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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
12/162

炸裂、伝家の宝刀タワーブリッジ投げ!の巻

 しつこい、と思われる方も大勢おられるでしょうが今回も二人の男が裸で組み合っているだけのお話です。ちなみに後2、3話はこういう感じで続きます。それが宿命。


 王者の脳裏に響く父の声。英国角界の至宝、倫敦騎士。

 現役から引退した今でも倫敦橋にとっては一目を置くスモーレスラーである。

 そんな男がある時、こんなことを言っていた。


 「聞け、倅よ。我上院部屋の力士たるもの、格下と戦う時には上手投げで決着をつけるのだ」


 倫敦橋は、過去この意見に何度も反論した。

 対戦相手を上から見下すようなやり方で勝つことが紳士のふるまいとは思えぬ。

 だが、そんな時に限って、彼の父は息子の言葉に耳を貸さない。


 「そして、いつか格下に倒されるのも王者の責務だ。その時は上手投げで倒されてやれ」


 父は言っていた。

 いつの日か、断髪式のその時まで。王者は王者として振る舞い続けなければならないのだと。

 倫敦橋はそれが運命だと、今この時思い知るのだ。

 彼の人生初の強敵、春九砲丸との勝負の中で。



 決まり手は上手投げ。

 

 倫敦橋は最初からそう決めていた。


 上手投げこそ、王道。

 相手のまわしを上手から取り上げてから投げる。


 強敵、春九砲丸が相手であってもこれは変わらない。譲らない。

 その剛力でまわしを掴み、ごく自然に上手へと導く。

 そして、あたかもそれが宿命だと言わんばかりに春九砲丸の肉体を引きつける。

 後は下に向かって転がすだけ。

 片手しか使えない春九砲丸にはこれを防ぐ手段は無い。


 「今日の敗北をかてにまたここまでのし上がって来い。私はいつまでも君の挑戦を待つ」

 

 倫敦橋は技の自然落下にわずかな手を加える。

 景色が一転して、春九砲丸は大地に叩きつけられる。


 そのはずだった。


 それに気がついた倫敦橋の紳士にはふさわしくない態度、舌打ち。

 かろうじて、わずかな力の均衡が保たれている。

 投げようとしても動かない。

 倫敦橋のまわしを仕立てから握りしめる手。

 それは春九砲丸の使えなくなったはずの右手だった。


 「そのセリフ。そっくりそのまま、アンタに返すぜ」


 春九砲丸の負傷した手から血が流れていた。

 その血まみれの手で、倫敦橋のさらに上からまわしを取っていた。


 腕が引き千切れてもいい。


 傷ついた腕がさらに噴血。


 感覚はおろか苦痛さえ感じない。

 だが、それゆえに限界を超えた力を発揮する。


 倫敦橋、これが俺の覚悟だ。


 下手から強引にあるべき形を作る。

 その時、春九砲丸の下半身を襲う苦痛に表情が歪む。

 苦痛に脛と内股に重爆攻撃。

 倫敦橋の脚が容赦ない蹴たぐりを仕掛けてきたのだ。

 土俵上で弧を描きながら繰り広げられる死闘。

 まわしを取り、足を刈る。

 かと思えば、その場で踏み止まり、まわしを強引に引き寄せる。


 風塵が舞い、怒濤の勢いでぶつかり合う戦いの神たち、二柱のスモーレスラー。

 両者の頭突きが、張り手が、互いの身を削り合う。


 「やはりどこまでも甘いな。春九砲丸、奥の手を持っているのが自分だけだと思っていたか」


 下にだらりと伸びた春九砲丸の右腕。そこに感覚は残っていなかった。



 まさか、お前もなのか。

 度重なる頭突きの応酬で血まみれになった春九砲丸は倫敦橋の右腕を、信じられないものを見てしまった。

 あるはずのないものを見てしまったのだ。

 倫敦橋の腕を覆うギプスは砕かれ、故障個所を補強するテーピングもまた解かれている。

 そして、現れたのは春九砲丸と同じくもしくはそれ以上に損傷した右腕だった。


 倫敦橋は何度か拳の形を作り、傷の治り具合を確かめた。

 悪くない。ベストには程遠いが、一度くらいならば行ける。


 「倫敦橋坊ちゃま。あのお方はどこまでもスモーレスラーなのだ」


 倫敦橋の執事ウォルターは呻いた。

 そもそも満身創痍の身で土俵に出るという行為自体が紳士の振る舞い即ちスモーナイトの取るべき行動ではないのだ。

 敵の傷が癒えるまで試合の日を延ばすという選択肢もあっただろう。

 しかし、若き主人は傷ついた腕の治療を受けながらウォルターに「スモーレスラーには全てを失うことになっても戦わなければならない時がある。そして、今がその時なのだ」と語った。

