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第5話:絶望的戦況

報告は、夜明け前に届いた。


 


「ヴァルディア帝国軍、進軍を確認!」


 


 王城の会議室に、緊張が走る。


 


「数は!」


「およそ、一万!」


 


 空気が凍りついた。


 


 レグナス王国の常備兵は、三千にも満たない。


 


 単純な戦力差は、三倍以上。


 


 勝負にもならない。


 


 


「……早すぎる」


 


 王が低く呟く。


 


「偵察では、まだ動きは――」


 


「動いたのではない」


 


 言葉を切る。


 


「最初から、こちらに来るつもりだっただけだ」


 


 


 静寂。


 


 


「……どういうことだ」


 


 将軍バルガスが眉をひそめる。


 


 


「この国は、緩衝地帯だ」


 


 淡々と話す。


 


「今までは“潰す価値が薄かった”だけだ」


 


 


 地図を指でなぞる。


 


 


「だが今は違う」


 


 


「内政は崩壊寸前。軍も弱い。抵抗力はほぼない」


 


 


「つまり――」


 


 


「“今なら楽に取れる”」


 


 


 誰も、反論できなかった。


 


 


「……くそっ」


 


 バルガスが拳を握る。


 


 


「防衛線を張るしかない! 全軍を北に集めろ!」


 


 


「無意味だ」


 


 


 即答。


 


 


「何だと!?」


 


 


「三千で一万を止める?」


 


 


「正面から当たれば、三日も持たない」


 


 


「だが他に方法が――!」


 


 


「ある」


 


 


 言葉を重ねる。


 


 


 全員の視線が、こちらに集まる。


 


 


「……戦わなければいい」


 


 


 沈黙。


 


 


「……ふざけているのか」


 


 バルガスの声が低くなる。


 


 


「敵は来ているんだぞ!」


 


 


「知っている」


 


 


「なら――!」


 


 


「だからこそだ」


 


 


 言葉を遮る。


 


 


「戦えば負ける」


 


 


 事実だけを言う。


 


 


「なら、戦わなければいい」


 


 


 


 空気が、重く沈む。


 


 


 


「……具体的にどうする」


 


 


 王が問う。


 


 


 


「補給を断つ」


 


 


 


「……補給?」


 


 


 


「帝国軍は一万だ」


 


 


「それを維持するには、大量の物資が必要になる」


 


 


「食料、水、矢、馬の飼料」


 


 


 


「それらは、どこから来る」


 


 


 


「……本国からの輸送だ」


 


 


 バルガスが答える。


 


 


「そうだ」


 


 


「つまり」


 


 


 一拍。


 


 


 


「そこを潰せばいい」


 


 


 


 静寂。


 


 


 


「……それは、わかる」


 


 


 王が言う。


 


 


「だが、それをどうやって」


 


 


「我が軍で迎撃するのか?」


 


 


 


「しない」


 


 


 


 即答。


 


 


 


「では――」


 


 


 


「敵にやらせる」


 


 


 


 意味が、理解されない。


 


 


 


 当然だ。


 


 


 


「……説明しろ」


 


 


 


「帝国は強い」


 


 


「だが、それは“統制が取れているから”だ」


 


 


 


「逆に言えば」


 


 


 


「統制が崩れれば、一万はただの群れになる」


 


 


 


「……」


 


 


 


「補給を断つ」


 


 


「情報を流す」


 


 


「疑心を植え付ける」


 


 


 


「内部から崩す」


 


 


 


 言葉は静かだった。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 それは――戦争そのものを否定する発想だった。


 


 


 


「……そんなことができるのか」


 


 


 王が問う。


 


 


 


「できる」


 


 


 


 迷いなく答える。


 


 


 


「そのために、ここにいる」


 


 


 


 沈黙。


 


 


 


 そして。


 


 


 


「……任せる」


 


 


 王が言った。


 


 


 


 その一言で、すべてが決まる。


 


 


 


「陛下!?」


 


 


「他に手はない」


 


 


 王は首を振る。


 


 


 


「このまま戦えば、確実に滅ぶ」


 


 


 


「ならば」


 


 


 


「賭けるしかない」


 


 


 


 視線がこちらに向く。


 


 


 


 重い。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 問題ない。


 


 


 


「三日くれ」


 


 


 


「三日で、戦を終わらせる」


 


 


 


 ざわめきが走る。


 


 


 


「三日だと……?」


 


 


 バルガスが呟く。


 


 


 


「一万の軍を……?」


 


 


 


「戦わずに」


 


 


 


 言葉を重ねる。


 


 


 


 誰も、笑わなかった。


 


 


 


 笑える状況ではないからだ。


 


 


 


 


 ――だが。


 


 


 


 それでも。


 


 


 


 やるしかない。


 


 


 


 


 俺は、戦わない。


 


 


 


 


 だからこそ。


 


 


 


 


 戦を終わらせる。


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