第31話 森で留守番してたら、巨大猪が来たんだが?
いつも読んでくださってありがとうございます。
今回は、ヒロシとキャスカの「微妙な距離感」がテーマの回です。
レイラとルファスが狩りに出て、
ヒロシとキャスカが二人きりで留守番という、
ある意味もっとも危険な組み合わせ。
そして――
巨大猪襲来。
ヒロシのサバイバル能力(?)と、
キャスカの本音がちょっとだけ見える回になっています。
それでは本編どうぞ。
モスノフを出て南へ向かい、数日が過ぎた。
現在地は――森。
どこかは知らないが、軽キャンピングカーを木陰に停めて休憩している。
レイラは弓を、ルファスは剣を手に狩りへ。
俺はキャスカと二人で留守番だ。
……二人きり。
このまま無言で警戒し合っていても仕方ない。
子ども扱いに長けた大人である俺は、空気を変えるべく声をかけた。
「バドミントンしようか?」
軽キャンから道具を取り出し、キャスカにラケットを渡す。
「何よ、それ」
警戒心むき出しの声を無視し、俺はシャトルを軽く打ち上げた。
スカッ。
キャスカのラケットが空を切る。
まぁ初めてだしな。気にするな。
「よーくシャトルを見て、打ってごらん」
優しく教える俺。
キャスカはシャトルを拾い、サーブを――
スカッ。
……外す。
拾って、サーブ。
スカッ。
……外す。
拾って、サーブ。
カッ。
ラケットの縁に当たり、足元に落ちた。
「なんだ、こんなの! 面白くない!」
キャスカが拗ねた。
俺は無言でラケットを回収し、軽キャンにしまった。
……やらなきゃ良かった。
マルスは良い子だったなぁ。俺が「許してくれ」と言うまで付き合ってくれたっけ……しみじみ。
キャスカは拗ねているというより、
**「知らない大人と二人きり」** に戸惑っているようにも見える。
まぁ、俺のこと嫌ってるだけかもしれんが。
俺とキャスカは体育座りでレイラ達の帰りを待つ。
「……」
「……」
……会話しないと間が持たん。
「なぁキャスカ、レイラ達、何を狩ってくるんだろうな?」
「……」
無視かよ、このクソガキめ。
普通の人間ならぶん殴ってるところだが、心優しい俺は我慢してやった。
うむ、感謝するがよい。
「あんなのじゃない?」
キャスカが指差す。
その先には――熊みたいにデカい猪。
「お、そうだね! なんかそれっぽい。食べたら豚肉みたいで美味しいってなるアレだ」
俺とキャスカは体育座りのまま、猪の化け物を眺める。
「ゴフゴフ ゴッゴッ ゴフ~」
猪は片足で地面を蹴り、こちらを見ている。
「ゴフゴフ言ってるわね」
キャスカが言う。
俺もそう思う。
……ん?
これは……ヤバいのでは?
「キャスカ! キャンピングトレーラーに入ろう!」
俺が言い終わる前に、キャスカは全力で走り出していた。
「あっ、ズルい! 俺も行く!」
俺が叫んだ瞬間、猪が突進してきた。
バタンッ!
キャスカがトレーラーに飛び込み、ドアを――閉めやがった!
まだ俺入ってねぇよ!
「おい開けろ! 開けて! 開けてください、開けてください、キャスカさん!」
ガチャガチャとドアを揺らすが、開かない。
クソガキ、鍵かけたな。
猪が迫る!
「横っ飛び!」
ドガァッーー!!
俺はギリギリで横に飛び、猪はトレーラーに激突。
だが女神の加護か、トレーラーは無傷。
猪はぐったりしている。
……死んだか?
いや、油断は禁物。
俺は軽キャンの運転席に飛び乗った。
「もう安心。さて、早くひき……」
「ピギャーー!!」
まだ何もしてないのに猪が叫んだ。
見ると、矢が何本も刺さっている。
レイラか!