 ウォルター自身もスモーレスラーとして活躍していた経歴がある為か、その気持ちが理解できないわけではない。

 だが、もしも倫敦橋がこの試合で選手生命が絶たれてしまうような怪我をすれば我上院部屋の存続が危機に晒される可能性さえあるのだ。

 その時が来る前に降伏を意味する手拭いを投げ入れるべきか。だが、ウォルターの苦悩をよそに事態はさらに進展する。

 

 春九砲丸、倫敦橋の二人は互いに傷ついた手を使って互いのまわしを取り、四つがっぷりの状態にある。 こうなってしまっては例え手拭いを投げ入れてもすぐには試合を中止することは出来ない。

 


 今は亡きパーシバル親方(倫敦橋の祖父、ウォルターの同期の力士だった男)。

 

 先代様(倫敦騎士のこと)。


 どうか倫敦橋坊ちゃまをお守りください。

 忠臣ウォルターは主人の勝利を天に祈るばかりであった。


 「この技に耐えることが出来れば、お前の勝ちだ。春九砲丸ッ!」


 全身全霊、五体そして魂さえも燃やし尽くす。

 倫敦橋は身を沈ませて、下手から春九砲丸の体を持ち上げようとする。

 その力はテムズ川の激流ごとし、天下の剛腕として知られる春九砲丸も飲まれぬように抗うのが精一杯であった。


 息が、息が出来ない。

 春九砲丸は姿勢を崩されぬように腕と背中、そして腰を使って何とか食い下がろうとする。

 呼吸を中断させるような強烈な圧迫感。


 噂には聞いていた。

 試合の時の倫敦橋の腕力は深海の悪魔クラーケンの起こしたメイルシュトロームだと。


 抗い続ける。力が追いつかない。

 

 切らせない。

 

 いや、絶対に断ち切る。


 海流から生じた荒波が一縷の望みを絶ち切った。

 ついに春九砲丸の左手が倫敦橋のまわしから外れてしまう。

 そして、この機を逃す倫敦橋ではない。

 彼は春九砲丸の巨体を持ち上げると、背中に頭を突き立てそこから首と太腿を押さえつけて山折りにする。

 その流麗な動作には一切の継ぎ目などなく、また割り込む隙間さえ存在しなかった。

 盤石にして、完全なる奥義。

 この技こそが後の第二回スモーオリンピックの決勝戦でキン星山に破られるまで不敗伝説を築き上げた倫敦橋の必殺技、タワーブリッジ投げである。


 「この技で死ね、春九砲丸。お前は怒れるドラゴンの尾を踏んだのだ。これは決闘ではない。処刑だ。お前は死してそのはらわたを万民のもとに晒すのだ。お前の流した血がッ!見るも無残な死体がッ!私の最強伝説のいしずえとなるのだッ!!」


 バキッ!バキバキバキッ!ボリボリッ!

 そんな感じの音が聞こえたような気がした。

 時を同じくして、背骨が悲鳴を上げる。

 春九砲丸は体を左右に振って、自由になろうとする。

 しかし、倫敦橋の手が、今や背中に突き刺さるような形となった頭部が俺を捕らえて放さなかった。


 それでも暴れる。


 ここで行動しなければ待ち受けるのは死だ。


 胴体を、腕を、足を使って何とか拘束から逃れようとするがびくともしない。


 しかし、それも当然の事である。

 これはそういう技なのだ。

 頭部、背骨、脚部の力を制し、やがて胴体を二分して死に至らしめる必殺の技。

 恐るべき禁断の処刑技、タワーブリッジ投げ。

 

 俺にとっては最後の試練であり、倫敦橋にとってはおそらく最後の技。


 自らの死を前にして闘志を昂らせるのはスモーレスラーの業か。

 薄れゆく意識、されど限界を超えて高まる闘志に春九砲丸は愉悦を感じる。


 野生のスモーパワーの底力を見せてやるぜ!!!



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