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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
10/162

猛き勝負師の洗礼の巻

今、最終章を書いていますが全然短くないです。中編程度になってます。ごめんなさい。

 「ッ!!!!???」


 策士倫敦橋の想定外の事態。

 死角をつかれて、よろめく倫敦橋。 

 だが春九砲丸は動いていない。ベンケースタイルで構えたままだった。

 

 試合開始前のファーストアタック。加えてこれは女王の御前試合でもある。

 礼を欠く蛮行どころではない。

 場合によっては永久追放という措置も考えられる。


 だが女王は何も言わないまま試合を続行。

 事態を見守る為に自らの席にまで戻って行った。


 再び騒然とする場内。

 

 怪物ぞろいの世界の強豪たちも異常な事態に唖然とする。


 横っ面を張り飛ばされ、見事になぎ倒された倫敦橋。

 立ち上がりかけによろめき、それでも何とか立っている。


 流石は倫敦橋といったところか。


 「この勝負、俺の負けでいいぜ。それとも最初からやり直すか、サー?」


 倫敦橋はすぐに立ち上がる。

 大したダメージを受けてはいないのにも関わらず、足元が安定しない。

 気力を振り絞り何とか意識を保つ。だが、未だに視界がぶれる。


 やられた。


 この時、倫敦橋は自身の不甲斐無さに激昂していた。

 春九砲丸は実戦の雄、公式試合でも平気で反則行為をやってのける。

 過去のデータを洗い直し、あらかじめ頭に叩きこんでおいた。


 だのに、この結果。


 恥を知れ。


 意味の無い能書きを垂れるだけがお前の特技か。

 かつてない苛立ちに身を震わせ、さらに投資を募らせる。倫敦橋から余裕のようなものが消え去った瞬間でもあった。


 退屈な試合展開に不満を募らせる男がいた。

 この程度のハプニングはアメリカのスモー界では珍しくはない。


 スモーでドッグファイトなんかやって一体どうするつもりなんだ。

 

 ため息一つで男は自家製のビーフジャーキーを口の中に放り込む。


 「やれやれ、イギリスのボーイスカウトはバッファローの飼いならし方を知らないのか?」


 観客席でビーフジャーキーをかじりながら、テキサス山は言った。

 今の攻防やりとりは完全に倫敦橋の失敗だった。

 彼は通常の試合、ルールに守られているという油断から初手を許してしまったのだ。


 奇襲を受けた直後から土俵の上で倫敦橋はかろうじて立っているという様子だった。

 マスクの下から流血が続いている。


 なるほど、自分のヘルメットで鼻を潰されたか。


 脳にもダメージが入っているな。


 テキサス山はサングラスの奥の瞳は冷静に状況を分析していた。


 一方、奇襲に成功したはずの春九砲丸は動かない。


 春九砲丸は倫敦橋のリカバリーを待っていた。


 早く、戻って来い。


 春九砲丸は手首のスナップをきかせて次の攻防に備える。

 ダメージから回復した倫敦橋は低姿勢からタックルを狙ってくる。そう読んでいた。


 「今のは効いたぞ。プライドを傷つけられた」


 倫敦橋の首のまわりは自身の血で真っ赤になっていた。

 春九砲丸が、ただの喧嘩屋ではないことは知っていた。

 しかし、全身鎧フルアーマーを着こんだナイトを仕留めるスモーの奥義アーマーブレイクまで使ってくるとは夢にも思わなかった。

 割れた額から流れ出る血はどうにか止まった。ギリギリのタイミングといっても過言ではない。

 もしも、これ以上の出血が続けばドクターストップがかっていただろう。


 だが、倫敦橋にとって屈辱的だったことは春九砲丸がこの間に何もしてこなかったことである。


 いつまで格上気取りだ。半人前め。


 「そんなに死にたいか、春九砲丸。私は鎧を脱ぐぞ」


 肌を刺すような闘気を受けて、春九砲丸はわずかに後退する。

 本能が春九砲丸に生存の危機を伝えたからである。

 騎士道精神という重厚なヴェールの下に隠された倫敦橋の本性。

 即ち誰よりも強いスモーレスラーでありたいという気持ちが剝き出しになっている。


 憎悪、さらに濃密な殺意。


 怯むな。今はただ攻め続けろ。

 

 そして相反する理性的な部分が春九砲丸を直ちに静止するように命じる。


 止まれ。今すぐに止まるんだ。この先に待ち受けているものはお前の死だ。


 「GOD AND DEATHッッ!!!」


 今度は倫敦橋が吠える。

 全身に炎を纏い、鋼鉄の鎧を吹き飛ばした。

 英国のスモーマニアたちも滅多に無ることが出来ない倫敦橋の生身の姿。


 均整の取れた筋肉質の肉体は黄金の輝きを放つ。

 その勇壮たる美しさを例えるならば、現代に蘇った英雄ヘラクレス。

 いささかの過言ではない。


 今ならば俺にも理解出来る。

 あの鋼鉄の鎧は敵を守る為に、倫敦橋が身につけていたということを。


 「逃げろ、ハル。奴はまともなスモーレスラーじゃない!」 ( ← ある意味、正しい。 )


 「ハル兄さん!!」


 兄弟たちの悲鳴が聞こえる。


 ああ、わかっているよ。倫敦橋アイツはまともじゃねえ。


 ここで殺されたっておかしくはねえよな。


 だがな、俺はずっと前から。


 待っていた。


 こういう展開を待ち望んでいた。


 勝てる可能性が限りなくゼロで、それでも絶対に倒さなければならない相手との戦いを待ち望んでいた。

 

 今にも間近に迫らんとする倫敦橋のプレッシャー。

 しかし瞬間的に脳内のスイッチを切り替えて、大地を刻むようなショートダッシュ。春九砲丸はもう一度、親方直伝のアーマーブレイク張り手を使った。


 「悪いな、ジェントルマン。下町育ちの俺はレストランのマナーとかに疎くてね。美味そうなものを見かけたら先に食っちまうのさ」

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