第28話 回復と誤解と兄妹加入
限界かもしれん。
血を流し過ぎなんですよ。
頭が痛い。
ちゅーちゅー血が出て止まらない。
(これは……ヤバいかもしれん……)
「もうダメ」
俺は路肩に軽キャンを停めた。
「何止めてんだよジジィ! 早く行け!」
後部座席の少女が容赦なく罵倒してくる。
いや、頭から血が噴き出してるんだ。無理だろ。
無視だ無視。
(しかし口の悪い少女だ……育ちが悪いのか?
いや、兄妹で逃げてるんだし、苦労してきたのかもな……)
俺はナビを操作し、治療に使えそうな機能を探す。
「これだ!」
ナビには、いかにもな項目が並んでいた。
- 全回復(所有者専用)1000
- 体リペア(所有者専用)10000
- 回復薬(小)×1 200
- 回復薬(中)×1 400
- 回復薬(大)×1 800
迷わず「全回復」を選択。
次の瞬間、体が光り、怪我が一瞬で治った。
「何これ? 無敵じゃないか!」
俺が感動していると、少女が後ろから首を絞めてきた。
「ジジィ! お兄様も治療しろ!」
「わ、わかったから離せ!」
顔を真っ赤にしながら、プルプル震える指で回復薬(小)を選択。
少女は兄の状態を確認し、
「遅いんだよジジィ!」
と怒鳴る。
俺は軽キャン後部のサイクルキャリアのボックス(空間収納)から回復薬を取り出した。
キャビンで寝かしている兄に飲ませようとするが、うまく飲んでくれない。
「貸せよジジィ!」
少女が奪い取り、
自分の口に含んでから兄に飲ませた。
(……お、おう……そういう飲ませ方なのね……
兄妹仲良いな……)
数回に分けて飲ませると、兄がゆっくり目を開ける。
「うっ……ここは?」
「お兄様!」
少女が抱きついた。
(仲良い兄妹だな……)
「助けていただいたのですね。本当にありがとうございます」
兄が頭を下げてきた。
「気にするな」
俺は爽やかに返した。
少女は睨んでくる。
(チッ……わかったよ)
「不幸な事故だった。誤ってぶつけてしまった。悪かった」
「え? 手で誘導しませんでした?」
「してないよ」
「……あれ? すみません」
(クレーマー処理スキル発動成功!)
「俺はヒロシ。ノガミ ヒロシだ。妻と旅してる」
「私はルファス。こっちは妹のキャスカです」
キャスカは安心したのか、兄の胸で眠っていた。
「そのまま寝かせてやれ」
(起きたらまた面倒だしな……)
ルファスが何か言いかけたが、
俺は手を振って遮った。
「言いたくなきゃ言わなくていい。事情は察する」
俺は勝手に想像を膨らませた。
(貧しい家庭……荒れた親……苦労して逃げてきたんだな……
お前ら……泣けてくるぜ……)
「逃げてきたんだろ?」
「! なぜ……」
図星らしい。
「今まで辛かったな。もう心配するな。俺が守ってやる。ついてこい!」
俺は軽キャンのドアを閉めた。
「……ノガミさん……よろしくお願いします……」
ルファスの嗚咽が聞こえた。
(よほど酷い家だったんだろうな、もう大丈夫だからな……)
「こいつも、やっとくか」
俺は回復薬を補充し、
ついでに「体リペア」も選択。
体が光ったが、特に変化なし。
(魔力の無駄遣いだったか?)
「そんじゃ、出発するぞ」
後ろの二人に声をかけ、タバコに火を点けた俺は軽キャンを走らせた。
ブロロロロロ……
軽キャンは夜道を走る。
街灯の少ない道を、ヘッドライトが切り裂くように照らしていく。
後部座席では、キャスカが兄の腕にしがみついたまま眠っていた。
さっきまで石を振りかざしていた少女とは思えないほど、穏やかな寝息だ。
(寝てると天使なんだけどな……
起きてると石でぶん殴ってくるけど)
ルファスは窓の外を見つめていた。
その横顔は、どこか影がある。
「……ノガミさん」
「ん?」
「本当に……助かりました。
俺たちは……もう戻れないんです」
声が震えていた。
(やっぱり……家庭環境が最悪だったんだな……
親が酒乱とか、暴力とか……
泣けるぜ……)
「大丈夫だ。俺がついてる」
「……はい」
ルファスは小さく頷いた。
(よし、完全に信頼されたな。
レイラに怒られそうだけど……まあいいか)
ホテルの明かりが遠くに見えてきた。
(レイラ……待ってるよな……
怒ってないといいけど……
いや絶対怒ってるな……)
俺は少し背筋を伸ばした。
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「ノガミさん……」
ルファスがぽつりと呟いた。
「俺たち……本当に、ついて行っていいんですか?」
「もちろんだ。お前らはもう仲間だ」
ルファスは目を潤ませた。
キャスカは寝息を立てている。
軽キャンはホテルの敷地に入った。
(さて……レイラにどう説明しようか……
“兄妹拾ってきた”って言ったら怒るよな……
いや、絶対怒るよな……)
俺は深く息を吸った。
可哀そうな兄妹を拾ってきた。
俺も石で頭をかち割られるという大概可哀そうな目にあったが、回復薬のおかげで一命をとりとめれたよ。
便利アイテムの追加でこの世界での生存率がまた上がってしまった。
自分の有能さが怖くなってしまうぜ。
……俺の有能さなのか?




