表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
145/162

第百十五話 いずれは分かたれる道‼の巻

 すごい遅れました、すいません。次回は十月三日頃を予定しております。ごめんなさい。


 光太郎は虎丸の後から現れた懐かしい相撲塾の生徒たちを元気な姿を見てニッコリと笑った。

 彼らの殿に身を置く雲吞麵は相変わらず厳しい顔をしていたが光太郎たちの姿を見つけると軽く会釈をした。

 

 光太郎が相撲塾の若者たちに挨拶をする為に出て行こうとすると羽合庵が呼び止めた。

 羽合庵は相撲塾の若者たちの中に混ざっている鎧姿の男を指す。


 「光太郎よ、もしかすると”彼”が我々の目当ての男ではないのか?」


 光太郎は羽合庵に言われて彼の指す方向に目を凝らす。

 確かにJと富樫の間には三国志の世界から出て来たような姿の男がいた。

 やや距離を置いてはいるが男の顔は相撲のぶつかり稽古が終わった後のように腫れ上がっていた。


 (もしもあれが孫権だったりしたら揉めそうでごわすな…。ここは我が軍の軍師、美伊東君に相談するしかないでごわすよ)


 光太郎は美伊東君を近くまで呼んで小声で相談を始める。

 小走りで光太郎のところにやって来た美伊東君の顔は青ざめている。案外、光太郎や羽合庵と同じ考えなのかもしれない。


 「美伊東君、美伊東君。もしかしてあの三国志みたいな鎧を着ている人が…孫権さんじゃないのでごわすか?」


 「はあ…。鈍い若でも気がついていましたか。僕も盗み聞きしているみたいで嫌だったんですけど、先ほど富樫さんが大声で”権の字”と呼んでいましたからね。絶対に本人でしょう」


 美伊東君は盛大なため息を吐く。

 光太郎はトラブルの連続で意気消沈となってしまった美伊東君の代わりに孫権と話をすることにした。

 その直前に雲吞麵から静止の声がかかる。


 雲吞麵は地面の上を滑るように移動しながら光太郎の前に立った。

 物音どころか気配を遮断しながら向かって来る雲吞麺の技量は素晴らしいものだが、何せ外見が頭に”出前一丁”という文字が彫られた禿頭の大男だったので光太郎は凄いというよりも恐ろしいと感じていた。


 「お待ちあれ、キン星山殿と羽合庵殿。我々が連れている御仁は呉の孫権殿なのだ。そして現在、我々は孫権殿をご自宅に送り届ける為にご同道している。願わくば孫権殿の話が片付くまでは他言無用ということで…」


 雲吞麵がかなりの声量で話をしていたので道を行き交う人々は皆彼の方を見ていた。

 そして孫権の姿を見つけては”若殿だ”と騒ぎ出す始末。

 雲吞麵の空気を読まぬ振る舞いによって一行は注目の的になってしまう。

 光太郎は衛兵たちに相撲塾の若者たちが無害(?)である事を説明すると城とは反対側の方にある広場に向かった。

 大衆には飛燕が孫権によく似た別人という説明をしてもらうことで最悪の事態は回避することが出来た。

 世紀の美男、飛燕の面目躍如である。

 しかし飛燕は嘘や演技を嫌う誠実な人柄だったので、全員で謝罪することになった。


 その後、光太郎と相撲塾のメンバーは旅人の休憩場として使われる広場で情報交換をすることになった。

 まず最初に美伊東君は光太郎と羽合庵に代わって現在の状況を説明した。

 相撲塾の面々は光太郎の勝利を素直に喜び、絶賛する。


 「キン星山先輩、おめでとうございます。残りの二戦も頑張って下さい」


 剣桃太郎が相撲塾を代表して光太郎の勝利を祝った。

 続いて富樫たちから声援と拍手が贈られる。

 光太郎は赤面して瞳を涙で潤わせながら力いっぱいに頭を下げた。


 「こちらこそ、ありがとうでごわすよ。正直次の戦いですぐに負けてしまうかもしれないでごわすが、おいどんは相撲塾のみんなの応援を励みに力の限り戦うつもりでごわす」


 光太郎が相撲塾の若者たちと話をしている間、孫権は美伊東君と羽合庵のところにやって来て光太郎の事を尋ねる。孫権を前にして冷静沈着な人柄で知られる美伊東君も思わず緊張してしまう。

 美伊東君は眼鏡をかけ直しながら孫権の話を聞いた。

 孫権は青い瞳を輝かせながら緊張して固まっている美伊東君に微笑みかける。

 美伊東君はぎこちない笑顔で答えるしかなかった。


 羽合庵は不慣れな状況に戸惑う美伊東君の姿を見ながら苦笑していた。


 「あの、あちらのキン星山さんという御方はもしかして力士なのですか?申し遅れました、私は孫権と言います。実は先ほど富樫殿に相撲の手ほどき(※そういう認識らしい)を受け、かの闘技に心を奪われてしまったのですよ」


