第58話 ミロースの子供たち
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、ミロースに関わるお話の続きです。
少しだけ重めの内容になりますが、
ヒロシ達の選んだ“答え”を見守っていただければ嬉しいです。
それでは本編へどうぞ。
城に戻った俺達は、まず残っていた兵や職員を片っ端から捕まえ、痛めつけて情報を吐かせた。
魔導師の居場所、実験場の位置、ドラゴンの卵の保管庫……全部だ。
案内されたのは、城の地下深くにある、湿った石造りの部屋だった。
壁には魔法陣が刻まれ、床には乾いた血の跡。
鼻をつく薬品の匂いが漂っている。
その中央に、白衣を着た魔導師がいた。
「ひ、ひぃ……! ま、待て、話を――」
言い終わる前に、ルファスのロングソードが閃いた。
魔導師は床に崩れ落ち、静かになった。
だが――
そこに、ドラゴンの姿は無かった。
孵化していない卵は……
棚に並んでいたが、どれも割れているか、黒く焦げているか、薬品漬けにされていた。
生きている卵は、一つも無い。
孵化したドラゴン達は、俺達が倒した“兵器ドラゴン”と同じように、
この国のどこかで冒険者を食い続けているのだろう。
部屋の隅で、ミロースは静かに立っていた。
人間の姿のまま、拳を握りしめ、唇を噛んでいる。
怒りでもなく、憎しみでもなく――
ただ、深い深い悲しみだけがそこにあった。
俺達は……何も言えなかった。
どんな言葉も、今のミロースには届かない。
そんな気がした。
・
・
・
城の外に出ると、ミロースはゆっくりとドラゴンの姿に戻った。
大きな翼が広がり、風が巻き起こる。
「ミロース、俺達……やるから」
俺がそう言うと、ミロースはただ一度だけ、こちらを見た。
その瞳は、どこまでも優しくて、どこまでも寂しかった。
そして――
何も言わず、空へと飛び上がった。
大空へ、ゆっくりと、静かに。
その背中は、どこか弱々しく見えた。
何か言葉をかけたかったが、喉が詰まって出てこなかった。
・
・
・
俺達は、ここに残り、セガル王国によって改造されたミロースの子供達を殺していく。
可哀想だが、自我を失い、人を食い続けるだけの生物になった彼らを助けるには……
殺してやるしか、道は無い。
ミロースに、我が子を殺させるわけにはいかない。
他の冒険者に任せるのも違う。
これは――
俺達がやるべきことだ。
少しの間だったが、仲間として戦ってくれたミロースに、
俺達がしてやれる唯一のことだから。
・
・
・
数日後。
森の奥で、一匹のドラゴンを見つけた。
「ルファス、剣を貸してくれ」
「ノガミさん……」
ルファスから受け取った剣を握る。
そういや、まともに剣を使うのは異世界に来て初めてだと思った。
目の前のドラゴンは、まだ幼い。
ミロースの子供だ。
だが、目は真っ赤で、理性の欠片も無い。
俺達を見るなり、口を開けて突っ込んでくる。
「……ごめんな」
俺は呟き、剣を構えた。
レイラが矢を放ち、カイが横から斬り込み、バンが盾で突進を受け止める。
プロムが魔法で足を止め、キャスカが炎で焼き払う。
最後に、俺が心臓を貫いた。
ドラゴンは、苦しむことなく倒れた。
その場に、誰も言葉を発する者はいなかった。
ただ、静かに手を合わせた。
・
・
・
さらに数日後。
山の中腹で、二匹同時に襲われた。
どちらもミロースの子供だ。
戦いは激しかった。
俺達も傷を負った。
だが、倒した後、レイラが泣いていた。
「……こんなの、ひどいよ……」
プロムがそっと抱きしめ、キャスカが黙って背中をさすった。
俺は、何も言えなかった。
それでもやらないといけないんだと自分に言い聞かせるが、本当に殺す以外に助ける道はないのか、何度も考えたことが頭によぎる。
そのたびに自分の無力さが嫌と言うほどわからされるのだ。
・
・
・
そして――
数週間後。
セガル王国に改造された最後のドラゴンを倒した。
何匹もドラゴンを倒し、俺達のレベルも強さも、ここに来た当初より格段に上がった。
だが――
達成感も、爽快感も、何も無い。
ただ、胸の奥に重い石が沈んでいるような感覚だけが残った。
こうして、俺達のドラゴン退治は、後味の悪いものになった。
・
・
・
軽キャンが、高台に停めてある。
ここからだと、セガル王国の王都がよく見える。
夕日が沈みかけ、街全体が赤く染まっていた。
缶コーヒーを手にした俺は、空を見上げた。
あの日、ミロースが飛び去っていった空だ。
「……また、一緒に旅が出来るよな、ミロース」
風が吹き、草が揺れる。
空はどこまでも広く、どこまでも遠い。
ミロースの姿は、どこにも見えない。
それでも――
俺は信じている。
いつかまた、あいつと笑い合える日が来ると。
読んでくださりありがとうございました。
ミロース編は、今回でひとつの区切りになります。
ヒロシ達にとっても、読者の皆さんにとっても、
少し胸の痛む回だったかもしれません。
それでも、彼らは前に進みます。
次回からは、また新しい旅路へ。
感想・ブクマ・評価、いつも励みになっています。




