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ダンジョンマスターが公爵令嬢を拾った話

ダンジョンマスターが公爵令嬢を拾った……だと

作者: 羽狛弓弦

「公爵令嬢はダンジョンマスターに拾われる」の国王バールハイト視点です。先に上記の短編を読む事を推奨します。

 我が名はバールハイト・ラビリンス。

 このラビリンス王国の国王である。


 今日も今日とて政務に明け暮れ、1日が終わる。

 後はもう寝るだけだ。


「ふんふふんふふ〜ん」


 寝るだけだったのだが……。

 寝室に入るとそこには棚で余の酒を漁る青年がいた。


「……何をなさっているのですかメイズ様」


 彼の名前はメイズ・ラビリンス。

 我が先祖であり、この国の初代国王フィロキセラ様の盟友にしてこの国を守護する者……らしい。

 らしいと言うのは初代様は千年も前の人物であり、口伝でしか伝わっていないので初代様の盟友というのが本当かどうかはわからない。

 余も彼と父上の口からしか聞いていない。

 余自身は本当だと思ってはいるが。


 そして、その正体はダンジョンマスターだ。

 ダンジョンマスターが明確な知恵を持ち、こうも自由に行動するなど聞いた事もないが、彼はどこまでも自由だ。

 現にダンジョンから出てこの部屋に来ているし。


 一般的には彼の事は知られていない。

 王家の者が王太子になった時にその時の国王から会わされるくらいだ。

 しかし、彼の存在自体は皆も知っている。

 建国の時代に登場する初代様が契約を交わした神として皆に知らされている。

 元々は荒廃したこの地を豊かにした神として。

 実際に存在するなんて思いもしないのだろうが。

 だが、実際にいる。目の前にいる。

 目の前で余の酒を漁っている。


「ようバールハイト。お仕事お疲れ様。いい酒があるじゃねーか。飲みながら少し話そうぜ」


 棚からとっておきの一本とグラスを二人取り出され、酒が注がれる。


「はあ、わかりました」


 寝ようと思っていたがメイズ様の誘いを断れるわけもなく、仕方なく対面の椅子に座る。


 わかると思うがメイズ様が上で余が下なのだ。

 当然と言えば当然だ。

 初代様の盟友。

 つまり、初代様と対等の存在。

 初代様の子孫でしか過ぎない余がこの方と対等などは言えぬ。

 さらに、メイズ様はこの地を守護する者。

 この国は他国が羨ましく思うほど災害が少なく、資源が豊富で豊穣の大地が全面に広がっている。

 それこそ奇跡の地と言っても過言ではない。

 しかし、それらは全てメイズ様のお力によるものなのだ。

 災害が少ないのも資源が豊富なのも土地が豊かなのも全てメイズ様のお力。

 そのような正に神にも等しい方とどうして国王といえども人間に過ぎない余が対等などと言えようか。



 まあ、メイズ様がこの国の存亡を握っていると言っても良いが、基本政治には無干渉で警戒すべき人物ではない。

 メイズ様がこの国に干渉しようと思っているのなら余が生まれる遥か前から大いに干渉しているだろう。

 むしろ、助言やら愚痴やらを聞いてもらっているので余個人としてはありがたい人物なのだ。

 つまり、個人的な感情としてもこの方の誘いを断ることは出来ないということだ。


「それで、こんな時間にメイズ様からこちらに来るとは何の用ですかな?」


 酒を飲みながら聞く。

 メイズ様自らこちらに来たという事は何か用がたるのだろう。


「ああ、セラフィス公爵のエイラを拾った」

「ぶっ!? ゲホッゲホッゲホ!!」


 突然の爆弾発言にむせてしまった。

 エイラ嬢を拾った?

 どういう事だ?


