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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第九十六話 受け継がれし技‼の巻

やたー!まにあた!まにあたよ!


 (間に合ってない。一日遅れている)


 次回は六月十一日に投稿するでごわすよ!


 フラの舞はラーメン山の言葉を思い出していた。


 ”最初に組んだ時に全てを賭けろ”と、フラの舞は聞いた当初はラーメン山らしからぬ焦った言葉に耳を疑ったものである。

 しかし、こうして光太郎の身体を抑えた瞬間にその真意を理解する。

 光太郎は今こうして組み合っている間にも力士として成長している、放っておけば試合中にフラの舞の実力を超える可能性も決して否定できまい。

 

 だが真実を間違えることはない。

 今、実力が勝っているのは紛れもなくフラの舞の方である。


 フラの舞は絶妙な場所取りを終わらせるとすぐさま光太郎を投げにかかる。

 仮にキン星山が羽合庵の技術を全て受け継いでいるとすれば試合の流れを強引に作るような速攻に対しては受け身の姿勢で対応する可能性が高いという予測から生まれた行動だった。

 フラの舞は本来、ハワイ出身の力士に多い短期決戦を得意とする速攻型だった。

 しかし、今回に限りこだわりを捨て敵を絡め手で仕留めるという作戦を採用した。

 そして光太郎は予定の通り”へのへのもへじ投げ”でフラの舞の猛攻を凌ごうとする。


 光太郎は一度、身体を後方に引いてフラの舞に攻め入る隙を見せた。

 強引に攻める時には一瞬の隙が生じる。

 フラの舞は誘いに乗って距離を詰めた。光太郎はフラの舞に押されて後退させられる。

 フラの舞は光太郎の踵の動きを見逃すことはない。

 楔のように土俵に打ち込まれ、頑としてその場から動く事は無かった。

 フラの舞は要所で光太郎の力の流れを断ち切って得意とする間合いを全て封殺される。


 ”キン星山は相撲の試合の経験値が足りていない。ゆえに試合に臨む時はじっくりと腰を据えろ”


 光太郎は体勢を維持しきれずに強引に手を切って距離を取る。

 光太郎にとっては怪我の功名、フラの舞にとってはラーメン山の言葉が思い出される瞬間でもあった。

 フラの舞は距離を詰めずに立ったまま構えて光太郎の出方を待った。


 (見切られたでごわす。これがハワイの若き王者の実力でごわすか…)


 何もしない時間が妙に長く感じられた。

 もしかするとこのまま何もしないうちに試合が終わってしまうかもしれない。

 光太郎の思考は袋小路の隅に追いやられ、次第に焦りが生じる。


 光太郎は土俵を蹴ってフラの舞に直進した。


 「今の攻撃は自信があったんだがな。この程度で心は折れてくれないか。流石と言っておくぞ、キン星山ッ‼」


 フラの舞は光太郎の身体を正面から引き受けた。

 背中側から首、まわしを抑えられて光太郎は一気に上から潰すも良し、横にぶん投げるも良しといった状態の窮地に陥る。

 フラの舞は首から手を外して間髪入れずに左側に向かって投げた。

 光太郎の身体は受け身が取り辛い体勢で地面に転がされることは無かった。

 逆に勢いをつけ回転してから着地する。


 キン星山の奥義、”へのへのもへじ投げ”が功を奏した一瞬でもある。


 フラの舞は両手を胸の上に構え、張り手の準備をする。


 フラの舞は最初からラッシュに持ち込むのは光太郎が立ち上がってから、と決めていた。

 無論、フェアプレイ精神からではない。

 連敗ストッパーの構えを意識した選択肢である。


 (羽合庵は攻守の切り替えにおいては俺の親父を遥かに上回っていた。だから俺は、お前が立ち上がるギリギリまで攻め込まない。この一手、どう対処する気だ。キン星山‼)


 この時、光太郎の頭の中には攻撃の続行という選択肢だけだった。

 現時点で光太郎が”崖っぷちのど根性”の状態まで気勢を高める為にはある程度の体力、気力の消耗が必須の条件だった。


 かくして二人は独自の思考を展開しながら壮絶な攻め合いを始める。

 光太郎の張り手がフラの舞の肉体を弾いたかと思えば、今度はそこから一歩踏み込んだフラの舞が光太郎の肉体を突っ張りで押し返す。

 二人の姿は火を吹く活火山の姿を思わせた。

 素人目には攻防一体押しも押されぬ五分の状況に見えたが、その実は違う。

 身を削り合う張り手の応酬は完全にフラの舞が好む戦いだった。

 その事に気がついた虎丸竜次によく似た男が、やはり富樫源次によく似た男に光太郎の動かしがたい不利を告げる。


 「のう、トガシ(っぽい男)。あの日本の力士っぽい兄ちゃん、少しやばい事になっておらんか?段々その何というか…」


 「ああ、俺も気がついたぜ。トラマル(っぽい男)。日本の力士の方は、金髪のイケメンの方に完全に飲み込まれている。このままでは土俵際に押し切られるのも時間の問題だぜ」


