第25話 観光とグルメと醤油
ヴァルファ帝国の首都モスノフに到着した俺とレイラ。
世界最大の軍事国家の中心地は、想像以上にデカくて賑やかで、観光気分は最高潮。
腹も減ってきたし、せっかくだから地元の名物でも食べよう――
そう思って入ったレストランで出されたものとは、言ったい
ヴァルファ帝国の首都モスノフは、世界最大の軍事国家の中心地らしく、とにかく規模が桁違いだった。
人の波は絶えず、街並みは活気に満ち、どこを見ても巨大建築が並んでいる。
俺とレイラは軽キャンで街を流しながら、観光気分でキャッキャと盛り上がっていた。
「ヒロシ、あれ……私たちの城より大きいよ」
レイラがフロントガラス越しに指差す。
視線の先には、遠くにそびえる巨大な城。まさに“帝都の象徴”といった風格だ。
「ホントだ。すげぇな……」
権力の塊みたいな建物だが、観光としては十分楽しめる。
そんなことを話しているうちに、腹が減ってきた。
腹が減ったら――地元の旨いものを食う。
これが旅の醍醐味だ。
軽キャンで走った場所ならカーナビのマッピング機能で記録される。
通った場所付近の情報も一緒に記録されているので、レストランを検索して一番近い店へ向かう。
ブロロロロローー……
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軽キャンを停め、レイラと手をつないで店内へ。
見た目は完全に「おじいちゃんと孫」だが、レイラはまったく気にしていない。
何かこっちが申し訳なく感じてしまう。
だが、レイラが大好きなので負い目を感じて別れようなどという考えなど無い。
「いらっしゃいませ」
店員の声に迎えられ、空いている席に座る。
店内は清潔で、客入りも悪くない。期待できそうだ。
ウェイターに名物料理を尋ねると、
「家庭料理のウェルニチャックなどが有名ですが」
……名前だけでは全く想像できない。
とりあえずウェルニ何とかと、他にも適当に見繕って持ってきてもらうことにした。
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俺達のテーブルに料理が置かれる。
「おいしそうだね、ヒロシ」
「確かに。どれがウェルニ何とかかが全く解らないが、旨そうだ」
ニコニコした俺達は、料理を口にした。
……うん、微妙だ。
不味くはない。だが、美味しくもない。
レイラを見ると、魂が抜けたような顔でモソモソ食べている。
露骨に落胆しているのがわかる。
変な店選んじゃったのかな……いや、不味くは無いんだよ。
何かが足りない味なだけで……
アレだ!
「待ってろ」
俺は軽キャンへ走り、醤油を持って戻ってきた。
料理にひと回しして食べてみる。
「うまっ」
やっぱりか。
レイラの皿にも醤油をかけてやる。
「ヒロシ、美味しいね!」
レイラは嬉しそうに醤油を少しずつかけながら、勢いよく食べ始めた。
その様子を見た周囲の客が、眉をひそめてひそひそ話している。
そこへウェイターがやってきた。
「お客様……料理に変な黒い液体をかけないでください」
「……食ってみ」
嫌がるウェイターの口に、醤油をかけた料理をねじ込む。
「!」
ウェイターの目が見開かれた。
次の瞬間、
「あ、ちょっと」
ウェイターがテーブルに置かれた醤油瓶を掴んで他の客の席へ走っていった。
「かけた!」
思わず叫んだ。
ウェイターが無言で客の料理に醤油をかけたのだ。
「えぇぇぇ……」
当然、客は困惑。
(いや、そうでしょうね)
だがウェイターは無言で、醤油のかかった部分を客の口にねじ込んだ。
「ぶっ!」
俺は食べていたものを吹き出した。
無茶苦茶するなあいつ!
「……あれ? 旨い……旨いよこれ!」
客が叫んだ。
ウェイターは次の客へ走る。
ザワザワ……
厨房からシェフが飛び出してきた。
目に映ったのは、満場一致で自分の料理に黒い液体をかける客たち。
「俺の料理に……何か黒いのかけとる……」
震えるシェフがウェイターを呼びつけ、事情を聞く。
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シェフが俺たちの席に来た。
「お客さんね、うちの料理に勝手なことされると困るの。味のバランスが大事なのよ。
で、この黒いの何? こんなもんかけて食うんじゃねぇよ!」
キレられた。
「……」
ウェイターがシェフの口に料理をねじ込もうとする。
「何すんだお前は!」
抵抗するシェフを、レイラが後ろから羽交い締めにした。
「やめろ、やめ、や」
抵抗虚しくシェフの口へと醤油のかかったに料理がねじ込まれた。
もう、店内は完全にカオスだ。
「あれ……うまい……」
シェフが呟いた。
やっぱりな。
俺は「醤油は金になるな」と確信しつつ、支払いを済ませて店を出た。
食後の散歩を楽しみながら、
そろそろ宿の手配が終わっている頃だろうと変態達のいる商会へ戻ることにした。
まさかのウェイター暴走劇、シェフ覚醒事件。
ただ飯を食いに来ただけなのに、気づけば店内はカオスの渦だった。
……まあ、醤油が美味いのは事実だし、結果オーライだろう。
腹も満たされたし、そろそろ宿の手配も終わっている頃だ。
商会に戻れば――あの変態コンビが待っている。
次はどんな面倒が待っているのやら。




