時よ、止まれ、永遠に
「なあ、知っているか。ウサギって寂しいと死んじゃうんだぜ?」
彼は病室の窓から覗く満月を見て、得意げに言った。
「知ってるよ。それに、迷信よそれ・・・」
私は彼の背中を見ながら言った。
病魔に蝕まれた彼の体。以前はたくましかった腕も、骨と皮だけのようになり。部活で日焼けしていた肌も、今は青白くなってしまった。
そして、ここ数日でさらに病気が悪化してしまったことがわかるほど、彼は変わっていた。
今では一人で満足に動くことすらできない。
満月を見る彼の背中は小さく、抱きしめたくても壊れてしまいそうなほどだった。
「あんたは、怖くないの?」
私は震える手を、声を必死に堪えながら彼に聞いた。
言った後、自分がどれだけ馬鹿なことを言ってしまったか気が付いた。でも、もう遅い。
彼はゆっくりとこっちを向いた。
その表情は意外にも微笑んでいる。
「怖くない。って言えば嘘になるかな。でも大丈夫・・・」
二人の間に沈黙が流れた。
「大丈夫・・・・・」
もう一度、彼が言った。
視界が霞む。彼の姿を捉えることができず、私は目を擦った。
「こっちおいでよ。一緒に月を見よう」
彼が手招きする。私は彼のベッドに腰掛け、彼の胸にもたれるように座った。
背中に感じる固い感触、骨の感触に私は不安な気持ちを抑えきれない。
「綺麗だね・・・」
「ええ・・・」
「なあ、キス。してもいい?」
「ええ、いくらでも・・・」
私と彼の唇が重なる。
しばらく、このままでいたい。
いいえ、永遠に。
時が止まってしまえばいいと思った。