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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
13/162

絶体絶命の危機!勝つのはどっちだ!の巻

男同士でまだ、くっついたままです。終わるまで離れません。

 俺は筋肉に命じる。耐えろ、と。

 今この時の為に費やしてきた時間を全て無駄にするつもりか。

 ここで負ければ、生きていないのと同じだ。


 俺の筋肉もまた応える。

 

 春九砲丸よ、俺も同じ気持ちだ。


 この時の為に努力を続けてきた。


 鍛えてきたのだ。


 俺は決してあきらめない。

 だからお前もあきらめるな。試合が終わったらせいぜい良いプロテインでも用意してくれ。


 「わかったぜ、相棒。俺も命を燃やし尽くすぜ」


 その時、俺はたしかにバトンを受け取った。

 このバトンを手に持って、勝利が待つゴールへとたどり着く。

 路傍の石のまま終わってたまるものか。


 死にかけの体に火が蘇る。

 神をも畏れぬ不届きものを縛る王者の戒めを、黄金の鎖を引き千切る時が来たのだ。


 その時、倫敦橋の手が本人も気がつかないうちにほんの少しだけ緩んだ。


 さあ、反撃の始まりだ。


 「この勝負、勝つのはお前じゃない。俺だ。最初から俺が勝つって決まっているんだよ!」


 ついに五体が自由を勝ち得た。

 反撃の体制を整える為に着地しなければならない。

 俺はまず身を捻って準備を整える。


 「甘いな」  


 俺はその時、倫敦橋の嘲弄を含む声を聞いた。

 すると黄金の鎖が再び、俺の五体を捕縛する。

 

 まさか、そんなまさか。罠だったのか!?

 

 何故だ。どうしてこんなことになった。


 自分の脇腹を掴んでいる倫敦橋の左手を見つける。


 仮面の奥からかわずかに息が漏れる。それは勝利を確信した者の微笑だった。


 「油断したな、春九砲丸。まさかお前はわすれていたのか。試合前に私は言ったはずだ。今の状態でも得意技、タワーブリッジ投げを使うことが出来ると」


 春九砲丸の背に押し当てられた倫敦橋の頭部。

 そして、わき腹をしっかりと掴んでいる倫敦橋の左腕。その威力は小動物を捕食せんとする猛禽類のそれに似ていた。

 囚われの身となった春九砲丸には脱出する術などあるはずもない。


 この形はまずい。


 「いいか、よく聞け。春九砲丸。お前をこのまま膝の上に落とす。それで私の新しい必殺技は完成する。ワンハンド・タワーブリッジ投げがな」


 「あきらめてたまるかよ。たとえ腕が使えなくなっても、背骨が折られても、この勝負に勝つのは俺だ!」


 倫敦橋は春九砲丸の巨体を片腕で己の膝に向かって落とす。

 春九砲丸は手を掴んで抵抗を続ける。


 このまま落とされてなるものか。

 タワーブリッジ投げが決まれば勝敗が決する。

 傷ついた右腕が悲鳴を上げる。

 もう少しだけでいいから堪えてくれ。


 「全力の勝負を求めていたのはお前だけではない。私も同じだ。否、誰よりも真剣勝負を求めていたのはこの私だ」


 ずるり。


 その時、腕を掴んでいた指が外れた。

 倫敦橋の強力の前に屈する春九砲丸の右腕。

 力の無い微笑。春九砲丸は自分の右腕に感謝した。

 今までありがとう。お前はベストを尽くした。だからゆっくり休んでいてくれ。


 「春九砲丸。お前があの時、名乗り出てくれて本当に感謝している。名門の一族に生まれ、貴族としての振る舞いを強要されてきた私には全力の勝負など許されるはずもない。だが、お前はそんな臆病な私の前に出てきてくれた。ありがとう」


 ついに力の均衡が破られる。

 春九砲丸の二本の腕力をもってしても本気の倫敦橋は止められなかったのだ。

 春九砲丸は絶望し、涙を流す。

 スモーレスラーが力で挑んでおきながら、力で敗北してしまった。


 こいつには逆立ちしても絶対に勝てない。

 やはり生まれや育ちで強さ決まってしまうのか。

 自分の努力は全て無駄だったのか。


 「ハル!張り手だ!張り手をかましてやれ!お前の張り手なら手打ちでも十分な威力がある。逃げることは無理でも完全なタワーブリッジ投げを決めることはできないっ!」


 その時に聞こえた親方の声が本人のものであったかどうかはわからない。

 しかし、春九砲丸は一縷の望みを託して張り手を放つ。

 同時に春九砲丸は背中から膝に落とされた。

 激流に飲まれた岩が滝つぼに落とされて粉々に砕け散る。

 試合前の予告通りにタワーブリッジ投げが決まった瞬間だった。


 やや時間が経過した後に土煙の向こうから一つの影が現れる。

 口の端から血を流し、両目は虚ろ。戦いの前に見せた精悍さは見る影もない。

 

 だが、男は立っている。

 勝負を続けるために。勝負に勝つために、立ち続けているのだ。


 その男の名は、春九砲丸。


 「休憩時間は終わりだ。それともこのままモルグに直行するのか、倫敦橋」


 減らず口にもいつもの勢いはなかった。

 口内に溜まった血を吐き出した。ドロリとした唾液と血液に砕けた歯が混じっていた。

 両腕に感覚はない。脚も似たような感じだった。


 だが、戦える。戦えるのだ。


 彼は生まれついてのスモーレスラー、即ち戦う為に生まれてきたのだ。


 「黙れ、ド畜生が。俺がこの世でただ一人のスモーナイトだ。俺の親父でも爺さんでも、まして祖先であるサー・我上院ガウェインでもない。俺が英国最強のスモーレスラー、倫敦橋だ」


 倫敦橋の仮面は着地の衝撃で歪んでいた。

 正しく怒りの形相。

 倫敦橋の視界を遮る仮面のひさしを引き千切る。

 折れた指がさらにねじれてしまったかもしれない。

 

 かまうものか。


 今、戦わずしていつ戦う。春九砲丸よ、


 私も否俺も同じだ。


 戦う為に生まれてきた。

 ここで命が尽き果てようとも、俺はお前を殺して俺の正しさを証明する。


 ガツッッ!!!春九砲丸、倫敦橋の額がぶつかり合った。


 本日最後の立ち合いの合図である。

次回、決着がつきます。

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