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第2話

彼視点で。桜の下でのデートです。


今まで僕は彼女に甘えていたのかもしれない。

病気だから甘えていた部分がきっとあった。

ずっとそんな馬鹿な僕の側にいてくれた伊織。

愛して止まない恋人。

彼女に言葉じゃ表せない位感謝していた。

今日の日は素晴らしい想い出になり心に残るだろう。

たとえ僕が死のうとも色褪せる事無いものを掴める。

ああどうか僕がいなくなったら早く忘れて欲しい。

君は未来を生きて行くのだから。



* * * * * * * * * * * * * * * * *



僕は独り病室のベッドの上、彼女が訪れるのを待っている。

昨日は彼女に心配かけてしまった。

今日はもう無茶はすまい。

閉ざされた窓の向こうの桜を見つめていた。

「きっともっと綺麗なんだろうな。あの桜は」

此処の桜のように桃色に色づいてはない。

忘れられないあの景色。

胸に残る気高い純白の白い桜。

2年前まではいつも見ていた景色だった。

病に侵されたりしなければ今頃、彼女と或いは

一人であの道を歩いていただろう。


********+++++++*********


病室の廊下から聞きなれた足音。

コンコン。

白い花束を手に彼女ー伊織ーがやってきた。

「おはよう。今日は調子どう?」

「昨日よく寝たから凄く良いよ」

「良かった。花瓶の花替えてくるから待ってて」

彼女は安心したように微笑み、花瓶の花を替えに廊下の奥へ。

「伊織」

小さく恋人の名を呟く。

君と付き合いだしてもう4年目の春だね。

そしてこれが最後の……。

瞼が震え始めたのでとっさに顔を伏せた。

ベッドの下のバッグに手を伸ばす。

着替えと薬を詰めたバッグを肩にかける。

最後のデートを精一杯楽しもう。

あともう少しだけ持ってくれ。

僕の体……あともう少し。

これ以上は望まないから。

今日だけは普通の恋人同士に戻りたい。

彼女の手を借りず、自分の足で歩きたい

「優、そろそろ行こうか」

気付くと花の香りとともに彼女が側にいた。

「ああ」

寝台から起き上がり彼女の隣りに立つ。

「どきどきするわね」

にこと微笑み彼女は僕に手を差し出した。

「そうだね」

彼女の優しい笑みに思わずクスと笑ってしまう。

こうして手を繋ぎ歩いていると他の恋人達と変わらないね。

リネンの冷たい廊下を歩きながら、僕はぼんやりとそう思った。

担当の看護婦が笑顔で見送ってくれる。

少し悲しそうな顔をした彼女を僕は見逃さない。

胸がきしんだ。

僕だって知っている。

自分の命の期限は自分が一番良く分かっているつもりだ。

気付かせまいと隠し通そうとしている医者や看護婦、そして伊織は

本当に優しい。


思考を現実に戻すと、病院からかなり離れた場所にいた。

隣りには鮮やかに微笑む伊織の姿。

「どうしたの優、具合悪いの?」

かなり心配そうな顔で彼女が僕の顔を覗き込んできた。

そんなに長い間、僕は呆けていたのか。

彼女への申し訳なさで一杯になる。

「全然大丈夫。ちょっと考え事してただけ」

「もうすぐバス来るから、ぼうっとしてちゃ駄目よ」

彼女は悪戯っぽく微笑んだ。

いつも彼女には敵わない。

病気になる前も彼女に引っ張られてばかりだったな。

とことん情けない。

今日は格好良い所見せなきゃ。

バス停でバスを待ちながら、僕はそんな事を考えていた。

これから1時間余りの小旅行なのだ。

心が弾んで笑顔全開になった。

今日だけは普通の恋人同士でいられる。

二人で歩いた並木道で彼女に言おう。

ずっと言おうと思っていた言葉を今更だけど告げよう。

決意は強く心の中刻まれていた。


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