「まあ、意味がわからないと思うがこれを見てくれ」


 そう言ってメイズ様に見せられたのは映像という、絵が連続的に音声を伴って動くものだ。

 そこに映っているのは息子のハルディオンとその側近、さらには最近報告に上がっているルクセリア男爵の庶子のマリアとかいう女。

 こやつらは、意味のわからない事を言いながらエイラ嬢を断罪。

 さらには、ハルディオンがマリアを婚約者にすると言い、護衛にエイラ嬢をあろう事か塔に放り込ませた。

 確か、あの塔は『練武の塔』。

 誰一人として攻略に成功していない、メイズ様のダンジョンの中でも屈指の難易度を誇るダンジョン。

 入れば生きて出てこれない事で有名なダンジョン。

 そんなダンジョンにこやつらはエイラ嬢を放り込んだ。

 エイラ嬢はハルディオンを庇って亡くなった事にするとか言いながら。


「……なんだ……これは……」


 余は本当にこれが息子なのかと、息子がやった事なのかと信じられない気持ちになる。

 確かに、ハルディオンはあまり頭が良くないが……いやしかし……。


「まあ、そういうわけで『練武の塔』に入ってきたエイラを保護。そして話を聞いた結果、彼らの仕業だと判明。そして、その時の出来事を動画にしたのがこれだ。いや〜、これがダンジョンの近くで起こって良かったよ。過去の出来事をサルベージして動画にするのが楽だった」


 サルベージというのはよくわからないが、これは、実際に起こった出来事を映像化したものなのだろう。


「それで……エイラ嬢は?」

「さっきも言ったが保護したよ。ジュエルドラゴンに食べられそうになっていたけど」


 その言葉にホッとする。

 エイラ嬢といえばセラフィス公爵家の令嬢。

 セラフィス公爵家といえば、長いこの国の歴史の中で、常に王家を支えてくれている名家中の名家。

 さらには、公爵と夫人はエイラ嬢を溺愛している。

 そんな存在が、もし、これで死んでいたらと思うと……。

 取り巻きと化している養子もいるが、共犯者だし。


「俺は思うわけだよ。こんな奴が王になるのは嫌だな〜って」


 それは命令。

 王太子を第一王子のオラクルにしろという命令。

 逆らえばメイズ様がこの国にもたらしている繁栄を全て消し去るだろう。

 それ即ち、この国の滅亡。

 逆らえるわけがない。


 なんて考えるが、元々余自身の考えではオラクルを王太子にしたいと考えていた。

 オラクルは兄とはいえ側室腹、ハルディオンは正室腹。

 ハルディオンは馬鹿とはいえ、正室腹なのでこちらが次の王だと主張する派閥も多い。

 中にはハルディオンなら傀儡にして甘い汁を吸おうと思っている輩もいるが、もし、何らかの理由でハルディオンが王になった場合、それを防ぐ為にエイラ嬢にハルディオンの婚約者になってもらったのだ。


 さらに、エイラ嬢は優秀で健気だ。

 マリアとかいう女がハルディオン達に近づいていると報告に上がった際に彼女を排除しようとしたが、エイラ嬢がそれを止めた。

 一時の気の迷いだと言って。

 さらに、学園の仕事を奴らは放棄して、それらを全てエイラ嬢に押し付けた。

 それでもエイラ嬢は健気にも彼らを待ち続けた。

 余も、彼女の思いを無視する事は出来ず、人を遣わせる事くらいしか出来なかった。

 それがダメだったのだろう。

 現に、映像を見ればハルディオンもその側近もマリアとかいう女の傀儡になっている。


 それでも、長年連れ添ったこんなにも健気な婚約者をこんな形で殺そうとするとは……。

 いくら息子といえど許せん!!


「わかっております。意地でもオラクルを王太子にします」


 幸い、オラクルは聡く思慮深い。

 メイズ様とだって良い関係を築いていけるだろう。

 それこそがこの国の王としてある意味最も重要な仕事であるのだ。


「それは良かった。もし、あいつが王太子にでもなったら引きこもるかこの国から出て行くかしようと思っていたところだし」


 その言葉に内心冷や汗をかく。

 それは、メイズ様のお力によって繁栄しているこの国の崩壊と同義であるのだ。


「ふふふ冗談だよ」

「で、ですよね」

「うん冗談」



 ……え、どっちだ!?




