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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百二十二話 今明かされる二百年の因縁ッ‼の巻

次回は十一月三十日に投稿する予定でごわす。遅れてばかりですまんでごわす。


 「見事な勝負だったぞ。キン星山、フラの舞。私は今の戦いで将帥の何たるかを知ったような気がするよ」


 試合後、土俵に上がった周瑜は光太郎とフラの舞に頭を下げる。

 光太郎は顔を赤くして笑い、フラの舞は面白くなさそうに周瑜の顔を見る。


 その時、カナダ山とスペシャル山が医療道具を持ってやって来た。


 「おい、フラの舞。身体の方は大丈夫か?…どこか怪我とかしてないだろうな」


 「キン星山、君も身体の変調に気がついたら言ってくれよ」


 カナダ山はフラの舞に素気無く追っ払われ、しょんぼりしながらスペシャル山のところに戻る。

 一方スペシャル山は険しい顔つきで光太郎の負傷した部分を見ている。

 スペシャル山は美伊東君同様に大学でスポーツ医学科に所属していた経験があり簡単な治療と診察をすることが出来た。

 その彼をしても光太郎の試合の続行は生死に関わる危険性があった。

 しかしスペシャル山は医師にして力士、現役の力士として光太郎の心情も十分理解し得る。

 即ち、光太郎にこの先相撲が出来なくなると伝えても彼は土俵に立つだろう。


 「スペシャル山どん、おいどんは最後までキン星山としてこの勝負に臨むつもりでごわすよ」


 キン星山、海星光太郎は堂々と答える。

 スペシャル山は光太郎の瞳から不退転の決意を感じ取り口を閉じてしまう。

 スペシャル山は”部外者が何を言っても彼らの勝負に水をさすだけだ”という事を悟る。

 だが同時にキン星山の肉体に刻まれた傷痕を見つめる。特に酷かったのは一度関節を外された右手首と左のわき腹から背中の赤い痣だった。

 美伊東君の応急処置は完全だったがそれでも戦い続けられるほど回復してはいない。


 しかしスペシャル山はそこで考える事を止める。

 彼は光太郎の前から立ち去る前に健闘を祈るという言葉を贈った。


 「そうか、じゃあ僕はフラの舞のところに戻るよ。次の戦い、君の健闘を祈る。味方でもない僕が言えるのはここまでさ」


 そう言ってスペシャル山は光太郎のもとを去る。

 光太郎は自分の意志をくんでくれたスペシャル山に頭を下げていた。 

 

 その後、光太郎は片脚の負傷が目立たないようにしながら美伊東君と羽合庵のところに戻る。

 

 右の膝下から痺れが抜けない。

 フラの舞の”キン星バスター投げ”の後遺症だろうが次の試合までに回復する事はないだろう、と光太郎は考える。

 しかし、窮地に立たされた彼の脳裏をかすめるのは傷つきながらも戦い続けた兄翔平の姿である。

 翔平は深夜、稽古場に行って足や肩を冷やしていた。天才と呼ばれた翔平だったが無傷で勝ち進んだわけではない。

 数多くの強敵と戦い、傷が癒えぬまま次の戦いに挑んだのだ。

 それは父英樹親方も兄弟子大神山も同じ事。


 光太郎は窮地を嘆くどころか少しだけ救われたような気がした。


 「光太郎よ。嬉しそうに笑っているが、…何か良い事でもあったのか?」


 同じ頃戻ってきた光太郎の手首を状態を見ていた羽合庵が不意に尋ねる。

 光太郎は綿津海部屋の先輩力士たちと同列になる日もそう遠くはないという感慨に浸るのを止めて恩師に向き直る。

 そして連戦の苦痛を感じさせない陽光の如き笑顔でこう言った。


 「次の戦いを勝てば、おいどんの勝ちでごわすな。羽合庵師匠。ロコモコ丼でお祝いというのはどうですか?」


 「はあ…、何を考えているのかと思えば気が早過ぎるぞ?もはや言うまいと思っていたが次の戦いでもお前は負ければそれで終わりだ。それにしてもハワイ旅行の宣伝文句も一考の余地ありだな。このまま続けば数十年後にはハワイ諸島の人間全員がロコモコが好物というレッテルが貼られてしまう。私は普通にパイナップルやココナッツが好きなんだが」


