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レベリングオート ~かつて最強だったプレイヤーが、Lv1からやり直すそうです~  作者: 行川 紅姫
序章:トップランカーやめました
4/50

決勝の試合にての変貌

遅くなりました。


 試合の始まる数分前、ルイスの相手となるチームのリーダーである男は入場門の前で他のチームメンバー4人と共に作戦の確認をしていた。

 具体的な作戦はいたって単純なものだった。

 まず接近戦の3人が敵チーム(一人)の周りを囲み3方向それぞれ切りかかる。その間、残りの二人は回復補助もしくは、魔法の援護で応戦するという戦法だった。

 作戦会議が終わると、それを待っていたかのように入場門が開いた。

 5人は、リーダーである男の掛け声の後、他の4人はそれに応えるかのように叫び試合会場に入っていった。

 会場に入ってみると我々の目の前に一人の白い格好をした少年の姿が見えた。

 ルイス。このゲームのトップランカーだ。

 相手は一人、普通ならば即KO……なのだが彼の場合はその概念を180度捻じ曲げてしまう。

 なぜならば過去に2度もそれで(、、、)優勝しているからだ。

 男は自分のチームメンバーに作戦のフォーメーション指示を行うと、メンバー4人は男の指示に従いすぐさま一定の位置に着いた。

 各メンバーは武器を手に持ち刃をルイスに向ける。

 勝気はあった。しかし心臓の鼓動は車のエンジンの如く鳴り、体全体もブルブルと震えた。決勝という大きなプレッシャーからだろうか、これまでになかった圧がルイスから一方的に感じられた。

 するとアナウンスの声が聞こえた。

 内容はどうやら30秒後に決勝の試合が始まるということだった。

 ピ、ピ、ピ! という一秒減るごとに聞こえる電子音。一回一回聞こえる毎に我々に緊張が走る。

 そして……カウントは、――、

 3――額に汗を滲ませ――、

 2――歯を強く噛み締め――、

 1――手に持っている武器を強く握り――、

 0――試合開始のブザーが鳴る。


 刹那、一瞬であったもののその場でゆらりと相手がよろめく姿が確認できた。

 その瞬間を見逃さなかった男達は、一斉にルイスに目掛けて襲い掛かかる。

 これまでの戦いで培った経験を生かし一気に距離を縮めていく。

 同時に3人は一瞬にして武器を持っていない片手でマナをにじみ出した人差し指を立て自分の武器に魔法公式(プログラムルーン)によってそれぞれ『【上級(ハイクラス)属性付与(エンチャント)】』を付与させる。

「《「火炎・上級付与」ⅠⅠ=high》!!」

「《「雷電・上級付与」ⅣⅣ=high》!!」

「《「暗黒・上級付与」ⅦⅦ=high》!!」

 3人のうち一人は火炎(フレア)属性を付与させ――

 ほかの2名のうち一人は雷電(エレクトロ)属性を付与させ――

 うちの1人は暗黒(ブラッティー)属性を自らの武器に付与させた。

 属性を付与させた武器は、わかりやすくその属性らしい色へと変化する。

 それと同時進行で後方の二名も詠唱を始めていた。

《「虹の御霊よ、――――――――――。」ⅢⅣ=Ⅰ/LvⅦ/ab-reⅢ》

 二人は呪文を唱えながら、持っていた杖の先にマナを集中させ数字と記号ばかりの魔法公式(プログラムルーン)を空中に空書きする。

 魔法公式(プログラムルーン)とは、単純に魔法を発動するときに使用する物だ。

基本的に公式(プログラム)においては『(イコール)』の前に何の数字が入るか、故にその後に入る数字、アルファベット、記号で発動する魔法は変わっていき、同時に口から一定の『起動言語』を公式(プログラム)と共に口から添えることによって魔法の効果が発動する。

 詠唱し空中で空書きした魔法は一文字一文字映し出され、完成すると徐々に一つの塊へと変換し消える。やがて2人のプレイヤーによって詠唱された魔法は一瞬にしてルイスの周り――それぞれ3方向に巨大な砂嵐が発生する。

 ゴオオオ!! と発生した砂嵐は徐々にルイスへと襲い掛かる。

 同時に接近戦3人はトライアングルのように砂嵐を囲む。

 先ほど唱えた魔法【サンド・ストーム】はLv1~Lv10まである魔法の中で『Lv7』として唱えた高レベル魔法でありながらも、それなりの殺傷能力はあまり無い。だが彼らのこの作戦ではもってこいの魔法だった。

 この魔法の効果は、『一定の敵の周りに砂嵐を発生させ「砂」で視界を遮り「風」の風圧で聴覚をシャットアウトさせる』というもの。

 つまり彼らの狙いはルイスの行動制限、砂嵐でルイスの行動を制限させて後は周りの3人で一気に叩き込む。それで相手は詰み(チェックメイト)、完璧な作戦だ……。


 ……いや、正確に言えば……完璧な作戦だった(、、、)

