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レベリングオート ~かつて最強だったプレイヤーが、Lv1からやり直すそうです~  作者: 行川 紅姫
序章:トップランカーやめました
6/50

蘇る心身的外傷(トラウマ)

遅くなりました。


 着いた先は、とある小さな島の海辺にある小さな宿屋前だった。


 レンガ建ての一軒家という外見で所々に苔が生えていた。見ていて何となく年数が経っているように感じられた。玄関前の正面からは綺麗な夕焼けが浮かんでいた。オレンジ色の眩い光が島全体を照らしてゆく。


 一泊2000Pecという一泊20Pec普通の宿屋と比べてぼったくりレベルに値段は高いのだが朝食、風呂付きなど、この宿屋ならではの良さがあった。


 おまけに、窓からは海全体が見渡せる。夕方になってしまえば太陽が水平線に隠れる瞬間までもが見られるためラルフにとってお気に入りの場所だった。


 ルイスはとりあえずその宿屋に入る。すると、一人の老人の姿が確認できた。

 そのまま彼は歩きながら左手でメニューウィンドウを開き、大量のお金を入れた一つの袋を実体化させフロントの机に叩きつけるように置いた。

「おっちゃん、一泊よろ」

おっちゃんとは、この宿屋のオーナーだ。とはいえ現在、ここの従業員は彼しか居ない。


 老人は弱々しい声、口調でルイスに話しかけた。

「これはこれは、お久しぶりですねぇ~ルイス殿。2ヶ月ぶりですかなぁ?」


 流暢に喋るが、これでも彼はNPCだ。

 水守海上研究都市での最新のAI技術を利用して作られたこのNPCは、自分のそれぞれの意志に従って動いている。


 このゲーム内では、NPCは自分達のことを『源人種』と呼び、我々プレイヤーの事を『核石人種』と呼んでいる。この世界の歴史についてはほとんど公にはっていないのだが唯一言われているのがこの世界はもう既に950年以上時が経っているということだった。


「うん。まあそんな所かな、それより早く部屋の鍵ちょうだい、俺一刻も早く休みたいからさ。あ、そうだ出来るだけ見晴らしが良い所でお願い」


「はいはい、わかりました。それではこちらの鍵をお受け取りください」


 書かれた棒状の透明な板につながれた鍵を取り出しルイスに手渡した。

 ルイスはその鍵をポケットに仕舞うと部屋へと続く廊下へと進んでいった。


 ◇◆◇


 廊下を歩いて数分後。

 『201』書かれたプレートの扉の前にたどり着くとルイスはポケットの中を探り、渡された鍵を使って部屋の中に入った。


 久々だったのか、何度も来ているのに不思議なことに初めて来るかのような新鮮さが感じられた。


 部屋には、机、椅子、ベッド、バスルームなどがあり充実したスペースがそこにはあった。


 まず最初にルイスが向かったのは窓だった。机のそばにある椅子を移動させ窓の近くに置く。


 窓を開けると、目の前には180度広がっている海を見渡し、弱く優しい風が俺を包み込み、海から波の打つ音が聞こえた。


 俺は窓の(ふち)に片腕を乗せ寄りかかりながら海を見つめた。



 ――――こうして、およそ数十分後。



「ん?」


 するとルイスは海岸に2人の人影に気付いた。


 目線のズーム機能で再度確認すると、兄妹であろうか男女2人のプレイヤーの姿があった。



 何となくの気持ちだったが、ルイスはその2人のLvを確認する。結果2人はそれぞれ二桁のレベルだった。


 現在午後の11時半、この時間帯は学校終わりの学生や仕事終わりの社会人、おまけに科学者が一日で一番ログインしている頃だった。


 ましては、今日は金曜日、今日一日中ログインしたまま遊ぶ人は少なくないだろう。


 ルイスは息を漏らすと一度椅子から立ち上がり近くのベッドに横たわった。


すると、ふとルイスはあることを思い出していた。


 それは4年前、まだ彼がこのゲーム初めて間もない頃だ。


 ルイスにとって、正直こんな強すぎる自分よりもまだ目標があった頃の弱い自分の方がよっぽど良かった。


 故に今、全ての目標が達成された時点で今求めるもの、目指すものなんて存在しなかった。

「あれからもう4年か……」


 なんとなく似た台詞を数時間前にも現実世界で言ったような気がしたが、気にせずその4年前のその『楽しい記憶』を思い返していた。



 ……

…………――――が、同時に俺の脳裏にある“(おぞ)ましい記憶”フラッシュバックするかのように蘇る。


 彼にとって最も思い出したくなかった記憶が――――――。


 それはあのとき(、、、、)あの場所(、、)であの少年(、、)が俺に対して言った最後の言葉――――――――――――――――。


『ねえ琴吹(ことぶき)君、“ぜつぼう”ってのに堕ちたボクを君は救い出せる……?』


(やめろ……!!)


