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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百五話 孔明の罠‼の巻

 もう何の話か書いている人もわからんでごわすよ!次は七月の三十日に投稿出来たらいいなというかんじでごわす…。


 牢もとい仕切りの奥には太い眉毛に大きな目と厚い唇を持つ男と顔にいくつもの痣を作ったボサボサ頭の痩せた男がいた。

 全体的に濃い造りの顔をした男、魯粛はふて寝している優男に向かって手を差し伸べる。

 

 優男は立ち上がってから頭を下げる。


 「見ましたか、お兄さん。これが進士の取るべき態度ってもんですよ?どんな時にも公平に接する。魯粛殿は私の話を聞いてくれたし。全面的には賛成してくれなかったけど劉備殿に会ってくれると言ってくれたんだ。それをアンタは俺の話を聞きもせずにいきなり殴ってさ。そもそもアンタには弟を思う気持ちが欠けているんじゃないんですかねえ?」


 男は最後まで言いたい放題言うと手を振って諸葛瑾を追い返そうとする。


 諸葛瑾は頭に血がのぼって今すぐにでもぶん殴りに行きそうな様子だった。


 光太郎は柵の前に立って弟を、美伊東君は頭から湯気を出している兄の方を諫めた。

 まず光太郎が諸葛亮の方に牢屋に入るまでの経緯について尋ねることにした。

 弟同士のシンパシーが働いたかどうかは知らないが、諸葛亮は光太郎を気に入ったらしく落ち着いて話を聞いてくれる様子だった。


 「諸葛亮どん。諸葛瑾さんはあんさんの事を本当に心配しているのでごわすよ?…それをあんな風にいったらバチが当たるでごわすよ」


 「アンタ誰?何で俺の名前、知ってるの?孫権の部下は全員、顔と名前が頭に入ってるけど。アンタみたいな面白い顔の男は知らないよ」


 諸葛亮はわざと挑発するような口調で光太郎と話をする。

 諸葛亮の横柄な態度を見た諸葛瑾と魯粛は頭から蒸気式アイロンのような湯気を出していた。

 しかし美伊東君と羽合庵は諸葛亮の長髪的な態度は光太郎の度量を計る見せかけだけの行為だと考えていたので二人のやり取りを遠巻きに見守るに止まる。


 「おいどんの名前はキン星山、日本という国から来たお相撲さんでごわす」


 光太郎はついこの間まで自分の容姿にコンプレックスを抱いていたが、力士としての研鑽を続けるうちに気にしなくなっていた。

 力士の本領は土俵の上で戦うことであってひな祭りの人形のように壇上で飾られることではない。

 女性に見向きもされないことは悲しい事だが今はそれ以上に強敵との戦いが待ち遠しかった。

 一方、諸葛亮は光太郎の邪気の無い笑顔を見て苦々しい顔になっている。

 自分よりも先に公職について立身出世した兄、諸葛瑾への劣等感が無いといえば嘘になる。

 諸葛亮は諸葛瑾に殴られてジンジンと痛む頬に手を当てながら光太郎を観察していた。


 「じゃあキン星山さん。この兄貴に説明してやってくださいよ。今は中華という概念が滅ぶか否かというギリギリの状態だって。こっちは関羽殿と趙雲殿を命がけで説得して柴桑まで来たというのにこの兄ときたらまるで聞く耳を持たない…」


 「何が中華の存亡だ、この穀潰しが。さてはまたどこぞの老荘学者に何かを吹きこまれたな?百歩譲って曹操の覇業が脅威であることは認めよう。しかし我らは先の曹操と袁尚の戦いでは中立を守った。荊州にも手を出してはいない。つまり呉主たる孫権殿が天下に野心を抱いている証拠は何一つないのだ。そして曹操は益州、涼州の地を敵に回して我々に構っている暇などないはず。お前の話では曹操は江南の地を征服して帝に禅譲を迫るという話だったが、そんな事をして一体誰の得になる?宮廷の儒学者や皇族に叛かれる理由を作っているようなものだぞ?」


