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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百十六話 周瑜の帰還‼の巻

すごい遅れてすいません。次回は十月十二日にくらいに投稿する予定です。


 かくして光太郎は孫権と相撲塾のメンバーと共に柴桑の城に向かった。

 道中、兵士たちに何事かと聞かれる場面もあったが諸葛亮と美伊東君の説得によって事無きを得る。孫権は何か釈然としない様子だったが、美伊東君が周瑜の到着が近い事を知らせると表情を引き締めてかぶりを振った。

 一行は適度な速さを保持しながら城の大広間に向かった。

 通路でカナダ山たちと再会し、孫権を連れて来た事を伝えると大いに喜んで相撲塾のメンバーたちを歓迎してくれた。

 その中でフラの舞だけは孫権を一目見ると欠伸をしながら先に休憩所に向かう。

 彼にとって孫権の捜索はおまけのような物であって、本番は光太郎との戦いである。強敵の心中を察した光太郎は何も言わずにフラの舞に向かって手を振った。


 「あのキン星山さん…。あの御方、フラの舞さんと言いましたか。私の方を見てずいぶんと気を悪くしてしまったようですが、…もしかして私は彼を怒らせるような事をしてしまったのですか?」


 孫権は背中を向けて去って行くフラの舞を心配そうに見ている。

 美伊東君から一通りの説明を受けてはいるがフラの舞の性格についてまでは聞いていないので自分が彼を不快な思いをさせたのではないかと思っているらしい。

 フラの舞は相撲以外の出来事には基本的にドライであり、今は光太郎を倒す事だけに集中したいという心境なのだろう。


 光太郎は前向きになった孫権が心変わりしないようにフォローを入れておく。


 「フラの舞どんはプロのお相撲さんでごわすからな。多分、今は試合に集中したいというんでごわすな。孫権どんが気にするような話ではないでごわすよ。それよりも張昭どんに顔を合わせる覚悟は出来たでごわすか?」


 「まあ、そちらの方はぼちぼちと…。はあ…。張昭、すっごく怒っているんだろうな」


 光太郎は張昭との対面を気にして落ち込む孫権の肩をバシバシと叩いた。

 光太郎も羽合庵、美伊東君、英樹親方から似たような理由で怒られた経験が山ほどある。

 富樫と虎丸も相撲塾の厳しい稽古をサボろうとして教官に怒られた経験があったので孫権と光太郎の心境を理解する事が出来た。


 こうして四人の男たちは肩身の狭い思いをしながら謁見の間にいる張昭のもとに向かった。


 不幸中の幸いか、謁見の間には周瑜は到着していなかった。

 黄蓋、韓当、程普といった三将軍の姿も見えない。

 だが他の重臣たちの先頭にいる張昭はかなり離れた場所から見てもわかるほど赤くなっていた。


 孫権たちはなるべく音を立てないようにしながら張昭の元に向かう。


 (そこまでつき合う必要があるのかな…)


 美伊東君は苦笑しながら光太郎たちの姿を眺めていた。


 「…。実にお早い帰還ですな、孫権様。仮に百歩譲って、私と周瑜が重大な会議をする事を貴方様に黙っていたという話に非があったとしても、特に理由を説明するわけでもなく姿を消した罪は消えますまい。残念ながら、未だに貴方様を江南の頭目と認めぬ者は少なくありませぬ。まずは血眼になって貴方の行方を探した家臣たちに謝罪をしなさい。言いわけはその後で聞いてあげましょう」


