第九十七話 名もなき戦士たちの戦い‼の巻
一日遅れてしまったでごわす。ごめんなさいでごわす。
次回は六月十六日に投稿するでごわす。
虎丸(仮)と富樫(仮)は自力で立ち上がろうとする光太郎のもとに向かおうとした。
しかし、彼らが走り出そうとしたところで雲吞麺が行く手を遮る。
「どこへ行くつもりだ、虎丸(仮)と富樫(仮)よ」
「フンッ!どこへ行こうとワシらの勝手じゃ!あのキン星山とかいう力士のところに行って肩でも貸してやるだけじゃ!のう、富樫!」
「その通り。男、富樫源次(仮)と虎丸竜次(仮)の武士の情けじゃ!」
虎丸(仮)と富樫(仮)は雲吞麺の静止をふり切って光太郎のもとに向かう。
その頃、光太郎はうつ伏せの状態から立ち上がろうとしていた。
二人は光太郎の上半身を持ち上げようとしたが断られてしまった。
光太郎は不満そうな顔をしている虎丸と富樫に向かって詫びを入れる。
二人の助けは素直に喜ぶことが出来たが、今だけはその厚意に甘えるわけには行かない。
自力で立ち上がり、砂塵の向こうに消えたフラの舞を追いかけなくてはならないのだ。
「どこのどなたかは存じませんが、おいどんは大丈夫でごわす。どうかその手を引っ込めてくだされ。今ここで誰かの手を借りるようではおいどんはこの先、戦う資格さえ失ってしまうでごわすよ…」
光太郎は背中に強烈な痛みを覚え、膝を折ってしまう。
フラの舞の叩き込みの乱打を食らいダメージが残っていたのかもしれない。
勝負から逃げるという選択肢が無かったわけではないが、そうはしなかった。
(この戦いを選んだのはあくまでおいどんの意志でごわす。おすもうさんが土俵から出て行く時は勝った時と敗北を認めた時でごわすよ)
その時、重傷を負い家を去った兄・翔平と引退を控えた大神山の顔が見えた。
土俵を去りたくて去った者など誰一人としていない。光太郎の心がそう叫んでいた。
「しかしアンタのそんな姿で…」
虎丸と富樫は肩を貸そうとするが光太郎は丁重に断った。
それから第二戦の会場に到着するまで、光太郎は何度も倒れそうになったが他者の力を借りるような真似はしなかった。
そんな光太郎に向かって男塾一号生…みたいな筋肉隆々の男たちは声援を送る。
当初は戯言と目を背けていた伊達臣人に似ているかもしれないしやっぱり似ていないかもしれない男は終盤には「後もう少しだ!」と大声で応援する。
雲吞麺はいつの間にか一人だけ「赤兎馬」という名札を首からかけた白馬に乗って若者たちの姿を見ている。
光太郎と男塾の一号生たちは猜疑心に見た眼で雲吞麺を見ていた。
赤壁相撲、第二戦の会場は断崖絶壁に囲まれた吊り橋の上にあった。
先ほど魏軍の追撃を逃れた民草たちは風に揺らされる度にギシギシと音を立てる橋を渡れないでいる。
フラの舞は老人と子供たちが来た道を引き返さないように、兵士たちと一緒に彼らの説得をしていた。
光太郎は小走りでフラの舞のところに向かう。
フラの舞は無事、復帰してきた光太郎を見て安心と呆れの半分といった表情を作る。
二人は兵士と民衆が何を言っているのかはわからなかったが、とにかく列を乱さないように気を配る。
ほどなくして白馬に跨った雲吞麺と男塾の一号生っぽい集団が到着する。
「これは何という数のお百姓さんたちじゃああ…。富樫、もしもの時はお前が何とかするのじゃぞ?」
「馬鹿を言え、虎丸。殿を守る為に敵地に一人、残るのはお前の仕事じゃねえか。虎丸よ」
富樫と虎丸は互いの身体を押して敵の前に出そうとした。
あまりにも見苦しい行為に業を煮やした伊達は二人を槍で殴って下がらせる。
そして魏軍の兵たちに向かって己の懐刀たる三面拳を連れて出ようとした時に雲吞麺から静止の声が上がった。