 虎丸と富樫は口から大量の泡を吹いていた。

 彼らの隣に立つUSAはスーパーポリスアカデミー(※アニメ版の設定)から来た留学生ジェイは次の試合の為にシャドーボクシングで身体を温めていた。

 しかし、彼らは今回社会見学の授業でやってきたので戦いの出番は無い。

 剣桃太郎(っぽい男)は熾烈な戦いに魂を昂らせる級友を諫めようと肩を軽く叩いた。


 「落ち着け、キングバトラージュニア(っぽい男)。あの日本の力士は何の作戦も無しに敵の得意とする領域テリトリーに踏み込んでいるわけじゃない。攻略する糸口を掴んでいるからこそ敵に向かっているんだ」


 キュッ、キュッ。


 ジェイ(っぽい男)は大地を滑るように軽やかなステップを切る。

 よく考えてみると巨体からは考えられないほどのスピードだった。

 そして左右にワン・ツーを放ち、剣桃太郎(っぽい男)に向き直った。

 アメリカ人らしい豪快なパフォーマンスを見た伊達は「キザな野郎だ」と言ってツバを吐き出した。その近くでは紅いロン毛の男、飛燕が居心地の悪そうな顔をしていた。


 「ワット?モモ、ソノ方法トハ?」


 ジェイは剣に向かって尋ねる。

 この男、日本語は苦手ではないのだが外国から留学してきたアメリカ人というイメージを崩さない為にクラスメートと話す時はカタカナで喋っているように話ている。

 桃太郎は両目を伏せてキン星山に向かって指をさす。光太郎の反撃は既に始まっていた。


 壮絶な撃ち合いの中、負けて後方に追いやられたはずの光太郎は途中で息を吹き返したのだ。

 光太郎の頭突きがフラの舞の顔面を潰す。普通の格闘技ならば決定打になっていたかもしれなかったが、相撲ではごくありふれた状況にすぎない。

 逆にフラの舞はショートアッパーのような張り手で光太郎の顎を突き上げる。

 光太郎は着弾と同時に後退して張り手の威力を殺しながら距離を置いた。

 この時点で光太郎はフラの舞の猛攻から脱出成功。勝負は振り出しに戻る。


 「アンビリバボー、アレガカミカゼ…。キンホシヤマトハオソルベキスモーレスラーダ…」


 ハワイ、USA本土の相撲を知るジェイから見ても異様な戦いだった。

 本来なら敵の射程範囲を見切るなりして間合いには決して近づかないようにしなければならないのだが、逆にキン星山はフラの舞の得意と間合いに自分から入ったのだ。正気の沙汰ではない。

 しかし結果としてキン星山の選択は正しくフラの舞は敵にまんまと逃げられて戦略を潰された形となっている。

 その証拠にフラの舞は先ほどから追撃する様子を見せてはいない。

 下手に踏み込めば逆襲を受けることを知っての行動だろう。


 「どうしたのでごわすか、フラの舞殿。得意の”火山ボルケーノ”はもう終わりでごわすか?」


 攻撃に特化したハワイ相撲の”火山ボルケーノ”の型には一度、攻撃が途切れてしまうと体勢を立て直す事が難しいという欠点が存在した。

 フラの舞は歯を食いしばり己の見通しの甘さを呪った。

 フラの舞はラーメン山から注意を受けながらもキン星山を格下と考えていたのだ。


 (窮鼠猫を嚙むどころではない。俺はまだキン星山を簡単に勝てるあ相手と思っていたのだ)

 

