再度のLv1
続きです
LV999からまさかのLv1へ
それは、つい先ほどまでトップランカーだった彼にとって、かけ離れ過ぎた数値だった。
唖然のまま立ち尽くすラルフ。数分後、我に返り再度メニューを見ると所持金は初期設定の1000Pecと表示されている事に気付いた。
このゲーム上のお金の単位はPecであるが結局の所、価値としては1円=100Pecと当てはまる。それは、いわば100円=1ドルと言っているようなものだ。
彼にとって正直Lv1になってしまったことは仕方ないと思っていた。
なぜならそれは事態は彼自身が選んだことだからだ。今更あの頃の自分に戻ったって何にも意味はないのだから……。
今現在ラルフの装備は『無』つまり素手ということだ。格闘戦術主義じゃない限り素手でモンスターに挑もうとする馬鹿は早々居ないだろう。
ラルフはメニューでマップを表示する。幸い彼がいる場所からバザー市にはそれ程遠くは無かった。
早速ラルフはそのマップを頼りにバザー市へと移動し始める。
同時に道中、彼にとって懐かしい光景が次々映し出された。
「しっかしなあ、4年経って文化の新進起こっても相変わらず変わんねぇなあー」
辺りの家はみんなのイメージしているであろう異世界そのものを見事に再現されており一部自然の風景などが盛大に広がっていた。
――数分後、ぶらりと歩いている内にあっという間に目的のバザーの武器屋に到着した。
とはいえここは武器屋であってもバザー市、いつでも店を開けるようにするため簡単なテントのような構造に成っていた。
武器屋であるテントの前に立つとその中からまるで待っていたかのように一人の男性店主が出てきた。
そのNPCはガチムチでスキンヘッドの特徴的な物だった。頬には一本の傷が入っており彼の形相からはまるでヤクザのような威圧感が感じられた。
重々しい声でラルフに話しかける。
「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」
「あ……い、いや、その……ごめんなさい!」
なぜか気まずそうな様子で「ごめんなさい」と言ってしまうラルフ、威圧という物は計り知れない物だと感じた。
すると武器屋の男は彼に気をつかう様子で問いかけて来た。
「どうされましたか? 私が何か失礼な事でも? お水、ありますがお飲みになりますか?」
「あ、いやー、気にしないでください何でもありませんから……」(顔と性格が全く一致してねぇ!? もはや紳士じゃん!! 敬語をきちんと使う時点で十分な紳士だよ!?)
背中に冷汗を流し一歩引いた様子のまま震えた声でそう言った後、数秒の間が生まれた。
その後、武器屋の男は安心した様子で胸をなで下ろす。
「そうですか、なら良かったです。いつも私が接客をする時、客が私の姿を見た瞬間顔を真っ青にして何も買わずにここから逃げていくんですよ……」
「……そうだったんですか、なんかすいません。とりあえず武器買いに来たんですけど……」(いや、絶対その原因お前の顔だから!! 一回、自分の顔を鏡で見て来いよ!! なんで気付かないの!?)
「ああ、はい。では、何にしますか? まずこちらをどうぞ、お好きな物をお選びください」
原人種の男はは一枚の紙をラルフに手渡した。内容は剣、防具、盾などその店に置いてある武器のラインナップだった。
「ああ、どうも。……じゃあ、とりあえず木刀とナイフを一本ずつください……」
「承知いたしました。ではこちらをお受け取りください」
NPCは素直に俺の注文に応え二本の武器を右手で直接渡す。
ラルフはお金をその場に実体化させNPCに手渡した。
「ありがとうございます。またのご来店お待ちしております」
原人種の男はラルフに向けて深くお辞儀をする。その後、テントの中へと入っていった。
(マジ紳士だったんですけど……)
心の中でそう思っていると、買った武器を腰に掛けその場を後にするのであった。
◇◆◇
およそ同時刻、始まりの町大樹付近にて、
「来ない……」
1人の少女が死んだような眼で大樹に寄りかかりながら呟いた。
金髪ロングの少女の名前は、レクティア。Lv28の核石人種だ。
服装はイニティアムに存在する、とある学校の制服だった。基本的に紺のメインカラーにちょくちょく白色の模様が装飾されている特徴的な制服だった。
今現在彼女が何をやっているかというと、ハッキリ言えば、現在彼女が所属しているギルドの勧誘活動だ。
彼女のすぐ側には1メートルほどの旗が掲げており、一つの木箱が机代わりとしてぽつんと置かれていた。
「あれからもう二時間経ってるというのに……人の眼にも触れないってどんだけウチ人気無いの?」
ぼやきながら彼女は、うずくまるようにして徐々に体育座りの体勢になっていく。
レクティアが所属しているギルドの名前は、晴天の彗星という所だ。しかし彼女曰く、そのギルドのリーダーから、
「誰か一人でもいいから、がんばってスカウトしてきて☆」
とキラキラした瞳で頼まれたのであった。
結局彼女はそれを引き受けたのだが、彼女が言っている通りあれほど時間がたっているのにも関わらず未だ誰一人目すら止めてくれる事なんてなかった。仮にこのギルドに目を止めてくれたとしても、どっかの他のギルドが「そこのギルドはやめとけ」と目を止めてくれた人に話しかけ最終的には『横取り』という最悪なシナリオとなってしまう。故にその噂が原因で『最も評判の悪いギルド』や『このワールド上で最も関わりたくないギルドランキング第一位』という不名誉な肩書きが付いてしまった。
(あと――3分、誰も来なかったら退散しよう……うん)
レクティアは、自分自身にそう言い聞かせると残りのタイムリミットの間しばらく黙って待つことにした。