 諸葛亮は両耳に人差し指を入れて何も聞くつもりがないことを態度で示す。

 光太郎と美伊東君は後世において三国志と呼ばれる結末を知っているのでコメントし難い。

 ここで”最後に勝つのは晋ですよ”と言おうものなら事態は紛糾どころではすまなくなるだろう。

 しかし、ここで三国志については何も知らない羽合庵がいがみ合う兄弟に建設的な意見を申し出た。


 諸葛瑾は先ほど羽合庵を天人の使者と認めていたので反論せずに最後まで話を聞くようにする。


 諸葛亮の方は羽合庵の意見というより彼の性格が気になっていたのでこちらも襟を整えて聞き入れる様子である。


 兄弟喧嘩に不干渉だった魯粛も武人然とした羽合庵に興味を持ち、一礼する。


 「私のような門外漢が口を挟むような場面では無いことは重々承知だが今の状況は些か不毛がすぎる。まずは立場を対等なものに整えてから話合うのはどうだろうか?」


 「ぬう…」

 「むう…」


 諸葛亮、諸葛瑾は同時に唸り声を上げる。

 兄は弟を稚拙と決めつけ、弟は兄を頑迷といって見下し続ければ話がまとまらなくなるのも当然の事だろう。

 羽合庵は若い頃にタナボタ理事長と英樹親方の喧嘩を仲裁していた経験があるのでこういった場面には慣れていた(※自分もワイキキの浜とよくケンカをしていたので)。

 そこに魯粛が具体的な解決策を求めて立ち上がる。


 「羽合庵殿。具体的にどうすれば宜しいのですか?」


 「ふむ。まずは諸葛瑾は諸葛亮を牢から出す。そして諸葛亮は諸葛瑾への非礼を詫びる。話し合いをするならその後だろう。何も恥じ入ることはない。生きていれば誰しもが通る道だ」


 おお…‼と光太郎と美伊東君と魯粛は同時に感激の声を上げる。

 逆に当事者の兄弟は互いに顔を見合わせてげんなりとしていた。

 

 羽合庵は両腕を組んで”段取りは組んでやった。さっさと終わらせろ”とばかりに無言の圧力をかける。

 諸葛亮と諸葛瑾は同時にため息を吐き、暗鬱な表情でお互いに対する謝罪を始めた。


 「亮。今回の出来事は私が全面的に悪かった。お前の話もロクに聞かずに殴った挙句、牢屋に閉じ込めるなど国政を預かる者を補佐する立場としてあってはならぬ行為だ。だがこれだけは覚えておいて欲しい。お前が主君と仰ぐ劉備殿の評判は江南においては良くない。私は肉親としてお前の将来を心配した事だけは偽りの無い気持ちだ」


 諸葛瑾は謝罪の途中から涙を流していた。

 口にしてみれば何ということのない肉親を思いやる気持ちが先んじた行為だったのである。

 特に諸葛瑾は孫権が父、兄を次々と失い嘆き悲しむ様を見ていたので余計に諸葛亮の事を心配していたのである。

 諸葛亮はボサボサの頭をかきながら心底もうしわけなさそうに諸葛瑾と羽合庵に向かって頭を下げる。

 兄諸葛瑾は若くして地方の長官に認められ、生まれ持った知恵と温和な性格を生かして声望を手に入れた。

 いくら多くの識者たちから伏龍とおだてられても今の諸葛亮は在野で燻っている浪人にすぎない。

 兄を意識していないと言えば嘘になる。

 加えてようやく巡り合えた君子の劉備を悪く言われて意固地になっていたことも今では素直に認められた。


 諸葛亮は己の不明を悟らせた羽合庵とお節介な兄に心から詫びた。

 そして次に自分と一緒に牢に入ってくれた魯粛に対しても頭を下げる。

 いずれ劉備が孫家と争う事になれば敵対するかもしれないというのに、魯粛は自分の話を親身になって聞いてくれたのである。


 (ここで俺が折れなければ仁義の将について行く資格などない)


 最後に諸葛亮は真剣な眼差しで矮小な自分自身に気がつかせてくれた光太郎を見る。


 「お兄さん。今回の事は俺の方が悪かった。兄さんにだって立場があるのに、大人だから何でも俺のワガママを聞いてくれると思って無茶を言ってしまった。すごく反省している。そして魯粛殿、貴方は俺のような素性の知れない者の話を真剣に聞いてくれた。本当にありがとう。そこで話を戻すが、今ここで江南の人間が立ち上がらなければ国は本当に死んでしまう。兄さん、俺が柴桑の城で孫権殿と会う事を許してくれ」


 諸葛亮はその場に座り込み、両手を地面につけて頭を下げる。

 日本でいうところの土下座だが、中国ではあまり良い意味として受け取られないことが多い。

 だが諸葛瑾は両目から滝のように涙を流して、土下座する諸葛亮を立ち上がらせる。

 幼い頃から天才と呼ばれ、常に人を小馬鹿にしたような態度を取ってばかりいた弟がようやく人の世の何たるかを知ったような気がした。光太郎たちもハンカチで涙を拭きながら支え合って立ち上がる兄弟の姿を見る。

 羽合庵と魯粛は別の方向を見て泣いていることを悟られないように努めていた。


 「あふぁふぁふぉふぁふぇろ、ひょぉ…。ふぁふひふぉはふぁふぁふぃひょひょうふふぁ…」

 (「頭を上げろ、亮。悪いのは私のほうだ」と言っている)