 張昭の幼子を諭すような口調には怒り以外の感情が見え隠れしていた。

 孫権は張昭に一礼すると家臣たちに向かって頭を下げた。

 新旧の家臣たちは孫権の健在を確認して胸を撫で下ろす。

 孫家の人間の姿が見えなくなれば誰もが孫堅と孫策の末路を思い出してしまうのは無理からぬことだろう。

 孫堅は自分に付いて来てくれる家臣たちに心底、感謝しながら頭を下げ続けた。


 伊達は孫権の畏まった様子を見ながら呟いた。


 「野郎、中々の役者だな。大勢の前で大言壮語を吐くよりも、自分で行動して見せた方が効果的だって事を知っていやがる」


 伊達の言った通りに孫権の家臣たちは彼の謝罪を快く受け止めていた。

 孫堅と孫策は苛烈で性急性格だったが、孫権は相手に歩調を合わせて労う余裕のある性格の持ち主だった。

 故に徹底抗戦を唱える側の人間は孫権の姿に君主としての頼もしさを感じる一方で、和平派の人間は戦争以外の道を模索する柔軟な思考の持ち主と考えている。

 孫堅本人は少しでも自分の失敗を取り返そうと必死に行動しているだけなのだが、結果として多くの人々の関心を得る事が出来た。怪我の功名というものだろう。


 孫権は自分の気持ちが落ち着くまで頭を下げた後、再び張昭のところに向かった。


 張昭は満ち足りた表情で微笑むと孫権に礼をした。


 「張昭、すまない。父と兄があのような形で死んでしまったというのに、私は自分の事ばかりを考えて逃げ出してしまった…」


 「…。孫権様、ご自分の立場を理解していただければそれで良いのです。貴方様はこの国のたからたからが失われれば人々は寄る辺を失い、散り散りになってしまうことでしょう。私に謝る必要はありません。貴方を信じてこの地に止まった人々への感謝の気持ちを忘れないでください…」


 孫権は張昭の言葉を深甚に受け止めた後、もう一度礼をした。

 張昭は嬉しそうに目を細めながら孫権の姿を見守っている。

 光太郎も孫権と張昭の関係が修復された事に安心する。

 こうして君子、孫権があるべき場所に戻り全てが元通りの形に戻ったかのように見えた。

 しかし、事態は部外者たちによって予定通りと言うべきか波乱含みな展開を見せる。

 城門の方から肌をザワつかせる冷気が漂ってきた。

 光太郎は一瞬で身構えて出所を探ろうとするがそれよりも先に周泰と衛兵たちが広間に駆け込んできた。

 普段は何事にも動じない肝の据わった傑物として知られる周泰は顔中に緊張の汗を浮かべながら孫権と張昭に周瑜が城に到着した事を伝えた。


 「ご主君、張昭殿。只今、周瑜将軍が城に到着されたご様子…」


 そこまで言ってから周泰は言葉を止める。

 周泰の顔から出ている汗の量が増えて、彼の血走った瞳は孫権と張昭の言葉を待っていた。


 (この様子、さては周瑜に無理難題を押しつけられたな…)