 なぜ過去形かというと理由は後に分かる。


 砂嵐を囲んでいた3人は一定のタイミングを見計らって――一斉に砂嵐へと突っ込んだ。

 中へ入ると周りは大量の砂埃によってほとんど見えなかった。だが今の我々にとっては砂嵐による影響なんてどうでも良かった。なぜなら我々の勘が正しければルイスの姿が見え後は攻撃するだけであるからだ。

 3人は向かってくる大量の砂を無視したまま縦横無尽に砂嵐の中を走る。

 すると、一人の人影が彼らの目に映った。

 彼らの勘が正しければその人影の正体は間違いなくルイス。

後は間合いに入り切り落とすのみ。

(((もらったあああぁぁぁぁ!!)))

 3人がそう思い一斉に切りかかる


……が、


「「「い、いない!?」」」

なぜかその場にルイスの姿はなかった。

 ありえなかった。

 試合が始まってまだ30秒しか経っていない。しかも最初からルイスの位置は砂嵐が発生させるまでは完全に補足していたのにも関わらず……だ。

 なぜだ……。

 どうやって……。

 いったい奴はどこへ……。

 辺りを見渡すも砂嵐により視界を遮られ全く見えなかった。

すると……

 刹那、その場にいた内の一人が何かに気付く。


 まさか、最初からこれ自体(、、、、)を狙っていたのではないか、と。


 とっさに気付いた俺は、大声で外にいる後方援護組に向け魔法を終了させるように叫ぶ。しかし、風圧の影響で言った言葉すべてかき消され結局向こう側に聞こえる事なんて無かった。

 その次の瞬間、彼らは確信する。

つまり、そのまさか(、、、)だった。

 ビュン!! と風の切る鋭い音が聞こえた。

 距離からして近いと気付くも、もう時すでに遅し……。

 突如、その場にいた3人の内一人がその場に倒れこむ。

 同時に倒れた男の背後から、一人の少年が姿を現した。

 ラルフだ。

 こうして間近で見ると、ぱっとして齢は15,6。つやの良い銀髪は少々長めで、この砂埃の中でも色白な肌はとても目立っていた。

 両手に持っている二本の刀の内、右手に持っている長刀を肩に乗せ嘲けるようにして彼らに言う。

『オイ三下共ォ、せっかくの決勝なんだからよォ、少しは俺を楽しませろよォ。なァ?』

 ラルフの発した声はまるで2人の声が入り交じったかのようだった。

 彼の目はまるで体全体を氷を生ませるような鋭い眼つきにより二人の男達は一瞬にしてその場にて体が凍てつかされる。


してやられた。


 その場にいた者は揃ってそう感じた。

 今ルイスの両手に持っている武器――通称『結晶刀』。

 白く美しい刀である『結晶刀』。その刀はこの砂嵐の中でも安定の輝きを魅せていた。

 このゲームのワールドにたった3つしかないと言われている『神の結晶(クリスタル)』。それを刀と配合して作られる武器だ。

 この刀の場合、形においては普通の刀とは全く変わりは無いが、刀の刃と棟との間にある刀身を貫いて走る稜線――所謂、鎬の部分には7色に輝く石『神の結晶(クリスタル)』が埋め込まれていた。

 それこそが『結晶刀』なのだが――

その刀が2本(、、)あった。

 それが一体何を意味しているのかは……言うまでもなかった。

 シャッ!! という鋭い音が聞こえた。

 先ほど倒れこんだプレイヤーの体に刀を突き刺したのだ。

 このゲームのシステム上、プレイヤーの攻撃による『痛み』はほとんど感じないのだが、HPのパラメーターを見るとみるみる削られているのがわかる。

 ――やがて、HPは底を尽き……。

 値は『0』になる。同時にプレイヤーは――

 まるで粉のように、体の部位だった四肢などの全ては一瞬にして粉へと変化し、宙を舞い、人の形をみるみる消してゆく。

 代わりに残ったのは、プレイヤーの『死亡オブジェクト』として出現する石『核石(セミ=クリスタル)』だった。

『ああ、そうだそうだ、1つ言い忘れていたんだけどォお前ら三下共の補助に当たっている他三下二名はお前らがこの砂嵐の中に突っ込んだ時に「石」にしといたから感謝しなァ』

