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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第八十話 若き日の羽合庵ッ‼の巻

マニアタヨ!マニアタヨ!

次回ハ三月二十三日ネ!


ドクターボンベとの出会いはまた今度…。

 

 キン星山と羽合庵の特訓は試合の直前まで続いた。

 しかし、その中で羽合庵は光太郎(※念の為、キン星山の事)にキン星バスター投げについては触れないようにしていた。

 光太郎もまた師匠の態度から事情を察し聞かないようにしていた。羽合庵が言わないのだから、そこに何か重要な理由が存在する。

 光太郎はハワイ相撲の二大戦闘スタイル、”火山”と”嵐”を黙々と学び続ける。

 そして修行の中で”火山”と”嵐”の致命的な欠陥に気がついてしまった。

 それは攻守の切り替えが全く効かないという点だった。

 打撃主体の火山は土俵際まで追い詰めるには有効だが、敵が守勢に徹した場合には攻め切ることが出来ない。

 体格が下に向かって安定している力士を打撃だけで圧倒するのは難しい。

 そして火山と対となる存在の嵐に至っては敵に組み付かなければ成立しないという欠陥が存在した。

 柔道、もしくは日本の伝統相撲なら土俵を逃げ回るという戦法は無気力試合として敗北を喫するのだろうがこれは世界ルールに則った試合である。

 

 要は相手がまわしの取り合いに応じなければ技が成立しない。


 だが、ここに来て疑問に突き当たる。

 現在のハワイ相撲の使い手であるフラの舞はハワイ角界限定ならいざ知らず、どうやってアメリカ国内で勝ち抜いてきたのかという点だった。

 大の男が土俵の中を逃げ回る姿など見たくはないが、自身の技巧と身体能力を使いこなすテキサス山ならば堂々とハワイ相撲による決着を避けて戦いに挑んでくるに違いない。

 光太郎は休憩中に羽合庵と美伊東君に疑念について聞いてみる事にした。


 「のう羽合庵師匠、美伊東君。一体フラの舞はハワイ相撲だけでどうやってアメリカ本国の力士と戦ってきたんでごわすか?失礼を承知で言わせてもらうでごわすが、ハワイ相撲は今の力士を相手にするには些か不向きな感じがするのでごわすが…」


 光太郎は話している最中ずっと羽合庵の顔色ばかり見ていた。

 羽合庵は快く光太郎を師事してくれているが、精神の根っこの部分はハワイの力士である事は重々、承知しているつもりだ。


 「すいぶんと奥歯に物が挟まったような物言いだな、光太郎よ。私に気を使っているつもりならそれは要らぬ気づかいというものだ。私は故郷で負け知らずであるがゆえにはみ出し者になった不良力士だぞ?」


 「でもは故郷は故郷。仲間は仲間でごわすよ。そんな簡単に割り切れるものじゃないでごわすよ‼」


 羽合庵はモヒカンと大銀杏の中間のような形の髪を荒っぽくタオルで拭いた。


 光太郎は”フラの舞”の父”ワイキキの浜”と羽合庵の間に何が起こったかを聞きたいのだ。


 羽合庵は目を瞑り、ワイキキの浜の姿を思い出した。

 彼が最期に「最後までスモーファイターで在りたい。間違っても病気に負けるような死に方だけはしたくない」という言葉を残したことを思い出す。

 羽合庵はこの時、光太郎が自分の全てを伝えるに足る人物と信じた。


 「そうだな。お前にはそろそろ話しておくか。かつてアメリカ最強の力士の一人として数えられたワイキキの浜の伝説と彼の最期を…。私は盟友として彼の最期を見届ける為に立ち会ったに過ぎぬ…」


