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第13話 エルフ、カレーに敗北する

いつも読んでくださりありがとうございます!

前回、ヒロシがエルフにボコられたところで終わりましたが、

今回はその続き、そして“カレーの力”が炸裂します。

エルフのレイラがどんな反応をするのか、

ゆるっと読んでもらえたら嬉しいです。


夜の山は静かだった。

 焚き火の赤い光が、俺たちの顔をゆらゆらと照らしている。


「いやぁ~おじさん、ぶん殴られちゃった!」


顔をパンパンに腫らした俺が言うと、


「お前が悪い」


ゼノスが、ため息混じりに呆れた声を返す。

 怒っているというより、“またか”という諦めが濃い。


「おじちゃん、ダメだよ~」


マルスまで俺を責める。

 子供に言われると、地味に心に刺さる。


カローラは……完全に冷たい目だ。

 あの目は、俺が本当に悪い時の目。


そしてエルフの女は、俺を見ようともしない。

 あれは“関わりたくない”という意思表示だ。


――俺は被害者だぞ!?

 なぜ誰も味方してくれないんだ!


……いや、まあ、分かってる。

 確かに俺にも、ほんのちょっとだけ悪いところがあったのかもしれない。

 でも、少しくらい庇ってくれてもいいじゃないか。


まあいい。俺は大人だ。

 そんなことより、今は――


「飯にすっか!」


炊きたてのご飯を皿に盛りながら、気持ちを切り替える。

 料理をしている時だけは、みんなが俺を頼ってくれる。

 その瞬間が、ちょっと嬉しい。


「そんじゃ、カローラ」


皿を渡すと、カローラがカレーをかけ、マルスが配っていく。


「おい、みんなして、その微妙な顔やめろ。献立を決めた俺が傷つくだろう」


初めて見る料理に戸惑っているのだろうが、

 顔に出さない努力ってものがあるだろ。


俺は気にせず、一口。


モグモグ……ゴクッ。


「旨いっ!」


思わず声が出た。

 日本の味だ。

 懐かしさが胸に込み上げて、泣きそうになる。


「やっぱ、カレーは旨い!」


俺はバクバクとカレーをかき込んだ。


その様子とスパイシーな香りに、ゼノス一家が生唾を飲み込む。


そして意を決して、一斉にスプーンを突っ込んだ。


ゼノスの目が見開かれる。


「うめーー!」


叫び声に、焚き火の火が揺れた。


「うん、ヒロシが教えてくれる料理だけは、凄いわね」


カローラが誉めてくれる。


“だけは”って言うなよ……でも嬉しい。


「おじちゃん辛い~」


マルスが涙目で訴える。


「待ってろ、マルス!」


水を渡すと、マルスは息を整え、


「辛いけど、お肉入ってて美味しいー!」


夢中で食べ始めた。


その様子を見ていたエルフが、恐る恐るスプーンを口に運ぶ。


「……っ!」


レイラの目が大きく見開かれた。


初めての刺激に驚き、

 その後に押し寄せる旨味に戸惑い、

 そして――止まらなくなる。


気づけば、ペロリと一皿完食していた。


俺はその一部始終を見ていた。


フフフ……エルフ。

 俺の勝ちだ。


勝ちって何かは分からないが、

 “俺の料理が誰かの心を動かした”

 その事実が、妙に嬉しかったのは確かだ。


レイラはスプーンを置いた後、ほんの一瞬だけ俺の方を見た。

その視線には、警戒とは違う色が混じっているような気がする。

おいしいと思ってもらえたならうれしいんですけど。


「気に入ってもらえたようで良かった。おかわりするか?」


俺が笑顔で言うと、


「貴様は最低の奴だが……料理は悪くない」


レイラは顔を向けずに皿を差し出してくる。

 その耳が、ほんの少し赤い。


(……なんで私は、この男の料理を“もっと食べたい”なんて思ってるんだ?)

