第七十二話 力と技の大激突‼ 吉野谷牛太郎 対 ラーメン山‼の巻
次回は二月十一日に投稿するでごわすよ‼
ラーメン山はカップラーメンの容器をゴミ箱に捨てる。
中身は汁も含めて食べてしまったが蓋と発泡スチロール容器と割り箸に分けていた。
1980年代ではまだゴミ袋の色は黒であり、分別にはうるさいわけでは無かったがラーメン山はこの時代からも自然環境に配慮した高潔な力士であった事をあえて主張しておきたい。
ラーメン山は吉野谷牛太郎に向かって指をさした‼
「アチョーッ‼吉野谷牛太郎よ、スペイン側のサポーターであるお前がなぜここにいる?」
「おいおい、中国の力士はお節介だな。俺は今回の大会は実力不足で見送ったんだ。試合観戦くらい好きにやらせてもらいたいもんだぜ?…なあ、羽合庵」
吉野谷牛太郎は大袈裟な身振り手振りで身の潔白を主張する。
羽合庵は冷静さを取り戻した為、吉野谷牛太郎から持ち掛けられた質問に答える。
「久しぶりだな、ラーメン山よ。いつぞやの米中交流戦以来か。吉野谷牛太郎は今回の試合に限っては何もしてはいないぞ。私が保証しよう」
「ホワタッ‼羽合庵よ、お前もこの男のあだ名を知らぬわけではあるまい。この男は世界各国で潰し屋と呼ばれ、公式試合の前日に野良試合を仕掛け数多くの対戦相手を再起不能に追い込んだ過去を持つ力士の風上にもおけぬ男ッ‼」
ラーメン山は敵意と共に人差し指を突きつけた。
しかし、当の吉野谷牛太郎はどこ吹く風と両手を放り出して憤るラーメン山を嘲弄した。
「アンタ、どうすれば俺への在らぬ疑いを取り下げてくれるんだい?」
吉野谷牛太郎は闘牛の蹴爪よろしくつま先で地面を擦る。
その瞳は闘牛士を前にした闘牛のそれによく似ていた。
「一人前の力士ならば、この場で私と戦えッ‼お前に闇討ちされたシューマイ山とソーメン山の仇を取ってくれる‼」
ラーメン山は故郷では拳星部屋という相撲部屋に所属し、先輩のソーメン山と後輩のシューマイ山とは周囲から”刎頸の交わり”と呼ばれるほど親しくしていた。(※使い方が間違っています)
ある時、中国最大の相撲リーグ戦”始皇帝杯”において決勝戦まで勝ち上がったソーメン山は何者かの襲撃に遭って背後から心臓を牛の角のような凶器で貫かれて絶命した。
そして翌日さらなる悲劇がラーメン山を襲う。
何と中国における新弟子の為に設けられた大会、諸葛良孔明杯後輩に参加したはずのシューマイ山と連絡が取れなくなってしまったのだ。
ラーメン山はすぐに親友のガンダム山とムエタイ山と共にシューマイ山を大会開催地である五丈原まで捜しに行くが、時すでに遅し、両手を水平に開いた状態で地面に向かって逆さまに突き立てられたシューマイ山の姿があった。
「それが俺のせいだって言うのかい、ラーメン山さんよ?大体、証拠はあるのかよ。俺はソーメン山とシューマイ山の事は名前しか知らないんだぜ?」
「しらばっくれるな‼証拠ならば…、あるアルッッ‼殺人現場に残された空になった牛丼のどんぶり(※松屋)、これが何よりの証拠アルよ。お前が死闘を終えた後に特盛を食べながらビールを一杯やることは調べがついてある‼」
ラーメン山は涙を流しながら背負っていた風呂敷を解き、中から二つに重なったどんぶりを取り出した。
丼の中は洗われてしまっているが中には二枚のレシートが残されていた。
レシートには「ボールペン代 吉野谷牛太郎」と書かれていた。
「ぬう…ッ‼この領収書に記載されている内容が事実だとすれば、吉野谷牛太郎よ、お前は二人を殺害するだけでは飽き足らずボールペン代と偽って牛丼を食べていたのか⁉」
羽合庵は吉野谷牛太郎の極悪非道な振る舞いを知り驚愕を隠すことができない。
(何とむごい真似を…。この男は紛れもなくスモーデビルだろう…)
羽合庵は怒りのあまり、血が滲むほど奥歯を噛み締めた。
しかし、当の吉野谷牛太郎は相変わらす不敵に笑っている。
現在においてスモーデビルという存在はペガサスやゴジラといった想像上の産物でしか無かった。
仮に吉野谷牛太郎がスモーデビルであることを証明してもそれまでの話だ。
「ああ。それは多分、同じ名前の他人だぜ。この世界は広い。”吉野谷牛太郎”なんて名前のヤツはたくさんいるさ‼」
吉野谷牛太郎は羽合庵から領収書を奪い取り、ラーメン山に突き返す。
がしっ‼
その時、何者か手が吉野谷牛太郎の腕を掴んだ。
吉野谷牛太郎は好戦的な笑みを浮かべながら、その手を払う。
「キサマ、吉野谷牛太郎とか言ったな。これ以上俺と羽合庵の因縁に口を挟むつもりならタダではおかんぞ…ッ‼」
言うや否やフラの舞は腰を落としてぶちかましをしかけようとした。
次の瞬間、吉野谷牛太郎の普段はアフロに隠れてよく見えないが二本の角が鈍く輝く。
「坊や。その態度は宣戦布告と見なすぜ?」
(狙うはフラの舞の左胸にある心臓)
吉野谷牛太郎は舌を舐めずる。
「フラの舞ッ‼」
羽合庵はあたかも庇うようにフラの舞の前に立った。
吉野谷牛太郎は直前で攻撃を仕掛けるのを止める。
隣では殺気の塊と化したラーメン山が臨戦態勢に入っていた。
羽合庵、ラーメン山の二人と同時に戦っても負けるつもりは無かったがそれでは本来の目的から遠ざかってしまう。
吉野谷牛太郎の目的とは最初から新しいキン星山の実力がどれほどのものかを確かめることにあったのだ。
吉野谷牛太郎はフラの舞に張り手を打つ素振りを見せる。
「ぬうッ‼」
羽合庵は腕を上げて”連敗ストッパーの構え”でこれを受け止めた。
ただの一撃で腕の皮膚が擦り剝けて赤い飛沫が飛び散った。
光太郎とフラの舞は驚愕の眼差しでその光景を見ていた。
二人は羽合庵の桁外れの頑丈さを知るだけに目の前で起こっている現実を受け入れることが出来ない。
羽合庵は苦悶の表情を浮かべながら張り手の威力を受けて後退させられる。
「ハチョーッッ‼中国相撲奥義”飛雲龍霹靂蹴り”ーッ‼」
その合間を縫って、ラーメン山は飛び足刀蹴りで吉野谷牛太郎のアフロヘアーを狙った。
吉野谷牛太郎は受けるどころか顔面でラーメン山の飛び蹴りを受ける。
「思ったよりも軽い技だな、ラーメン山よ?闘牛の角の方がいくらかマシだぜ。そらッ!”嵐の輪舞”を食らっちまいな‼」
吉野谷牛太郎の得意技”嵐の輪舞”の直撃を受けて舞い上がるラーメン山。
ラーメン山はお洒落な三つ編みを旋回させて”嵐の輪舞”の回転パワーを相殺する。
両雄退かず。
この時、ラーメン山と吉野谷牛太郎は互いの力量が拮抗していることに気がついていた。