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アッラー伊之助

「伊之助~~~!伊之助~~~~!」

とある春の金曜日。

それなりに上品そうな家の中。

お手伝いさんが廊下から家の息子を呼んでいる。

「な~~に~~?」

返事をして、緑の服を着た息子が外に出てくる。

ズボンどころかパンツもはかないで。

「こらあああああっ!また何をやってるの!」

お手伝いさんが声を荒げる。

「だって、象さんのようなアッラーのアラビア文字を見てもらいたくて」

息子が子供にしては低い声でおませに返事する。

「だからって、どこに書いているのよ!!紙に書きなさい、紙に」

お手伝いさんが厳命する。

「まったく、ここはよく書けましたって褒めなくちゃいけない場面だぞ、沙美恵。やれやれ、異教徒はこれだから困るんだ」

偉そうになされる息子の声に、お手伝いの沙美恵は拳骨を食らわせた。

息子は途端に大人しくなり、黒のボクサーブリーフと緑のズボンを着用する。

「それで、何で僕を呼んだの?」

沙美恵は溜息をつきながら息子の伊之助に丁寧な口調で説明する。

「もうすぐ6時です。もうすぐお父様が帰宅なさる時間ですから、玄関および窓口の掃除をしなければなりません」

「えええ――、今週はサラフィー仮面が6時から1時間スペシャルで放送されるんだぞ。それに本来そういうのはお手伝いの沙美恵がやるべきことじゃないのか?」

「その衛星放送でしたら、もう録画済みです。坊ちゃまは今週で小学2年生になりました。父をお出迎えする心構えの教育を始めなければなりません」

「知らないのか、沙美恵。テレビ番組はビデオでもネット配信でもなく、生放送で見るのが時間を何よりも重視するイスラームの美学というものなんだぞ」

変に威風堂々な伊之助に、沙美恵は答える。

「そのような美学は異教徒の前では一切通用しません。掃除しないのなら、サラフィー仮面もまた父への不孝でお仕置きしにくるかもしれませんよ」

「うぅぅぅ、それだけは嫌だ・・・」

ついに弱気となった伊之助は仕方なしに掃除を始めた。

すると10分後、父親のヌフラ城比しろひが帰宅してきた。

「只今、父ちゃん、今日も男ばかりの建設職場でご苦労様」

「お、今日から掃除を始めさせると聞いていたけど、本当だったのだな」

「えへへ、褒められちゃたぞ」

照れる息子を観ながら、沙美恵が告げる。

「お帰りなさい、それでは時間になりましたので、私は帰らせていただきます」

「ご苦労さん、次は日曜日だったね」

「さらばだ、沙美恵、お土産買ってきてね」

「ええ、お土産無しでまた来ます」

沙美恵が帰ると、伊之助は父親に質問する。

「ねえねえ、どうして沙美恵は帰りの言葉にませと主人をつけないの?なんで上は普段着風なの?」

城比は答える。

「そういう条件で雇ったからだ。もう少しお金を出せば、それこそあのように優しくしてくれるのを雇うことだってできるのだけどな。しかし、イスラームは寛容な宗教だ。異教徒だったら耐えられないだろうが、イスラームはあの程度でも十分に容認できる寛容なる宗教なんだ」

「うん、半袖で髪の毛をいつもひらひらとさらして、おまけに膝上のスカート丈で働いてくれるのなら、ムスリムとしてはそれだけで十分すぎるに十分すぎるぞ」

「うんうん、お前も良いムスリムに育っているな。もっと敬虔になって、膝下でも良いようにしろよ。じゃあ、日没の礼拝を始めるとするか。おーい、母さん、夕飯と風呂の準備を止めて、礼拝だ」

「アッラーは慈悲深き存在だなあ」


(新年習作の1話目分)







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