 愉快な様子でルイスは言った。

 すると、彼の話を聞いていた内の一人が思っていた一つの疑問を震えた声で問いかける。

「じ、じゃあお前は一体どうやってこの砂嵐から脱出んだよ……っ!?」

 ルイスは、男の問いに対して鋭い目つきへ表情を変えると、

『はぁ? お前ら【サンドストーム】の「弱点」、まともに知らないで使ってたのかよ』

「なっ!? 『弱点』……だと?」

 突如ルイスの口から放たれたその言葉において、男は返す事など出来なかった。

『その様子だと全くのにわか知識だったようだなぁ』

「嘘だ!! そんなもの! いずれお前の相手すると決めて、昔からずっと考えて――」

『違ぇよ。そうじゃねぇよ』

 男は咆哮するかのように脳裏に浮かぶありったけの想起をルイスへ向けて放った。しかし、対してルイスは男の発言において割り込むかのように入り訂正をかける。

「どう……いう事だ?」

『後ろのォ三下共の空書きした魔法公式(プログラムルーン)を見て大体察してたが一つ穴がある』

 ルイスは一度大きく息を吐くと更に言葉を重ねていく。

『お前ら大雑把過ぎるンだよ』

「な、なぜだ!? 俺が考えた完璧な作戦何だぞ!? 手抜きなんて何一つ――」

『はぁ? 何が完璧な作戦だよ三下。じゃあ聞くが、なんで俺が五体満足でこうして立って話せると思ってんだ?』

「そ、それは……」

 男は、またもやルイスの質問に対して答える事なんて出来なかった。

 Lv900台のプレイヤー5人が同じ階位の人間一人に対して、まるで小学生から簡単な算数を出題され折れてしまうようなこの始末。正直とても情けなかった。ラルフの口から出た簡単な問題に対して折れてしまう自分をひたすら恨んでいた。

 ラルフは男の情けない姿を見て、呆れてしまったのか思わずため息をついてしまった。

『ったく、これだから三下は……後方の三下2名の空書きした魔法公式(プログラムルーン)は少々改変加えて短縮させたんだろうな、俺の今まで見てきた中でも妙に俺のHPの削られる量が少なかった。つまりその時点で最初っから俺の行動を阻害する作戦だということに察し付いた。……せっかくのLv7魔法がもったいねぇぞ』

「じゃあ、お前、まさかあの時には……もう!?」

『正解、気付くの遅過ぎ……まあ、しっかし残念ながら同時にお前らはその時とんでもないミスを犯していた』

「な、なんなんだよそのミス……って?」

『魔法展開範囲だよ。地の面積においては結構計算されてたが、――』

 次の瞬間、彼の口から放たれた次の一言によって砂嵐での空間の状況が一変した。

『――お前ら縦の奥行き(、、、、、)って考えていたか?』

「「!?」」

「……テメェ、まさか!?」

 瞬間全てを悟ったのか、彼らの脳に纏わり付いていた疑の縄が一瞬にして(ほど)けた。

『そういうことだよ。三・下・サン。お前らがいずれここに突っ込むことも大体分かってたからなァ、突入のタイミングを計算して割り出しあと、それに合わせ上空に跳躍し砂嵐から脱出。後は魔法展開を維持している三下共を討てばいい話だ』

「う、嘘だろ? ……そんな短時間で――っ!?」

 だがそれではまた一つ疑問が生まれる。それは、詠唱したプレイヤーが死んでいるのに未だこの魔法が弱まる気配無く続いていることについてだった。

 しかし、答えはすぐにルイスの口から言い放たれた。

『ちなみにィ、未だにこの砂嵐が続いているということに関して、簡単なことなんだけれどよォ単純に、俺があの三下共へやった魔法をそのまま継続(、、)させて唱えているだけなンだ』

「!?」

 簡単そうに言うルイス、だが実際『継続詠唱』なんて彼の言うように容易ではない。通常一度詠唱した魔法は術者の詠む早さやトーン、空書きしたプログラムルーンの字体などによって魔法の威力は変わってくる。ましては誰にも違和感なく第三者が継続詠唱をするというのならそれは(もっ)ての(ほか)だ。

 仮に、彼の言うことが本当に正しければ、その魔法の詠む早さやトーン、プログラムルーンの字体など全てを完コピして唱えているということになる。

彼の話を聞いた瞬間、俺は片足を少し後ろに下げる。額には大粒の汗が流れた。

「ば……化け物……」

 その場にいた男はルイスに向けて呻くようにして呟く。

 そして――

「この、バ、化け物があああああァァァああぁぁぁァァ!!!!」

突如、我を忘れるようにして男二人は持っていた武器を構え直し衝動的にルイスに襲い掛かった。

 距離は遠くなかったためすぐに詰めることができた。

 男達は一斉に彼を縦から切り落とそうとする……が。

 しかしながら、もう遅かった。

 既にラルフは両手の刀を鞘に入れ、前屈みに腰を落とす姿――居合いの体勢となっていた。

詰み(チェックメイト)だ。もってけ、クソッタレが……』

直後、――抜刀

 持っていた両手の刀によって――

 まるで次元を切り裂くかのように――

 刃が懐へと入って行き――

 風を切る音と共に――


 試合の決着がついた。



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