 張昭は周泰の異変にいち早く気がつき、その理由を尋ねることにした。


 「そうか。ご苦労だったな、周泰。会議は明日みょうにちに開くので将軍には休むように言ってはくれまいか」


 張昭は真意の在り処を探るような目つきで周泰を見る。

 周泰は先ほどの周瑜の様子を思い出し、緊張に耐えきれず息を吐き出してしまった。

 孫権は周瑜の身を案じて周泰を問い質そうとしたが、諸葛瑾に止められた。

 一方、周泰は顔の汗を拭ってからどうにか口を開く。

 場合によっては国を分断し、滅亡の道を辿るかもしれぬ。


 周泰は必死の覚悟で周瑜の言葉を伝えることにした。


 「それは無理でござる…。周瑜将軍は既に兵を連れて広間に向かうと言っておられました。全兵力を結集し、徹底抗戦あるのみと」


 周泰から伝えられた周瑜の言葉はその場に集った文官のみならず百戦錬磨の武官たちも沈黙せざるを得ない。

 なぜならば孫策亡き後の周瑜は心に余裕というものが失われつつあった。

 孫権は己の力不足を、張昭は周瑜の千乗の才に頼りすぎていた事を後悔する。

 次第に城に集まった家臣たちは周瑜は病で長くはないとか、韓当、黄蓋、程普の三将軍に対する様々な憶測が飛び交った。

 こういう時は普段なら張昭が一喝して場が収まるのだが、当の張昭は周瑜の変心に心を大きく揺さぶられている。

 孫権は張昭に代わって家臣たちの動揺を諫めようとしたその時、先んじて立ち上がる者がいた。

 並み居る豪傑たちと比べても遜色のない巨漢、カナダ生まれのカナダ育ちの力士カナダ山だった。

 カナダ山は全体的にオレンジとホワイトという配色なので嫌でも目立ってしまう。


 (我が軍にこのような豪傑がまだいたのか…)


 孫権は堂々とした態度でざわめく家臣たちを睥睨するカナダ山の姿に、亡き父孫堅文台の面影を見た。

 張昭もまたカナダ山に在りし日の孫堅を重ね冷静さを取り戻す。

 フラの舞はお手並み拝見とばかりに遠間からカナダ山の様子を窺っていた。


 一方つき合いの長いスペシャル山はカナダ山のその場の勢いに任せて大風呂敷を広げる悪癖が再発した事に気がついて口から泡を吹いて気絶してしまった。


 「おう、お前ら。…俺はワケあって張昭の叔父貴の世話になっているカナダ山ってもんだ。さっきから聞いていれば自分の味方の悪口ばっか言いやがってよ…。お前らには人を信じるって言葉が無えのか!強い奴になびいて、自分だけが助かりたいって言うなら曹操のところへ行けばいいさ。だがな、江南の土地が好きでここで一生を終わらせたいって思っているなら周瑜の話を聞いてやってもいいんじゃねえか?」


 カナダ山の訴えを聞いた孫権の家臣たちの反応は真っ二つに分かれた。

 

 カナダ山はよそ者だから事情を理解していない、と批判的な捉え方をする者。

 もう一方はカナダ山の意見に共感を覚え、周瑜から直接話を聞こうと考える者たちである。


 カナダ山といつの間にか義兄弟の契りを結んでいた凌統と甘寧は涙を流しながら天を衝くような巨漢のもとに歩み寄る。


 「カナダ山の兄弟…、アンタの言う通りだよ。俺たちは今まで周瑜将軍の世話になりっ放しだった。命を救われた回数なんざ、それこそ数えきれねえよ。俺は孫権様や周瑜将軍を少しでも疑った自分が情けねえ、殴ってやりたい気分だ…。俺は最後の最後まで周瑜将軍を、孫権様を信じるぜ。だけど言いなりになるんじゃない。仮に将軍が間違った事を言っていたら”そいつは違う”って面と向かって言ってやるんだ…ッ‼」