普段の伊達ならば堂々と無視をしたところだが、その時の雲吞麺の尋常ならざる気迫を感じ取ってその場に止まる。
「待つヨロシ。伊達臣人(に似ているかもしれない他人の空似)よ、噂以上の勇猛な男よな。だがフラの舞とキン星山の戦いは既に始まっている。…今からこの場に張飛山が現れるまで二人には魏軍の力士と相撲で勝負してもらおうか」
「まさか、これは伝説の決闘方法…”長坂の大喝”。今の時代にこの決闘方法に挑む者がいたとは…ッ‼スモーオリンピックとはかくも恐るべし大会だったのか…ッ‼」
雲吞麺の言葉を聞いた瞬間、雷電の目がカッと見開き大声を発した。
周囲の注目は自然と雷電に集まる。
雷電は額に浮かび上がった大量の汗を拭いながら光太郎、フラの舞、魏軍の兵士たちを順に指でさしていった。
富樫と虎丸はわけもわからずに口から泡を吹いて目を回している。
剣桃太郎は目を閉じながら不敵に笑いつつ雷電に伝説の決闘方法について尋ねた。
原作を読んでいる時に気がついたのだが、剣桃太郎の賢いところはわからない話があったら素直に他人に聞くことが出来るという部分だろう。
ベジータやうちはサスケにはこういうことが出来ない。
( ふじわらしのぶ書房刊 「聞くは一時の恥。知ったかぶりは一生の恥」より抜粋 )
「知っているのか、雷電。その伝説の決闘方法とは一体どんな方法なのだ。教えてくれ…」
雷電は自慢のナマズ髭を引っ張りながら相変わらず難しい顔をしている。
剣たちは己らの無知が雷電の機嫌を損ねてしまったのではないかと動揺していたが内心では溜め込んだ薀蓄を発散できると大喜びしていた。
しかし、雷電のやたらともったいぶる悪癖はつき合いの長い伊達や他の三面拳ですら知らない事実だった。
(いや!むしろ進行役であるワシに何故聞かんのだ…ッ‼)
雲吞麺は着物の袖を嚙みながら悔し涙を流していた。
そして雷電の無駄な知識披露タイムが始まる。
「フッ、我らの大将たる剣殿が知らぬのも無理からぬこと。この決闘方法は考案者、張飛翼徳自身によって闇に葬られてしまったのだからな…」
”じゃあ雷電はどこでどうやって知ったんだ?”とはその場にいる誰も聞かなかった。
普段ほとんど表情を出すことがないジェイと月光でさえ全身から汗をかきながら雷電の次の言葉を待っていた。
「今より二千年以上前の中国で”長坂の戦い”が起こった。この戦いで蜀軍は張飛翼徳の一騎のみで魏の大軍を追い払ったと言い伝えられているが、それは真実と異なる出来事。隠された真実とは張飛は魏軍の妨害に遭って到着が遅れてしまい、名も無き兵士たちの勇敢な抵抗により百姓たちは生き延びることが出来たという…。張飛翼徳は名も無き兵士たちの奮闘を後世まで称えようとしたが彼らの生き残りは断固として是を拒んだ。その理由とは”後世に名を残すことは義ではないから”というものだったらしい」
雷電の話を最後まで聞いた者たちは蜀軍の名も無き兵士たちの壮絶な覚悟に感嘆の息を漏らした。
伊達だけは「死んじまったら何もならねえだろうが…」と多少、捻くれた感想を述べる。
雲吞麺も中国人枠として張飛と兵士たちの義侠心溢れる行動に涙を流していた。
「流石は雷電じゃあ…、何でも知っておる。ではこの後、キン星山とフラの舞は何をさせられるというのじゃ?」
雷電は無言でつり橋の反対側の方角を人差し指でさした。
そこには土煙を上げながら馬に乗った魏軍の兵士たちが次々と姿を現す。
光太郎とフラの舞は現場に向かって兵士たちを追い返そうとしている。
だが魏の総大将、隻眼の鬼将軍として知られる夏侯惇から劉備を捕縛する命令を受けた兵士たちが説得に応じることは無い。
二人はすぐに兵士たちに囲まれて相撲のバトルロワイアル状態になっていた。
ここでも光太郎とフラの舞は即席のタッグを結成して、魏軍の力士たちと戦いを始める。
