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広い世界の隅っこで

世界は広い。

私が想像しているなんかよりも遥かに広い。

ちっぽけな私の存在なんて、この広い世界から見れば無いに等しい。

世界のほんのちょっとした悪戯でも私は消えて無くなる。

それでも私は生きる。

例え、広い世界の隅っこに居ようとも。






私は今、台所を歩いている。

電気は付けられていない為、私は堂々と中を歩くことが出来る。

如何してか、等という野暮なことは聞かないで欲しい。

「台所」と「暗闇」と「世界は広い」ということから、私のことは想像してくれればそれで充分。

さて、私が何故に台所に来ているのかと言うと差し当たりの食料を得る為だ。

どんな生物でも栄養を摂取しなければ死んでしまう。

人間だってそうだし、他の生物も皆自分が生きる為に栄養を必要とする。

長い事、広い世界の隅っこの更に隅っこに隠れていた私は流石に空腹の限界が来ている。

足取りも覚束なく、歩いているとガンと頭を何かにぶつけた。

何かと思って見てみるとそれは食べ物だった。

極限空腹状態である私にとって目の前のそれは飛んで火に入る夏の虫。

遠慮無く、食事にありつく。

極限まで空腹だった私は我を忘れてかぶり付く。

腹を満たすまで私の身体は止まらなかった。

ただただ、目の前の得物にかぶり付くのみ。

数分はむしゃぶりついていただろうか。

腹を充分に満たした私はようやく食の行動を止める。

正直言うと食べ過ぎたと言った所だろうが、どうせ私が一口でも食べればそれは捨てられる。

それならば、勿体無いから遠慮無く食べた方が礼儀と言うものだ。

初めから食うなと言われるかもしれないだろうが生憎と生物である私は栄養を摂取しないと死んでしまう。

生物には死にたくないと言う本能が自動的に発動するものだから自己防衛の為に食べたまでだ。

詭弁とでも何とでも言って良い。

どうせ人間よりも野生に近い私は理性より本能を優先する。

さて、差し当たりの食事も終えたことではあるし、この広い世界の隅っこに隠れるとしよう。

何故かって?

それは人が私を忌み嫌うからだ。

理由など知らない。

ただ不気味だとか気持ち悪い、とか言う理由でも命を狙われたことがある。

別に恨んでなどいない。

人は自分と異なる存在を排除しようとする傾向にある。

保護されている物も居るだろうがそんな物はほんの一部だ。

世界中を見渡してみれば、排除されようとしている物の方が多い。

私も後者に分類される物だ。

だからこそ、人に排除される私は広い世界の隅っこでひっそりと隠れ住むしかないのだ。

自分のねぐらへと向かう。

しかし、パッと蛍光灯に光が灯った。

不味い、見つかる、と思った私の思考と同時に天をも劈つんざかんばかりの悲鳴が辺りに木霊する。

遅かったか、と言う思考が私の頭を駆け巡った時にはもう終わりだった。

霧状で噴射された大量の薬物が私の身体を包み込む。

もがいて暴れるがこの薬は強烈だ。

自分の仲間がこれで何度もやられるのを見てきた。

次第に自分の身体が動かなくなり始め、意識まで朦朧としてくる。

それが本当に私の最後の思考だった。





「全くいきなり叫ぶな。近所迷惑だろ?」

「だって……ゴキブリが……」

「ああ、分かった。それでこのゴキブリの処分を俺がしろと?」

「うん、お願い……」

「仕方ないな……」


女に頼まれた男は殺虫剤によってこの世を去ったゴキブリをティッシュで包む。

そして、丸めたティッシュをゴミ箱へと投げ捨てる。

かくして広い世界の隅っこでほそぼそと生きていた一匹のゴキブリの物語は幕を閉じる……




10年くらい前の作品ですょ?(何

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