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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇


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05話 幻想と現実

 ――あなたは泥棒されて喜んでいる。


 ジルさんのその言葉は、私の気分を暗くしました。

 今まで私がやってきた仕事を否定されたような気がしたからです。


 ですがそれと同時に。


(ジルさんの言う通りなのかもしれない……)


 今まで抱えていたモヤモヤの理由が、ストンと落ちた気もしました。


 私はいつも、聖女セラフィナ様や貴族巫女たちの仕事を手伝っていました。

 そして疲れが溜まるようになり、目の下のクマも消えなくなりました。


(でもセラフィナ様も貴族の巫女たちも、私みたいな目の下のクマが無い……)


 私にお手伝いを頼む彼女たちは、私と違って、目の下にクマが出たことはなく疲れている様子もありません。


 彼女たちの溌剌とした美しい姿を見ると、私はモヤモヤとしたものを感じるようになっていました。


 それまでそれは言葉にならないモヤモヤでした。

 それがジルさんに「泥棒されて喜んでいる」と状況を明確な言葉にされて、ストンと落ちて、モヤモヤの原因が見えた気がしました。


(セラフィナ様も貴族巫女たちも、自分の仕事を私にやらせている。だから彼女たちは元気で、私だけが疲れている……)


 ――魔力欠乏が続くと体の成長が止まってしまうから。


 ジルさんから得たその知識が、私の心に深く刺さっていました。


(私だけが魔力欠乏になっていたんだ……)


 聖女セラフィナ様も貴族巫女たちも、すらりと背が伸びていて女性らしい体形をしています。


(セラフィナ様たちは魔力欠乏になるほど魔力を使っていないから、ちゃんと成長しているんだわ……)


 出会った頃は子供だったセラフィナ様は、年齢とともに背が伸びて、十七歳になった今ではすっかり大人の女性のような姿になっています。


 私はいつまでも背が伸びず、小柄で貧相な子供のような体系のままなのに。


 ――功績はすべて聖女様と貴族の巫女たちのもの。

 ――彼女たちは『黄金世代』なんて呼ばれて、名声を得て、良い縁談も得ているわ。


「……」


 事実がジルさんの言う通りであることを、認めたくなくて、くやしい気持ちはあります。

 それは私の感情です。


 ――あなたは泥棒されて喜んでいる。


(そんな馬鹿みたいなこと……)


 辛くても頑張って仕事を続けていたのは、正しい生き方だったと、価値のある立派な行いだったと、信じていたい感情が私の中にありました。


 私は、泥棒を喜ばせるような馬鹿みたいなお人好しではないと、ジルさんの批評に反発する感情がありました。


 でも冷静に事実を並べて考えてみれば、くやしいですが、ジルさんの言う通りなのです。


 私がお手伝いをしたから……。


 聖女セラフィナ様は中央神殿でも、光魔法の天才として名声を欲しいままにしました。

 そしてセラフィナ様は十五歳の若さで、年上の聖女たちを押しのけて筆頭聖女の地位を得ました。


「ルネ、聞いて。国王陛下が私を新年の祝賀会に招待してくださったの。筆頭聖女の地位は侯爵家相当だから、私も招待されたのよ」


 筆頭聖女となったセラフィナ様には、国王陛下や貴族たちから、贈り物やパーティーの招待状が沢山届けられるようになりました。


 セラフィナ様がその地位を得たのは、私がお手伝いをしたからです。

 でも当の私は、ずっと薬草園の巫女のまま。

 当然私には、国王陛下や貴族たちから贈り物や招待状は届きません。


 子供のころはセラフィナ様は、お手伝いのお礼に私にお菓子を贈ってくれましたが、その頻度も最近は落ちていました。

 それはセラフィナ様が筆頭聖女となって、忙しくなったからだと、無理やり納得していましたが……。


「ルネ、これ、やっておいてね。私は大事な用があるから、よろしくね」


 筆頭聖女となりセラフィナ様の仕事量は増えたのですが。

 セラフィナ様は、私に聖女の仕事を言いつけるだけで、自分ではやらないことが常習化していました。

 何故なら、筆頭聖女となったセラフィナ様にはパーティーの招待状が山のように届いていたからです。

 セラフィナ様は、仕立て屋を呼んでドレスを作らせたり、宝石商を呼んでアクセサリーを揃えたり、パーティーに出席したりすることで忙しかったのです。


「ルネ、私ね、フィリップ王子殿下と婚約したの!」


 そしてセラフィナ様は、王太子であるフィリップ王子と婚約しました。

 王太子妃となることが決まったのです。


 最初は、王太子妃の最有力候補は、別の公爵令嬢だったそうです。

 セラフィナ様のご実家バンクス公爵家は、公爵家の中では一番格下だったので、セラフィナ様が王太子妃になる芽は最初は無かったのです。


 そんなセラフィナ様が王太子妃に選ばれたのは、光魔法の天才という名声と筆頭聖女の地位によるものでした。


「婚約者の私が出席しなかったら、フィリップ様は舞踏会でお一人になってしまうわ。だから私は出席しなければならないの」


 フィリップ王子と婚約したセラフィナ様は、聖女の仕事を今まで以上にやらなくなりました。

 私がセラフィナ様に呼ばれて行くと、未処理のままの大量の神器が溜め込まれていることが常態化していました。


「ルネ、明日までに終わらせておいてね。ルネなら出来るでしょう?」

「……はい」


 セラフィナ様は当たり前のように私に仕事を任せるようになりました。

 セラフィナ様のその態度に、私の心はモヤモヤするようになりました。


 そして……。

 薬草園では……。


「ルネ、頼んでおいたのにどうしてまだやってくれていないの?」


 貴族の巫女たちは、当たり前のように私に仕事を言いつけるようになっていました。

 そして私のお手伝いが遅れると、不愉快を露わにするようになりました。


「すみません。聖女様に呼ばれていたので……」

「こちらだって困っているのよ。あなたは薬草園の巫女なんだから、薬草園を優先してちょうだい。さあ、すぐにやって!」

「……はい」


 貴族巫女たちも、私に対する態度が最初のころとは大分変わっていました。

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