 かつてハワイ島のハワイ相撲界に綺羅星の如き力士が誕生した。

 その名はワイキキの浜、ハワイ相撲界の名門キラウェア部屋の出身でありデビューした興行で全勝を果たした力士である。

 ワイキキの浜は二十歳でハワイ相撲界最強の称号、”カメハメ・ザ・グレート”をその年の全勝優勝と共に手に入れた。

 さらに破竹の勢いで本国アメリカ相撲界においても大旋風を巻き起こし、”第三のスモー・プレレジデント”と呼ばれるようになった。

 アメリカ国内に止まらず快進撃を続けるワイキキの浜だったがある時、思わぬアクシデントと遭遇する。

 当時”西”側の世界最強を誇っていたベネツィア川が東側との交流試合で死亡したのである。

 相手は全盛期の雷帝、当時の相撲界において敗北は死を意味するものだったが東西に分かれていた世界の指導者はこの結末を認めなかった。

 西側は報復措置として雷帝の身柄を引き渡すように臨んだが、ソ連を中心とする東側の指導者たちはこれを拒んだ。

 そしてこの事件を境に世界中で相撲の交流戦をすること自体が歓迎されないという雰囲気が出来上がってしまった。

 渦中の人、ワイキキの浜も同世代の力士たちと同様にヨーロッパ遠征に限らずアメリカ国内における試合に出ることさえ出来なくなってしまったのだ。

 当時のアメリカを代表するスモープレジデント、ドリーファンク山はホワイトハウスに抗議をしたが第三時相撲世界大戦の勃発を恐れた時の大統領は是を受け入れる事は無かったという。

 ワイキキの浜は失意の中、国内巡業を続けていたがある時彼は思いもよらない好敵手と出会う事になった。

 その人物こそが若き羽合庵だった。

 羽合庵は天涯孤独の身の上であり、何かがある度に周囲に暴力を振るう不良だった。

 しかしある時牧師から相撲の素晴らしさを教わり、地元のロコモコ部屋からハワイ相撲界に参戦する。

 

 (※イメージ画としてキン肉マンソルジャーっぽい人が牧師の格好をしていますが実際の映像とは異なるものです)


 若き羽合庵には独力で相撲界の頂点に立つという野望があった。

 悪童だった羽合庵は手の届かない存在だったワイキキの浜が国内巡業に出ていることを知り、ビッグウェンズデイの日(※ハワイでは千秋楽をこう呼ぶ。みんなに自慢しよう!)にワイキキの浜と直接、戦うことになった。

 あろうことか羽合庵は対戦相手をワイキキの浜の目の前で打倒し、足元に投げ捨てた。


 「おい、年寄り(オールド)。俺にブルーハワイ(※俗語スラング。プロの相撲をハワイではブルーハワイと呼ぶ)を教えてくれよ。近頃はちゃちなフォークダンスを相撲だと勘違いしているヤローが多くて困っているんだ」


 羽合庵は四股を踏んで地面に転がっているワイキキの浜の対戦相手を踏み躙った。

 場面的に美伊東君が説明しているのだが、羽合庵は顔を真っ赤にしながら「美伊東君、そろそろ勘弁してくれ」と助けを求めていた。


 英樹親方と光太郎は若い頃の羽合庵の武勇伝を聞いてニヤニヤ笑っていた。


 「フンッ‼口先だけなら何とでも言えるぞ、小僧ルーキー。ダンスの相手が欲しいなら町のカルチャースクールにでも通ったらどうなんだ?お前好みの貴婦人が歓迎してくれるだろうよ!」


 羽合庵は間髪入れずにワイキキの浜に組んでかかる。

 ハワイ伝統の堅”嵐”の典型的な攻め方だった。

 当時の羽合庵は知らなかったが、ワイキキの浜は悪童羽合庵の事を力士を辞めて牧師となった親友から聞き及んでいた。

 ワイキキの浜は不敵に笑いながら羽合庵の挑発に応じる。

 当時、ハワイ相撲界において最強の二人が戦うことになった。

 互いのまわし(※ハワイ相撲なので腰蓑)を掴んだ時に、二人はかつてない好敵手ライバルと遭遇した事実に気がつく。

 羽合庵は獣のように吠え、ワイキキの浜は全力で是を迎え撃ったという。

 しかし十代の羽合庵では完成された肉体を持つワイキキの浜の相手が出来たのはたったの一回だった。  

 押し出され、投げられ、満身創痍となった羽合庵はうつ伏せの状態で土俵の意識を失う。

 ワイキキの浜は気絶した羽合庵を引き取ってキラウェア部屋の新弟子にすることを決めた。


 「羽合庵、お前は俺と違って世界に通用する器だ。是非ともこれからはキラウェア部屋の力士としてハワイ相撲界の為に戦ってくれ」


 それは羽合庵が今まで見たことのない信頼の情が籠った瞳だった。

 羽合庵は手のつけられない悪童だったが、ロコモコ部屋の親方と仲間たちに恩義を感じていた。

 そして何よりも自分の人生を救ってくれたソルジャーキャプテ…ではなくて牧師の事が気がかりで即答することは出来なかった。

 羽合庵はその日のうちに親方と仲間、牧師に相談した上でキラウェア部屋に入ることになる。

 

