第14話:選別戦
動きは、静かに始まった。
北方。
帝国との国境付近。
「……妙だな」
前線の報告書に目を通しながら、バルガスが呟く。
「軍の動きが、散っている」
「当然だ」
短く答える。
「これは“戦”ではない」
「“試し”だ」
地図の上に、いくつもの点を置く。
「小規模部隊が複数」
「補給も分散」
「一つ潰しても意味がない配置だ」
「……なるほどな」
バルガスが腕を組む。
「俺たちの出方を見てるわけか」
「ああ」
「どこを守るか」
「どこを捨てるか」
「それを見ている」
静かな説明。
だがその内容は、明確な悪意だった。
「……厄介だな」
「帝国らしいやり方だ」
誰かが呟く。
――帝国。
その名を聞いた瞬間。
ほんのわずかに、意識が揺れた。
昔の光景が、よぎる。
崩れかけた防衛線。
押し寄せる敵。
そして――。
「……」
思考を切る。
今は関係ない。
「で、どうする」
バルガスが問う。
「全部守るか?」
「できるわけがない」
即答する。
「兵力が足りん」
「なら」
一拍。
「選ぶ」
静かに言う。
「三つだけ守る」
「残りは捨てる」
空気が止まる。
「……本気か」
「ああ」
「全部守ろうとすれば、全部落ちる」
「なら」
「守れるものだけ守る」
それが最適だ。
だが。
「……冷たいな」
バルガスが低く言う。
「そうだな」
否定はしない。
その時だった。
「また、そういう顔してる」
声。
振り向く。
ルナが立っていた。
「……聞いてたか」
「うん」
「三つ守って、残りは捨てるんだよね」
「ああ」
「それが一番、多くを守れる」
「……ほんとに?」
まっすぐな目。
揺るがない。
「そうだ」
「間違いない」
沈黙。
「……そっか」
ルナは小さく頷く。
「じゃあ」
一歩、近づく。
「その三つ、ちゃんと守って」
「中途半端にしないで」
「絶対に」
言葉は短い。
だが。
重い。
「……ああ」
短く返す。
――守ると決めたなら。
それは、絶対だ。
「配置を変える」
地図に手を置く。
「この三点に戦力を集中」
「他は撤退」
「補給も絞る」
「……大胆だな」
バルガスが呟く。
「そうでもない」
「普通のことだ」
淡々と答える。
だが。
誰も、それを“普通”とは思っていない。
そして。
帝国側。
「……来たか」
報告を受けたガルドが、口元を歪める。
「三点集中」
「他は放棄」
「やはり、選んだな」
静かに笑う。
「いい」
「ならば」
「そこを潰す」
選別は終わった。
次は。
本当の戦が始まる。
――互いに。
読み合いながら。




