第11話:選別
ヴァルディア帝国、軍議室。
前回とは違う空気が流れていた。
軽視はない。
侮りもない。
ただ一つ。
――警戒。
「……確定か」
ガルド将軍が、低く言った。
「はっ」
報告役の男が頷く。
「レグナス王国において、宰相カインの主導により戦況が変化」
「先の混乱も、意図的な情報操作の可能性が高いと」
「証拠は」
「ありません」
「だが?」
「状況証拠は揃っています」
沈黙。
「……面倒な存在だな」
ガルドは、ゆっくりと息を吐いた。
「戦場に出ない」
「それでいて、戦を終わらせる」
「兵ではない」
「将でもない」
「……異物だ」
はっきりと断じる。
「では、いかが致しますか」
問いが投げられる。
「潰す」
即答だった。
「だが」
一拍。
「正面からではない」
「意味がない」
地図に手を置く。
「軍を送れば、また同じことが起きる」
「ならば」
視線が鋭くなる。
「“中”から崩す」
「間者を送れ」
「民に紛れ込ませろ」
「流言を流せ」
「不安と疑念を植え付けろ」
「国が内部から腐るように仕向ける」
「はっ!」
命令が下る。
「それと」
ガルドが、わずかに口元を歪める。
「“選別”を行う」
「……選別、ですか」
「そうだ」
「この宰相が、本当に異物かどうか」
「試す」
静かな声。
だがその内容は、残酷だった。
「小規模の部隊を複数、別方向から動かせ」
「補給も分散させる」
「一つ潰されても問題ないようにする」
「そして」
一拍。
「どこを切るか、見極める」
罠だった。
相手の手を、逆に読むための。
「もし本物なら」
「必ず動く」
「その時」
「殺す」
静かに、結論が落ちた。
戦は、次の段階へ進む。
剣ではなく。
意思と情報のぶつかり合いへ。
一方。
レグナス王国。
「……来るな」
窓の外を見ながら、呟く。
風の流れが変わっている。
静かに。
確実に。
敵は、次の手を打ってくる。
「今度は、正面ではない」
「内側からだ」
確信だった。
だから。
「切り捨てる」
その言葉は、あまりにも冷たかった。
かつての自分と、同じように。
命を、数として扱うように。
だが。
それが。
最も、多くを救う方法だった。
――戦わない。
そのために。
必要なら、すべてを切る。