さながらその光景はアーケードゲーム「天地を食らう2」のように見えた。
前回の戦場では魏軍の猛攻に一定時間、耐えれば退却した。
しかし、今回は敵も焦りを感じている為かいくら倒しても退却しない。
さらに二人は先ほどの戦いで体力を消耗している。
次第に肩が下がり、息も荒くなっていた。
その時、剣桃太郎は学ランの上着を脱ぎ捨て、腹にはサラシ、腰には黒いまわしといった姿で戦場に向かおうとする。
親友の心意気に絆され、共に戦場へ向かおうとした虎丸と富樫とジェイに先んじて伊達が前に出た。
「おい、剣。テメエは大将のくせにどこへ行くつもりだ?…まさかあの戦いに加わるつもりじゃねえだろうな」
伊達は満足な答えが得られなければ、一戦交えるも止む無しといった様相で剣桃太郎に覚悟のほどを問うた。
剣桃太郎は止まってから四股を踏む。
そして伊達の方を見ながら苦笑した。
「悪いな、伊達。どうやら俺はさっきのあの二人の戦いを見て生き様に惚れ込んでしまったらしい」
剣桃太郎は手を振ると光太郎たちのところに向かって走る。
「流石は桃!ワシらの大将じゃー!」
「がはははッ!相撲塾の魂を見せてやるぜー!」
「COME ON! GET SERIOUS!」
虎丸と富樫とジェイは親友に追って魏軍と光太郎たちの戦場に向かった。
伊達は呆れ顔でため息をついた後、腹心たる三面拳を一瞥する。
飛燕は薄く笑い、雷電は上着を脱ぎ、月光は合掌をして頭を下げた。
「聞くまでも無かったか。やれやれ、物好きな奴らだ。雲吞麺、俺たちは戦いに加わりに行くがアンタはどうするつもりだ?」
雲吞麺は一喝入れると上着を脱ぎ捨てる。
「フン。若さとは度し難いものよ…ッッ‼」
本人は現役を退いたと言っていたが、中華礼服の下からは鋼の筋肉に覆われた見事なまでの力士の肢体が正体を現す。
伊達は皮肉っぽく笑うと三面拳、雲吞麺と共に戦場に向かう。
義を見てせざるは勇無きなり。これこそが”どすこい!相撲塾!”(※来春、連載開始予定)の心意気である。
かくして光太郎とフラの舞、相撲塾の一号生たちは並み居る魏軍を相手に奮戦を続ける。
そして一時間後、光太郎たちは義軍の兵士たちを全て倒していた。
「恩に着るでごわすよ、相撲塾の兄ちゃんたち。あんさんらがいなかったらどうなっていたことやら」
光太郎は鉢巻を締め直している剣桃太郎に握手を求めた。
しかし、剣桃太郎は首を横に振って是を断る。
つり橋の中間地点に突如として現れた土俵を見ていた。
フラの舞は相撲塾の面々に頭を下げて先につり橋を渡っている。
これ以上、この場に止まれば光太郎と相撲塾の力士たちに妙な愛着を覚えてしまうからであった。
「礼なら要らんぜ、キン星山。なぜならアンタとフラの舞の戦いはこれから始まるんだからな」
光太郎は土俵に向かおうとするフラの舞の姿を確認すると足早に後を追いかける。
その際に剣桃太郎たちに礼を言う事を忘れない。
「恩に着るのはこっちでごわすよ!相撲塾の兄ちゃんたち、いつか同じ土俵に上がることがあればおいどんと力いっぱい勝負をして欲しいでごわす!これは男と男の約束でごわすからな!」
光太郎は忙しない様子でつり橋の袂まで走って行った。
「ケッ、日本代表ともあろう男が…」伊達は満更でもない様子で地面に唾を吐いていた。
剣桃太郎は白い息を吐きながら地面に座り込んでいる富樫と虎丸の様子を見ながら光太郎にエールを送った。
「こっちこそ。その時は全力で相手してくれよ、キン星山先輩」
かくして張飛の到着を前に光太郎とフラの舞の第二戦が始まろうとしていた。
雲吞麺は遠間から土俵の上に立つ光太郎とフラの舞の姿を見る。
相撲拳法の達人の目には既にこの時、戦いの結末が見えていた。