丸の顔面に向かってグレープ・ザ・巨峰の左脚が振り下ろされた。

 当たれば頭がカチ割られるな。

 春九砲丸は意を決して身をよじった。

 春九砲丸は横転しながら踏み付けを回避することに成功した。

 だが、グレープ・ザ・巨峰は体勢を立て直そうとする春九砲丸の近くまで追いついてきていた。


 「炭酸スパークッ!」


 そして、グレープ・ザ・巨峰はそのままかがんだ状態からの対当りを食らわせる。

 用意周到にもケンドーアーマーを身にまとった巨漢は両手で何かを掬うような形を作っていた。

 突進から相手の体勢を崩し、敵を転倒させる投げ技への連携技かち上げである。

 

 あの体躯でそこまで動けるのか。

 春九砲丸は驚愕しながらも一歩下がって力を溜める。

 彼とてグレープ・ザ・巨峰の力を知らぬわけではないが、力と力のぶつかり合いで負けるわけにはいかなかった。

 迫るぶどう色の巨躯、片や満身創痍の若武者。

 

 そして、この上なく鍛えられた鉄塊同士がぶつかり合った。

 それは超重量級同士の不可避の衝突。

 春九砲丸の癒えてから間もない傷口から血がにじみ出る。

 だがグレープ・ザ・巨峰も無傷では済まなかった。

 自慢のケンドーアーマーに亀裂が入り、ケンドーマスクの隙間からはやはり血が流れている。

 グレープ・ザ・巨峰はひび割れた額から流れる自分の血を舐める。

 その感情は恍惚。自らの流す血もまた何と甘いことか。

 お前の血もさぞうまかろう。

 グレープ・ザ・巨峰の眼差しに熱が籠る。


 「余裕かましてんじゃねえぞ、グレープ・ザ・巨峰。倒れないなら、倒れるまで張り倒すッ!!それが俺のスモーだッ!!」


 春九砲丸の突っ張りがケンドーマスクに命中する。

 砲火のごとき張り手を一発、二発をくらいよろめいた。

 ケンドーマスクの隙間から血が零れ落ちた。

 今こそ勝機、と言わんばかりの勢いで間合いを詰める春九砲丸。

 しかし、今度はグレープ・ザ・巨峰の脳天唐竹割りが春九砲丸を切って落とした。


 思い知ったか、若造が。

 

 グレープ・ザ・巨峰は崩れ落ちる春九砲丸の後頭部を抑え込もうとした。

 直後、視界が消失する。

 何事だ。

 目の前に迫る手負いのドラゴンの如き形相の春九砲丸。

 直進しながら左右から放たれる鉄砲ガンスリンガーのラッシュ。

 フットワークで回避することが出来ないということを悟ったグレープ・ザ・巨峰はこれを十字受けで凌いだ。グレープ・ザ・巨峰の腕に刻まれた荒々しい張り手の跡。

 

 そして、また重戦車同士の全力の衝突。

 獅子と猛虎が互いの喉に牙を食い込ませるようにして、彼らは互いの肉体の下手と上手を取り合った。


 「このパワー。なかなか順調に回復しているようですね、春九砲丸?」


 不気味に笑うグレープ・ザ・巨峰。

 ハッとして自分の腕を見る春九砲丸。

 負傷と骨折のせいで歪んでいるはずの両腕がいつの間にか元の姿に戻っているではないか。

 こんなことがあるのか。


 「まさか、俺の腕が元通りになっているのか!?」


 組んだ相手のまわしを掴む確かな感触が何よりも雄弁にそのことを物語っていた。

 驚愕のあまり春九砲丸は一瞬、力を緩めてしまう。

 

 歪な嘲笑。

 

 グレープ・ザ・巨峰はその隙を狙って一気に押し込んできた。

 それまでギリギリに保たれてきた攻守の均衡が一気に崩壊した。

 押し切られた直後、春九砲丸は共生的に後退させられた。

 もしも、これが試合ならば土俵の外にまで押し出されていただろう。


 「それだけではありません。体の傷も治っているはずです。彼らの尊い犠牲によってね」


 「まさかそんなことがあってたまるか!」


 「そこまで言うならば自分の周囲まわりを御覧なさい」


 言われて春九砲丸は自分の周囲を見渡した。地面に倒れている春九砲丸の仲間たちが空に向かってもがき、のたうちながら苦しんでいる光景が目の当たりにする。

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