第16話:標的
帝国軍議室。
「……確定したな」
ガルドが、静かに言った。
「三点防衛、すべて維持」
「損害軽微」
「我が軍は撤退」
報告が淡々と続く。
「やはり、あの宰相が主導していると見て間違いないかと」
「……ああ」
短く頷く。
「確信した」
「これは軍ではない」
「“一人の意思”だ」
静かな断定。
「では」
報告役が問う。
「どうなさいますか」
ガルドは、少しだけ考え。
「変える」
「何を」
「戦い方を」
一拍。
「軍を相手にするのはやめだ」
「……では」
「宰相を殺す」
空気が、凍る。
「直接、ですか」
「いや」
首を振る。
「そんな単純な話ではない」
「崩す」
「内側から」
静かな声。
「恐怖を植え付けろ」
「疑念を広げろ」
「“あの宰相は危険だ”と」
「民に思わせろ」
「そして」
一瞬、目を細める。
「必要なら、消す」
命令が下る。
戦は、完全に変わった。
剣ではない。
人を狙う戦へ。
一方。
レグナス王国。
夜。
静かな部屋。
書類に目を落とす。
異常はない。
――表面上は。
「……来るな」
小さく呟く。
空気が違う。
戦場とは別の。
もっと、嫌な感覚。
「カイン」
声。
顔を上げる。
ルナが立っていた。
「まだ起きてたの?」
「ああ」
「最近、寝てないでしょ」
「問題ない」
「問題あるよ」
即答だった。
「顔、悪い」
「そうか」
「うん」
少しだけ、沈黙。
「ねぇ」
「また来るの?」
「ああ」
「今度は、違う形で」
「戦うの?」
「いや」
「戦わない」
そのまま、続ける。
「だが」
「狙われる」
ルナの表情が、わずかに変わる。
「……カインが?」
「ああ」
「当然だ」
「一番効率がいい」
淡々とした声。
「……怖くないの?」
「別に」
「そういうものだ」
それが現実だ。
「……そっか」
ルナは、少しだけ目を伏せる。
「でも」
顔を上げる。
「死なないでね」
その一言。
「死なない」
短く答える。
迷いはない。
死ねない。
まだ。
終わっていないからだ。
そして。
その夜。
影が、動いた。
静かに。
確実に。
――標的へ向かって。




