担保の夢
【本文】
兄は、軽い顔で借金をしたらしい。
最初はただのパチンコだった。
勝てば返せる。そういう話だった。
でも、返せなかった。
気づいたときには、相手は普通の貸金じゃなかった。
名前も知らない、顔もよく見えない人たち。
ただ「返せ」という圧だけが、部屋の空気を変えていった。
そして、妹がいなくなった。
「担保にしたから」
兄はそう言った。
悪びれもせず、むしろ仕方ないだろ、とでも言いたげに。
意味がわからなかった。
人が担保になるわけがない。
でも、なるらしい。
探しに行くしかなかった。
どこにいるのかもわからないまま、ただ足を動かした。
現実感がなかった。夢の中みたいに、景色がずれていた。
その途中で、あいつに会った。
早乙女乱馬。
場違いなくらい軽い顔で、でも当たり前みたいに隣に立ってきた。
「助けに行くんだろ」って、当然のことみたいに言った。
現実じゃない。
でも、その時はそれでよかった。
一人じゃないと思えたから。
妹は、見つかった。
でも、それはもう「妹」じゃなかった。
身体に何かが埋め込まれていて、
呼吸も、目の動きも、どこかぎこちなかった。
「商品だから」
誰かがそう言った。
価値があるから、まだ残してあるだけ。
価値がなくなれば、処分するだけ。
その言葉が、やけに静かに刺さった。
助けようとした。
でも、方法なんてなかった。
力もないし、交渉もできない。
怒鳴っても、何も変わらない。
乱馬は戦った。
現実離れした動きで、何人かは倒した。
でも、それだけだった。
数が多すぎた。
仕組みが、深すぎた。
兄は、その日の夜に死んだ。
自分で終わらせたらしい。
「もう無理だから」
短いメッセージだけ残して。
ふざけてると思った。
全部置いて逃げただけじゃないかって。
でも、怒る先も、もう残っていなかった。
妹は、その翌日に処分された。
「担保が多すぎるから整理した」
そう言われた。
理由としては、それで十分らしかった。
何も残らなかった。
助けに行ったはずなのに、
動いたはずなのに、
全部、遅かった。
乱馬はいつの間にかいなくなっていた。
最初からいなかったみたいに。
帰り道だけが、やけに現実だった。
信号も、音も、人の声も、全部普通で、
何も起きていないみたいだった。
でも、確かに全部終わっていた。
私は、誰も救えなかった。
それだけが、はっきりしていた。




