第4話:再会
城の中庭は、静かだった。
整えられた石畳と、最低限の手入れがされた庭木。
だがどこか、余裕がない。
この国の現状が、そのまま形になっているようだった。
俺はその一角に立ち、書類に目を落としていた。
兵の配置。
補給の流れ。
防衛線。
どれも、穴だらけだ。
――時間がない。
「おい」
声が飛んできた。
反射的に顔を上げる。
「……やっぱりお前か」
そこに立っていたのは、一人の男。
短く切った髪。
無駄のない体。
そして、変わらない目。
「レオン」
名前が、自然に出る。
「久しぶりだな、カイン」
にっと笑う。
あの頃と同じ笑い方だった。
「ああ」
短く返す。
少しの沈黙。
だが、それは重くはない。
「……生きてたか」
レオンがぽつりと呟く。
「お前もな」
それだけで、十分だった。
「まさか宰相になってるとはな」
「成り行きだ」
「はっ、相変わらずだな」
軽く笑う。
その時だった。
「……本当に、生きてたのね」
別の声。
振り向く。
そこにいたのは、一人の女性。
長い髪。
静かな瞳。
「エリナ」
名前を呼ぶ。
「久しぶり」
ゆっくりと近づいてくる。
その視線は、まっすぐだった。
だが。
ほんのわずかに。
何かを押し殺している。
「……ああ」
短く答える。
沈黙。
空気が、少しだけ変わる。
あの日のことが、よぎる。
誰も、口にはしない。
「で」
レオンが軽く肩をすくめる。
「紹介しとくわ」
一歩、エリナの隣に立つ。
そして、自然な動作で。
その肩に手を回した。
「こいつ、俺の嫁」
――。
一瞬だけ、時間が止まる。
「……そうか」
それだけを言う。
驚きはない。
予想していなかったわけでもない。
だが。
胸の奥で、何かが静かに沈む。
「なんだよその反応」
「事実だろう」
「まぁな」
レオンは笑う。
エリナは、何も言わない。
ただ。
こちらを見ている。
「……いいのか」
ふと、口に出る。
「こんな国に来て」
レオンは、少しだけ眉を上げた。
「お前がいるんだろ」
即答だった。
「なら問題ねぇ」
迷いがない。
「……そうか」
視線を逸らす。
変わっていない。
こいつは、昔からこうだ。
「依頼だ」
エリナが静かに言う。
「この国の護衛と、戦力補助」
「そうか」
「それに」
一瞬だけ、言葉が止まる。
「……あなたがいるなら」
それ以上は言わなかった。
だが。
意味は、十分に伝わる。
「で?」
レオンが腕を組む。
「宰相様は、どうすんだ」
「戦は近いんだろ」
その言葉に。
俺は、少しだけ目を細める。
「近い」
短く答える。
「そして」
一拍。
「戦わずに終わらせる」
「は?」
レオンが眉をひそめる。
「お前、何言って――」
「俺は戦わない」
言葉を重ねる。
空気が、変わる。
レオンの表情が止まる。
「……本気か?」
「ああ」
「戦場にも出ない」
沈黙。
「……そうかよ」
レオンは、小さく息を吐いた。
「じゃあ」
一歩、前に出る。
「俺が戦う」
迷いのない声だった。
「お前の代わりに」
その言葉に。
わずかに、目を見開く。
――変わっていない。
あの時と同じだ。
「任せた」
それだけを言う。
レオンは、にやっと笑った。
「任せろ」
エリナが、静かにこちらを見る。
「……無理はしないで」
「しない」
短く答える。
嘘ではない。
俺は、もう戦わない。
だから。
無理をすることもない。
――そのはずだった。
風が吹く。
中庭の木々が揺れた。
戦は近い。
だが。
剣は抜かない。
そのまま、終わらせる。
それが。
今の俺の戦い方だ。




