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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
14/162

ついに決着。最強バトルを制したのはどっちだ!の巻。

ついに決着っ!果たして勝利の栄冠はどちらに!?

 物事には始まりと終わりというものがある。

 

 今にして思えば、これは「始まりの終わり」であり「終わりのはじまり」というものだったのだろう。

 陳腐な表現だが、俺にはこれくらいしか思いつかない。

 

 俺には全力の全力を尽くして戦える日が来るのか。

 ドブ川に映ったもう一人の俺は何も答えてくれなかった。


 そして、舞台はあの頃に戻る。



「さっさと死ね。ボンボン」


「野良犬が。皮を剥いで晒しものにしてくれる」


 そして、笑う。

 両者はもうお互いに余力がないことを確かめ合ったのだ。

 二人は誰に言われたわけでもなく土俵の端まで後退した。


 もう合いの手も、掛け声もいらない。


 「GOD」


 火花を散らし、睨み合う。

 牙をむき出し本性を現した二匹のケモノが同時に駆け出した。

 それはさながら重量級のロケットスタート。

 土煙を巻き上げながら地面が爆ぜた。


 いつしか歓声は途絶え、決着の時をただ見守る。


 「AND」


 鈍い衝突音、鉄塊と鉄塊がぶつかり合ったのだ。

 鋼鉄製の兜と鍛え上げられた男の頭が真正面から激突する。

 普通に考えれば兜を身につけている方が有利だが、この場合は当てはまらない。

 今、倫敦橋の仮面をかろうじて守っているのは倫敦橋の筋骨なのだから。


 「「 DEATHッッ!!!」」


 消えかけの命さえも燃やし尽くさんとする咆哮。


 決して譲らない。


 お前だけは認めない。


 俺こそがこの世にただ一人のスモーレスラーだッッ!!!


 闘争心は臨界点を越え、二人の男はスモーの化身となる。

 ここからは男の意地のぶつかり合いだった。

 自身のルーツも、スモーレスラーとしてのキャリアも関係ない。

 今ここにあるものだけが二人にとっての全てとなっていたのだ。


 倫敦橋と春九砲丸の闘争はやがて小宇宙同士の戦いへと発展した。


 明滅する力と力。

 いくつもの興亡を繰り返し、永遠なる一瞬の時を経て今に至る。


 幾星霜の時を経て、激闘は終焉へと近づく。

 運命の女神は一方を祝福し、もう一方を見限る。

 その決断を誰が止められよう。


 「勝利への渇望が、もう一歩足りなかったな。我上院部屋の坊や」


 グレープ・ザ・巨峰は振り向きもせずに試合場から出て行った。 

 

 

  そして、決着の時が訪れた。




 「坊ちゃま!倫敦橋坊ちゃまッ!!」


 空白。

 最後の立ち合いの記憶しか残っていない。

 懐かしい従者の声。

 泣いているのか、ウォルター。

 男子たるもの決して人前では泣いてはいけないと教えてくれたのは貴方ではないか。


 「ウォルター。私は負けたのか?」


 何気なしに仮面の額に手を当てる。

 指で出来たばかりの亀裂をなぞった。


 これが敗北。

 

 今まで築き上げたものを今ここで全て失ってしまったのか。


 倫敦橋は腰を上げて、周囲を見渡した。その時、彼は土俵の外に押し出されたことを知った。


 「本当に本当に、最後の最後まで立派で御座いました。倫敦橋坊ちゃま」


 いい年をした初老の男が顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。


 「スモーナイトには負けて得るものなど無い。受けた屈辱は倍返しにしてやる。そうだろう、ウォルター」


 倫敦橋は握り拳を作る。

 従者は彼に肩を貸そうとするが彼は一人で立ち上がることを選んだ。

 体の自由が効かない。

 元通りになる保証もない。

 だが、今のかつてない充実感があった。

 決戦の舞台で無敗の男が死んだ。

 これでいいのだ。

 無敗の王者など裸の王様にすぎない。

 ここから始まるのだ。

 土俵上で、血まみれの姿になって立ちすくむ強敵の姿を倫敦橋はこの上なく好ましく思う。

 次こそは負けない、という決意を胸に刻む。


 時間は少し巻き戻される。


 春九砲丸は倒れたままの倫敦橋を凝視する。

 

 もう立ち上がってくることはあるまい。


 自慢のブリキ頭が俺の頭突きでカチ割れているのだ。

 毎晩酒場で飲んでいる安いウィスキーで酔っても到底味わえないような痛みを味わうといい。

 その時一瞬、視界がブレた。


 「ハルッ!」


 オヤジの声で現実に引き戻される。

 痛みばかりが続き、感覚はバラバラのままだった。


 これで良かったのか。

 今にして思えば、無謀の極みのような戦いだった。

 割れた額から流れる血は止まらない。

 相変わらず土俵に血だまりを作っている。


 これで良かったのか。

 これで満足だったのか。

 徐々に意識が曖昧になっていく。


 その時、なぜかグレープ・ザ・巨峰の言葉を思い出してしまった。


 スモーは死んだ。


 ああ、そうかもしれない。

 こんな安っぽい舞台劇で満足するくらいなら、俺はスモーレスラーには向いていないということだろう。


 「ハルッ!おい、大丈夫か!?」


 大丈夫さ。明日には普通に歩いている。

 だけど、教えてくれ。親父。

 これはスモーなのか。

 だとしたら俺は何故スモーのリングで戦っているんだ。


 その時の春九砲丸には焔の如き闘志も、技の応酬も全て色あせて見えていた。


 「教えてくれ、親父。これが本当にスモーなのか。俺は別に誰かに認めてもらいたくてスモーをやっていたわけじゃない。俺はこの先どうしたらいいんだ?」


 歓声の中、俺は今の状況にうんざりしていた。


 これではまるで道化のピエロだ。


 実際に歓声も、照明も、俺の醜い部分ばかりを照らし出している。


 これが本当に俺の恋焦がれたスモーの世界なのか?


 親父は相変わらず下を向いたまま何も答えてくれはしない。


 「ついにやっちまったんだな、ハル。お前は俺の誇りだ。あとな、自分を邪険にするな。前を向け。お前は英国最強のスモーレスラー、春九砲丸になったんだぞ」


 親方はそう言ってから俺を力強く抱き締める。

 全力を出し尽くして何も残っていないはずなのに心の奥底では熱い闘志が戦いを求めている。

 土俵の隅では倫敦橋がのろのろと起き上がっていた。

 奴さんの姿を見て不思議と安心する。

 俺はチームメイトから受け取ったタオルを顔に当てて、控室に戻った。

 彼らと共に勝利の美酒に浸るのも悪くは無いのだろうが今は何故だがそんな気分になれなかったのだ。


 果たしてこれが俺の望んでいたものか。


 馬鹿馬鹿しい。


 全てがブラックアウトしながら意識だけが現実へと戻っていった。



 華々しい過去の回想は終わりだ。


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