 ま、まあ、どの道オラクルを王太子にするのは確定した。

 あとはどうやってそうするのだかだけど。


「ところで提案があるんだけど」

「提案ですか?」

「ああ。こんなのはどうだ?」


 メイズ様の提案はこうだ。


 エイラ嬢の事は信じたふりをしてとりあえず放置する。

 ハルディオンは代わりにマリアを婚約者にしたいと言うが、余は当然却下。

 エイラ嬢の代わりに他の令嬢をハルディオンの婚約者とする。

 ハルディオンは当然反対するだろうが、余の命令だ、逆らえない。

 ハルディオンは仕方なく令嬢を婚約者にする。

 次にハルディオン及びマリアが考えるのはエイラ嬢と同様に排除である。

 今度は秘密裏の排除するのではなく、大々的に令嬢にありもしない罪を被せて断罪。

 その罪はマリアを虐めたとかエイラに言ったものと同じだろうから、令嬢にも協力してもらい、マリアが虐められるとされる舞台である学園に通わせずに、何処かで待機。

 そして、次の大きなパーティー、おそらくオラクルの誕生パーティーで空気を読まずに断罪ごっこ。

 しかし、令嬢はその時学園に通っていないのでマリアを虐めることなど不可能。

 さらには、メイズ様がエイラ嬢を会場に連れて来て逆に断罪し、エイラ嬢の復讐とオラクルの立太子が確実なものにする。


 といった茶番であった。


「よく、今の時点でそれほどまでに先が読めますな」

「ああ、テンプレだテンプレ」


 テンプレ?

 天ぷらの一種だろうか?