 光太郎は直進し、迷わずフラの舞のまわしを取った。

 フラの舞は舌打ちをした後、光太郎の手を強引に千切る。


 「どうやら”火山”と”嵐”は学習済みのようだな、キン星山。だがハワイ相撲の戦法がたった二つだけではない。それを教えてやる…ッッ‼‼」


 その時、雲吞麺の両目がカッと見開かれる。

 それはハワイの絶対王者と恐れられた古き時代の力士が得意とする技だった。

 フラの舞もまた自然と口元を緩ませている。

 その技は、今の今まで使った事のない技だった。

 以前のフラの舞は周囲には破れて死んだ男と嘲り、罵り続けた因縁の技。

 しかし土俵ではない場所で、病院のベッドの上で無念の死を迎えた男が得意とした技の訓練をフラの舞はただの一度も欠かしたことはない。


 「アイヤー‼あの技は…ッ‼ワイキキの浜の伝説の技”凪”ッッ‼」


 ワイキキの浜が現役時代に得意とした技、”凪”とはノーモーションから放つ両手打ちだった。

 技の外見は突き出しに似ているが、最初から両手を出した状態で放つ為に技の発生を見切ることが難しい。

 だがこの時の光太郎にとっては既知の技。

 羽合庵と美伊東君はフラの舞が試合の重要な局面で使う技の中でも特に優先順位の高いものとして注意するように言われていたのだ。

 光太郎は”凪”対策の連敗ストッパーの構えを取る。

 ”凪”の弱点とはノーモーションの技であるがゆえに威力と狙う部位がある程度絞られてしまうことにあった。


 光太郎は交叉した両手でフラの舞の”凪”を受け止める。

 だがその光景を伊達臣人に似た男は両腕を組んで冷めた瞳を向け、三面拳の月光によく似た男は両目を閉じたまま顔中に汗をかきながら見届ける。いずれも知れた結果だった。


 「どうしたのですか、月光。顔がすぐれないようですが?」


 飛燕によく似た男は心中穏やかならざる月光に声をかける。

 月光は正気を取り戻し、飛燕と雷電の方を向く。


 「ぬう、我としたことがとんだ醜態を演じてしまったようだな。すまぬ、雷電、飛燕よ。まさかこのような場所で中国にいにしえから伝わる言葉”呉下の阿蒙に非ず”と相対することになるとは…。この月光、一生の不覚」


 「心配するな、月光。この雷電とて同じ心境よ。あれこそは”男子三日合わされば刮目して見るべし。呉下の阿蒙に非ず”の図よ。キン星山とやら、己の力量を見誤ったな。お前が厳しい修練の果てに力を得たように、フラの舞もまた強くなっていたのだ」


 男子三日合わざれば刮目して見るべし、とは‼かつて呉の猛将呂蒙が呉の最大の智将周瑜が亡くなった後に勉強しまくって交渉術とか戦略・戦術とかを覚えて見事に周瑜の代わりを務めたという話があったとかなかったとか、そういう話である。

 じゃあ赤壁関係ねえじゃんとか言わない事。 


 ~ふじわらしのぶ書房”呂蒙が関羽を倒す為に商人に化けたって話、無理がありすぎね?”より~


 話は本編に戻る。


 光太郎が連敗ストッパーの構えに移行した瞬間、フラの舞は”凪”を止めた。

 そして動きを両手突きから掴みに変化させる。連敗ストッパーの構えにも、敵が戦型を変えた場合に対応が遅れてしまう弱点が存在したのだ。

 光太郎はフラの舞の攻撃の狙いが打撃から投げに変わったことに気がつく。

 重心を後ろに下げて、何とか体勢を崩されまいと食い下がった。


 「甘いな、キン星山。それもフラの舞の狙いのうちだ。押して引くだけが相撲じゃねえよ。もう一つ、単純なのがあるだろうよ…」


 フラの舞は両手を頭上に掲げる。

 その技こそが今回の戦いの最大の本命、羽合庵が現役時代にワイキキの浜の連勝を止めたもう一つの因縁の技だった。


 伊達は結果の分かった勝負から目を背け、地面に唾を吐く。

 今の光太郎の姿にかつて剣桃太郎に敗れた己の姿を重ねていた。


 フラの舞は掲げた両手を光太郎の背中を全力で叩き、押し潰す。

 その技の名は”太陽”、今はほとんど使われなくなったハワイ相撲の技だった。


 「上からでごわすと…⁉ぐはッ⁉」


 光太郎は屈んだ状態から地面に叩きつけられる。

 文字通り、頭から縦に押し潰された。

 ただの一度ではない。

 フラの舞は光太郎が起き上がれなくなるまで何度も何度も背中を叩きつけた。

 数十秒後、光太郎は白目を剥いてうつ伏せになっていた。

 フラの舞は叩き込みを止めて土俵中央に戻る。


 雲吞麺は白目を剥いた光太郎の隣に向かって脈を計る。

 意識を失っていたが、しっかりと脈は動いていた。

 雲吞麺はナマズ髭を投げおろし、右手を上げる。


 「キン星山、死亡確認ッ‼勝者、フラの舞‼」


 実際には光太郎は死んではいないのだが定例の挨拶だったので誰も文句は言わなかった。


 フラの舞は地に伏した光太郎を一顧だにせず「先に次の試合場で待っている」というセリフを残して出て行ってしまった。

 光太郎はわずかに意識を取り戻しながら悔し紛れに土俵の土を掴む。


 どれほどの覚悟を重ねたところで敗北は敗北にすぎなかった。

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