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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百話 夏侯惇到着‼の巻

すごい遅れてすいません。次回は六月五日に投稿する予定でごわす。


 「キン星山、フラの舞。予定通り、魏軍の将が到着した。勝負を一時、中断せよ」


 フラの舞と光太郎が距離を取った場面で雲吞麺が声をかけてきた。

 勝負を中断する理由など無かったが、二人の頭の中には赤壁相撲の特殊なルールが残っていたので雲吞麺の言葉に従う。

 光太郎は実力勝負で、フラの舞は光太郎の食い下がりで体力をかなり消耗していた。

 二人の力士は息を整え、吊り橋の反対側の方角から現れた軍勢を見る。

 精鋭という言葉が相応しい屈強な兵士たちだった。

 彼らはいずれも呼吸を揃えて先頭に立つ隻眼の武将に注目している。

 

 隻眼の武将は雲吞麺と相撲塾の猛者たち、次に光太郎とフラの舞を吟味していた。


 「我が名は夏侯惇。魏の丞相曹操の命令で劉備という男を捕らえに来た。まずは吊り橋の上にある土俵を別の場所に移動させてもらおうか?」


 もっともな意見である。

 今、光太郎とフラの舞は吊り橋の上に乗った土俵で戦っていた。

 二人は試合に集中しすぎて気がついていなかったがギリギリのバランスの上に成り立っている不安定な環境での戦いである。

 今さらではあるが吊り橋が傾いて谷底に転落しなかったのは奇跡なのかもしれない。


 「心配することはないぞ。キン星山、フラの舞。お前たちが”資格”を失うことがない限り闘いの場が失われることはない」


 そこに亀霊が突如として姿を現す。

 透明な実体の無い存在に見えたが大らかな声には確かな存在感が伝わってきた。

 戦いの当事者だけではなく相撲塾の面々や夏侯惇までもが空中に投影された亀霊の姿を目に焼き付けていた。


 「フンッ!」


 隻眼の武将は随伴していた騎兵から槍を取り上げたかと思えば巨大な亀霊の幻影に向かって投げつける。

 亀霊は尾っぽの蛇をしならせて槍を打ち払った。槍は崖下の闇の中に姿を消す。

 そして亀霊は間延びした大きな欠伸をした。

 夏侯惇は額とこめかみに血管を浮かべ、腰の北斗七星剣の柄に手をかけた。


 「ほほう…、亀の化け物とはこれまた面白い。連れ帰って丞相にくれてやれば一兵卒に戻してもらえるかもしれんな」


 夏侯惇はぶっきらぼうに漢王朝の秘宝と名高い宝剣の鞘を地面に投げる。

 真意の定かならぬ暴挙を見ていた軍監の荀攸は慌てて下馬をして鞘を拾った。

 そもそも北斗七星剣の正統な所持者である曹操は宝を無断で持ち出された事さえ知らないのだ。


 「人間とはつくづく血生臭い生き物だな。たかだか千年も生きられんくせに、命も尊さも理解できんのか?」


 亀霊は瞼の落ちかかった瞳で夏侯惇を見た。

 己の命の際を見極めなければ気が収まらぬ人種は稀に存在する。

 おそらくは承服しかねる命令を下されて腹の虫が騒いでいるところに亀霊が現れて八つ当たりをするつもりなのだろう。

 その命の炎を鼻息一つで吹き消すことも出来るが、その場合は騎兵全員が決死の思いで亀霊に向かってくるだろう。

 人の世のつながりに心の底から嫌気がさして亀霊は嘆息した。


 「何万年生きようとも生と死はあらゆる生物の本能。一度、閃けば立ち枯れるまで止む事は無い。化け物よ、俺に斬られて命の輝きの美しさを存分に堪能するがいい」


 夏侯惇は亀霊の考えの通りに憤っていた。


 (策謀も糞もない。民が邪魔なら斬って殺せばいい。民草の仁や義など、どこぞの大徳にくれてやればいい。覇道とはそういうものだ)


 先の戦で宿敵袁尚を倒してから曹操の口から「大義」とか「仁気」といった胡散臭い言葉が出るようになっていた。

 年齢によるものなのだろうが曹操、夏侯惇らは乱世において常に茨道を歩かされた側の人間である。 

 そのような世迷い事を口にしていいわけがない。


 (※話が三国志になりそうなのでこの辺で止めます)


 夏侯惇は背後から荀攸と数名の部下たちに抑え込まれて引き下がった。


 「あのう、雲吞麺どん。あの夏侯惇さんはあくまで物語の登場人物なんでごわすよね?」


 光太郎は夏侯惇と亀霊の話を聞いた後、恐る恐る尋ねた。

 夏侯惇の放つ闘気は紛れも無く生ある者の物であり、先ほどまでの”まやかし”とは思えない。


 「私も同じ意見だ、雲吞麺。出来れば貴方の推測を教えて欲しい」


 とフラの舞も緊張しながら首を縦に振っている。


 「ああ、その話か。すまんね。キン星山、フラの舞よ。どうやらラーメン山の術が完全すぎてこの異空間の中に本物を召喚してしまったようだ。はっはっは。長生きとはしみるもんじゃな」