レイラは自分の胸のざわつきに気づき、そっと視線を逸らした。


「そりゃ、どうも」


褒められ、照れてしまった。

おかわりをよそって返すと、


「……ありがとう」


レイラは恥ずかしそうに呟き、また食べ始めた。


俺は自然と笑顔になった。


食事が終わり、焚き火を囲んでコーヒーを飲む。

 火の揺らぎが、みんなの表情を柔らかく照らす。


カローラの膝の上でマルスが寝息を立てている。

 その姿が、なんだか家族みたいで、胸が温かくなる。


「で、ゼノス。彼女は?」


俺はエルフを見ながら聞いた。


「ああ、馬をつないでいたら声をかけられた。ここら辺がエルフの縄張りらしい」


ゼノスの声は落ち着いていて、頼りがいがある。


「怪しい奴らを見かけたと連絡が入ったので、見に来た」


レイラが続ける。

 その視線が一瞬だけ俺に向く。

 “怪しい奴”の部分で。


おい、名乗らないお前も十分怪しいだろ……


「んで、お名前は?」


俺は笑顔で問いかけた。

 どうせ無視されるんだろうな、と思いながら。


「レイラだ」


「え?」


顔を背けながらも答えてくれた。

 その仕草が、妙に可愛い。

 照れやがって……


(……なんで私は、この男に名前を教えてしまったんだ?)

レイラは胸の奥がざわつくのを感じ、そっと唇を噛んだ。


「レイラ、心配しなくても、見た目通り俺たちは不審者じゃないから安心しろ」


俺はウインクして言った。


「……」


レイラが“怪しいものを見る目”をしている気がする。


いや、気のせいだよな?


「……旨い物を食べさせてもらったし、確かに悪い奴らでは無さそうだな。

 里に戻って脅威がない事を報告する」


そう言って立ち上がり、レイラは森へ走り去った。


その背中を見送りながら、

俺は胸の奥が少しだけ寂しくなるのを感じた。


レイラもまた、走りながら一度だけ振り返りそうになった。

(……なんで、こんな気持ちになるんだ)

自分でも分からず、胸がざわついたままだった。


まったく、失礼な女だった。


……凄く可愛いけど。


夜が更け、軽キャンへ戻り、横になりながら思う。


「レイラ……可愛かったな……」


自分でも驚くほど自然に、その言葉が出た。

いやいや、俺はおっさん。向こうは若い娘さんだ。

何を考えてんだ。

いや……エルフは長命と言うのが鉄板だろ?もしかして、向こうの方が……


「おっさんが、何を考えてんだ。寝よ」


考えないように思ってもレイラの顔がちらつく俺は布団を頭からかぶった。

そして、そのまま眠りについた。



翌朝。

 歯磨きや顔を洗い、出発準備をしていると――


森の奥から、荷物を背負ったレイラが姿を現した。



「喜べ! 里長の許可をもらったから、私もついて行ってやる!

 またカレーを一緒に食べてやるからな!」


昨日とはまるで違う、弾むような笑顔。

 その表情に、俺の胸がドキッと跳ねた。


「よし! ついてこい!」


思わず声が張り上がる。


「いや、一緒にいくのは、構わないんだけど……」


ゼノスが額を押さえている。

 気にするな、何時もの事だ。


「おじちゃん、また勝手に決めてる〜」


マルスまで呆れ顔。


「ヒロシ、せめて相談くらいしなさいよ……」


カローラがため息をつく。


「すまん、リーダーとして先走ったな」


素直な俺が、言うと――


「そうなの?!」


ゼノス一家が声をそろえて、大きな声で何か言った。

だが、俺は気にしない。どうでもいい。

 そんな事より、若い女の子が仲間になるんだぞ? 断れるか!


「問題ない! レイラは今日から仲間だ! 異論は許さん!」


「いや、誰も反対してないし。

 それよりもお前がリーダーとか、問題しかないだろう……」


ゼノスの小声が聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。


レイラはそんな俺たちのやり取りを見て、

 なぜか少しだけ頬を赤くしていた。


こうして、俺たちに新しい仲間が増えた。



「そんじゃ、街に向かって――出発進行!」


俺の掛け声と共に、軽キャンが走り出す。


胸の奥が、じんわりと温かかった。

レイラ、まさかのカレー敗北。

そして翌朝には仲間入り宣言という、怒涛の展開になりました。


次回はレイラ加入直後のドタバタ旅路。

ヒロシの距離感バグがさらに悪化し、

軽キャンは相変わらず“何か”を轢き、

そして道の先にはとんでもない奴が待っています。

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