「まあ、多少の調整や誘導は必要かもしれないけど、大まかな流れはこうなると思うよ」

「さようですか。メイズ様が協力してくれるなら安心です」


 ふむ、ではそれ合わせて第二王子派の不穏分子を排除するようにもしようか。

 絶好の機会でもあるしな。



 その後もワインを飲みながり話し、ボトルが空になるとメイズ様はお帰りになった。


 ふー、これからやる事が多そうだ。



 ー▽ー



 まずは、ハルディオンの婚約者(仮)となる人物を探さなければならない。

 それなりの家格の者で、学園に在籍しており、第二王子派の家の者ではなく、まだ婚約者がいない者である必要がある。

 これにはうってつけの人物がおる。


 フォルモンド伯爵家のユーリ嬢だ。

 彼女はとても有名だ。

 何しろ天才魔術師で学生の身分でありながら宮廷魔術師の地位にいるのだから。

 彼女なら、必要な条件は全て満たしており、既に学生のレベルを超えているため、学園に通わずとも問題ないのだ。

 これほどうってつけ人物はいない。

 彼女には是非とも協力してもらいたい。


 そこで、ユーリ嬢を呼び出す。


「お呼びでしょうか陛下」

「ああ、楽にしてくれ」


 この場には余とユーリ嬢の他に護衛の者しかいない。

 なので、そこまで仰々しくしなくてもよいのだ。

 さらに、この護衛はただの護衛ではない。

 というか、人ですらない。

 王家に代々伝わるリビングドールである。

 もちろん、メイズ様より送られたものだ。

 護衛としての能力は超一流であり、尚且つ従順で何も話さない。

 この様な秘密裏に話したい時などに重宝する。


「それで、なんの御用でしょうか?」

「ふむ。ユーリ嬢にはハルディオンの婚約者となってもらいたい」

「は?」


 おっと、結論だけ先に行ってしまった。

 ユーリ嬢は困惑しているようだ。

 というより、若干嫌そうな顔をしている。


「ハルディオン殿下の婚約者はエイラ様だったと記憶しておりますが」

「そこから話そうか。それに婚約者といっても一時的なものだから安心するがよい」


 余はユーリ嬢に先日起こった事を話す。

 ハルディオンがエイラ嬢に婚約破棄を言い渡し、殺そうとした事。

 メイズ様の事は言えないので、エイラ嬢を王家が秘密裏に保護したこと。

 ハルディオンは許せず、オラクルを王太子にするとの事。

 そして、その協力の要請。


「え、マジっすか?」


 予想だにしない出来事にユーリ嬢の口調が壊れる。


「ああ、成功した暁には研究費の増額を約束しよう」

「喜んで婚約者役承ります!!」


 さらに、研究費の増額を約束すると即座に笑顔で了承を得ることができた。

 普通、役とはいえ、婚約破棄は醜聞になるのだけどな。

 まあ、ユーリ嬢なら問題はなさそうだ。



 ー▽ー


 ユーリ嬢が婚約者役を引き受けてから数日後、ハルディオンが帰ってきた。

 そして、自分を庇ってエイラが死んだというありもしない嘘を平気でのたまう。

 エイラ嬢が消えてから、既に数日経っている。

 それにしては帰ってくるのが遅い。

 エイラ嬢が消えてからすぐに帰ってこないで隣町で遊んで来たな。

 エイラ嬢が死んだ事を喜びながら楽しく。

 その事実に気がつき、少しは残っていたはずの親としての心が消え去った。


「そこで、新たな婚約者としてルクセリア男爵家のマリアを婚約者にしたいと思います」

「ならん」

「は?」


 そもそも、何故エイラ嬢が死ねばその女を婚約者に出来ると思ったのかわからん。

 エイラ嬢が亡くなったところで次の婚約者は伯爵家以上の令嬢になるのだ。


「そのマリア嬢は男爵家の者だろう? その様な者を王家に迎え入れる事は出来ぬ。新たな婚約者はこちらで采配しよう。分かればエイラ嬢の供養に行ってこい」

「しかし父上!! マリアは……」


 そう言うがハルディオンはなおも食い下がる。

 マリア嬢の素晴らしさとやらをつらつらつらつらと述べる。

 よくそこまで一人の者を褒める言葉が出てくるものだな。

 まあ、可愛らしいとか健気とか優秀だとか自分を癒してくれるだとかの事を繰り返して言っているだけなのだが。


「ーーこの様にマリアは素晴らしい女性なのです。彼女こそが俺の伴侶としてふさわしいのです。そもそもエイラからして……」


 マリア嬢の素晴らしさを言い終えると今度はエイラ非難し始めた。

 仮にも婚約者であり、自分の命を救った事になっているエイラ嬢に対する罵詈雑言。

 怒りでどうにかなってしまいそうだ。


「ハルディオン」


 自分でもびっくりする位低い声にハルディオンが体をびくつかせる。


「先ほども言った通り新たな婚約者についてはこちらで采配する。わかったら行け」

「ち、父上!?」

「行け!!」


 この場でマリア嬢を婚約者にする事が不可能だと悟ったのか、それとも余の怒気に当てられたからなのかハルディオンはすごすごと退出する。


 まったく、愚かな。



 ー▽ー



 数日後、ハルディオンにユーリ嬢が新たな婚約者となった事を伝え、ハルディオンとユーリ嬢を引き合わせる。

 ハルディオンは終始不機嫌なのに対してユーリ嬢はニコニコしていた。

 仮にも王子がそのような態度でどうする。

 どこで育て方を間違えたのか……。

 教育を王妃に一任していたのが間違いだったのか。

 オラクルはああも立派だというのに。

 ……今更だな。

 余はこの国の王として成すべき事を成すだけだ。


 そして、ハルディオンとユーリ嬢の婚約を発表後、数日間ユーリ嬢にはハルディオンの婚約者として学園に通ってもらい、その後は王城で過ごしてもらった。

 本人はたくさん研究ができると喜んでいたのでよかった。


「エイラ様を亡くしにもかかわらずマリアにベタベタして、私が婚約者になったにもかかわらずやはりマリアにベタベタ。エイラ様の義弟くんや他の取り巻きも同様。ほとんどの学生がエイラ様の死を悲しみ、対してハルディオン殿下達を不審に思っていますよ。エイラ様は人気がありましたからね。浮かれているのはハルディオン殿下とマリアとその取り巻き達だけですね」


 とは、ここ数日間だけ学園に通ったユーリ嬢の情報だ。

 なんと愚かな。

 愚かとしか言いようがない。




 さらに一月ほどするとメイズ様が再びやってきた。


「学園の方はなかなか面白い事になっているぞ、ほら」


 メイズ様によって映し出される映像は、マリアが自分の教科書などの持ち物や制服などを破ったり破壊したりしている光景。

 その後もハルディオン達に泣きつき、誰かにやられたと嘘を言っている。


「エイラ様がいなくなって安心できると思ってたのに」


 と悲しそうに、不安そうにハルディオン達に寄りかかっている。

 この程度に騙されるハルディオン達もハルディオン達だ。


 ため息しか出てこない。


「多分、この後水を被ったり、ユーリの近くで転んだり、大切な物を失くしたり、最後には階段から落ちたフリをすると思うよ」



 それからもちょくちょくメイズ様はやって来て余に映像を見せる。

 大体はメイズ様の予想通りであり、最後に階段を落ちたフリをした時にユーリ嬢なる影を見たとハルディオン達に言い、ハルディオン達もそれを信じて憤慨。

 今度の大規模なパーティー、つまり、オラクルの誕生パーティーでユーリ嬢との婚約を破棄すると口にした。


 ……ユーリ嬢はその時王城の一室で研究に明け暮れているのだがな。

 はぁ……。

 ……あのバカどもが!!