 と亀霊は笑いながら実に気楽に語った。キン星山とフラの舞は顔を青くして苦笑している。恐いもの知らずの相撲塾の猛者たちもあまりの出来事に驚きを隠せないでいた。

 中でも物知りの雷電は全員から質問攻めに遭い、心の底から困っていた(合掌)。


 一方、雲吞麺はいつの間にか夏侯惇と魏軍の騎兵たちの前に立っていた。

 一応中華服を着ている雲吞麺だったが、ヘアースタイルは異民族のものである。

 正直なところあまり良い雰囲気とは言えない。


 「ニーハオ」


 雲吞麺は渋面のまま頭を垂れて挨拶をする。

 夏侯惇が挨拶を返すことは無かったが荀攸が代わりに挨拶をした。

 準優は史書において「剛毅の人」と記されるだけあって笑っているのか怒っているのかよくわからない顔になっていた。


 「ニーハオ、ラー」


 二人は一歩前に進んで同時に礼をする。

 互いの挨拶が済んだところで荀攸は光太郎とフラの舞が橋の上で何をしているのかについて尋ねた。 


 雲吞麺は顎に手を当ていつもの偉そうな口調で答える。

 荀攸の護衛たちは雲吞麺の無礼な態度に苛立ちを覚えたが、荀攸は普段からかなり濃い面子に囲まれているので逆に妙な安心感を覚えていた。


 「異国の人よ。向こうの端の上に妙な建物がありますが、あれは何をする為の建物ですか?」


 「ふむ、よかろう(高飛車)。あれは相撲の土俵だ。あの二人は力士で変な顔の男はキン星山、金髪で褐色の男前はフラの舞という。彼らは互いの国の威信をかけて土俵の上で戦っているのだ」


 荀攸は雲吞麺が思った以上に話せる人間であることに気を良くした為か、次第に打ち解けた雰囲気となる。

 一方、雲吞麺は一刻でも早く試合を再開させようと立ち去ろうとするが夏侯惇はそれを許さなかった。


 「待て、雲吞麺とやら。俺たちは偉いヤツの命令でこの橋の向こうに行かねばらならん。男の勝負に水をさすような真似はしないから通して欲しい」


 夏侯惇は橋の向こうに見える峠を眺めている。

 遥か向こうに広がる峠道では今でもゆっくりと民草たちが移動していることだろう。

 仮に夏侯惇たちをこのまま通せば彼らは民を悪と見なして容赦なく虐殺することは必至だ。

 そうなれば光太郎とフラの舞は戦う資格を失い、果ては雲吞麺と相撲塾の猛者たちも元の場所に帰ることは出来なくなる可能性は十分にあった。


 「勝負は一日後には必ず終わります、夏侯将軍。今日はどこかに天幕を張り、待ってはいただけませんか?」


 雲吞麵は袖の中で両手を合わせ、恭しく頭を下げた。

 しかし、夏侯惇は仏頂面のまま雲吞麺の横を通り過ぎようとする。

 片方だけ残された瞳はいまだに橋の方角に向けられたままだった。

 

 雲吞麺の頭の剃ってある部分に汗が浮かんでいる。


 「駄目だ。俺がお前の茶番につき合う必要は無い。もしもどうしても引き止めたいと思うならばここで戦っても構わぬぞ?どうせその袖の下には何か隠しているのだろう」


 夏侯惇は後ろに飛び退いてから剣の柄に手をかける。

 雲吞麺は袖の下に仕込んだ暗器を出そうとしたが一つの影が彼の目の前に立った。

 相撲塾の猛者たちを束ねる頭に日の丸の鉢巻を巻いた益荒男、剣桃太郎に良く似た特徴を持つ青年だった。


 「片や頭を下げて一世一代の願いを出している男がいるというのに、もう一方は何も聞かずに刃先を向けて無道を働こうとする始末。天下の夏侯惇ともあろうが了見が狭すぎやしませんか?」


 剣桃太郎は腰を落として夏侯惇を見上げた。

 夏侯惇の顔から表情が消え失せて、腰の鞘から北斗七星剣を抜き切っ先を向ける。

 相撲塾の猛者たちと魏軍の精鋭たちは同時に殺気を放った。


 「この夏侯惇とて一介の戦士よ。意に添わぬ命令を何度も受ければ憂さの一つも晴らしたくなる日もある。小僧、名を名乗れ。地獄の亡者に夏侯惇の剣の冴えを教えてやるがいい」


 荀攸はすぐに夏侯惇を止めようと前に出ようとしたが魏軍の精鋭たちがそれを阻んだ。

 歴戦の将に比肩するほどの戦歴を持った荀攸がその程度で怯むわけもなく、さらに彼らの前に割って入り込もうとした。

 夏侯惇は曹操の精神的な支柱であり、もしも彼を失うことになれば曹操は二度と立ち上がることは出来なくなるだろう。

 彼の叔父、荀彧は夏侯惇に随伴して出撃する際にその事だけは言いつけていた。

 だがそれでも精鋭たちは荀攸が前に出ることを許しはしなかった。

 なぜならば相撲塾の猛者たちの胆力はそれぞれが魏軍の大将に匹敵するものだったからである。

 

 精鋭たちはあくまで荀攸の前に立って彼の盾となることを望んだ。


 しかしその時、さらに遠方より馬に乗った豪傑が現れた。

 鎧は刀で斬られ、棒で打たれ、槍で突かれてどうにか原型を保っているような状態だった。

 

 「双方、今しばらく待たれよ」

 

 男は返り血と泥で汚れた髭を手でこすって落とした。

 風雨にさらされてざんばらとなった髪と太い眉毛を見た時に夏侯惇の表情が一転する。

 餓狼の如き狂猛なる闘志は今や剣桃太郎からボロボロの鎧を着た豪傑に向けられていた。


 剣桃太郎の方も豪傑の正体に気がついて思わず破顔する。


 「これは面白い。阿瞞への土産話がまら一つ増えたぞ。いつぞやの宴会以来だな、劉備の義弟。張飛よ!」

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