 息を荒げながら心の中で、叫ぶ。


(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめおやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ――――ッ!!)


 何度も、何度も俺は心の中でひたすら叫ぶ。


 あの記憶(、、)は、俺自身忘れたくても絶対に忘れる事は出来ない。仮に死んでもそれだけ(、、、、)はずっと付きまとってくるだろう。


 やがて――その苦しみは限界へと達し――


(やめろオオオおおおおおおぉぉぉぉぉ!!)


 直後、ルイスの視界が暗転する。

 ――――。

 ――。


 ◇◆◇


 ――。

 ――――。

「おおおおおおぉぉぉぉ――ッ!!」

 突如ルイスこと琴吹景侍はベッドにて跳ね起きるかのように布団を剥ぎ体を起こす。

「はぁ、はぁ……」


 気がつくとそこは先程まで居た宿屋の部屋ではなく、モダンな雰囲気が感じられる暗い部屋だった。


 彼が思うに今のは、ハードに内蔵されている安全装置が起動したのだろうハード内の仕様によって強制ログアウトし現実世界に帰還した事を察する。


 とりあえず琴吹はVR機器を外しベッドから地に足を着け、立ち上がり部屋の電気をつけ再度ベッドへ腰を下ろす。


 その時だった。


 ヴヴヴ……ヴヴヴ――


 振動音の主は枕元に置かれていた薄型の透明なガラス板からだった。

 一見、一枚のガラス板であるように見えるがこれはケータイだ。画面表示や先ほどの立体表示などが可能だ。それゆえ、ケータイとしての役割もキチンと持っている。


 琴吹はとまずそのケータイを手に取り画面表示させた。


 表示させるとそこにはこう書かれていた。

『新着のメールを受信しました』


 彼がその画面を見た瞬間、ん? と首を斜めに傾げた。


「……はぁ? どういう事だよ……俺はメアドなんて持っていないぞ? つーか今更メールとか使う奴っていんのかよ……」


 今の世代、だいたいの人の連絡手段は基本的にSNSだった。それ故、メールを使う人なんて今では数えるくらいしか居ないだろう。


 琴吹はとりあえず受信ファイルを開いた。

 そこには次のようにして書かれていた。


=======================================

 発信元:不明

 宛先:不明

 題名:6度目のトップランカー“ルイス”君へ――


 内容

 やあ、最強を経験(、、、、、)したルイス君? いや、琴吹景侍 君

 まずは『4度目の防衛おめでとう』とでも言っておこう。

 とりあえず早速だが本題に入ろうか。


 単刀直入に、君はもう一度Lv1(イチ)からやり直したいと思ったことは無いか?


 別に強制という訳ではない。これは君自身の選択に任せる。


 決めたのなら、次の魔法公式(プログラムルーン)をCWO上で発動しろ。

 《∅=Ⅰ/0/fullch→0》


 期限はこのメール到着後一時間までとする。

 以上。


=======================================


 景侍はこのメールを読み切ると一度眉間縮め、こう思った。

(あり得ない)


 そもそもこのCWOの他全てのVRMMORPGにおいて、基本的にサブアカウントを作ることは不可能のはずだった。


 訳は、至って単純だ。基本的にログイン時での、体の負担が非常に大きいからだ。仮に二つアカウントを持った場合、更に体に負担がかかり最悪命にも危険が及ぶ可能性があるのだ。