 ー▽ー



 そして、やってきたオラクルの誕生パーティー。

 メイズ様に言われて彼と、エイラ嬢にも招待状を手渡したのでこの会場の何処かにいるのだろう。

 見当たらないのは認識障害の魔法を使っているからか。


 そして、パーティーも中盤に差し掛かった時に、茶番が起こった。


「ユーリ・フォルモンド!!」


 バカが会場全体に響き渡るような大声を上げた事によって参加者の視線が、バカとユーリ嬢に向く。


「なにか?」


 しかし、ユーリ嬢はこの様な事態になると初めから知っていたので極めて冷静だ。

 それどころかハルディオンを見る目に軽蔑の視線が存在する。

 事前に聞いていたとはいえ、本当にこのパーティーでこの様な事をしでかすハルディオンに失望しているのだろう。

 余もそうである。



 それから、メイズ様が言った通り、マリアを虐めたとか何とかでユーリ嬢と婚約破棄とマリアとの婚約を宣言。

 メイズ様曰く、これほどの人数の前で婚約を宣言すれば、余であっても引き裂くことはできないと思っているとの事。

 さらの、それに呼応するように取り巻き達が臣下の礼をとる。

 そこから、つらつらとユーリ嬢がマリアにした所業とやらを述べているとオラクルが乱入する。

 オラクルには何も知らされていないが、さすがと言うべきか、当たり前と言うべきか、正論を持ってハルディオン達を弾糾。

 ハルディオンのマリアが未来の王妃……の発言にはさすがの余も呆然としてしまった。


 そして、エイラ嬢がハルディオンを庇ったくだりに入ったところ、


「ふ、ふ、ふ、ふはははははははは!!」


 響き渡る笑い声。


 その正体はメイズ様だ。


 ……え? 聞いていないんですけど。

 メイズ様本人が騒ぎに乱入するなんて聞いていないんですけど?

 影で様子を見ているだけかと……。

 少し困惑していても話は進む。

 予定通りエイラ嬢が乱入して、ハルディオン達の罪を証明。


 そして、さらなる事態が発生する。


 メイズ様が神のように神々しく浮かび上がり、


「我が名はメイズ・ラビリンス。フィロキセラの盟友にして、この国を守護する者」


 歴代王しか知らないメイズ様の正体をメイズ様自ら明かしてしまった。

 ど、どうする?


「バールハイト」


 考えているとメイズ様に呼ばれる。

 考えている暇などない。

 もう、メイズ様に合わせるしかない!!

 半分何が何だかわからないままメイズ様の元に歩む。


「己が欲望の為、罪なき者に罪を被せ、処分しようとする者に王たる資格が無いと思うがどうだ?」


 ああ、ちゃんと計画通りにオラクルを王太子にするんだ。

 メイズ様の登場で余から見たこの場は混沌としているが、計画通りに。

 むしろ、オラクルを王太子として宣言しやすくなったな。


「はい、その通りでございます」

「なら、わかるな?」


 コクリと頷く。


「今をもって第一王子オラクルを王太子とする!! そして、ハルディオンの王位継承権を破棄し、廃嫡とする!! エイラ嬢及びユーリ嬢を害そうと共謀した者達には追って沙汰を言い渡す!! 衛兵、罪人達を捕らえよ!!」