 カナダ山と甘寧は力強い握手を交わして決意を固める。

 そして凌統が、周泰が江南の勇将たちが次々とカナダ山と握手をした。

 文官たちも負けじとカナダ山と握手をして、ここに集まった全員で周瑜の話を聞くという意見で結束が固まりつつあった。


 「なあ、スペシャル山。これは俺の考えすぎだと思いたいのだが…カナダ山は本当に大丈夫なのか?」


 既に柴桑の城内はカナダ山を中心に人だかりが出来ている。

 フラの舞は空気の熱量が異様なまでに高まっていることに危機感を覚える。

 スペシャル山は頭痛に悩まされながら後先の事を考えず有頂天になっているカナダ山を見ながら答えた。


 「正直なところ彼が騒ぎを大きくして良い結果になった事は無いよ…。でも、だからといって今ボクが出て行ってもどうにもならないと思うんだよな…」


 結局、スペシャル山とフラの舞はカナダ山のお手並みを拝見するしかなかった。

 一方、光太郎は諸葛亮と共に騒ぎの真っ只中から離れた場所に移動する。

 仮に今の状況で周瑜と諸葛亮が接見すれば態度を硬化させる可能性が高いと考えたからである。

 城内の騒ぎが一段落した頃、入り口から物々しい気配が漂ってきた。

 青ざめた顔の鎧姿の男が扉を開き、数名の将兵たちが粛々と追従する。

 男は壇上に張昭と孫権の姿を見つけると真っ直ぐに進んで来る。


 「周瑜…、よくぞ無事で戻って来てくれた」


 孫権は気後れしながら周瑜に向かって話かける。

 今の周瑜は孫権の記憶にある如何なる容貌かおとも違っていた。

 もはや乱世を終わらせるという執念だけが彼を突き動かしているのではないか。

 しかし弱気はそこで終わらせる。同じ土俵に立たなければ相撲は始まらないのだから。

 孫権は勇気を奮い立たせて周瑜と向き合った。

 

 周瑜は孫権に向かって軽く礼を済ませると汗に濡れた額を拭った。


 「こちらこそ。お気遣い痛み入ります、孫権様。今日柴桑の城に来ていただいた用件は他でもありません。来たるべき曹操との大戦おおいくさについてのお話で御座います」


 周瑜は刃の如き視線で孫権を見る。

 餓狼の如き風貌には、かつて美周郎と呼ばれた華麗な武人の面影は失われていた。

 孫権は白刃の切っ先を向けられた気分となり、一歩引き下がってしまう。


 「周瑜、私も大体の話は魯粛と張昭から聞いている。たしかに曹操の南下は警戒すべきだろうが、すぐに長江を渡ってこちらに向かって来るというのは考え過ぎではないか?」


 「然るに。あの用心深い劉表が領地を奪われたのは鈍重な油断こそが原因です。直ちに領内の兵力を結集し、大戦おおいくさに備えましょう」


 周瑜は孫権の手を取って頭を下げる。体温が全く感じられない冷たい手だった。

 孫権は己の身を削って孫策の遺命を果たそうとする周瑜の姿から目を背けてしまう。

 だがその時、突然フラの舞が現れて周瑜を片手で突き飛ばした。

 周瑜は尻もちをついて地面に転がる。

 倒れた後、手を使って何とか立ち上がろうとするが身体を起こす事もままならなかった。


 直後、フラの舞は周瑜の部下たちに囲まれたが一睨みで追い返してしまった。


 「今の周瑜将軍の姿を見たか、孫権?残念ながら彼は戦場に行けるような状態ではない。休養を取らなければ明日にでも死んでしまうだろう」


 フラの舞の言葉を聞いた後、孫権と周瑜の直属の部下たちは彼のもとに向かった。


 カナダ山とスペシャル山は意識を失った周瑜を担架の上に乗せて医務室へと運ぶ(※カナダ山の人望がさらに上がった)。

 孫権と張昭は周瑜の身を案じて同行することになった。


 光太郎たちは混乱の中、広場に残ったフラの舞と言葉を交わす。


 「ずいぶん強引なやり方だな、フラの舞よ。この騒ぎの決着はどうするつもりなのだ?」


 羽合庵は周囲の様子を警戒しながらフラの舞に尋ねる。

 先ほど周瑜が倒れてからフラの舞に露骨な敵意を向ける人間が多くなっている。

 

 フラの舞は敵意に満ちた視線などお構いなしとばかりに冷やかに笑った。


 「アンタも老いたな、羽合庵。古来、相撲の効用に快気祈願があると俺に教えたのはアンタと親父だろう?つまりこれから俺とキン星山がこの場で真剣勝負を興じて彼らの怖気を追い払うんだ」


 フラの舞は片目を閉じて光太郎を見る。

 光太郎も綿津海部屋の力士として正月行事に参加した経験があるので、フラの舞の言わんとする事をすぐに理解する。


 「青二才が…生意気な口をきく」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回の感想、書き忘れてました。すいません! カナダ山の存在感が尊い(えー) 原作でもあんな暴言を吐かなければ……(何) 赤壁間近で周瑜の体調が悪い……という表現は珍しいかなと。周瑜の息…
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