「『サブアカウント』……か」


 あのメールの表示している通り、彼自身正直『サブアカウント』という物にとても興味があった。


 現在のあのアカウント(ルイス)は実を言えば景侍自体はほとんど操作していない。


 正確に言えば、全ての目標が達成してしまったため今現在『クリスタル・レイロード』以外のイベントや基本プレイなんて去年から全くやって無く完全に放置状態だった。


 正直景侍自身、もう一度やり直したい気持ちが一方的に強かった。


 そう考えると『サブアカウント』という存在は彼にとってある意味一番ほしい物だった。


「まあ、やって見る事に損はないしな……」


 景侍は半信半疑で独り言を呟くようにして、VR機器を頭に取り付けハードの電源ボタンを軽く押した。


 ◇◆◇


 ――気がつけばそこは、つい先ほどいた宿屋のベッドの上だった。


 ルイスはその場に起き上がると左手でメニューウィンドウを開く


 とりあえずルイスは、あのメールの書いていた通りに指でウィンドウを操作しメールを開いた。


「あれに書いてあった通りだと……『《∅=Ⅰ/0/fullch→0》』だっけ? っていうか、これ確かに魔法公式(プログラムルーン)だけど……」


 だがその式には一つ違和感があった。それは《=》の前、式の最初に表示されている数字――ファースト

ナンバーである。


 本来魔法公式(プログラムルーン)は基本的な詠唱としてファーストナンバーは1~9までがある。


 1~7はそれぞれの自然属性があり属性魔法(ナチュラル・マジック)と呼ばれ、8は回復系、9は召喚系などのその他の効果が発動するのだが『∅』から始まるものというのは今まで聞いたことは無かった。


 試しに、その場でメールに表示されていた通りに魔法公式(プログラムルーン)を一句一句唱え始める。彼の右手人差し指からにじみ出たマナによって一字一字丁寧に公式(プログラム)を空書きする。


《――――fullch→0》


そして――魔法が完成する。


その時だった。


 直後、ルイスの今いる空間において突如異変が発生した。

 まるで今いるこの部屋の次元が歪むかのように、真っ白な世界へと変貌し、同時に肉体までもがその世界に飛ばされる。


 ――――

 ――


 ◇◆◇


 ――

 ――――


「……え!? ちょ、ここって何処だよ!?」


 彼が見た世界、それは雲も無い真っ白な平面の世界だった。

 床は、ガラス張りのようだった。それを証拠に歩く度にコツンと軽い音が聞こえるのだ。


 あまりに唐突だったため正直ルイスは驚きを隠せなかった。

 すると、


 ルイスの目の前に一枚の大きなメッセージウィンドウが表示された。

『プレイヤーの名前を入力してください』

「……オイオイ、まさかじゃ無いよな」


 半信半疑な様子で眼の前にあるキーボードに近づく。


 「そういえば……」と、ルイス自身何となくであったがこの光景に見覚えがあった。


 それは4年前、ルイスが初めてこのゲームにログインしたときのことだ。


 ゲームを始めて一番最初に表示された文字がその『プレイヤーの名前を入力してください』という物だった。

「まさか、本当に(イチ)からやり直せるのかよ……」


 ルイスはとりあえず適当にキーボードを操作し始めた。


(えーっと、前のアカの名前が『ルイス』だったから……ら行の名前でいこうか、じゃあ――――)


 ピッ、ピッ! と一回一回キーを押すごとに軽い電子音が鳴る。


 彼が設定した名前は、


『このプレイヤーの名前は“ラルフ(、、、)”でよろしいですか?』


 直後に表示されたイエス・ノークエスチョンに《イエス》と答えると、また先ほどのように今いる世界が歪んでいく。

 やがて、視界が真っ暗になる――


 ◇◆◇


 ――。

 ――――。


 ワイワイガヤガヤと、楽しそうな民衆の声が聞こえてくる。


 徐々に肉体は動かせるようになり、同時に視点の歪みは収まってゆく。


 ラルフは一度眼をゴシゴシと両袖で擦り瞬きする。


 すると、


「え……!? 無い!? さっきまで俺が装備していた装備が無い!?」


 まずラルフは最初につい数分前には装備していたはずの武器や衣類が外されていることに気付いた。代わりに初期装備である布の服が装備されている事が確認できた。


「ここは……え!? ちょ、ここ『イニティアム』!?」

 次に、一瞬半信半疑であったが、360°見渡すと確かに今ラルフがいる場所は確かに『始まりの町・イニティアム』そのものだった。


 特徴として海に囲まれた沖縄ほどの面積を誇る小さな孤島にて、その北側にぽつんと開拓され厚い壁に囲まれた小さな町だ。しかしその町の中心にはシンボルとも言える巨人のような大樹が成っていた。


 とりあえずラルフは、左手でメニューウィンドウを表示する。今現在のステータスを見るためだ。

 そこには彼にとって信じがたい数値が記載されていた。


 Lv1

 HP125

 MP59

 攻撃力89

 守備力52

 瞬発力67

 魔法攻撃力79

 魔法守備力71


「ほ、ホントに……あ、れ? ……俺が、Lv1……嘘だろ……?」

 眼を何度もパチパチと瞬きし再度数値を確認する。


『Lv1』


「なんじゃこりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 怒号に相当する彼の叫び声が盛大に木霊するのであった。




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