 王太子はオラクルだと宣言、さらにハルディオンの廃嫡。

 そして、エイラ嬢を害した者を罪人として捕らえさせる。


 メイズ様の登場以外は概ね計画通りだ。


「くっ!! やめろ!! 父上、どうしてその様な得体の知れない者の言う事を聞くのです!?」


 得体の知れない者か。

 本当にそうであるが、古来よりこの国を守護するダンジョンマスター。

 それでいいではないか。

 メイズ様が登場なさったという事は、皆にメイズ様の存在を話しても良いという事であろう。

 というより、メイズ様が表舞台に出てきたのなら、この方について話さないといろんな意味で危険だ。


「この方が仰ったではないか。この方は初代国王フィロキセラ様と盟約を交わしたこの地に住まう神である」


 余がそう言うと、皆が慌ててメイズ様に跪く。

 当然だ。

 余が言ったように、彼こそは建国に話に出てくる初代様と盟約を交わした神なのだから。



 それから、マリアはこの場から逃れようとハルディオン達を切り捨てようとする。

 メイズ様にも媚びたように甘ったるい声をかけた時、


「……ああそうか。それか」


 メイズ様は地に足を着けて、マリアの側まで歩いていく。

 そして、メイズ様はマリアの胸元に手を伸ばし、彼女が身につけていたネックレスを引きちぎった。


「「「え?」」」


 その瞬間、マリアから光が放たれたかと思うと、そこから出てきたのは醜いオークの様な女性だった。


「"美貌のネックレス"。身につけた者の容姿を美しく、あるいは可愛らしくするネックレス。どこで手に入れたかは知らないけれどそれが、お前の正体というわけか」


 えーと、つまり、マリアの本来の容姿はアレでそのネックレスによって美貌を手に入れ、ハルディオン達を誑かしていたと。

 アレはないだろう。

 ハルディオンを筆頭にマリアの取り巻き達が信じられないような顔をしている。

 それはそうだろう。

 自分達が愛を囁いていた相手の本当の姿はまるでオークの様なのだから。

 その後、ハルディオンやマリア達はエイラ嬢と少し言葉を交わした後、衛兵達に連れさられていった。


 手のひらでパァァン!! と音を鳴らす。


「では、引き続き、オラクルの誕生と立太子を祝ってパーティーを続けよう!!」


 事が終わったので、改めてパーティーを再開する。


 メイズ様の乱入でどうなるかと思ったが結果的に上手くいった。

 メイズ様が表舞台に出てきただけで済んだのだから。


 この時の余はそう思っていた。


 メイズ様が表舞台に出てきたのだ。

 何が起こるかは容易い事なのだ。


 パーティー中にもかかわらず、メイズ様の存在について貴族達に詳しい説明を求められる。

 それだけならまだしも、メイズ様との謁見を願ったり、酷い者になると娘をメイズ様の妃にしようとしたりする者もいる。

 そして、肝心のメイズ様といえばいない。

 正確にはいるのだろうが、存在を認識できない。

 おそらく認識障害の魔法を使ってこの会場の何処かにいるのだろうが。

 結果、余はこれらの貴族をさばくことに苦心することになる。

 ちくしょう、メイズ様め!!



 ー▽ー


 パーティーがなんとか終わり、後は寝るだけだという時、またもやメイズ様がいらっしゃった。


「おつかれ」

「……恨みますよメイズ様」


 自分は隠れて貴族の対応を余に押し付けたのだ。

 少しくらいは恨んでも許されるのではなかろうか。


「あはは、ごめんごめん。今度、オラクルくんにいいものあげるから許して」

「いいものですか?」

「ああ、『永虹の洞窟』っていう観光用のダンジョンを作った。モンスターはいないし綺麗なダンジョンだよ。観光スポットにでもするといい。近いうちにダンジョン区画の何処かに出現させておくから」


 なるほど。

 オラクルがメイズ様よりダンジョンをいただいたという箔を付ける事ができるな。

 どれほどなのかはわからないが、メイズ様が言うのだ。

 さぞ綺麗で美しいダンジョンなのだろう。

 王家の収入源の一つにもなりそうだ。


「はあ、まあそれなら」

「後ひとつ。エイラと結婚するからよろしく」

「え?」


 メイズ様はそう言うとすぐに去っていった。


 また、余に面倒事を押し付ける気なのだろう。

 くそう、くそう。


 ……はぁ。

 まあ、結婚というメイズ様との結びつきが出来るのだし国の益と考えれば良いのだろう。

 余が少し苦労するだけなのだ。

 少し苦労するだけでこの国の繁栄を保てるのなら儲け物だ。


 それに、メイズ様には世話になったしな。

 少しでも恩返しできればそれに越したことはない。




 それからも、メイズ様が持ち込む問題によってたくさん苦労する事になるのだが。

 それはまた別の話。


国王バールハイト:苦労人。歴代王の中でもメイズとはかなり仲が良い。その分振り回されるが。ある意味この話の最大の被害者。メイズに振り回されるし、息子はアレだし。ハルディオンに関しては怒り5割、失望4割、悲しみ1割といったところ。情に薄いのではなく、それほどまでにハルディオンに対しての怒りと失望が大きい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これ系はやっぱり面白い。 [一言] この作品も長期連載して欲しがったんだけどないか....
[一言] 国王がんばれ!!
[一言]  そして、エイラ嬢がハルディオンを庇ったくだりに入ったところ、 「ふ、ふ、ふ、ふはははははははは!!」  響き渡る笑い声。  その正体はメイズ様だ。(本文コピー) この段階でエイラ嬢…
2017/07/16 02:38 退会済み
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