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1 クロエ・ベルトワーズという少女

憧れの異世界転生、悪役令嬢連載です。

今の連載と同時進行で毎日更新を目標に頑張りたいと思いますので宜しくお願いします!

「セーラ。貴女さえいなくなれば、私は本当の王女になれるの」


妙に聞き覚えのある声。誰の声なのか分かりそうで分からない、そんな声だ。よく聞いたことがあるはずなのに、誰の声なのか、判断がつかない。


何故か言葉一つ一つが突き刺さって、息を吸い込む喉が冷たくなった。


声の持ち主であろう誰かの手が、目の前の少女の首を絞める力を強めたのが分かった。少女は苦しさに顔をゆがめて、目尻に涙を浮かべている。少女の気管から息がひゅっと漏れる音がした。


ふふふ、と誰かが笑う。笑い声がどこからか木霊した。


「…どうして、私はいつもこうなの?」


誰かがそう呟いた瞬間、急に喉がキュッと閉まった。自分や誰かが首を絞めている訳じゃないのに、確かに狭くなる喉。


息が、吸えない。吸っても吸っても空気が入ってこない。焦って、怖くて耳を塞ぐけれど、その声は遮断されることはなかった。


怖い…!


余裕なんて欠片もなくて、ただひとつ、そんな感情に支配される。


「ねえ」


「貴女は私なのにどうしてそんな顔をしてるの?」















「クロエお嬢様、お目覚めのお時間ですよ」


誰かが声をかけ、布団を剥ぎ取り、カーテンを開けて窓から風を通す。私は暖かい窓からの光を避けて布団の下に隠れようとベッドの中でもぞもぞと動いて、もう一眠りしようと眠る態勢をとる。


「今日は義弟さんとのご挨拶がある大切な日なのでしょう?お寝坊はいけませんよ」


負けじとまた声をかけられ、軽くゆすられる。相変わらずもぞもぞ動くものの、私の眠りは浅くなってきているようでぼんやりと目を開ける。


「分かってるよー…」


侍女のモリーの方に顔だけ向けると微笑ましげな表情で私を眺めていた。そんな彼女に笑い返し、また瞼を閉じようとすると今度は容赦なく布団を剥がれてしまった。


「さむっ!!」


いきなり外気にさらされた私ベッドの上で身を縮こませて丸くなり、ようやくベッドから降り立った。









…上手く冷静を保てていただろうか。冷や汗をダラダラと内心流し、髪を梳かしてもらいながら静かに思う。


私はとりあえず自分の鏡をじっと見つめてみた。ゆるくウェーブがかかった金髪に青色の透き通った大きく愛らしい瞳。体質からか透き通った色白な肌。形の良い小さな唇に育ちの良さそうな派手すぎず地味すぎない品の良いドレス。


間違いない。私はどうやら転生をしてしまったらしい。


それも乙女ゲームの死亡・処刑エンドしかない、悪役令嬢である。


前世の私の名前は高橋 伊織 。


ごく普通の大学生だった。どれだけ普通かというと、成績としては平均より少し上くらい。身体としてもまあ健康で、たまに風邪を引くくらい。地元の学生が、ほぼ行くような大学で毎日退屈な授業を受けていた。強いて言えば喫茶店でアルバイトを頑張っていたことくらい。悪くなければ良くもない。それが私だった。


享年は20歳。

死因は私の飼っていた愛犬、ソラとの散歩中、飲酒運転の車に轢かれそうになったソラを庇って私が交通事故に遭ってしまうという衝撃的なモノである。成人式の袴だって揃えてたのにそんな時期に死んでしまって両親には申し訳ない気持ちで一杯だ。



天国で静かに暮らせると思ったらまさかの悪役令嬢に転生なんて運がなさすぎる。


そして、私の判断が正しければ私が今いるこの世界は「王宮物語〜王女だって恋がしたい〜」という乙女ゲームである。


端的に言えば王女として生まれた主人公が、攻略キャラである執事や王子、騎士たちと恋愛をするベタな話だ。


私の名前はクロエ・ベルトワーズ。


王宮物語の攻略キャラ、レオン・ベルトワーズの義姉であり、それだけではなくクロエは主人公、セーラ王女の影武者として仕えるクロエ。


そんな彼女の一生を言えばこうだ。


影武者として過ごすうちにクロエは主人公であるセーラ王女の婚約者、グレン王子を好きになってしまう。そしてセーラ王女が王女の婚約者やクロエの弟ルートに入ると、ラスボスとしてクロエ・ベルトワーズが登場するのだ。


悪口言ったりするちょっとした意地悪はしない。寧ろ主人公とクロエとの関係は良好であった。常に主人公と行動を共にし、いざ彼女の身になにかあった場合は自らが王女として振る舞っていた。


しかしラストに入り、唐突にクロエは王女を裏切り、自らの手で殺そうとするのだ。まあどれも最終的に失敗して、クロエは処刑か自殺をしてしまうんだけど…。


そんな見事に典型的な当て馬タイプのキャラであるクロエの人生の結末にバッドエンドに涙するものが多くいた。


よく考えてみればクロエは王女の影武者として文句も言わず働き、王女とも友達として良好な関係を築いているし、好きな人は皮肉にも自分が成り代わっている人物の婚約者であり、時には婚約者としての振る舞いだって強いられていただろう。それにクロエは王宮の古びた場所で暮らしているシーンをスチルの端っこで何度か見かけた。彼女は我慢が爆発した故に王女を手にかけてしまったと見える。


義理とはいえ家族である弟には処刑・死亡エンド共に「お前なんて家族じゃない」と切り捨てられているし。クロエの扱いはあまりにも不憫だったのだ。


そんなこともあってifとしてクロエの死亡フラグ回避し、幸せになる内容の二次創作を作るファンは少なくなかったようだ。


そんなクロエの幼少期はファンブックにもどこにも書かれていなかったので今後どうすれば死亡フラグを回避できるかは不明だが、とりあえず《王宮》に関わるもの全てから事前に関わらなければいいことは確か。


そうすれば影武者になるのだって回避できるかもしれない。


今の私、クロエ・ベルトワーズは8歳。


今日、攻略キャラクターであるレオンが養子として家に来る。死亡エンドの時に見せる、クロエを見る蔑んだ表情を思い出すと胸が痛くなるが、今日会うのは6歳のレオンだ。


私はグレン王子と恋をする気なんてさらさらないし、取り敢えず私は《キャラ》ではなく1人の《家族》としてレオンと接したいと思っている。


「クロエお嬢様ー!レオン様が来られましたよ!」


侍女のモリーが私に声をかけてくれる。

「はーい!」と私は子供らしい大きな返事をして玄関へ走って行ったのだった。

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