タッタッタッタッ――
「ハァーーッ!」
ズバァーー!
ルファスが駆け寄り、猪の首を一閃で落とした。
・
・
・
◆◆ そして、いつもの日常 ◆◆
「よくやった、二人とも」
俺は軽キャンを降り、二人を褒めた。
……首、グロい。吐きそうだが平然を装う。
「これだけ大きいワイルドボアは珍しいですね」
ルファスが血を拭いながら言う。
中々やるな、荒んだ生活で身につけた技術なのだろう……と俺は勝手に思う。
「ヒロシ達が無事で良かったわ」
レイラがホッとした顔で言う。
優しい奴! キスしたい!
……それに引き換え。
トレーラーのドアが開いている。
「お兄様、怖かった!」
「キャスカ、大丈夫だよ。俺がいる」
キャスカとルファスが抱き合っていた。
多分、お前より俺の方が怖かったぞ。
キャスカは震えていた。
さっきまで俺を無視していたくせに、
**本当に怖い時は兄に甘えるんだな**……と、少しだけ微笑ましく思う。
「お兄様の助けが無かったら……私と“アレ”の命は無かったですわ!」
アレとは俺のことか。
そして無視するな。
聞くに耐えないので視線をそらす。
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・
◆◆ ゴブリン、現る ◆◆
「これ、どうしよう?」
ワイルドボアの残骸を指差すと、
「売れるわよ。でも食べる分は取っておこう。美味しいのよ」
レイラが嬉々として解体を始めた。
俺は見ない。怖いから。
ウロウロしていると、匂いにつられてゴブリンが現れた。
「おう、ゴブ! ワイルドボアが欲しいのか?」
慈悲深い俺は、肉を分けてやろうとレイラの方を――
ゴンッ!
「いだっ!」
後頭部を殴られた。
なんだよ!
せっかく恵んでやろうと思ったのに!
「この、ゴブリンが!」
見るとゴブリンの手にはこん棒が。
「お前そんなもんで……危ないだろう!」
こん棒を取り上げようとしたら、振り回してきやがった。
「ギャギャギャギャ!」
「危ねぇだろ、この!」
俺の華麗なパンチを食らえ!
……が、全然効いてない。
ヤバい!
レイラ達を守らないと――
(※実際はレイラ達の方が強い)
「えい」
ルファスが俺と揉み合うゴブリンを一瞬で倒した。
「ノガミさん、大丈夫ですか?」
爽やかに言いやがって。
「お、おう」
必死だったのがバカみたいではないか、まったく。
「ぷっ」
キャスカが人を小馬鹿にするように口に手を当て笑っていた。
さっき震えてたくせに、切り替え早いなコイツ。
「ノガミさん?」
ルファスが何か言ったが、俺はキャスカの元へ向かう。
「えい」
キャスカの頬をつねった。
「いたぁー!」
「ノ、ノガミさん、やめてください!」
ルファスが慌てる。
「ゴミがついてたから取ろうとしたんだよ」
と言いながら、つねるのをやめない俺。
「ノガミさん、つねってます!」
「ははは、気にするな」
「いだぁー!」
「ノガミさん、やめてあげてください!」
「まだゴミがついてるから」
「お兄様、こいつ頭おかしいですわ!」
「なんだと、この野郎、まだ足りねぇか」
「キャスカもノガミさんも、いい加減にしてくださいよ!」
「ルファス、気にするな」
「気にしますよ!」
三人で言い合っていると――
「お前らも手伝え!」
レイラに怒られた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回は、
- ヒロシ vs キャスカ(精神的な戦い)
- ヒロシ vs 巨大猪(物理的な戦い)
- ヒロシ vs ゴブリン(理不尽な戦い)
と、ヒロシがひたすら苦労する回でした。
キャスカはツンツンしてますが、
本当に怖い時は兄に甘えるという可愛い一面も描けて満足です。
次回は、
旅の続きが描かれます。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。




