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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
11/162

一進一退の攻防。そして倫敦橋の逆襲の巻。

 「よっしゃ!」


 「流石はハルだ!」


 春九砲丸の応援席から健闘を称える応援が聞こえる。

 外野はいい気なもんだぜ。春九砲丸は苦笑する。


 春九砲丸の喧嘩張り手にはいくつかのバリエーションが存在する。

 先の戦いでラーメン山に使った助走、反転といった予備動作を大きくして威力を高める無手勝張り手もその一つである。

今回、倫敦橋に使った喧嘩張り手は最初から出したままの掌をそのまま相手に向かって押し当てるという技だった。

 このタイプの喧嘩張り手は、相手がこちら側の攻撃を意識する前にヒットさせることが出来るのでガードすること自体が難しい。

 さらに普通のスモーレスラーが使えば大した威力ではないが、剛腕で知られた春九砲丸ならば必殺技に成り得るのである。


 顔面に二発の喧嘩張り手。

 普通に考えれば、この戦いはここで終わりだった。

 春九砲丸もそう思っていた。


 「言ったはずだ。それとも聞いていなかったのか、春九砲丸。私には君の技に対応する方策がある」


 それは目を疑うばかりの光景、春九砲丸の張り手を受け止める倫敦橋の張り手。

 両者一歩も譲らずの互角の状況。

 だが、先手を取った春九砲丸の方がわずかに有利なはず。

 春九砲丸は続けて張り手を放つ。

 しかし、虎の子の一撃も難無く倫敦橋は受け止める。


 これは一体、どういうことだ。


 春九砲丸は後方に向けて足を運び距離を取ろうとするが、そのまま倫敦橋は張り付いて来る。


 まさか俺の技が見切られているのか。


 春九砲丸は試しに大きく腕を振り回して力で押し切ろうとするが、これにも倫敦橋は技が完全に出る前に張り手を切って落とすという神妙な手段で応じた。


 「足を使え。ハル!その技は足を使っている最中には出せないっ!」


 倫敦橋の意識が一瞬だけ、鰤天部屋の親方に向けられた。


 俺は親方の意図を一瞬で理解した。


 そういことか。

 これは技だったんだな。わかったぜ、オヤジ。

 サイドを取ってやる。


 土俵から砂埃を上げて、灼熱のサバンナを駈ける獅子のように倫敦橋の右側にくっつく。


 この距離では流石の倫敦橋でも間に合わないという確信があった。


 「取った!」


 伸ばした手に残るまわしの感触。

 例え我が身が引き裂かれようとも、この手だけは外さない。

 俺は文字通りに全身全霊で倫敦橋のまわしを取った。


 なあ、そのいけすかねえ仮面の下でどんな顔をしている?お前のまわしを取ったぞ。


 「認めよう、春九砲丸。お前が、現時点で我が生涯において最高の好敵手だ」


 わき腹から腰にかけて猛獣にでも噛みつかれたような感触。

 時が経過するごとに威力は強まっている。

 喜びもつかの間、俺のまわしにも奴の手が食らいついていた。

 スモーレスラー同士が片手で互いのまわしを掴み合うという異様な光景、二つがっぷりとでも言うべきだろうか。

 獅子と獅子が出会い、互いの喉に牙を食い込ませようと必死に競り合う。

 だが、何故か精神と肉体の極限を勝負に傾けているというのに観衆の熱狂が頂点に達したことを知る。


 「そろそろ音を上げろよ、倫敦橋。坊やは家に帰って寝る時間だぜ?」


 力と力の応酬。

 

 このまま場外に押し出すか。


 それとも左に投げてしまうか。


 敵の体勢を崩そうとしても崩しきれない。

 指先や手首に痺れを感じる。

 グリップも限界が近い。


 不意に視覚に変化が生じた。


 倫敦橋の姿が消えて、地面が迫っている。

 わずかに集中力が途切れかけた瞬間、下方に引き落とされそうになっていた。


 堪えろ。


 持ちこたえろ。


 摺り足で半月を描くようにして後退して、食い下がる。


 それから春九砲丸はまわしを掴んだ手を引き戻し、何とか転倒するのを防いだ形となった。


 「その通りだ、春九砲丸。私もさっさとこのつまらない試合を終わらせて家に帰り、ぐっすりと休むとしよう。君は病院のベッドで天井の染みでも数えているがいい」


 そう言って倫敦橋は強引に春九砲丸のまわしを引き寄せる。

 春九砲丸はそれを崩そうと必死に抵抗した。

 しかし、今回に限って倫敦橋はあえて力に逆らわない。

 やがて最大握力の持続時間の限界が訪れた。


 倫敦橋の逆襲が始まった。


 俺がそうしたように腕が使えない方に回って体勢を崩しにかかる。

 俺はまわしを掴んでいられなくなり、手綱を握られてしまった。


 そして急接近する倫敦橋の頭。


 遅すぎる。


 出遅れた。


 まさしく天に唾する者は何とやらだ。


 ぐしゃり。と

 ホラ、な?俺は倫敦橋の頭突きを顔面に食らうことになった。

 そのまま倫敦橋は投げを決める為に俺をサイドを取った。

 使える方の腕とは反対の場所である為に抵抗は出来ない。


 「強かった。何よりも強かった。春九砲丸、GOD AND DEATH。私はお前との出会いに感謝する」


 倫敦橋が繰り出す片手だけの上手投げ。

 俺は崩しから回復していない為に抵抗することは出来ない。


 無念の涙。


 どうだい、観衆のみんな。

 

 フダつきのワルがエリートに負ける、これがお前たちの待ち望んだ結果だろ?なあ?


 しかし、観衆から聞こえる声援は倫敦橋の為だけのものではなかった。

 名も知らぬ者たちの春九砲丸を称える声援。

 身内からの魂の籠った応援。

 そして親方の春九砲丸の名を呼ぶ声が彼に再び力を与えた。

 この時こそが春九砲丸の後のスモー人生における分岐点になったことは間違いない。


 その光景を滑稽な見世物とあざ笑う男が一人。

 見た者の魂さえも凍えさせるような冷笑。

 だがしかしその顔を窺い知る術は無い。


 人知れず、グレープカラーのケンドーマスクに覆われた巨漢が最上階の席から倫敦橋と春九砲丸の戦いを見ていた。


 「何という茶番。何という堕落。いつの間にか英国角界は大衆娯楽に成り果てていたのか」


 魂をも燃やし尽くし抗う春九砲丸の姿も、万策を尽くし挑戦者を迎え撃たんとする倫敦橋の姿も、この男の目には猿回しくらいにしか映ってはいない。

 それは世の全てに愛想を尽かした凍てついた瞳だった。


 「さっさと終わらせろ、春九砲丸。この戦いの決着がどうなろうとも、お前は血の宿命から逃れることは出来ぬのだ。そして憎き我上院ガウェインの後裔め。貴様らの時代は終わったのだ。小僧にさっさと負けてしまえ」


 そして、グレープ・ザ・巨峰は手に持った竹刀をいとも容易く握りつぶす。

 巨漢の目に宿る憎悪の炎はケンドーマスクをもってしても隠すことは出来なかった。

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