 光太郎は以前食事の時に羽合庵が肉をよけながら食べていたのを思い出して含み笑いをする。

 何と羽合庵は偶然にも幼いころから肉を食べる機会が少なく、さらに日本での修行中は海鮮鍋ばかり食べさせられていたせいで肉が苦手になってしまったらしい。

 光太郎の嫌な笑い方に気がついた羽合庵はジロリと睨みつける。

 光太郎は恩師が説教モードに入る前に真面目な表情に戻った。

 その時、光太郎の目の前に羽扇を持った髭面の諸葛亮が現れる。

 光太郎と羽合庵は驚いて諸葛瑾と話をしている孔明を見たが目の前には映画や漫画等でおなじみの衣装を着た孔明がいた。

 孔明は慌てふためく二人に向かって穏やかな笑みを向ける。


 「ふむ。これで四度の戦いが終わってしまったというわけか。いやしかしラーメン山の小僧め、物の見事に厄介な役を押しつけおってからに…」


 「こ、孔明どんがお二人もいるのでごわすか⁉はははっ‼やったでごわすよ、羽合庵師匠ッ‼これで蜀の未来は安泰でごわす、ぬははははッ‼」


 予期せぬ二人目の孔明の登場に、蜀というか劉備、関羽、張飛の大ファンである光太郎は喜んだ。

 当の孔明と羽合庵は落胆した表情で大笑する光太郎を見ている。


 「ここまで来ればもう少し察しが良くなってもいいものだが…。光太郎、やはりお前は雷電師匠と英樹の血を引いているというわけか」


 「ほう、その声には聞き覚えがあるな。お前は海星雷電の弟子の”威勢の良い”羽合庵か。あの悪たれがどうして立派な力士になったものだ」


 孔明は羽扇で口を隠しながらクツクツと笑った。

 羽合庵は何か思い当たることがある様子で腕を組んだまま不快そうに黙っている。

 光太郎は羽扇を持った孔明に正体を明かすよう頼んだ。

 この時になって目の前にいる孔明が贋物だと気がつき始めたが”天才軍師孔明ならば或いは分身も可能”という神がかった孔明への信頼が勝っていた。


 「あのう、宜しければあんさんの正体を教えて欲しいのでごわすが~?」


 光太郎は揉み手に愛想笑いという何とも情けない姿で孔明に尋ねた。

 孔明は雅やかな笑みを浮かべながら光太郎の姿を見る。

 孔明の姿に化けている者は光太郎の姿を見ながら歴代のキン星山の姿を思い出していた。


 (古来より時代の節目に現れた”キン星山”を名乗る力士たちは壮絶な最後を迎えた。故に先代の雷電は自分の代でキン星山の名を終わらせると宣言したのだ。彼奴の孫がキン星山を名乗るとは何という皮肉だ…)


 贋物の孔明は正体を隠していた非礼を詫びる為に頭を下げた。

 光太郎も孔明の真似をして思わず頭を下げる。


 「私は此度の赤壁相撲の最後の審判役、黄龍だ。挨拶が遅れたな、キン星山。そしてフラの舞よ」


 光太郎は黄龍の口からフラの舞の名前が出てきた事に驚いて周囲を見回した。

 そして次の瞬間には自分たちが柴桑の城から別の空間に移動していた事に気がついて飛び退き、腰を抜かしてしまった。

 フラの舞も驚いていたのだが光太郎の狼狽する姿に毒気を抜かれて冷静さを失う事は無かった。

 だが仮にも自分を倒した相手が腰を抜かしたままでは格好がつかないので光太郎に向かって手を伸ばす。光太郎は照れながらもそのまま右手を出した。


 「あははは…。すまんでごわす、フラの舞どん。おいどん、瞬間移動テレポーテーションには慣れていなくて」


 「礼には及ばん、キン星山。普通の人生を送っていれば瞬間移動を体験する事は無いのだからな。それよりどうせ手を出すなら左の方にしてくれないか?力の加減を間違えて折ってしまってからでは苦情は受け付けないぞ」


