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幽霊ちゃんと俺くん。  作者: ポコたん
3/3

部屋の中の攻防

 そんな事があって今この状況に陥っていると言う訳だ。


「と言うか、なんで家にまでついて来ているんだ!」


 今現在彼女は俺の部屋の中にまで侵入して来ていた。 


「だ、だって私の姿あなたにしか見えてないみたいですし…」


「それに…私このままだと自分が悪霊にでもなってしまう様な気がして…」


 そう弱々しい口調で呟く彼女の身体は震えていた。


「怖いんですっ…怖いんですよ!」


「あだだだだ」


 彼女は俺の髪の毛を乱暴に引っ張り始めた。


「いいんですか?」


「またかよ!」


「私に協力してくれないなら、今度はあなたの髪の毛全部毟り取りますよ!」


「わかった!もう、わかったからとりあえず落ち着けって!」


 彼女は相当に焦っている様子だった。訳の分からない心理状態になっている。


「じゃあ協力してくれるんですね?」


「やるよ…やりますよ…ええやりますとも…」


 俺は半ば投げやりに返事をし、彼女に協力する事を同意した。いや、させられたのだ。


「あ、ありがとうございます!わーい!わーい!」


 彼女は嬉しさの余り部屋の中をビュンビュン飛び回っている。


「(頼むから俺の部屋の中で暴れないでくれ…)」


 一頻り感情を爆発させた彼女は、満足したのか飛び回るのを止め、勝手に俺の椅子にちょこんと座った。


「それで、私これからどうしたらいいですかね?」


「(俺に聞かれても困る…)」


 とりあえずは様々な疑問を彼女にぶつけてみる事にした。


「君は自分の事何も覚えてないんだっけ?」


「そうなんです、全く記憶がなくて、でも不思議ですよね?」


「え?何が?」


「なんであなたにだけ私の事が見えるんだろうなって思いまして」


ーー言われてみればそうである。


「確かに、別に俺には霊感があるわけでもないしなぁ…あ、分かった!」


「それはきっと、俺が超絶な程にイケメンだからだよ!」


 本当は答えが見つからなかったので、俺は彼女の問いを下らない冗談で誤魔化そうとした。


 彼女の方をどや顔で見る。


 彼女は椅子をクルクル回して遊んでいた。


「人の話を聞けよっ!」


「え?なにか言いましたか?」


「いや、なんでもないです…」


 俺は精神に耐え難い苦痛を受けた。


「それで、話を戻すけどさ、君は自分の名前すら覚えてないの?」


「はい…覚えてないです…あ、あの、私幽霊って事は死んじゃったって事ですよね?」


「まぁ…当然そうなるよな…」


 部屋の中が急に重苦しい空気に変わる。俺は暫く彼女に、何か同情の様な言葉をかけてあげるべきか悩んだが、それは止めた、第一にそんな事を言っても悲しくなるだけの様な気がした。


 長く沈黙が続いてしまったので、話題を変える事にした。


「し、しかし幽霊って凄いよな~、浮いたり出来るんだもん、他にはどんな事が出来るのさ?」


「う~ん、そうですねぇ…」


 沈黙が解かれた為か、部屋の空気が少し和らいだ。


「こんな事も出来ますよ」


 彼女は俺の部屋の壁をスルリと通り抜け、急に外に飛び出した。


「うおっ!すげー!」


「えへへへ」


 部屋に入ったり飛び出したりを繰り返す。彼女はどこか楽しそうだった。


「よく見てて下さいね!えーい!」


「え?ちょ、ちょっま」


ーーボスッ、と鈍い音が部屋中を包んだ。

 

「いったた、…な、なにすんだよっ!」


 彼女が俺の腹に頭から突っ込んで来たのだ。


「す、すみません…あなたの身体をすり抜けて驚かせようとしただけなんです、私の頭も凄く痛いです…」


「知るか!」


「でも、不思議です…」


「今度はなんだよ?」


「だって、変じゃないですか!あなたにだけは触れられるなんて」


「また俺だけか…」


 彼女と出会ったのも今日が初めての事で、全くと言っていいほど俺に思い当たる節はなかった。


「まぁ見えて話せるんだから、そう言う意味じゃあ、触れたって不思議じゃないのかもな」


「あ!なる程です!」


 彼女は妙に納得した様でウンウン頷いている。


「今日はもう疲れたな…」


 俺は一度に様々な出来事が襲ってきたせいもあってか、眠気がもう限界を越えていた。


 それにこれ以上話し合いをしても、今は謎が増えるだけの様な気がしていた、そこで彼女に今日はもう眠ろうと提案し、今週の日曜日に何か手掛かりになるかもと、初めて彼女と出会った『あの』付近を散策してみる約束をした。


 ちなみに彼女は、「自分が成仏出来るまではずっとあなたの部屋に住み込みます」などと無茶苦茶な事を言い出して来たので俺は、「何処のギャルゲーのヒロインだよっ!」と一応それなりの突っ込みを入れ何とか帰ってくれる様頼むと「私は押し入れで構わないから」と未来からやってきた猫型ロボットの理屈を述べさっさと寝てしまった。


「はぁ…俺も寝よう…」


 彼女には口が裂けても言いたくないが、本心ではちょっぴり嬉しかったのかも知れない。


 両親が亡くなってからは、この家に俺はいつも1人ぼっちだった。久しぶりに自分の部屋の中に他人が入った気がする…まぁそいつは幽霊だった訳だけど。

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