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第10話:灰哭のパレード

それは、いつもと変わらない依頼のはずだった。


 


 辺境の小さな村。


 モンスターの出現が増えている、という報告。


 


 内容としては、よくあるものだ。


 


 ギルドも、深刻には見ていなかった。


 


 調査と、簡単な討伐。


 


 それだけのはずだった。


 


 


「悪い、カイン」


 


 出発前、レオンが言った。


 


「俺、別の依頼が入った」


 


 


「護衛依頼なの」


 


 エリナが続ける。


 


「重傷者が出てて、放っておけなくて……」


 


 


「そうか」


 


 短く答える。


 


 


「すぐ終わるやつだろ?」


 


 レオンが言う。


 


「終わったら合流する」


 


 


「……ああ」


 


 


 それで、十分だった。


 


 


 よくあることだ。


 


 依頼が重なることもある。


 


 


 問題はない。


 


 


 ――そのはずだった。


 


 


 


 村に着いた時。


 


 違和感は、すでにあった。


 


 


 静かすぎる。


 


 


 人の気配が、薄い。


 


 


 そして。


 


 


 血の匂い。


 


 


 


 足を止める。


 


 


 遅かった。


 


 


 


 ――気づくのが、遅かった。


 


 


 


 その瞬間。


 


 


 遠くで、咆哮が上がる。


 


 


 


 ひとつじゃない。


 


 


 いくつも。


 


 


 


 森の奥から。


 


 


 波のように。


 


 


 


 モンスターが、溢れてきた。


 


 


 


 ――パレード。


 


 


 


 その言葉が、頭をよぎる。


 


 


 


 あり得ない。


 


 


 この規模は、報告にない。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 現実だった。


 


 


 


 


「……っ」


 


 


 剣を抜く。


 


 


 


 考える余裕はない。


 


 


 


 やるしかない。


 


 


 


 


 駆ける。


 


 


 


 目に入ったのは、倒れた村人。


 


 


 まだ、息がある。


 


 


 


「下がれ」


 


 


 短く言う。


 


 


 


 モンスターが迫る。


 


 


 


 一閃。


 


 


 


 切り裂く。


 


 


 


 倒れる。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 数が多すぎる。


 


 


 


 


 次々と、押し寄せてくる。


 


 


 


 


「くそ……!」


 


 


 


 判断する。


 


 


 


 守るか。


 


 


 退くか。


 


 


 


 


 ――守る。


 


 


 


 


 それしかない。


 


 


 


 


 剣を振るう。


 


 


 


 倒す。


 


 


 倒す。


 


 


 倒し続ける。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 守りきれない。


 


 


 


 


 背後で、悲鳴が上がる。


 


 


 


 


 振り向く。


 


 


 


 


 間に合わない。


 


 


 


 


「……っ!」


 


 


 


 


 踏み込む。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 届かない。


 


 


 


 


 目の前で。


 


 


 


 


 一人、また一人と倒れていく。


 


 


 


 


 


 ――判断を誤った。


 


 


 


 


 最初に退くべきだった。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 守ろうとした。


 


 


 


 


 その結果。


 


 


 


 


 全員が死ぬ。


 


 


 


 


 


「……撤退」


 


 


 


 


 遅すぎる判断。


 


 


 


 


 自分だけが生き残る選択。


 


 


 


 


 足が止まる。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 それでも。


 


 


 


 


 生きなければならない。


 


 


 


 


 


 走る。


 


 


 


 


 振り返らない。


 


 


 


 


 振り返れば、足が止まる。


 


 


 


 


 


 だから。


 


 


 


 


 前だけを見る。


 


 


 


 


 


 森を抜ける。


 


 


 


 


 呼吸が荒い。


 


 


 


 


 手が震える。


 


 


 


 


 


 そして。


 


 


 


 


 その場に、崩れ落ちた。


 


 


 


 


 


「……あ……」


 


 


 


 


 声にならない。


 


 


 


 


 


 頭の中に、焼き付いている。


 


 


 


 


 守れなかった顔。


 


 


 


 


 間に合わなかった瞬間。


 


 


 


 


 


 全部。


 


 


 


 


 


「……なんでだ」


 


 


 


 


 


 震える声。


 


 


 


 


 


「なんで……」


 


 


 


 


 


 拳を握る。


 


 


 


 


 


 血が滲む。


 


 


 


 


 


 


「俺が……」


 


 


 


 


 


「戦ったから……」


 


 


 


 


 


 その言葉が、落ちる。


 


 


 


 


 


 


「全員……死んだ……」


 


 


 


 


 


 


 否定は、できなかった。


 


 


 


 


 


 


 守るために戦った。


 


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 


 結果は。


 


 


 


 


 


 全滅。


 


 


 


 


 


 


 なら。


 


 


 


 


 


 戦わなければよかった。


 


 


 


 


 


 


 その結論に、至るのは。


 


 


 


 


 


 あまりにも、簡単だった。


 


 


 


 


 


 


 だから。


 


 


 


 


 


 もう、戦わない。


 


 


 


 


 


 


 そう、決めた。


 


 


 


 


 


 


 


 ――その時。


 


 


 


 


 


 誰かの気配がした。


 


 


 


 


 


 振り向く。


 


 


 


 


 


 そこにいたのは、小さな影。


 


 


 


 


 


 少女だった。


 


 


 


 


 


 何も言わず。


 


 


 


 


 


 ただ、こちらを見ている。


 


 


 


 


 


 涙を流しながら。


 


 


 


 


 


 


 ――ルナ。


 


 


 


 


 


 


 その視線だけが。


 


 


 


 


 


 やけに、鮮明に残った。


 


 


 


 


 


 


 それが。


 


 


 


 


 


 すべての始まりだった。

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