……
…………それから人の目にも触れられず時間は過ぎて行き――あと1分
結局誰も来ないと確信しレクティアがその場の物を片づけようとした時、
一人の男性プレイヤーが彼女の前に現れた。
「あのー、すいません」
「……あ、ハイ!」
レクティアは送れて、その話しかけてきた男性プレイヤーに反応する。
男は真新しい初期装備の『布の服』をだらしなく着崩していた。齢は15~18歳ほどで髪は女子でもイケそうな短髪のサラサラとした茶髪だった。腰には木刀とナイフが掛かっており初心者のイメージが最も相応しかった。
「なんか、たまたま町でこんなビラ見つけたんですけど」
男性はそういいながらポケットの一枚のビラ紙を渡した。
渡した紙はまるでクシャクシャにした紙を広げたかのようにとてもシワシワになっていた。紙の色も時間が経っていたのか、とにかく黄ばんでいた。
「?」
レクティアは、男性からそのビラ紙を受け取ると……それに反応するかのように突然目をキラキラ輝かせる。
なぜなら彼女は知っていたのだ。このビラの正体を。
「も、もしかして――!?」
彼女が察するにこれは、新規加入希望者。まさかと思い、更に目を輝かせる。
……だが……、
男性が次に放った言葉は彼女にとってまた違う物だった。
「いや、これ……何、このアラビア語みたいな字体、何ですか? そもそもこれ何て読むんですか……?」
……沈黙。
レクティアは突然の意外な質問により少し反応に遅れつつも彼の質問に答えてゆく。
「……え? 何って、これ、れっきとした日本語ですよ」
「ハイ?」
男性は確認の為に再度聞き直した。
「いや、だから……これ日本語ですって。しかもこれウチのギルドの広告ビラですし」
……さらに沈黙……
そして――その後、最初に聞こえていたのは怒号にも似た男性の声だった。
「これ作ったのお前らかよ!? じゃあ何か、俺たちなんか試されてんの!? 大丈夫なのかこのギルド!?」
実際レクティア自身はきちんとそのビラの字は読めるが、それ以外のプレイヤーがそのビラを見た場合どうだろうか? 絶対に見た人全員が口をそろえて「このアラビア語みたいなやつ何て読むの?」と言いたくなるのはほぼ確定だ。
そういう風にして改めて見てみると『最も評判の悪いギルド』と言われる理由が別の意味で分かる気がする。
レクティアは皓皓な様子で、男性は囂囂な様子で会話を進めていく。
「大丈夫ですって! もともと小規模ギルドですしそこまで人数を必要としていないので」
「いや逆だろ!? 人数足りねぇから今ここで勧誘活動してんだろ!? そもそも小規模つってもお前らのギルド何人いんだよ!」
レクティアは男性からそう言われると、それに答えるかのように自信満々な様子で右手の指4本を立てて男性に見せつけた。
40……? 彼女が“小規模”と言うのだからそれくらいの物であろう。
だが実際は違う物だった。
「4人よ!!」
……
…………
男性はしらけた顔で彼女を見つめる。
「どうよ! 4人よ! すごいでしょ!!」
………………
……………………
正直あまりにもくだらなかったのか、大きくため息を吐いて聞くことしか出来なかった。
男性は呆れた様子で、手に頭を寄せて再度レクティアに話しかける。
「あのさあ……、自信満々で言ってくれた所悪いんだけど。……アホでしょ」
「はい?」
「『はい?』じゃねえよ!? 全人数4人でよくまあこんな自信満々に言えるよなあオイ!? そもそもそれ小規模じゃなくて『少人数』っていうんだよ!!」
「へー」
「何『へー』で話切り落としてんだよ!? 少しくらい自分の頭に危機感持てよ!?」
そうこうしているうちに時間はどんどん過ぎていった。男性は左手でメニューを開き時計を見るとレクティアとの会話だけでもう30分ほどは経過していた事に気付いた。
「あーもう! あんたと話してる内に時間経っちゃったじゃん! これから適当にレベル上げとかしなければならないのに――!!」
男性が荒叫びしながら頭を掻きむしる。
そうしている間にも時間は過ぎていく。
――すると――
!!キュピーン!!
レクティアは何かに閃いたのか、とっさに男性の袖をつかみ輝いた目で見つめながら言う。
「君、名前は?」
「はあ、俺? ルイ……あっ、いやラルフだけど……」
一瞬あっ、と一番言ってはいけないワードを言いかけ咄嗟に訂正を掛けるラルフ。
対してレクティアは、首を少しだけ傾げるもののその後何も感じなかった様子で、
「ん? ……じゃあ、ウチのギルドに加入してよ!!」
「……ハイ? 何故?」
「だって、あなたにも私にもメリットがあるんだもん」
よく考えてみればそうかもしれない。レクティアには、ギルドメンバー獲得のメリットが、ラルフ自身には、ギルドに入れば基本クエストで酒屋にてパーティーを募集する手間が省け、おまけにギルド限定協力クエストなどが受けること出来る。完全にwin-winな話だった。
「まあ、確かに考えてみれば……」
ラルフはそのような事を考えると、頷くようにして首を縦にこくりと振る。
「じゃあ決まりね!!」
「え? ――ちょっ、待っ!?」
レクティアは、とっさに右腕をつかみラルフを引っ張るようにしてどこかへと連れて行こうとするのであった。
数秒後。
走っている最中、ラルフはとっさに何か思い出したのか、レクティアに言い放つように声をかける。
「ちょっ、ちょっと待って!!」
「何よ!!」
「大樹の梺に置いてあった旗とか片づけなくていいのかよ!!」
……
「…………あっ」
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