 美伊東君は咄嗟に羽合庵の方を見る。

 羽合庵は意味ありげに笑うと肩をすくめて両手を投げ出した。

 美伊東君は口元に引きつった笑みを浮かべながら孫権の質問に答える。

 羽合庵は孫権の世話を美伊東君に任せると雲吞麵のもとに向かった。


 実は羽合庵と雲吞麵は親しいというほどではないが面識がある。


 「ええと、うちの若はですね。一応、プロというか相撲を職業にしている人なんですよ。すごく強いのか?って聞かれたら説明にこまりますが…」


 美伊東君は横目で相撲塾の若者たちとの再会を喜ぶ光太郎の姿を気にしながら答える。

 最近の光太郎は圧倒的な強者とまで言わないまでも実力をつけている。

 しかし生来の精神の脆弱さはそのままなので綻ぶとすぐにボロが出てしまうのだ。


 美伊東君は孫権の光太郎に対する期待を何となく肌身で感じながら罪悪感を覚える。


 「何と、やはりそうでしたか。あのご立派な肉体を見た時にもしやと思いましたがこれは実に良き出会いだ。宜しければ今日相撲という物の素晴らしさを知ったばかりの未熟者ですが、キン星山殿と相撲をとってもらえるようにお願いしてもらえないでしょうか?」


 孫権は少し離れた場所で富樫たちに胸、肩、背中を叩かれている光太郎の姿に憧れていた。

 戦場の強者たちに讃えられる光太郎の姿には彼の父孫堅や孫策と相通ずる物があった。

 願わくば富樫の胸を借りた時のように光太郎と相撲をとって徹底的に打ちのめされたいと考えてもいる。

 今の今まで孫権は張昭と周瑜に守られて敗北から遠ざけられてきた。

 故に自分は決して負ける事の無い無敵の勇者だと勘違いしていた事を富樫との相撲で思い知らされる。

 相撲を生業なりわいとする光太郎との一戦は果たして自分に何をもたらすのか。

 孫権は期待に心中を燃やしている。


 「ううむ…。今は試合中なので難しいのではないのでしょうか。まだ体力も回復していないから万全の状態ではありませんよ?」


 美伊東君は首を横に振りながら答えた。

 孫権の側の内情を理解しているだけに断るのは心苦しい。

 しかし今の光太郎はわずかでも体力を回復しなければならない。

 こうしている間もフラの舞とは英気を養い、次の戦いに向けて闘志を燃やしているだろう。


 孫権は美伊東君の様子から現状を察して、心の底から残念そうな顔をしながら承諾する。


 孫権は美伊東君に向かって会釈すると富樫たちに合流し、光太郎との相撲問答に加わった。


 光太郎は大風呂敷を広げながらフラの舞との死闘を語っている。

 一方、羽合庵は光太郎たちから距離を置いて雲吞麵と共に情報交換をしていた。

 こうして都合良く孫権を見つけることが出来たが、仮にこのまま孫権を張昭のところに帰しても事態は良い方向に進むことはないと考えたからである。


 「雲吞麵よ、今回ははらの探り合いは無しだ。単刀直入に問う。…孫権に何があったのだ?」


 羽合庵の真剣な眼差しを受けて雲吞麺は一瞬だけ言葉を詰まらせてしまった。

 ある種の超然とした達観を備える相撲拳法の達人もこれほどの不測の事態が連続すればどう答えて良いものかと混乱してしまう。


 雲吞麵はナマズひげを触りながら渋々と語った。


 「羽合庵、貴様は我々相撲拳法総本山とは敵対する者だ。まずそこを忘れてくれるなよ?…今の孫権は舞台空間を設置した側であるワシらにとってもイレギュラーな存在だ。歴史の真実に対する考察を抜きにしても下手に干渉すべき存在ではないということだろう」


 その時、富樫の笑い声が聞こえた。

 先ほどの相撲で孫権の実力を高く評価した富樫と虎丸が相撲談義にを始めている。

 

 羽合庵は眉間に皺を寄せ、非難がましい視線を雲吞麵に向けた。

 雲吞麵は何も言い返せなくなり額に浮かんだ汗を拭っている。


 「…若者が互いを認め合って親交を深める事は良い事だと私は思っている。もっとも…雲吞麵、お前の指導は反映されていないようだがな」


 「だから重箱の隅を突くような真似は止せ、羽合庵!ワシとて万能ではないのだ。大体、お前の弟子はどうなのだ?ワイキキの浜の倅には勝てそうなのか?貴様とて気がついているとは思うが、ワシらがこの空間から脱出する為にはいずれかが勝たねばならぬのだぞ?」