 それから五年、羽合庵はワイキキの浜の下で血のにじむような修行をして真のハワイ相撲の力士となった。


 さらに三年、羽合庵はハワイ相撲界のみならず、アメリカ国内でも知らぬ者のいない力士となっていた。


 その中で欧州ひいては東西との交流戦に参加して東ドイツ相撲界の貴公子”ブロッケン山”との名勝負を演じる。

 しかし、この時からワイキキの浜の肉体に異変が起こり始めていた。

 ワイキキの浜は”スモーゴッドの呪い”と呼ばれる不治の病に侵されていたのである。

 羽合庵はワイキキの浜に引退を勧めたが聞き入れられる事は無かった。


 悲劇は二年後に起こる。


 アメリカ巡業中にワイキキの浜は突然、苦しみだして意識を失ってしまったのだ。

 スモードクターたちがワイキキの浜の背中に浮かんだどす黒い痣を確認した時は全てが手遅れだった。  

 結果、ワイキキの浜はハワイの州知事と合衆国政府から引退を勧められて泣く泣く引退をすることになる。

 ワイキキの浜が静養している間に羽合庵は対外試合で奇妙な力士と対戦することになった。

 その男の強者とは思えぬ立ち姿。だが確実に何かを持っているという風格は羽合庵を虜にする。


 「俺の名前は羽合庵。まあ一応、力士をやっている者だ。あんた、名前は何ていうんだ?」


 実に間の抜けた顔をした男だった。

 男は驚いた顔つきで羽合庵を足の先から頭の天辺まで見つめる。


 「ああ、ワシの名前か?ワシの名前は海星雷電、四股名はキン星山というものだ。他にも万年幕下力士と呼ぶヤツもいるな。羽合庵、アンタの事は聞いているぞ。すごく強い力士なんだってな。ところでワシに何か用かい?」


 羽合庵にとっての三人目の、そして生涯忘れることのない師匠”海星雷電”との出会いだった。

 雷電の底力を感じ取った羽合庵はその場で上着を脱ぎ捨て、仁王立ちになる。

 いち早く事情を察した雷電は頭を描きながら羽合庵の挑戦に応じることにした。

 ここで羽合庵はハワイ、アメリカ国内で最強と呼ばれる自分が井の中の蛙でしかないことを思い知らされる。

 本気を出した雷電は神がかった実力の持ち主だったのだ。


 次の日、羽合庵は留学生という立場を手に入れて雷電に弟子入りをする。


 かくして羽合庵は綿津海部屋の力士となって日本国内でも大活躍することになった。

 その間も羽合庵はワイキキの浜と頻繫に連絡を取ることを忘れなかった。

 数年後、ワイキキの浜は長年連れ添った女性との間に一子を設ける。

 この男児こそがフラの舞だった。羽合庵は当時、自分の事のように喜んだことを今でも覚えていた。


 「美伊東君、おいどんはまだ生まれていないでごわすよね?」


 光太郎は本場所で一勝するまでかなりの時間を費やしていたので年齢を気にしていた。

 しかし美伊東君は苦み走った表情のまま首を横に振った。


 「あのですね、若。フラの舞は二十三歳、若は二十九歳じゃないですか。日本の小学校の事は良く知りませんが(※美伊東君は日系アメリカ人)、小学一年生くらいにはなっていたんじゃないですか?」


 英樹親方は頭を縦に振る。


 羽合庵は光太郎が生まれた日に居合わせていたので何も言わなかった。


 ちなみに光太郎が生まれた頃には海星雷電は既に他界している。スモーデビル”暗黒洞ワームホール”との相討ちが原因だった事は羽合庵も知らない。


 「私は師が亡くなった事をきっかけに日本の相撲界から引退をすることにした。以降、ハワイと日本を行ったり来たりして英樹の為にキン星山の技を一つでも多く復活させてやろうと思ったのだが…」


 その後は光太郎も知っている。

 光太郎の父英樹親方は怪我の腕の悪化が原因で、タナボタ理事は腰が原因で早くに角界を去る事になってしまったのだ。

 

 英樹親方は罪悪感のあまり、すっかり小さくなってしまっていた。


 「まあ英樹とタナボタの事は置いておくとして、私はキン星山の奥義の共同研究者として雷電師匠の友人でもあったワイキキの浜の協力を仰ぐことになった。公になってはいないが、ワイキキの浜の祖先こそが雷電師匠の前のキン星山だったらしい。事前に教えてもらえば別のアプローチをしたはずなのだが、雷電師匠も人が悪い…」


 羽合庵はまんざらでもないような表情で海星雷電の顔を思い出していた。


 そしてこの先光太郎は、自身とフラの舞との戦いが持つ本当の意味を知る事になる。

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