 光太郎は笑いながら左手を出す。

 フラの舞は光太郎の体に負担をかけないよう注意しながら引き上げた。


 黄龍は助け合う二人の姿に遥かな過去、二柱の神が仲睦まじかった頃を重ねて目を綻ばせた。

 その神とは光太郎とフラの舞の祖先である”綿津海”と”武御雷”だった。


 「さて。お前たちは互いに競い合う事で最終試練まで登ってきたわけだが…。一応、決まり事なので聞いておこうか。これから始まる最終試練を受ける覚悟はあるか?」


 光太郎は黄龍の質問に対して即答する。

 だが同じ質問を受けたはずのフラの舞は一転して厳しい表情に変わってしまった。


 (最終試練だと…?色々と思い当たる節はあったがまさかこういう趣向だったとはな…)


 フラの舞は過去の出来事を思い返す。

 他国の力士であるにも関わらずフラの舞を導こうとしたラーメン山。

 そして光太郎との戦いを重ねるうちに強まって行く”キン星山”の称号への憧れ。

 今のフラの舞はこれらの出来事が全て偶然と考えるには都合が良すぎると考えていた。


 「応ともさ、でごわすよ!なあ、フラの舞どん?」


 「待て、キン星山。今さらお前の意見をとやかく言うつもりはないが、俺はこいつの言う最終試練とやらには興味が無い。いいか、黄龍とやら‼これは俺とキン星山の誇りを賭けた戦いだ。外野は黙っていてもらおうか‼」


 フラの舞は”崖っぷちのど根性”を発動して全身から気炎を吹き上げる。

 一方、光太郎はフラの舞の全身が炎に包まれた事に驚いて消防車を呼ぼうと公衆電話を探していた。


 黄龍は笑いながら二人の対照的な姿を見ていた。


 「そう怒るな、フラの舞よ。今のお前の姿はかつての海星ショウそのものだな。そして海星光太郎、いつも他人の心配をするとはお前はやはり雷電の血を引く男だな」


 黄龍は両目を閉じながら悲運のキン星山、海星ショウの事を思い出す。

 彼は力に恵まれ、正義の心を持っていたが不遇な出自のせいで友情という物を信じられなくなっていた。

 だが黄龍は運命に抗う彼の姿に初代キン星山、海星ツヨシを重ねて必要以上に肩入れをしてしまったのだ。


 (愚かな私を許せよ。キン星山、フラの舞。やはりキン星バスター投げは人の手に余る必殺奥義、そう易々と後世に伝えるべき技では無いのだ…)


 黄龍は海星ショウの壮絶な最後を思い出して涙を流す。

 皮肉にも無敵のキン星山を倒したのは同じキン星山の奥義を使う者だったのだ。


 その男とは…。


 二百年前。

 雷鳴の中、海星ショウの身体が地面に投げ捨てられる。

 全身の筋肉と骨を破壊された海星ショウは地べたを這いながらその男から必死に逃れようとする。


 だが…。


 「どこに行くんだい、坊や。俺たちスモーデビルの相撲はここからが本番だってのによお?」


 文金高島田の髷を太い指が掴む。

 海星ショウは必死に抵抗しようと手を伸ばすが敵に届く直前で地面に叩きつけられてしまった。


 「なぜだ…?お前もまたキン星山の血を受け継ぐ者のはず。どうして相撲の…、正義の心を信じようとしないのだ‼答えろ、吉野谷牛太郎ッッ‼‼」


 吉野谷牛太郎は鼻先で笑った後、返答の代わりに海星ショウの後頭部を踏み潰した。

 海星ショウは顔面を割られて血だまりを作る。

 吉野谷牛太郎は敗者の無様な姿を嘲笑った。


 「いいか、よく聞けお坊ちゃん力士のキン星山さんよ。力士が心より力を求めて何が悪い?俺は身も心も悪に染まったスモーデビル、正義の相撲取りなんざクソ食らえだ‼」

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