 はあ…。次の瞬間、羽合庵と雲吞麵は同時にため息を吐いた。

 さらに互いの顔を見合わせては気まずい雰囲気となる。


 「光太郎の事だが、正直な話をすれば勝率は一割にも満たないといったところだ。アイツとフラの舞とでは生来のスペックに差が在り過ぎる。残念ながら次の戦いではさらにその差を思い知らされることになるだろう」


 羽合庵は言動に反して奇跡や精神論といった物を全く信じない側面があった。

 ゆえに光太郎の勝利はフラの舞の慢心から生じた物と考えていたが、いざ面と向かって先の勝負の話をされると言それだけではないと思い当たる節がいくつもある。

 果たしてこれが愛弟子を弁護したいという気持ちから生まれたものかどうかは羽合庵本人にも計り知れぬ事だった。


 「フンッ!傲岸不遜の権化のようなお前らしくない弱気だな、羽合庵よ。ワシならば素直によくやった、でかした流石は我が弟子と褒めてやるところだぞ?貴様とて海星雷電にそうやって甘やかされたクチだろうに」


 「それは言わないでくれ、雲吞麵。私も今雷電師匠の苦労を実感しているのだ。自分の師に対して従順な光太郎でさえこうなのだから、まるで言う事を聞かない私などはさぞ雷電師匠の悩みの種となっていただろう…。それで結論は?」


 雲吞麵は自分の手札を晒した羽合庵を見ながら複雑な顔をしている。

 正直な話、自分の事よりも後進の心配ばかりするようになってしまった自身の境遇に混乱していた。

 

 (否。あの江田島平八郎でさえ神妙な顔つきで”塾生を頼む”と禿げ頭を晒してきたのだから是は当然の事なのだろう。よりによってこのワシに途方もない難題を押しつけるとは…ラーメン山殿、恨みますぞ)


 雲吞麵は控室でブロッケン山との一戦を前に精神統一をしている姿を思いながら答えた。


 「ならばワシも正直に答えよう。孫権は己の不甲斐なさに自信を失い、川辺を彷徨っていた。そこを曹操が放った(と思われる)刺客に襲われ窮地に立たされたところをワシが救出したという話だ」


 雲吞麵の話が終わった後、羽合庵は光太郎や相撲塾の若者たちと共に語り合う孫権の姿を見る。

 三国志の話について特に詳しいわけでは無かったが若くして父と兄を失い、重臣たちの期待を背負わされたとすれば逃げ出したくなる気持ちという物も理解できる。

 雲吞麵も不安げに孫権の姿を見ていた。


 「お互い年齢としは取りたくないものだな、雲吞麵よ。若い頃のお前ならば”惰弱”と切って捨てていただろうに…。いやそれも私は同じ事だ」


 「これはワシの独り言だが、もう少し彼をそっとしてやりたいという気持ちもあるのだ。…羽合庵、貴様らの様子からして一刻の猶予も許さぬ状況だという事はわかっておるのだが…」


 「孫権の境遇に同情しているなら尚更の事だ。誰かに連れ戻されるよりも自分の意志で帰った方が後悔することもないだろう。いや今のは忘れてくれ、雲吞麵。若造どもは我々の手助けなど必要ないらしいな」


 羽合庵は光太郎たちが孫権と一緒に近づいていることに気がついていた。


 雲吞麵は袖で顔を拭って気持ちを切り替える。

 今の光太郎たちの姿を見て自分の修行時代を思い出し、涙腺が脆くなっていたようだ。


 光太郎は着いてまず最初に孫権の事を紹介した。


 「羽合庵師匠、彼が有名な孫権君(光太郎より年下)でごわすよ。実は最近失敗続きで悩んでいたそうで城を抜け出してしまったと言っているでごわす。ここは一つ、おいどんたちが張昭さんたちに頼んでお咎め無しということに出来ないでごわすか?」


 「それを決めるのは生憎、私たちではないな。孫権の態度と張昭の受け取り方だろう。孫権、君には怒られる覚悟は出来ているのか?」


 「…。正直、張昭は恐いですが全ては私の為を思っての事です。今回ばかりは全ては私のせい、全力で怒られてきます」


 孫権は正々堂々と胸を張って決意を告げる。

 しかし仮にも怒られる側がこうまで堂々としてよいものか、と羽合庵は正直心配をしていた。

 羽合庵は軽く深呼吸をした何も言わずに柴桑の城に向かって歩き始める。

 光太郎と相撲塾の若者たちは”負けるな、孫権”と大声を上げながら羽合庵の後に続いた。


 こうして柴桑の城に到着した孫権と光太郎たちは張昭と諸葛瑾に市中で大騒ぎをしたという罪で説教を食らうことになった事は言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