 「兄さん、泣くよりも先に俺の話を聞いてくれ。実は時間がかなり切迫している。このままでは柴桑

の城で周瑜将軍を中心とする開戦派が勝手に曹操と戦うことを決めてしまうだろう」


 諸葛瑾は着物の袖で涙を拭き取ると引き締まった表情で諸葛亮の顔を見る。

 前から孫権と諸葛亮が合う事を反対してはいたが、内心では同じ事を考えていたのだ。

 周瑜将軍は聡明で勇敢な男だが、最近は何かと気忙しく部下を大声で怒鳴り散らすというらしからぬ行為が目立っていた。

 病を患い余命いくばくもないという不吉な噂もある。

 仮に孫権、張昭と同等の発言力を有する周瑜が功を焦り曹操の思惑通りに戦争を仕掛けるような真似をしようものならば長江は炎に染まることになるだろう。

 河の上での戦いならば江南の軍勢が破れる事はまずない。

 しかし、陸に上がれば逆転されることも容易である。

 普段の冷静な周瑜ならばこのような策に踊らされるはずもない。


 だが今は…。


 「お前の言う通りだ、亮。今の周瑜将軍では危険だ。勝ち続ける事は出来たとしても後は続かない。曹操には長江を下ることも、引き返すことも容易なのだから。もっと緻密な戦略が必要となるだろう。それが私や魯粛、呂蒙に出来るはずもない」


 現時点において多様な人材という意味では江南は完全な力不足だった。

 周瑜将軍が戦争の最中になれば瓦解することも在り得る。

 諸葛瑾は眉をひそめながら周瑜を説得した後の陣容を思案する。

 黄蓋、韓当、程普の三将軍は今でも限界に近い状態で軍役に従事している。

 こちらの内情を明かせば動いてくれるだろうが三人のうち誰かが倒れれば代わりを果たす者などいはしない。

 諸葛亮と諸葛瑾は魯粛を見た。

 魯粛はついに我が意を得たりと余裕のある笑みを見せている。


 「ご安心ください、諸葛瑾殿。この魯粛、一命を賭して周瑜将軍を止めて見せます。しかし、その時は…」


 周瑜が柴桑で江南の決起の宣言をするならば当然のように立ち塞がる孫家の忠臣がいる。

 かの老臣は例え孫権の目の前で斬られるようなことになっても諫言を止めることはないだろう。

 それだけは絶対に阻止しなければならない。


 「そこで考えたのですよ、お兄さん。石頭と名高い周瑜将軍と張昭様の双方を黙らせる秘策をね」


 諸葛亮は片目を閉じておどけて見せる。

 そして人差し指で光太郎をさした。


 光太郎は自分の身に何が起こったかわからず周囲を見回すばかりである。

 羽合庵と美伊東君は諸葛亮の真意を素早く見抜いて呆れたような顔をしている。

 確かにここは三国志の世界を模した仮初の世界には違いないだろうが些か出来過ぎではないか、と二人は苦笑していた。


 「お、おいどんでごわすか?おいどんは相撲以外に取り得の無い、それはそれはつまらない男でごわすよ?」


 光太郎は混乱しながら後ろに下がろうとしたが、諸葛亮は先回りしてさらに背後を取る。

 そして、諸葛瑾と魯粛の前に光太郎を突き出した。

 諸葛瑾たちは最初は驚いていたが、やがて諸葛亮の意図を飲み込み膝を打つ。

 これで諸葛亮の主君、劉備が同席すれば誰でも納得せざるを得ない舞台が出来上がることだろう。

 詩歌を好むという曹操が聞けば、嫉妬に狂い攻め込んで来るかもしれないだろう。


 「彼に、キン星山に孫権様の前で相撲をしてもらいます。戦に乗り気ではない孫権殿も命がけの相撲を見れば誰が陣頭に立って戦わなければならないか、自ずとわかるはず!…ねえ?」


 諸葛亮がニンマリと笑うと諸葛瑾と魯粛も大いに笑った。

 事情が全くわからない光太郎は美伊東君に説明を求める。


 「み、美伊東君。これは一体、何事でごわすか。おいどんにはさっぱりわからんでごわすよ!」


 ひどく狼狽する光太郎を見ながら美伊東君は呆れたように、いつの間にか舞台の主役にされてしまった道化の役割を説明した。


 「あのですね、若。つまり諸葛亮さんたちは若に”鴻門の会”をやれと言っているんですよ」


 そう自分で言った後に美伊東君は大きく息を吐く。


 おそらくこの後、敵役として登場するのはフラの舞だろう。

 タダでさえも切迫した状況にも関わらず光太郎は演劇までやらされるというのだ。

 この先の気苦労を考えれば美伊東君で無くとも愚痴の一つも言いたくはなるだろう。

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